
Photo_Cosmo Yamaguchi
Text_Masahiro Kosaka
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「不動産時代に家を売っていたんだから、服を売れないわけない。」
大胆に豪語しても、けっしてイヤな気がしないのが不思議だ。
むしろ清々しく、まっすぐ心に響くのは、
目の奥に光る実直さゆえだろうか。
自然とひとに恵まれる人望の篤さにも、さもありなんと頷ける。
そんな彼の、ワークとライフについて。
以前は、スーツにネクタイ締めて、家売ってました。
―417 EDIFICEとPULPの両ブランドで、プレスとバイヤーを兼任していると聞きました。どうしてそのような立ち位置になったのでしょう? なかでも軸足となっているブランドや役職はありますか?
「もともとはPULPでブランドの立ち上げから販売をしていて、希望が通ってプレスに。だから、いまでもPULPではプレス業務がメインです。417 EDIFICEでも、最初はプレスだけを2年ほど続けていて、それからバイヤーも兼任することに。当初はぼく自身も、まさか自分がプレスもやりながらバイヤーになるなんて、考えもしませんでした。プレス歴もまだ浅かったので、声をかけてもらったときには正直すごく悩みました。でも、現マネージャーである北野さんのもとでなら、挑戦してみたいと思えた。いまでも自分の軸はプレス職だと思っていますが、プレスを経験したバイヤーっていうのも珍しいので、そこを強みだと捉えています。」

―ひとつを極めるのではなく、別の仕事を兼任することで視野が広がることも大いにありますもんね。
「それに、会社員として、だれかから必要とされるってありがたいことだと思います。やってみてもいないのに、自分で“できる・できない”を決めつけるのはもったいないなと。」

―もともとベイクルーズに入った頃から、プレスやバイヤーをやりたい気持ちはあったのでしょうか?
「いえ、迷いなく、販売員をやりたかった。じつはベイクルーズには中途で入って、最初は大阪の店に配属されたのですが、その頃はがむしゃらに頑張りました。働いていた店舗の店長、副店長のご指導のおかげもあり、その結果、ブランド全体で個人売りはずっと一位でした。それは、前職の営業で培ったものも大きかったと思います。」
―前職の営業、というと?
「じつは、大学を卒業してから不動産の戸建て営業をしていたんです。スーツを着てネクタイ締めて、家を売ってました(笑)。」

―珍しい経歴ですね!どうしてまた不動産に?そして、どうしてその後アパレル業界に入ることになったのですか?
「学生時代に服屋でアルバイトをしていて、周りの友達と同じように、卒業したらアパレルに進もうと考えていました。でも、地元仙台で東日本大震災を経験して。それからは、「地元に形が残る恩返しがしたい」と思うようになったんです。また、変わり果てた地元で、住む場所を探しているひとも周りにたくさんいた。それで、不動産会社に就職することにしたんです。」

―なるほど。
「戸建ての営業に配属されてからは、同期のなかではつねにトップの成績を残すなど、結果を出しました。その代わり、自分のキャパ以上に仕事をしてしまったため、自由な時間は一切ありませんでした。一方で、仲のいい友人たちは東京でファッション関係の仕事をやっていて、いちはやく新作を買ったり、アパレルらしい遊びをしたりと、キラキラして見えた。次第に、ぼくも好きなことを仕事にしたいと思うようになっていったんです。完全に友人たちの影響ですね(笑)。」

―そうして、ベイクルーズに入ることになったわけですね。ご友人たちには一歩遅れて業界に入ったわけですが、いまの姿を見るに、それを挽回してあまりある躍進ぶりのようです。
「同世代のみんなからは遅れをとったので、「その分頑張らないと」とは思っていました。あと、正直、家売れて服売れないわけないだろ、っていう生意気な考えもあった。とはいえ、友達あってのいま、なんです。彼らがいなかったら服屋を目指していなかっただろうし、こんなにやれてなかった。同じ業界で、一緒に頑張っているという感覚です。」

―バイヤーをやろうと踏み出したきっかけもしかり、仕事の原動力は、どうやら「ひと」のようですね。仕事をするうえで大切にしていることはありますか?
「ぼくがプレスをやれているのも、まさに周りのひとのおかげです。なかでも取引先であるコスモ・コミュニケーションズの東山さんには、公私問わずすごく仲良くしてもらっていて。彼とその関わりのなかで、また別の誰かを紹介してもらったりすることも。ぼくにひとより優れているところがあるとすれば、ひと付き合いかもしれません。お客さんや職場の同僚、取引先、だれとでも仲良くコミュニケーションが取れます。だから、どんな成果も、みんなの力なんです。」
―公私問わず、ということは、オフの日もだれかと一緒に過ごすことが多いのでしょうか?
「そうですね、休みの日でも仕事関係のひととめちゃくちゃ会ってます!一緒にサーフィンをしたり、野球をしたりすることも。仕事するひととそのまま飲みに行くし、海にも行く。それだけの密度なので、そこから生まれるものの質も違ってくるんじゃないかと思います。もちろん、同じ業界にいる友人と会う時間も、すごく大切。水面下で動いていることやアイデアを話して意見交換をしたり、いまは独立して仙台で服屋をやっている友人に会いに行ったりします。」

―最後に、今後の目標について聞かせてください。このままのスピードでいくと、今後もめまぐるしく環境が変化していきそうですね。
「先ほど話した、独立して仙台で「The mood」という店をやっている友人がいるんですが、彼を含めた周りの友人たちに負けないよう、切磋琢磨していくのが目標です。あとは、弱点の克服。とくに最近よく言われるのが、「ホームランを打ちたがる」ということ。ここまでかなり急ぎ足で来てしまったので、もう少し着実に出塁率を上げて、417 EDIFICEで唯一無二の存在になりたいと思っています。」

「オンとオフの境目を作らないこと。」
阿部 聖也
417 EDIFICE / PULP プレス&バイヤー
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