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  3. 【CREW'S VOICE vol.47】CITYSHOP コンセプター, バイヤー / 片山 久美子
CREW'S VOICE

Photo_Shintaro Yoshimatsu
Text_Masahiro Kosaka(CORNELL)

世界中の、まだ見ぬものを求めて。
くったくのない欲望をたずさえ、15年間、バイイングをおこなってきた。
ときに秘境に足を向け、ときに無名の露天商に声を掛けながら。
マスを狙え(わ)ないと潔く諦めつつも、それが転じて、唯一無二の世界観に。
彼女の“いま”を色濃く反映するブランドには、
熱狂的なファンがあとを絶たない。
この頃は、“サステイナブル”に、どうやら夢中なのらしい。

一年中国内にいたからこそ、
本当に必要なものを取捨選択できた。

―2020年から、公私ともにサステイナブルな取り組みに興味関心を向け、実践しているそうですね。やはりコロナ禍を通して大きくマインドが変わったということでしょうか?

そうですね。とくに前回の緊急事態宣言後、これからどうやってブランドを守っていけばいいのかと立ち尽くしました。同時に、15年のバイヤー歴のなかで当たり前にやってきたことを振り返ってみると、どこかがおかしいとひっかかることもあって。「このままファッションを消費していくわけにはいかない」、そんな風に考えていると、服の仕入れもできないし、作れない、みたいな気持ちになってきて……。だから、環境負荷の少ないものや気候変動に加担しないものを、ブランドとしてできる限り届けていこうと決めたんです。

―そうしたマインドシフトのなかで、具体的には、どのような取り組みを行ってきたのでしょうか?

たとえば今日穿いているパンツも、その一環で企画したものです。前回の緊急事態宣言が明けてすぐに尾州の機屋に行き、本来は廃棄してしまうはずの生地の残端を買い取って作ったもの。また、CITYSHOPのフード部門と共同で、野菜くずを染料として用いたアイテムをリリースする予定です。

タイベック製のオリジナルエコバッグは、片山さんがコラージュデザインから手掛けたもの。レジ袋有料化に際して、自分にとって使い勝手のよいバッグを企画した。「大きな企業なので簡単ではないですが、いずれは、CITYSHOPの店舗のショッパーも代替プロダクトに変更していきたいと考えています」。

―一方のプライベートでも、生活の仕方などは大きく変わりましたか?“サステイナブル”と聞くと、結構ストイックに節制しなければならないようなイメージを持ちます。

全然、そんなことないんですよ。ゴミを出さないようにするために、ペットボトルやプラスチック容器に入った食べ物を買わないようにするとか、電気エネルギーを使うようにするとか。まわりの友達から「プラスチック撲滅おばさん」と言われようがしつこく声をあげ続ける、とか(笑)。そうしたごく簡単なことから生活に取り入れています。

―気候変動をはじめとした環境問題は、もはや個人の取り組みでは食い止められない段階にあるとは言われていますが、それでも、個人ができる範囲で取り組むことは大変意義のあることですよね。期せずして、コロナによってますますそうした取り組みへの関心も、世間では高まっているところですし。

若い子たちが憧れるようなインフルエンサーたちが声を上げるようになってきたり、いい流れではあると思います。とはいえ、一過性のことにせず、まさに“サステイナブル”の言葉のごとく、持続していくことがなにより大切で難しいことだとも思っています。

20AWシーズンでは、スタイリストの仙波レナ氏とコラボレートしてウエアコレクションをリリースした。「スタイリストさんとタッグを組んで服をつくったのは、今回がはじめて。誰とコラボレーションして服をつくるかはかなりシビアに考えていますが、仙波さんは、なによりまずひととして、そして創り上げる独創的な世界観をリスペクトしていたのでお願いしました」。

―片山さん個人としても、CITYSHOPとしても、そうした大きな転換点になった2020年。どちらかといえば悪いことばかりが取沙汰されがちですが、良かったこともありますか?

これまでは、半年に一度は海外に行き、3週間ほどかけて世界中を回っていました。そうしたバイイングのときって、何も持ち帰れないのが一番怖いんですよ。だから死ぬ気で探すのですが、その分、本当に必要ではないものまで買ってしまうこともあったような気がします。でも、去年はバイヤーになって初めて一年中日本にいたことで、ひたすらインプットしつづける流れから、一旦離れることができた。必要なものを精査して、取捨選択できた。それは、ものすごく意味のある時間でした。とはいえ、さすがにそろそろ海外に行きたいですが……。

「派手なものを着ていると見せかけて、抜け感を出してオトナに着る」。それが、片山さんの、またCITYSHOPの着こなしのルール。「特に、メンズのオーセンティックなアイテムが大好き。価値の変わらないものですよね。ユーズドのリーバイス®︎やバブアーといったメンズアイテムを、レディースならではのシルエットや素材の洋服と合わせる。そして、手元足元の肌分量をきちんと計算して、透明感を出す。CITYSHOPにはパワーの強いアイテムが多いからこそ、そうした引き算のバランスを意識しています」。

―2019年以前の話になりますが、普段の海外出張では、どういった場所に行き、どんな風に仕入れをしてくるのですか? 大切にしていることや、片山さんならではの工夫について教えてください。

「自分が見たことのないものを見たい」という気持ちが、すごく強いんです。だから3年くらい前からは、「CITYSHOP Finds」と銘打って、通常日本人バイヤーが訪れない、秘境のような場所に赴くようにしています。これまで行ったのは、メキシコ、ニューメキシコ、トルコ、ペルーといった場所。メキシコならシルバージュエリー、トルコなら貴石と、ある程度あたりをつけておくのですが、やはりそういう場所では思いもよらない面白いものが見つかる。ただ、見つけたものをそのまま持って帰ると“物産展”になっちゃうので、CITYSHOPらしく、モードやコンテンポラリーになるよう編集して打ち出します。

―なるほど、CITYSHOPの独特の世界観は、そのようにして形作られているのですね。

特にレディースの世界では、「可愛ければいい」という捉え方もあると思いますが、作り手の背景や仕入れた人間の想いが知れたほうが、心に響いて長く残る。そう信じています。

―モデルやスタイリスト、ヘアメイクといった業界内の女性にも、根強いファンがいるようです。CITYSHOPが大切にしている価値観が、きちんと伝わっている証拠でしょうね。

本当にありがたいことに。でも、5年かかりました……。この期間は、本当にキツかった。プライベートも投げ打って、このブランドを守るために必死に魂を注いできました。当初はブランドイメージすら定着していなかったので、ブランドの価値観を資料にして全スタッフに落とし込むことから、日々の制服チェック、ディスプレイ、SNSまで、世に出るものは徹底的に厳しくディレクションしました。たぶん、スタッフのみんなには「うるさい!」と思われているかもしれませんが、なによりみんなのことを信用しているし、ブランド愛が深い彼女たちがいたらからこそ、ここまでやってこられた。

―ブランドのために心血を注いできた5年間ということですが、たとえばそうしたなかで、仕事の疲れや日々の悩みなどは普段どのように解消しているのですか?

特にこれといったものはないかもしれません。切り替えが本当に下手なので、息をして寝ることができていればよし、くらいのもので(笑)。もちろん、休みの日にアートの展覧会に行ったり、映画を観たり、料理をしたりもします。でも、何をやってもぜんぶ仕事につなげようと考えちゃうんです……(笑)。そういう性分なので、最近は、仕事に派生しなそうな陶芸をはじめたところです。

―陶芸も、いつか仕事につながりそうな予感はしてしまいますね……(笑)。最後に、まだまだ先の見えない2021年ですが、5年後の目標について聞かせてください。

自分がいいと思う世界をつくるバイヤーになる。それが、若かりし頃からの夢で、いまはそれは叶えている途中です。そのために、CITYSHOPをより強いブランドチームにして、5年後もいっそう繁栄させること。あとは、陶芸家になることですかね(笑)。

「お客さまもブランドも喜んでくれる、
価値あるものだけを生み出す。」