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  3. 【CREW'S VOICE vol.40】WISM、PULP ビジュアルコーディネーター / 阿部 慎太郎
CREW'S VOICE

Photo_Maho Yamaguchi
Text_Masahiro Kosaka

何から何までできるより、これしかできない。
そんな潔い諦めが転じて、自分だけの奥義になる。
それを知る彼は、信じたやり方で、自分の仕事をまっとうする。
時代の流れに脇目も振らず、ただひたすらに。
そんな彼の、ワークとライフについて。

ウィンドウひとつで、
ブランディングや売り上げに貢献したい。

―この9月からWEBヴィジュアルコーディネーター(以下:WEB VC)も担当することになった阿部さんですが、それまでは、ヴィジュアルコーディネーター(以下:VC)として長く働いてきたとか。そもそも、VCになったきっかけは?

ベイクルーズには中途採用で入社して、最初は店舗で販売員をしていました。福岡の417 ÉDIFICEに所属していたときのこと。そのとき店長だった田中さんから、VCのイロハを教えてもらったんです。よく一緒にご飯を食べながら、面白おかしく基礎的なことを教えてくれて。それで、自然と興味を持つようになり、徐々に店舗のレイアウトを担当するようになっていきました。

―実際に店舗のレイアウトを担当するなかで、面白さややりがいを感じたのはどういった部分でしたか?

どの店舗でも決められた商材や什器しか使えないわけですが、編集するひとによって、見え方がまったく変わってくる。そこに面白さを感じていました。とは言いつつも、当時はやる気がありすぎて、ヴィンテージのハンガーや流木といった備品を自費で買ってディスプレイに使ったり、メンズとレディースのセグメントを勝手にひっくり返したりと、かなりめちゃくちゃなことをしていました(笑)。もちろん、上司に怒られることも多々……。

―それほどに熱中してしまったと(笑)。

売れる・売れない、とはっきり成果が分かれる販売の仕事と違って、レイアウトにはあまり正解がない。そこが、自分に向いていたのかもしれません。

―それが高じて、VCとして本社に勤務することに?

そうですね。ただ、本社に来てみると、純粋なレイアウトの仕事は、業務のなかのごく一部。VCが何たるかを、知らなかったんですよね。

―以前この連載に登場したJOURNAL STANDARD relumeのVC担当・中村さんも同じようなことを話していました。そのギャップに対しては、どのように自分のなかで折り合いをつけてきたのでしょう?

想像していた業務内容とは違う部分もありましたが、どんな仕事でも、そのなかから面白さややりがいを見出していくのは意外と得意なんです。たとえばVCになってからは、家具や花器といったものへの興味が湧いて、プライベートでも気にするようになったり。また、WISMのVC担当になったことは大きかった。“レイアウト”じゃなくて“デコレーション”が好きだということに気づいたのも、WISMの担当になってからでした。

―“デコレーション”ですか?

店舗のウィンドウをとにかく華やかにすること。そのなかで、自分のクリエイティブも発揮すること。分かりやすいのが好きなのかもしれませんね。WISMは原宿のキャットストリートに店舗があるだけに、ウィンドウも様々なひとの目に触れる。それだけに、やりがいもひとしおです。

―たしかにWISMのウィンドウって、それのみで単純に楽しめるというか。直接的に入店や購入につながらなくても、多くのひとに届くものがありそうです。一方で、ベイクルーズのなかでもとりわけユニークな別注や世界観を発信するブランドだけに、それをウィンドウで表現するのはかなり大変そうですね。

そうですね。遊園地なんかにあるパンダの乗り物やATMといった、かなり突飛なプロップを使うことも多くて、かなり骨が折れます。でも、個人的にもけっこう派手目につくり込むのが好きで、「こんなに盛大にやってくれてありがとう!」とメーカーやブランドの方に喜んでいただけることも多いんですよ。「またWISMで取り扱ってもらいたい」と言ってくださることも。ウィンドウデコレーションを通して、WISMのブランディングや売り上げに貢献することは、常に意識しています。

―この9月にWEB VCになったばかりということですが、違った側面から同じWISMの世界観を表現するうえで、どのようなアプローチをしようと考えていますか?

自分にしかできないことをしたいとは、常に考えています。誰にでもできることは、できるだけしたくない。そういう意味では、これまでのVCの経験が活かせると考えていて。つまり、空間演出からプロップの手配、撮影、画像編集までを、すべて自分でまっとうできる。その分だけ、ブランドの世界観を濃く表現できる。店舗のウィンドウもスマホの画面上も、やることはさして変わらないと思っています。

―まったく違う仕事ではなく、あくまで地続きであり、それぞれがより洗練されていくはずだということですね。ちなみに、日々、デコレーションやレイアウトの参考にしているものはありますか?

リサーチが好きで、色々なウィンドウや展示、美術館を観に行くことが多いんです。なかでもメゾンのショーウィンドウは、デコレーションの極みみたいなもの。その手法やアイデアを自分のなかで噛み砕いて、仕事に落とし込むようにしています。

―家具や花器にも興味が湧いてきたということでしたが、ほかにも、好きで集めているものなどはありますか?

もともと古着が大好きで、アパレル業界で最初に働いたのも古着屋でした。その流れで、バンダナはけっこう集めていて。汗っかきなので、真冬でもかならず一枚は持ち歩きます(笑)。ネイティブ柄のものやスマイルマークのバンダナなんかは、見つけるとつい買ってしまう。

―最後に、今後の目標について聞かせてください。

時代的にはアパレル業界も次々とデジタルに移行していて、ベイクルーズもYouTubeやインスタライブといったコンテンツにますます力を入れていくことと思います。でも、だからこそというか。ぼくはアナログな人間なので、むしろそこを突き詰めていきたい。「会社がこう言っているから、こっちをやる」じゃなくて、誰にも負けない分野をこそ、追求していきたい。また大きな野望としては、いつか、伊勢丹やドーバーストリートマーケットのウィンドウを手掛けてみたいです!

「喜ぶひとが多いほうの選択肢を取る。」