僕と仕事と服と

THEIR DAILY LIFE, DAILY CLOTHES

僕と仕事と服と

仕事や暮らしのあり方がどんどん多様化していく今の時代。ならば日常に欠かすことができない「服」にも、1人1人がもっと “自分らしさ”を求めたっていいはずだ。

そこで本連載では、ファッション業界をはじめ様々なシーンで活躍するクリエイターやアーティストたちのライフスタイルや仕事との向き合い方に焦点を当てながら、彼らの「デイリーウェア」としてジャーナル スタンダード レリュームの最新アイテムを紹介する。

5者5様のこだわりのスタンスから、日常と服、仕事と服との理想の関係が見えてくる。

chapter.seven KOU MAEHARA ACTOR

JOURNAL STANDARD relume 2022 Autumn/Winter Special Issue

「服は役者としての自己表現に欠かせないもの」

近年、映画やドラマで見せる確かな演技力でじわじわ存在感を高めている俳優の前原滉さん。タクシーをよく利用する人なら、車載モニターから流れてくるタクシーアプリ「GO」のCMでユーモラスな演技をする丸い眼鏡の役者さん、と聞けばピンとくるはずだ。画面越しからも素朴な人柄が伝わってくる前原さんだが、実は多岐にわたる役柄をこなす上で密かに大切にしているのが服=衣装に袖を通したときの感覚なのだという。

「僕がいただく役柄は『いい人』から『犯罪者』まで様々で、それぞれキャラクターは陽もあれば陰もあります。だから作品ごとに本当にいろいろな衣装を着るのですが、それらに袖を通してみて気分が一気に乗るところはあります。『ああ、求められていたのはこういうことだったんだ』と、監督の意図を理解する上でいちばんわかりやすいのが衣装なのかもしれません。普段、私服で自分を主張することはありませんが、役者の仕事においては自己表現の手法として“服を着ること”を楽しめていますね」

そんな前原さんが着るのは、〈ジャーナル スタンダード レリューム〉オリジナルの「テックメルトンコート」とクルーネックニット、そして〈カリフォルニア〉のシャギーニットカーディガン。風合いはウール調ながらポリエステル素材で軽やかに仕上げられたシックなAラインコートから、リラックス感たっぷりなニットまで、テイストの異なる服の数々をあくまで彼らしく自然体で装う。

「役で衣装を着るときもそうですけど、人によって似合う服、似合わない服があるというのはとても面白いなあと。それって、きっと現実でも作中でも、自分という人物が日常をどういうふうに過ごしているかどうかで変わってくるんでしょうね。このコートやニットが僕に似合っているかどうかはわかりませんが、ひとつ言えるとしたら、ピシッとコートを着るときとゆるいニットを羽織るときでは身体の“重心”が変わる気はしています。そういう意味では、僕は役者という仕事柄、服に自分を合わせていっているところがあるのかもしれないですね。今日、この服を着た自分を役に例えるなら、恋愛ドラマの主人公の親友みたいな感じでしょうか。目立たないんだけど最終的にいいアシストをするやつみたいな(笑)」

そのように常に“役”と“服”が深いところで繋がっているという前原さん。作品ごとに多様なキャラクターを演じるために、毎日の暮らしの中で心がけていることがあるそうだ。

「役を演じるにあたって、僕は実生活からその人物のように過ごしていたいタイプ。ただ、人当たりのいい人というのは肌感でわかるところもあるのですが、悪い人の根っこの部分を表現するのはなかなか難しい。もちろんどちらもやりがいがありますし、こう見えてけっこうひねくれているほうなので悪人を演じるのもすごく好きなんです。ひとつ自分の中で意識しているとしたら、『癖』を作ることでしょうか。例えばまばたきのし方とか、その場に居づらいときについ鼻をすすってしまうとか、演じる人物に何気ない癖をひとつ取り入れてみようと。それもあって、日頃から接したり街ですれ違う人からいろんなヒントをもらっています。面白い趣味や癖を持っている人を見ると、『なるほど、これは使えるな』と、自分の中にストックするようにしています。そう考えると役者って変な職業ですよね(笑)」

仙台から上京後、アルバイトをしながら今の事務所直営の養成所に通い、所属後も地道にキャリアを積み上げてきた前原さん。いわば“叩き上げ”の彼だけに、役者として一人前になるためにさまざまな工夫を凝らしてきたのだろう。服との関わり方にもそれが滲み出ている。

「昔、科学者役のオーディションに白衣を着て臨み、『イメージしていた雰囲気とは違っていたけど、そういう感じでやるのも面白いから前原くんでいこう』となったことがありまして。それは極端な例ですが、着ている服というのはそうやって人と接するときにいちばん最初に情報として相手の目に留まるものですよね。それが親しみに繋がったり、あるいは逆に苦手と捉えられる要因にもなったり。だからこそ自分のパーソナリティを表現できるもの。僕自身、家と現場を往復する日常ではそれを意識するタイミングは少ないですが、役者という仕事においては、服は“自分らしさ”を出すために欠かせないツールだと思っています」

前原 滉

1992年宮城県生まれ。2014年にテレビドラマ、2015年に映画初出演。以来、NHK連続テレビ小説『まんぷく』(2018)や日本テレビ日曜ドラマ『あなたの番です』(2019)など数々の作品で印象的な演技を披露。近年は竹内豊さんと共演するタクシーアプリGOのCMシリーズも話題に。12月9日より主演映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』が公開。

Photo:Naoya Matsumoto
Styling:Junichi Nishimata
Hair&Make-up:Yosuke Akizuki
Edit&Text:Kai Tokuhara