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  3. 【CREW'S VOICE vol.37】Deuxieme Classe eコマース マーチャンダイザー / 笠松 花菜
CREW'S VOICE

Photo_Shintaro Yoshimatsu
Text_Masahiro Kosaka

なにを着るかより、いつ、どこへ、だれと。
どんなに“いいね”をもらっても、リアルな喜びにはやっぱり敵わない。
そんな“仮説”を、彼女は、ひたむきに証明しようとしている。
心理学の知見に支えられ、ファッションの力をただ信じて。
そんな彼女のワークとライフについて。

もっとお店とECの差がなくなれば
いいなと思っています。

―まずは、eコマース マーチャンダイザー(以下:ECMD)の仕事について教えてください。聞くところによると、ベイクルーズではDeuxieme Classeにしか存在しない役職だとか?

恐らくそうなのかもしれません。Deuxieme Classeは、MDに対する考え方が他のブランドと少し違っていて。商品を納期優先で店頭出しするのではなく、シーズン毎のスタイリングを中心として、商品をお店に出すタイミングを考えています。そして、店舗と同じスタイリングをECでも感じて頂けるように、スケジュールなどを置き換えることが、ECMDの仕事。実はコロナ禍になる前くらいにできた新しい役職で、わたし自身も1年前に本社に来たばかりなんです。

―そうだったのですね。笠松さんは、アイスナップ(ベイクルーズ ストア内のスタッフスナップページ)における影響力も大きいと聞きました。そこにおいて、意識的に取り組んでいることはありますか?

ありがたいことですが、あまり自覚はないんです。フォロワーを伸ばすためにと取り組んでいることも、特別なくて。実は、Deuxieme Classeに入りたての頃は、着こなしについてはわからないことだらけでした。ブランドのことすら、配属されるまで何も知らなくて、おまけにカジュアルな服装もほとんどしたことがありませんでした。

―それが、いまや多くのファンがつくほどの着こなし上手に。ブランドの世界観がもともと自分が好んでいたスタイルと違っていただけに、難しさや葛藤もあったのでしょうね。

最初のうちは、店頭及びEC撮影のスタイリングを、店長やVCをはじめとした本社の方々に着せ付けしてもらっていました。それを、ただただ学んでいった。わからないことだらけだったぶん、吸収するのも早かったのかもしれません。そのうちに、段々とカジュアルな着こなしが楽しくなっていきました。

―なかでも大きく意識が変わった瞬間はありましたか?

Deuxieme Classeに入って最初に買ったデニムがあります。それまで、デニムを穿いたことすらほとんどなくて。ましてや、ダメージ加工されたデニムなんて、絶対自分に合わないとさえ思っていました(笑)。でも、試しに穿いてみたところ、当時の店長に「すごく似合うから、絶対買ったほうがいい!」と強く勧められて。言われるままに買ってみたんです。すると、とても着回しがしやすくて。

―単なる食わず嫌いだったと。

「ファッションって、こういうことなんだな」と実感した瞬間でした。自分の世界だけにいても、なにも新しいものは生まれない。このデニムを穿くたびに、そのことを思い出します。

―そもそもは、どうしてアパレル業界を志したのですか?

実は、大学では心理学を専攻しました。カウンセラーになるために、大学院に進もうとも考えていた。ただ、カウンセラーとして働けるようになるのは、最短でも28歳になる頃。なれたとしても、学生経験しかないわたしには、誰の悩みも気持ちもわからないような気がして。

―なるほど。それで、いちど社会経験を積むことにしたということですね。

わたしが中学生の頃から、世の中にはブログやSNSが存在していて、多くのひとが“いいね”の数に縛られて生きているのを見てきた。大学では、「いいね」がなくても、自分の気持ちを自分で保つ方法があるのでは、というような研究をしていました。そのなかで、承認欲求を満たすためにSNSで投稿されているのは、おもに「フード」か「ファッション」だと気づいて。それなら、ファッションというツールで店員さんとの会話を楽しんだり、人に褒められたりすることで、自信や幸せを感じたりすることができるんじゃないか。そう考えました。洋服屋に立ちながらでも、カウンセラーにはなれるんじゃないか、とも。それで、ファッションの道に進むことにしたんです。

―なんともユニークな経緯ですね!そんな気持ちを抱えながらに実際に店頭に立つなかで、ファッションを通して、その想いをどのようにお客さんに届けてきましたか?

服そのものの魅力を語るより、まず、「なにに合わせて、いつどこへ着ていくか」といったことをお客さまから引き出すようにしています。会計のときに「着ていくその日、楽しんでくださいね」と言い添えたり、顧客さまなら、「あの日、どうでしたか?」と後日電話をしてみたり。

―あくまで、洋服のさきにあるコトのほうを大事に考える。素敵な接客ですね。ところで、笠松さん自身は、悩んだりモチベーションが下がったりすることはありますか? そんなときは、どうやって解決していますか?

あまり、日々が連続だとは思わないようにしています。昨日のことは昨日のことと、あまり引きずらないように。そのために、ちゃんと睡眠をとったり、モヤモヤしたことを書き出したりするようにはしていますね。

メゾン ルイ マリーをはじめ、つねに10種類くらいの香水を常備していて、気分や季節によって使い分けているとか。「香りは一番強く記憶に残るし、気分のリセットにも使えます。香りモノのなかでも、とくに香水が好き。肌につけることで自分だけの香りになるし、時間の経過による変化も楽しめるから」。

―オフの日は、どんなことをして過ごしていますか?

人間観察が好きです(笑)。映画を観るのもその一環ですが、カフェに行って、ずっと外を歩くひとたちを観察していることも多い。「あのふたりは、あれくらいの距離をとって歩くんだな」とか「いまくらいの時期から、みんなコートを着ているな」とか。本社にいるとどうしてもお客さまが見えにくいので、そうやって世の中の動きを体感するようにも、心掛けています。

―最後に、5年後の目標について教えてください。

もっとお店とECの差がなくなればいいなと思っています。お店で感じられるファッションの楽しさや、アイテム一つひとつの質はまだまだ伝わらないなと感じているので。誰もが、表現したいことを伝えられて、買いたいものを買えるように。そうした時代の流れに、少しでも貢献していきたいです。

「服づくりに関わるすべてのひとの想いと、
ファッションをリンクさせること。」