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  3. 【CREW'S VOICE vol.10 】WISM マネージャー / 堀家 龍
CREW'S VOICE

Photo_Shintaro Yoshimatsu
Text_Masahiro Kosaka

飛ぶ鳥を落とす勢いは、いまだとどまるところを知らないWISM。
牽引するは、“破天荒”を地でいくベイクルーズの異端児か。
はたまた、現場至上主義の頼れるリーダーか。
その仕事観から求心力の秘密、最新コラボレーションのことまで、
ざっくばらんに聞いてみた。

お店が一番偉いし、スタッフが輝いてナンボ。

―WISMがスタートして丸8年が経ちますね。立ち上げ当初から、奇想天外なコラボやイベントを開催、新進気鋭のブランドをフックアップするなど、業界では常に注目を集めてきました。いまや不動の地位を確立していますが、若い世代にはオープン時のことを知らないひとも多いような気がします。その頃のお話から聞かせてください。改めて、堀家さんは当時どうしてWISMに参加することになったのですか?

「当時は別の会社でプレスやセールスを担当していました。あるとき、当時は顔見知り程度だった野田(設立時のWISMのディレクター)から急に飲みに誘われて、そこで「将来なにをやりたい?」みたいな話になったんです。ぼくは「ディズニーランドみたいに、入場料を取れる店をやりたい」と答えた。そしたら次の日に電話がかかってきて、「それをベイクルーズでやるからすぐに転職しろ」と(笑)。

―それは急ですね(笑)。それで、すぐに転職を決意したのですか?

「ちょうどその頃は、プレスやセールス、バイヤーといった立場で、現場からワンクッション離れている場所で「商品が売れてる、売れてない」だのとやってるのがどこか苦しくなっていた時期でした。やっぱりお金が生まれるのは現場だし、そこでわちゃわちゃやってるのが、自分の性に合ってるんじゃないかと。だから、決断は早かったですね。そうして、立ち上げと同時に店長として配属されました。」

―スタートからの飛ぶ鳥を落とす勢いはいまだ衰え知らずですが、当時から店長としてどのような店づくり、ブランディングを意識していたのでしょう?

「僕自身は、戦略的なことはなにもしていません。ただ常に考えているのは、「お客さんにどれだけ喜んで帰ってもらうか」。買い物に満足するポイントってたくさんあると思っていて、それは「いい服が買えた」、「あの人から、あの店から買った」、「予算3万だったけど5万買っちゃったから、明日から仕事頑張ろう」とか。そうした気持ちになってもらえるよう、とにかくサービスには徹底的に注力しました。」

―4年前に店長からマネージャーという立場に変わりましたが、心境の変化はありますか?

「店舗にいるか本社にいるかだけで、考え方はなにも変わりませんね。大きな会社だと特に、本社に行ったら勝ち、みたいな風潮がありますよね。でも、それは真逆だと思う。お店が一番偉いし、スタッフが輝いてナンボです。某映画の有名なワンフレーズである“事件は会議室で起きてない、現場で起きてるんだ!”、まさにそういうこと。だから、ときにはスタッフやお店を守るために会社とお店の間に立つ。それが自分の仕事だと思っています。ただ、唯一変わったことがあるとしたら、これまで、対お客さん、対スタッフにやっていたことを、同時に対ブランドにもおこなうようになったこと。でも、仲間にもブランド側にも伝える内容は一緒です。ひとを選んでものを言うようなことも、一切していません。」

当初から取り扱いのあるUNUSED。なかでも堀家さんが毎シーズン手に取るのはデニムとカットソーだという。「シーズン関係なく絶対に買ってしまう。それって、いい服の基準だと思います。」
「いまだに、誰より服が似合う人間でいたいと常に思うんです。」そのためにはたゆまぬ努力も必要。5年前からランニングをはじめ、週に2,3回のペースで8kmを全力で走って懸垂を100回、それがルーティンに。「走るときはこのニューバランスしか履いていません。かれこれ5年経ちますが、いまだに壊れない。堅牢なつくりはさすがですよね。」

―WISMといえば、これまでに新旧・大小様々なブランドと、数々の奇想天外なコラボレーションやイベントを行ってきましたよね。お客さんのみならず、業界からもおおいに注目を集めています。当初から主導しているのは堀家さんだと思いますが、どのようなところからインスピレーションが湧くのですか?

「常に意識しているのは、小が大を喰う面白さ。でも、ぼく自身クリエイターではないので、考えているのは、これまで自分が見てきたものをいかに面白く、いいタイミングで自分たちらしく打ち出すかに尽きます。たとえば2017年にDOUBLETとコラボして作った通称「バケT」は、キムタク主演の「ロングバケーション」を中学の頃に実際に観ていてからこそ生まれたものだし。自分のなかにある経験や好きなものをベースに、0を1にして、デザイナーさんやお店のスタッフの反応を見ながら広げていく。そして最終的に100にしてくれるお客さんがいて。そんな感じです。」

STABILIZER GNZとのコラボ第3弾にして、ブランド初の「チノパン」が今季リリース。ブランドとは前職の頃から、実に10年以上の付き合いだという堀家さん。普段チノを穿かない、というパーソナルな発端から別注を実現したという。タックをまたいで配されたコインポケットをはじめ、一見無駄の多いデザインで80’sっぽさを表現した。
NOMA t.d.との別注シャツは、8Lのビッグサイズをベースに、首元や着丈を調整することで着やすいバランスに。一見サテンシャツのような落ち感だが、じつはポリエステル100%。速乾性があり機能的。そこにあえてウエスタンなボタンをチョイスし、レトロなニュアンスをプラスした。「ジョニー・デップ主演の映画『ブロウ』に登場していたキャラクターたちが着ていそうなシャツをイメージしました。そんな風に映画から着想を得ることもわりと多いです」。
UDAが定番的にリリースしているサイドプリーツパンツを、少し太めにアレンジした新作。「生地には、あえてオリジナルではなく汎用性の高い生地を選びました!」。カラーは写真のグレーとベージュのほか、カーキと黒も展開する。

―やっていることは破天荒に見えて、実はしっかり地に足が付いているし、そこにはブランドやスタッフの想いや意思もしっかり汲み取られていると。それがWISMらしさを自然と形づくっているのでしょうね。

「他のお店には、「俺は全然いいと思わないけど店にあるから売らなきゃ」っていうようなこともあると思います。でもWISMでは、そうした“嘘”は徹底的に無くしていきたい。だからこそ、本当のメインカスタマーはスタッフじゃないといけない。彼らがピンときてないことは、当然お客さんもピンとこないので。彼らがお客さんに対して嘘をつくようなことも、絶対にやらせたくないんです。」

―最後に、今後の展望について聞かせてください。

「いまやっていることの延長ではありますが、WISMをよりいろんなひとが参加できる店にしていきたい。スタッフもブランドもお客さんも、ぜんぶ巻き込んだ実験じゃないですけど。チャンスを生み出して、それを具現化しやすい環境にできたらいいですね。」

「すべてのお客さんに喜んで帰ってもらうこと。
そして何をするにも、人を巻き込むこと。
そこから新たなムーブメントが生まれると信じています。」