
Photo_Shintaro Yoshimatsu
Text_Masahiro Kosaka
―
レディースブランドで10年以上、バイヤーやプレスを歴任し、
店頭に舞い戻ってきた。それも、個性派ぞろいのメンズショップに。
意外な経歴?いや、だからこその面白さがある。
きっぱりと、彼女はそう言ってのける。
彼女ならではの武器をもって、L’ECHOPPEに新しい風をそよがせる。
そんな彼女の、ワークとライフについて。
―現在メンズアイテムのみを展開するL’ECHOPPEにあって、女性である尾崎さんは少し特別な立ち位置にいるかと思います。そもそも、どうしてL’ECHOPPEに入ることになったのですか?
「L’ECHOPPEに入ったのは1年と少し前ですが、それまではDeuxieme Classeに11年間在籍していました。プレスやバイヤー、ブランドの企画などを色々経験しましたが、それこそ仕事をイチから学ばせていただいた場所。たくさんの方と出会って、仕事を進めていく中で、もっともっと学びたいと感じ始めて、L’ECHOPPEに入りました。」

―バイヤーやプレスを経験したあと、ファッションアドバイザーとして店頭に。経歴としては珍しいと思いますが、葛藤はなかったのでしょうか?
「逆にとても面白いと思いました。自分に何が出来るかワクワクしましたし、それになんとなく、これからはどんどん「ひと対ひと」になっていくんじゃないかとも考えていたので、ドキドキしながらL'CHOPPEに入りたい旨をディレクターの金子さんに相談しました。あと、わたしが昔通っていたお店には、とにかくかっこいいショップスタッフの存在がありました。たとえばTOROの山口さんとか、何年経ってもかっこいいんですよね。わたしも、自分が憧れていたような存在になりたいと思ったんです。それに、商品達は話すことができません。お客さまに商品の魅力を伝える作業が直接できるのって、バイヤーでもプレスでもなく、一番はショップスタッフだと思うんです。これまでの経験を経て、改めてそう感じました。SNSを使って簡単に物を売れる時代だからこそ、ひとの意見だけじゃなく、ちゃんと自分で感じながら、いつ誰からどこで買うという時間や空間の大切さを感じています。だから、“自分がここにいて販売する意味”っていうのは、ベイクルーズのすべてのショップスタッフに感じてほしいと思っています。」
―尾崎さんの考える、「かっこいいショップスタッフ」とはどういったひとのことなのでしょう?
「自分の信念と哲学を持って、ファッションを楽しんでいる人たち。」

―もっとも身近な存在でいうと、やはりL’ECHOPPEのディレクターである金子さんでしょうか?金子さんの世界観に惹かれる服好きは多いと思いますが、L’ECHOPPEを選んだということは、尾崎さんもそのひとりだったということでしょうか?
「間違いなくそうですね。金子さんのセレクトは、端正な雰囲気とミニマルさがあります。削ぎ落とされていて、ブランド側も気づかなかったプロダクトの本質を芯で捉えています。だから、そのブランドの“一番”をちゃんと掴んでオーダーや別注を進められていると感じます。納品された商品を見ると心がキュンとするものがそこにはあります。」

―先ほどの話に戻りますが、メンズショップであるL’ECHOPPEに、レディースブランド歴の長い尾崎さんが加わることの意義については、どのようなところにあると考えていますか?
「かき混ぜる役目のようなものは感じています。メンズ、レディース、ユニセックスという単純な括りには収まらない、もっと不可思議なお店になっていくといいなと思っています。」
―そういう意味では、最近のとくに若い子たちは、メンズやレディースといった区別なく、より自由な感覚で洋服を見ているような気がします。
「ECサイトだと、どうしてもメンズ・レディースと区別してモノを並べがちですよね。でも、店舗ならもっといろんな見せ方ができる。わたし自身は、若い頃からあまり区別なく洋服に触れてきました。シンプルに「いいものはいい」と提案していきたいですね。」

―そんな尾崎さんが、そもそもファッションに目覚めたのはいつのことですか?
「中学生の頃から、とにかく映画をたくさん観ていて。たぶんそれがきっかけだと思います。映画にまつわるカルチャーや、そこに紐づくファッションに興味があった。いまでも、何年代にどこの国でどんなことがあって、といった背景を楽しみながら洋服を着ています。」


―なるほど。それがきっかけで、アパレルの道へ。
「実は、昔カメラをやっていた時期もありました。本当は映画を撮りたかったのですが、まずは画角などを学ぼうと写真から入ったんです。一時は写真家のアシスタントにもついたのですが、挫折して頭が真っ白になってしまって。それで、その頃唯一好きだった古着の世界に入るしかないなと。ただ、行きつけの古着屋さんに相談すると、「物流やお金の流れを学んでからでも遅くないから、一度は大手を経験した方がいい」とアドバイスをいただき、それでベイクルーズに入社したんです。」
―では、いまでも、ゆくゆくは古着屋をやりたいと考えていますか?
「そうですね、古着や古物はいつまでも好きだと思いますが、それに捉われず素敵だと思うものを伝えることはしていきたいです。おばあちゃんになっても、そうした現場にいるっていうのが、わたしの理想ですね。」

―尾崎さんのスタイリングにおいて、着こなしのルールはありますか?
「ルールはありません。古着は好きですが、けっして古いファッションを真似たいわけじゃなくて、あくまで「いまどう着るか」。すべてはバランス感覚だと思っています。」
―オフの日の過ごし方についても聞かせてください。
「普段は、月1、2で旅行しています。国内外問わず、外に出て自分の興味のあるものを買い漁ったり、文化のインプットをしたり。直近はフィンランドに行って、建築家のアルヴァ・アアルトの自宅や事務所を訪れました。民芸館に行くのも、同じように好きですね。好きなものに触れる作業は、L’ECHOPPEの中でも外でも常にしているといった感じ。」
MIYASHITA PARKの渋谷店オープン時にリリースされる、通称「ピエロパンツ」。最大の特徴は、いわゆるGジャンの裾についているアジャスターフラップを採用したウエスト。サスペンダーボタンと併用することによって、ウエストサイズを自分好みに調整でき、さまざまなバランスを楽しめる。もちろん、ベルトやサスペンダーを使っても◎。
―最後に、MIYASHITA PARK内にオープンするL’ECHOPPE渋谷店について教えてください。青山店とは、どうやらコンセプトから違うようですね?
「渋谷店では、スタッフや顧客さまにとっての過去の名品やアーカイブを中心に品揃えします。言うなれば、青山店はエクスクルーシブにこだわった宝探し要素の強いお店、渋谷店は、いまの気分に合うものがすぐに見つかるコンビニのようなお店。過去の名品やそこから派生した新しいアイテムを、青山店とは違った感覚で提案することができることが、いまから楽しみです。」

「『君に胸キュン』。日々キュンとする感覚を大切にしています。」
尾崎 美佳
L'ECHOPPE ファッションアドバイザー
---

