僕と仕事と服と

THEIR DAILY LIFE, DAILY CLOTHES

僕と仕事と服と

仕事や暮らしのあり方がどんどん多様化していく今の時代。ならば日常に欠かすことができない「服」にも、1人1人がもっと “自分らしさ”を求めたっていいはずだ。

そこで本連載では、ファッション業界をはじめ様々なシーンで活躍するクリエイターやアーティストたちのライフスタイルや仕事との向き合い方に焦点を当てながら、彼らの「デイリーウェア」としてジャーナル スタンダード レリュームの最新アイテムを紹介する。

5者5様のこだわりのスタンスから、日常と服、仕事と服との理想の関係が見えてくる。

chapter.eight in-d rapper

JOURNAL STANDARD relume 2022 Autumn/Winter Special Issue

「服も音楽も、カテゴライズされずに自分らしく」

自然体で飾り気がない、時代の空気と調和した等身大のクリエーションが若者だけでなく30〜40代の大人世代からも支持を得ている稀代のヒップホップ・クルー「CreativeDrugStore」の一員であり、その前身「THE OTOGIBANASHI’S」の創設メンバーでもあるラッパーのin-dさん。今回、取材場所に選んだのは彼が「思い出深い場所」と語る街。高機能中綿〈クライマシールド®️〉を用いた〈ジャーナル スタンダード レリューム〉のリバーシブルベストとブルゾンをまとい、神奈川県藤沢市の「鵠沼海岸」周辺を歩きながら、音楽や服についての思いを語ってもらった。

「地元は藤沢のもうちょっと内陸のほうなんですけど、鵠沼はチャリで来れる距離なので小さい頃からよく遊びに来ていました。とくに音楽や服、スケートに興味を持ち始めた10代の頃は、カッコイイ大人たちが集まっているスポットに飛び込んで、そこで仲間に入れてもらって遊ぶのがすごく刺激的だったんですよ」

ラッパーのBIMさんらCreativeDrugStoreのメンバーとの活動など、当然ながらクリエーションの拠点は東京である。それでもin-dさんは折に触れて愛着のある湘南に戻り、何気なく過ごす時間を大切にしているという。

「音楽活動をする上で、ときに新鮮な刺激も必要だなって思って。それを強く感じたタイミングで東京に出たんですけど、こっちに帰ってくるたびにやっぱり居心地の良さを実感します。実は2020年にEPを2作品リリースしたとき、当時はコロナど真ん中ということもあって、鎌倉の稲村ヶ崎のほうとか、誰もいない海で制作をしていました。そうやって何かに集中したいときや、1人になってぼーっとしたいときなんかはこっちに戻って誰もいない海に行くことも多いですね」

実は湘南エリアの中でも、とりわけ鵠沼は「特有のコミュニティやカルチャーが存在する街」として知られる。その評判通り、小田急江ノ島線の鵠沼海岸駅を降りてすぐのメインストリートには昔ながらの八百屋や魚屋、金物屋などに混じってローカルムードたっぷりなサーフショップやバーなどが点在。この日in-dさんが立ち寄ったタコスショップ「PARA MEXICO」も、彼のヒップな地元仲間たちが営む注目のカルチャースポットだ。

「今は東京のほうに住んでいますけど、こうしてたまに帰ってきても空気感や匂いの違いをすごく感じますね。ラッパーにダンサー、スケーター、サーファー、あとは写真や映像をやっている人とか、年齢とか性別関係なくかっこいいことをやっている人が多いし、誰でもすぐに仲良くなれる雰囲気があります。ジャンルレスって言い方がしっくりくるかもしれないですね。僕自身ずっとここで育ったのでそれが普通って感覚ですけど、外から見てみるとこんな街はなかなかなかないですよね。音楽をカルチャーという括りであまり縛りたくないですが、確かに自分の基盤はこの街で10代の頃に培われたと思っています」

中でも色濃く影響を受けているというのが服選び。ミュージックビデオなどを見てもin-dさんの服装はいわゆるステレオタイプなヒップホップスタイルとは一線を画しており、ベーシックなアメカジ調の服やすっきりとしたシルエットの服を着ている印象も強い。もしかしたら、カテゴリーやジャンルにとらわれないその審美眼は彼のいう“ジャンルレス”な鵠沼のムードによって育まれたものなのかもしれない。

「確かに、ここで影響を受けたのはむしろ音楽より服の方が先だったかもしれないです。ただただでっかい服を着ていた時期があったり、逆にストリートっぽいものから離れた時期があったり、とにかく若い頃からいろんな服を着てきましたね。もちろん今じゃ恥ずかしくて街を歩けないような格好をしていた頃もありますけど(笑)。まあ、僕の場合、言いたいことは曲で表現できるので服で何かを主張することはないですし、だからジャンルにこだわる必要もないとも言えますね。それこそ今日のようなシンプルなテック系のアウターもよく着ますよ。これは暖かいし機能的だけど見た目がそれっぽくないし、何よりリバーシブルなのがいい。僕は一度飽きた服が何年後かにまた着たい周期に入ることも多いんですけど、このベストやブルゾンなら普段から気分で見え方を変えられて、裾のコードで絞りを調節できるのでシルエットもその時々の好みに合わせられるのがいいですね」

そう語りながら馴染みの街や海岸沿いを歩くin-dさんの姿から、彼が普段の楽曲制作や服選びで何をいちばん大切にしているのかがじんわりと伝わってきた。

「ひとつ言えるのは、自分は新しいトレンドを発信していきたいというのはないですね。もちろん何かを変えてやろうっていう強い信念を持っているアーティストを見てカッコイイなとは思いますが、はたして自分がそうかと言われるとそれほど強い気持ちはなくて、音楽も服も、それにサッカーも、自分にとっては純粋に“好きなもののひとつ”という考え方です。好きなものと向き合っていく中で、in-dとしての色がついてくればいいなと思っています」

in-d

1993年神奈川県藤沢市生まれ。高校時代にラッパーのBIM、PalBedStockとともにTHE OTOGIBANASHI’Sを結成。2012年からは彼らにラッパーのVaVaとJUBEE、フィルマーのHeiyuu、DJのdoooを加えた7名でヒップホップ・クルーCreativeDrugStoreとして活動。2019年には本格的にソロ活動も開始し、同年5月に初のEP『indoor』をリリース。翌2020年には『outdoor』、『input』と2枚のEPを発表している。

Photo:Tomoaki Shimoyama
Hair:AMANO
Edit&Text:Kai Tokuhara