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  3. 【CREW'S VOICE vol.45】UNFOLLOW 商品企画, ファッションアドバイザー / 平沢 幹太
CREW'S VOICE

Photo_Shintaro Yoshimatsu
Text_Masahiro Kosaka

自分の時間も、お金も、労力も。何を厭うことなく、
その一切を、彼は妥協のない服づくりに注ぐ。
“企業”につきもののあらゆる制約すら、ものともせず、
人間臭さや地道さを尊びながら、自らの足で、道を切り拓く。
「若くて未熟。あくまで凡才」と、ときおり自戒しながらも、
それでも。それだからこそ、プロとして。

小さい作業の積み重ねが、
洋服になった時のパワーになる。

―2020年に新卒入社し、UNFOLLOWに配属。現在はプライベートブランドFOLLの企画デザインを担当しているそうですが、聞けば、すでに内定者アルバイトをしている時期から、デザイナーとして抜擢されていたとか。異例の早さですが、入社までの経歴が関係しているのでしょうか?

大学時代に、海外でランウェイを行うドメスティックブランドのお手伝いをしていました。妥協のないクリエーションをするブランドで、いまの仕事をする上での考え方は、そこで学んだところが大きい。大学自体は医療系の四年制大学で、ファッションとは全く関係のない環境でした。一年生の頃から学生生活よりも、仕事ばかりしていましたね。

ベイクルーズのインフルエンサー採用を受けた際、自身のスタイリングを15体分提出するという選考課題があった。それに対して彼は、自分の“仕事”を提出した。「学生時代にスタイリングやディレクションを手掛けた作品をマガジンにしました。ぼく自身は写っていないけれど、それがぼくにできるスタイリングでした」。また、『ちぐはぐな身体』という書籍は、中学生の頃から読んでいるという彼のバイブル。「“なぜひとは洋服を着るのか”など、ファッションの真理が書かれてあります。仕事として洋服を扱う上で読んでおきたい一冊です」。

―では専門学校といった場所でデザインの勉強をしてきたわけではなく、実際の現場を通じて、仕事のいろはを学んだというわけですね。

そうですね。もっと遡ると、そもそもファッションを好きになったのは両親の影響も大きいです。仕事についてはドメスティックブランドで、洋服に対するマインドみたいなものは両親から学びました。

―ご両親からは、どんなことを教わったのでしょう?

母はファッションへの造詣が深い人で、とにかく洋服を大切に扱うひとでした。しかも、価格やブランドに分け隔てなく、ひとつのモノとして愛していて。その他にも、両親からは多くの影響を受けたと思います。

母親の影響で、彼にとって白シャツは特別な存在に。2021SSでは、これまで自身が着てきたシャツをベースに、いま着たい一枚を企画した。「白は、何色にも染まれる、偏見のない色。時間のないときやコーディネートに悩んだときには、自然と白シャツに手が伸びます」。

―一方、先述のドメスティックブランドで教わったことで印象に残っているのは?

服作りにおいて、絶対に妥協しないこと。当たり前のように毎シーズン、一から生地をつくるブランドでしたので。ベイクルーズではなかなか難しい部分もありますが、自分の作るFOLLにおいても、出来るだけ機屋や工場に足を運んで服作りに取り組んでいます。ボタンひとつでも、何百とある見本帳から数時間かけて選ぶことも少なくありません。ボタン選びは小さな作業ですが、そうした作業の積み重ねが、洋服になった時のパワーになると思います。

―服のつくりかたは、もはやセレクトショップのプライベートブランドという枠を大きく越えていますね…。でも、そこまでする意味があると。

意志が中途半端なものや、一回洗って着られなくなるようなものは、絶対に作りたくないです。ぼくは確かに若くて未熟ですが、生み出すものにはきちんと責任を持ちたいと、いつも思っています。

25年前に某メゾンが製作し、結局使われなかった生地からペイズリー柄をサンプリングしたオリジナルファブリック。「ブルーグリーンの太くしたポリエステル糸と、もともとの太さの糸を組み合わせた経糸と、発色の良いレッドのコットン糸とを織りあげることでジャガード特有の濃淡を出しています。」
2021SSからスタートするFOLLのシーズンテーマは、“WESTERN MILITARY ACADEMY”。アメリカの東西地区で240年続いた軍士官学校がインスピレーション源。当時の歴史書物を和訳しながら、2ヶ月ほどかけてリサーチを重ねたとか。

―とはいえ、あくまでベイクルーズという企業。どんなにこだわり抜きたいと情熱を注いでも、というか注ぐ分だけ、現実的な困難に直面しそうなものです。例えば、洋服一着の価格はある程度決まっているなかで、平沢さんの思う良い生地と、予算の折り合いとを、どのようにつけているのでしょうか?

たとえ休日を使ってでも、生産の現場に足を運ぶことで、まずは人としてきちんとした関係をつくりたいと思っています。なかには「そこまで突き詰めてやる20代はいない」と、貴重な生地を使わせてくださる方もいらっしゃいます。とはいえ一流の技術を持つ職人さんですから、適正な価格でしか卸せないというのが当然です。だからぼくも、予定していた生産枚数より多くしてでも勝負をかけたり、同じ生地を使う品番数を増やすことで、同時にお客さまの選択肢も広げてあげたり、シーンに応じて何がベストかを考える。大幅にを予算オーバーしてしまうものや、どうしてもクオリティを担保できないようなものなら、作りません。

―服づくりに対してそこまで真摯に向き合いながらも、平沢さんは同時に店頭に立つ販売スタッフでもあるのですよね?いったい、どうやっているんですか…(笑)。

基本的に週に3、4日は店頭に立って、本社に出勤するのは週1~3回程度です。店舗では新卒のファッションアドバイザーとして全力で仕事に向き合い、通勤中や休憩中にお取引先さまにメールを返して、帰ってから寝るまで作業して朝早く起きて出来ることをやって…。という感じで毎日濃密に働いています(笑)。店頭と打ち合わせなどの業務とで、その時々に応じて優先度を見極めてスケジューリングしています。この働き方は店舗や生産管理の先輩方とお取引先さまの理解やサポートがあるおかげで成り立っていて。本当に感謝していますね。その中でも店頭に立つことは自分にとって大切なことです。作った服をお客さまに直接伝えられるという本当に貴重な体験だと、日々感じています。

―店頭での接客で心掛けていることは?

「洋服を売って終わり」にならないようにすること。ECでいくらでも安く買える時代に、店頭に来てくださるお客さま一人ひとりに生の体験をしてもらいたいです。例えばシャツをお持ち帰りいただくお客様に「なぜシャツには襟が着いているのか」や「なぜシャツはカットソーよりきっちりして見えるのか」など、単に洋服だけで完結しないように。ファッションに触れることでの感動や豊かさを持って帰ってもらいたいと、いつも思っています。

―FOLLと一緒に店頭に並んでいるブランドたちは、例えば、デザイナーとして切磋琢磨するライバル関係にあるという意識だったりしますか?

ライバルというよりは、相互作用を与えられるといいなと考えています。デザイナーにはファッションを通じて自分の哲学を発信するアーティストタイプと、あくまで着るために洋服をつくっている職人タイプの大きく2種類のタイプがあると思っていて。両方正解だと思いますが、自分は後者だと思っています。天才的な発想を生むことや、全く新しい何かをつくることは出来ない。だからこそ、いい服をきちんとつくりたい。洗練されたプロダクトを。

―仕事を抜きにして、掛け値なしに洋服を楽しむ瞬間はありますか?

お客さまとファッションやそれ以外の話をするのも好きですし、もちろん服を買いに行くのも好きです。たとえベイクルーズのなかで社員割引で買えるアイテムでも、他社で定価で買うこともあります。消費者としての素直な気持ちを忘れたくないし、率直に良いと思うお店や接客に対しては、自分の資産をペイしたいんです。

―少し先ではありますが、最後に、いま進行しているという2021AWのテーマについて少し教えてもらえますか?

“時代継承”や“世代継承”をテーマにする予定です。例えば父親が着ているツイードジャケットのような、世代間で受け継いでいけるような服を、新しい価値として提案していきたい。今回は「ひと」の体験がベースになるので、周囲の人たちの、受け継いできた服の思い出話をひたすら聞いてまわっています。また秋冬からは、日本のウールの聖地である尾州の生地を使わせてもらえることになって。ずっと憧れていたので、楽しみで仕方ありません。

「服に関する何事にも、
プロとしての責任を持ち、
ないがしろにしない。」