僕と仕事と服と

THEIR DAILY LIFE, DAILY CLOTHES

僕と仕事と服と

仕事や暮らしのあり方がどんどん多様化していく今の時代。ならば日常に欠かすことができない「服」にも、1人1人がもっと “自分らしさ”を求めたっていいはずだ。

そこで本連載では、ファッション業界をはじめ様々なシーンで活躍するクリエイターやアーティストたちのライフスタイルや仕事との向き合い方に焦点を当てながら、彼らの「デイリーウェア」としてジャーナル スタンダード レリュームの最新アイテムを紹介する。

各々のこだわりのスタンスから、日常と服、仕事と服との理想の関係が見えてくる。

chapter.eleven TAKUMA SASAKI
MASAKO NOGUCHI NOMA t.d.

JOURNAL STANDARD relume 2023 Summer Special Issue

「情緒やパーソナリティが滲む服を作り続けたい」

ハンドドローイングによる個性豊かなテキスタイル、そしてシンプルな中に秘められたユーモアやデリケートなディテールが独特の奥行きを感じさせるブランド〈NOMA t.d./ノーマ・ティー・ディー〉。〈ジャーナル スタンダード レリューム〉ではこの秋冬、そのNOMA t.d.に別注したハンドダイのグラデーションスウェットをリリース。そこで、同ブランドを手がけるデザイナーの佐々木拓真さんと野口真彩子さんにご登場いただいた。。2人の感性が常にシンクロすることで生み出されている、他にはないウィットに富んだNOMA t.d.のコレクション。その魅力ともの作りの芯にに迫った。

「今回の別注スウェットの染めは、以前NOMA t.d.のインラインにも採用していた技法。当時は裏を染めていましたが、レリュームからのリクエストでそれを表染めにし、別注カラーとしてブラックとパープルをそれぞれグラデーションカラーで作りました。着丈はあえて少し短く、肩がきれいに落ちるようなシルエットに。今季はこのような染めのアイテムをセットアップで提案したいなと思い、同柄のパンツも作りました」(佐々木)

「スウェットの特徴は縫い目をツイストさせていること。染めによって、そのツイストがより斜めに感じられるようなムードを表現しました。ここまでねじれているスウェットはあまりないですよね。シンプルでベーシックなアイテムにちょっとひねりを加えるのがNOMA t.d.の服作りのスタイル。私たち自身も、普段からそのような“情緒”のある服、自分らしいパーソナリティを表現できる服を自然と手に取っている気がします」(野口)

「そう、この染めのスウェットも1点ずつ職人さんに手で染色してもらっているので若干グラデーションの幅などに個体差が出てきます。量産される服でありながら、ひとつとして同じ染めがないユニークさを味わっていただけるのではないでしょうか」(佐々木)

「ヘリテージや伝統工芸への敬意や好奇心を、時代にフィットさせながらアップデートしていくことも私たちの仕事だと思っています」(野口)

そのようにして、昔ながらのクラフトワークを、コンテポラリーなアートやカルチャーの要素とブレンドしながら服作りに投影していくのがNOMA t.d.のスタイル。その上で、佐々木さんと野口さんが最も大切にしているのが“ポップさ”。

「ファッションはムード。こうしなくちゃいけない、というような正解はなくて、今の時代をどういう風に表現したいか、着る人が自分自身のパーソナリティをどう反映したいかが何より大事。私たちの服作りのベースはテキスタイルですが、それも常に伝統や昔ながらの技術をリスペクトしつつ現代との化学反応を常に目指しています。 そのために必要なのがポップさなんです。ポップな軽やかさがあってこそ、クラフト感のあるものがより良く現代にフィットしてくれるのだと思っています」(野口)

「そう、どんなデザインでも軽快に見えないと。それがNOMA t.d.の服作りの基本ですね。今回のスウェットに関しても、染めの行程はとてもクラシックですし、見た目には昔のヒッピーカルチャーを想起させるようなムードもありますが、フィニッシュのところで現代的かつ軽やかに見せています」(佐々木)

野口さんが普段よく身につけているという、自身のテキスタイルをあしらったスカーフとチェーンのブレスレット&ネックレス。スタイルの細部に彼女らしさが表れている。

今回のコラボスウェットは、佐々木さんが着用しているブラックの他にこちらのパープルも展開。
ハンドダイによる品のあるグラデーションが特徴的。

そしてNOMA t.d.のテキスタイルの軸になっているハンドダイや刺繍。それらのインスピレーション源も実はかなり幅広く、佐々木さんと野口さんのライフスタイルそのものがNOMA t.d.というブランドのクリエーションに繋がっている。

「普段から見ているもの、着ているもの、そのすべてから常にインスピレーションを得ています。海や植物、夕焼け空といった自然の色はもちろんですし、スーパーで並んでいるような自然とは真逆の色彩も好き。例えば『キャンディやタブレットの鮮やかな色を自然色と組み合わせたらどうだろう』とか、『オーガニックなものと幾何学的なものを混ぜてみたら面白いかな』とか、日常にある様々なものに興味が向きますね」(野口)

「僕らは常に新しいテクニック、新しい場所をリサーチしています。今は作業場として北海道にも自分たちのスタジオを設けていろいろなテストをしています。そこで実験的にプリントしたものをそのまま工場に持っていって製品にしてみたり」(佐々木)

今回のコラボスウェットは、佐々木さんが着用しているブラックの他にこちらのパープルも展開。
ハンドダイによる品のあるグラデーションが特徴的。

「純粋にファッションとしてのテキスタイルだけでなく、アートや音楽の人たちと一緒に仕事をすることも多いですし、服だけではなくアート作品のようなものを作ったりもします。私たちにとってはそれも服作りと同じで、NOMA t.d.は“服から服を作っていない”と言いますか、背景には常にアート、音楽、人、そして生活がある感じですね」(野口)

「近年はファッションがより洋服だけで括れなくなっていますから。居住空間も含めて、衣食住がトータルでその人のスタイルになる。そういう意味でも、僕らがお皿を作ったりしていることも実はNOMA t.d.のもの作りに欠かせない要素なんですよ」(佐々木)

「服だけでなく、どこを切り取っても私たち“らしさ”が滲み出る。NOMA t.d.が心がけているのは、そんな嘘のない服作りなんです」(野口)

TAKUMA SASAKI / MASAKO NOGUCHI

ロンドンから帰国後にテキスタイルデザイナーとして活動していた野口真彩子さんと、セレクトショップのディレクター・バイヤーを経て独立した佐々木拓真さん。そんな2人がデザイナーデュオとして2005年に〈NOMA t.d./ノーマ・ティー・ディー〉を開始。ハンドドローイングによるテキスタイルを軸に、伝統技術を現代的に昇華させたコレクションが国内外で高い評価を得ている。

Photo:Akira Yamada
Edit&Text:Kai Tokuhara