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CREW'S VOICE

Photo_Yoshifumi Yoshimoto
Text_Masahiro Kosaka【CORNELL】
Edit_Ryotaro Miyazaki

「自分のためにっていうのは、苦手なんです」
“脇役”に徹し、縁の下から支えることで、まわりが輝けばいい。
SNSではだれもが自意識をぶつけあうエゴの時代に、
はにかみながら、彼は本気でそう言った。

ー今日は愛車でのドライブにご一緒させてもらいました。運転ありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございます! 運転する理由をくれるひとは大好きなんです(笑) 。クルマを運転する時間がとにかく好きで、休日も絶対に運転せずには終えられません。家から歩いて2、3分のところにあるスーパーにも、わざわざクルマで行ってしまうくらい。

ー私物紹介の一枠に、まさか車を選ばれるとは思いませんでした。今回紹介しようと決めた理由はありますか?

このクルマって、本当は趣味じゃなくて。ぼくはもともと旧車が好きなんです。これまでも、日産のグロリアワゴンや光岡自動車のガリューに乗ってきました。じいちゃんや父親もそういう車種が好きで乗っていたので、その血が流れているというか、落ち着くんですよね。洋服でいうと古着やアメカジが好きなので、本当はアメリカのヴィンテージカーに乗りたいんですけど、すぐに壊れるし維持が大変なので、日本車を選んできました。なのにどうしてこの車を選んだかというと、ベイクルーズに転職する前に勤めていた会社で、ある程度いいところまで出世させてもらったことがきっかけ。アパレル業界って、あまり稼げるイメージがないと思うんですけど、「いやいや、頑張ったらこんなのも買えるよ」と、下の子たちに示したかったから。

乗っていて面白かったのは、間違いなく旧車。でも、運転していて気楽なのはいいですね。また、このクルマに乗るからには適当な格好をしてはいけないような気がします。自分が律されるというか。

ー以前はどういった会社で、主にどんなことをして働いていましたか?

レディースのブランドでした。ファミリー向けの商業施設などに入っているような、いわゆるヤングカジュアル。新卒入社して7年間くらい勤めて、販売員、店長、マネージャー、営業統括……といろいろな職種を経験しました。最後は倒産してしまったのですが、会社が続いていれば、死ぬまであの会社にいたかったですね。

ーそこまで言えるのはすごいことですね。いい環境やひとに恵まれていた?

「このひとと肩を並べて働くために頑張ろう」と思える上司がいて、「こいつらのためなら俺は給料いらねぇな」と思える部下たちに出会えました。好きでしたね。会社の売り上げもなかなか厳しかった最後の頃も、そんななかでも部下たちの生活を守るためになにができるだろう、上司に恩を返すためにどういうやり方ができるだろうって、毎日毎日考えながら働いていました。

ー誰かのために。それが船瀬さんの原動力なのですね。

「自分のために」っていうのは、結構苦手で。

ー頑張ればこんな車だって買えることを部下たちに見せたかった、というのも同じ気持ちですか?

会社が潰れて、可愛がってた子たちもそれでアパレルを辞めざるを得なくなったりして。だから、俺が教えてきたことも、お前たちがやってきたことも間違ってなかったんだよって、証明したい。あなたがずっと指導してきてくれたおかげで、いま俺はこれだけのことができますって、あの頃の上司に知ってもらいたい。そのためには、まずぼくがアパレル業界で成功しないと、ある程度稼げるようにならないと示しがつかないですから。いまはベイクルーズの社員ですが、ここで働くうえでも、気持ちは一緒です。

–––雪辱を晴らすため。

独りよがりですけどね。

「ディズニーランドが大好きなんです。他のどの遊園地とも圧倒的に違って、そこにしかないものが絶対にあるということ。そして、日常から離れたその空間に自分がいることの満足感。同じ理由で、宝塚も好きです」。写真のスウェットは、REMI RELIEFとÉDIFICE の別注品。ミッキーマウスのプリントに、ヴィンテージのような掠れ加工が施されている。

ーところで、ファッション業界を目指すようになったきっかけは?

ぼく、中学くらいまではいじめられっこでした。でも、高校に入ってできた友達がめちゃくちゃ服好きで、彼の影響で洋服や髪型を気にするようになったら、いじめられなくなったんですよね。「ひとって、見た目でこんなに変わるんだ!」って知って。だから、ひとの見た目にかかわる仕事に就きたかった。それがはじまりなので、服に目覚めたのはひとと比べると遅い方かもしれません。

ーでも、そこからはいろんな店で服を買ったり、着たり、ファッション誌を読み漁ったりした訳ですよね? なかでも大きく影響を受けたひとやものはありますか?

世界一格好いいなと思うひとは、映画『インデペンデンス・デイ』に出てくる退役軍人でアル中のおっちゃん(ラッセル・ケイス役)です。タンクトップにチェックのネルシャツみたいなのを着て、汚いチノパンを穿いて、ぺちゃんこになったキャップを被って。あんなにボロボロの格好なのに、ちゃんと画になるというか。常に端のほうにいても、物語には絶対に外せないような、そういうキャラクターにちょうどいいスタイルというか。古着やアメカジに夢中になったきっかけも、そこにあると思います。

ーいまは、古着やアメカジとはいわば対局にあるドレスブランドに所属していますね。その後ドレスにも興味が湧いてきたということでしょうか?

前の会社では外部のひとと会う機会も多かったんです。そういうとき、アパレルにいる身としてスーツも格好よく着なきゃな、と勉強しはじめたら、意外と面白くて。ヴィンテージのミリタリーやデニムみたいに昔から変わらず続く服ですから、古着に通じる魅力もあって。だから、3年前にベイクルーズに入社したときも、絶対スーツをやりたかった。

ー先ほど「誰かのために」というのが仕事の原動力であると伺いました。その「誰か」には、上司や部下といった同僚だけでなく、ファッションアドバイザーとして、お客さまの存在も含まれることと思います。そんなお客さまには、日々どんな想いで向き合っていますか?

スーツって、ただの仕事着じゃない。こんなに面白い洋服なんだ。そういうことが伝わればいいなと考えています。もちろん、たとえ仕事着だとしても、ちょっとしたことで威厳が出るとか、選び方や着方で、そのひとの印象を大きく変えることもできる。パリッとしたシャツにネクタイを締めて、パンツにクリースを入れ直して穿くと、やっぱり背筋が伸びます。「なんでもいい」と思って着るのではなく、意識して着ると、服はもっと面白くなる。それは、なにもスーツに限った話でもないと思っています。

ーそういう意味では、名古屋PARCOのメンズフロアは、まさに最適な環境ですよね。ワンフロアに、カジュアルからドレスまでが垣根なく揃っていて。

そうですね。ドレスの接客をしていても、「このスーツに、カジュアルブランドのこんなアイテムを入れたら面白いですよ」なんて提案もできます。ぼくら的にも、視点や切り口が増えるので、働いていて面白いですね!

ー最後に、今後の展望について聞かせてください。

ひとを育てるのが好きなので、そういうことに力を入れていきたいです。ぼくが前に出なくても、みんなが輝いて楽しめる店になるように。日陰で、ぐっと支えているのが性に合うので、そんな風にまわりのみんなをサポートするような仕事をしていきたいです。

「仕事の意味を理解し、達成することに意義と楽しみを持つ。」