
仕事や暮らしのあり方がどんどん多様化していく今の時代。ならば日常に欠かすことができない「服」にも、1人1人がもっと “自分らしさ”を求めたっていいはずだ。
そこで、フローリスト、スタイリスト、ミュージシャン、彫刻家と、業種もパーソナリティも様々な4人のクリエイターたちに「もし自分がジャーナル スタンダード レリュームで服を選ぶなら」というテーマのもと仮想のデイリーウェアをセレクトしてもらった。
撮影は彼らの“ある1日”にそれぞれ密着しながら。4者4様の仕事=もの作りに向き合うスタンスを掘りさげていくうちに、ごく自然と、「その服を選んだ理由」が見えてきた。
「音楽も服も、自然体で」
主に「MPC」というサンプリングマシンを駆使して作り出される、ヒップホップをバックグランドに持つ独自のサウンドが一躍ミュージックシーンで脚光を浴びているトラックメーカーのSTUTS(スタッツ)さん。多くの著名アーティストとのコラボレーションでも話題を集める彼に、まずは音楽との出会い、そして楽曲作りの原体験から聞いてみた。
「幼い頃から適当な自作曲を作って歌ったりしていたみたいですけど、当然ながら将来音楽を作ろうとか、そういう感じではなかったです。本格的にトラック制作に興味を持ったのは中学生の頃にヒップホップにハマってからですね。自分でもラップをやってみたいなと思い、そのためにはビートが必要だったので作り始めました。それでも学生の頃は音楽を仕事にしたいという考えはなくて、ただ好きで作っていただけ。考えが変わってきたのは大学院を出た後に就職してから。会社で働きながらも、やはりどこかで一度、『人生で音楽だけに集中する期間が欲しいな』と思うようになったんです。それで1枚目のアルバムをいろんな人に聴いてもらえたことをきっかけに、やってみようと」
ライフワークとして自分のために作り続けてきた音楽が、より多くの人に届けるための音楽、つまり“仕事”になった。しかし彼の音楽との真摯な向き合い方はずっと変わらない。
「会社を辞めたからにはもっとしっかりしなきゃという危機感はありましたけれど、音楽だけにフォーカスできる時間が増えた分、以前よりも感覚が研ぎ澄まされたようには感じました。ただ音楽を仕事にする前から、誰よりも自分がまず納得できる作品を作りたい、そしてもしそれがいろんな人に聴いてもらえたらラッキーだなという気持ちで音楽を作っていたので、スタンスそのものは基本的には昔も今も変わっていません。その点で本当に今は恵まれた環境で好きな音楽を作らせていただけているなと感謝の気持ちでいっぱいです」
STUTSさんが作る音楽には、ヒップホップ好きでなくともすっと心が引き込まれてしまう不思議な優しさがある。それはもしかしたら、彼自身が日常を過ごす中で捉えた何気ない情景をごく自然にサウンドに反映させているからなのかもしれない。
「メロディや音質そのものは自分がこれまで聴いてきた音楽の影響が大きいと思いますが、楽曲全体を通して自分のどういう気持ちを表現したいか、というような情緒的な部分に関しては、確かに自分の目で見た風景だったり、人間関係の中で感じたことなどから素直にインスピレーションを得ていることが多いかもしれません」
毎日をともにする「服」も、そのためにSTUTSさんがさりげなく大切にしていることのひとつだという。
「そこまで強いこだわりはないですし、自分に何が合うのかをすごく理解しているわけではないのですが、それでもごく自然に“自分らしくいられる服”を着ていたいなという思いはあります。なんとなくですが、着た瞬間に『あ、着ていて心地がいいな』とか、『今日は気持ちが上がりそうだな』っていうのはわかるような気がします。ひとつ心がけているとしたら、自宅のスタジオにこもる日もなるべく朝起きたままの服や部屋着で作業をせず、ラフであってもきちんと着替えて音楽と向き合うようにはしています。それに、あまりシチュエーションによって服を変えることは少ないですが、たまに気持ちを引き締めたいときなんかは普段より少しだけパリッとした服を着て仕事に向かうこともありますね」
そんなSTUTSさんに最後に聞いてみた。音楽が日常にもたらしてくれるものとは?
「音楽のある生活が当たり前すぎてちゃんと考えたことはなかったですけど、思えば悲しいことがあった時なんかに心のよりどころになったり、たまに『音の中を旅する』ような感覚が味わえたり、また好きな音楽が誰かとの共通言語になったり、本当にいろんな魅力があるなあって。自分が作った作品もそういうふうに思ってもらえるように、これからも精一杯自分のやるべきことと向き合って良い音楽をたくさん届けたいですね」
STUTS
1989年愛知県生まれ。大学院生時代の2013年にニューヨーク・ハーレム地区の路上で行ったMPCライブがYouTubeで話題となり、以降、様々なアーティストのトラック制作やリミックスを手がける。2016年4月に1stアルバム『Pushin’』を発表。2021年にはフジテレビ系連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌『Presence』(STUTS & 松たか子with 3exes)の作編曲・プロデュースを担当。最新リリースは『One(feat.tofubeats)』。
Photo:Shinichiro Shiraishi
Edit&Text:Kai Tokuhara
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