僕と仕事と服と

THEIR DAILY LIFE, DAILY CLOTHES

僕と仕事と服と

仕事や暮らしのあり方がどんどん多様化していく今の時代。ならば日常に欠かすことができない「服」にも、1人1人がもっと “自分らしさ”を求めたっていいはずだ。

そこで本連載では、ファッション業界をはじめ様々なシーンで活躍するクリエイターやアーティストたちのライフスタイルや仕事との向き合い方に焦点を当てながら、彼らの「デイリーウェア」としてジャーナル スタンダード レリュームの最新アイテムを紹介する。

各々のこだわりのスタンスから、日常と服、仕事と服との理想の関係が見えてくる。

chapter.ten AKIRA YAMADA Photographer  

JOURNAL STANDARD relume 2023 Summer Special Issue

「写真も服も、アメリカこそが自分の原点」

1863年にオレゴン州ポートランドで設立されて以来、150年以上にわたって良質なネイティブアメリカン柄のウール製品を世に送り出し続けている〈ペンドルトン〉。〈ジャーナル スタンダード レリューム〉では今季、そんなアメリカを代表するライフスタイルブランドに別注したスペシャルなコレクションを展開。ペンドルトンといえば言わずもがなブランケットやウールシャツなど秋冬に重宝するアイテムが有名だけれど、レリュームではあえてオープンカラーシャツとTシャツにその象徴的な柄を刺繍することでこれまでにない新鮮な夏トップスに仕上げている。それらをごく自然体で着こなすのが、今年初めに帰国するまで長くNYをベースに活躍してきたフォトグラファーの山田陽さんだ。

「刺繍が入ったようなクラフト感のある服、とくにネイティブアメリカンテイストの柄ものなどは若い頃から好きでよく着ています。それこそアメリカのバイカースタイルやヒッピールックに強く憧れていた10代の頃なんかはベルボトムにタイダイTシャツで、ロングヘアでしたから(笑)。無地よりも何かしらユニークなテクスチャーがある服に惹かれるのはその当時から変わっていませんね」

そう語るように、ペンドルトン特有の柄を纏った姿が不思議なほどしっくりくるのはやはり山田さんが昔からそのようなテイストに慣れ親しんできたからこそ。長いNY生活の中で培ってきたアメリカンカルチャーへの造詣の深さも相まって、今ではペンドルトンのような古き良きアメカジウェアは山田さんの“スタイル”としてすっかりお馴染みだ。

「NYに行ったのは22歳の頃。元々、服飾の専門学校を卒業後にファッションに携わる仕事がしたくて渡米したくらいですから、アクセサリーや靴なども含めて身につけるものは常に自分が好きなアメリカのカルチャーともリンクしているものなのでとても大事にしてきました。そんな中でも近年は、柄ものであっても上品さを損なわないアイテム選びを何より心がけるようにはなりましたね。その点でこのペンドルトンのシャツとTシャツは、柄そのものはとてもインパクトがあって象徴的ですが、表情や刺繍の入り方などがすごく洗練されていてシックに見えるので年相応に気負いなく着られる感じがしています」

“アメリカ”が山田さんにもたらしたものは当然ながら服やスタイルだけではない。人生の半分以上を過ごしてきたNYで、山田さんはフォトグラファーとしてのキャリアをイチから作り上げてきた。アメリカの地で見た景色、触れたカルチャー、そして出会った人々。それらすべてが氏のクリエイティビティの源になっているのだという。

「目指していた洋服の仕事に就けなくて、最初のほうはレストランでアルバイトをしながらなんとか生活する日々。当時からコンパクトなフイルムカメラで写真はよく撮っていましたけど、あくまで日常のスナップ程度だったのでまさか自分が写真を生業にするなんて思いもしなかったですよ。そんな僕がフォトグラファーとして受け入れてもらえたのもNYという街だったから。渡米後しばらく経ってから花屋でフローリストのアシスタントをするようになり、ウェディングやパーティなどのデコレーションをする中で自分が飾り付けた作品を記録する目的でより頻繁に写真を撮るようになったのですが、幸い周りにたくさんフォトグラファーがいたので写真の技術を一から学ぶことができました。早朝から花屋に出勤して生計を立てながら、午後からはカメラマンのアシスタントについて、という生活を2年ほど続けてフォトグラファーとして独立することができたんです」

「そしてNYではアートやカルチャーに触れる機会がとにかく多かった。そこから写真表現をする上ではコンセプトが何より重要なんだということを知りました。植物をコンテンポラリーに切り取った写真展を開いたり、また光と色を東京のランドスケープで感覚的に表現した作品をアディダスのストアで展示させてもらったり、これまで日本で行ったプロジェクトもすべてNY生活の中で蓄積してきたものがベースになっています。また近年はトレイルランニングが欠かせないライフワークになっているのですが、それによって以前にも増してアメリカの様々な場所へ行ったり壮大な自然に身を置くようになったことも、光の捉え方など写真にいろんないい影響を与えてくれていますね」

これまで山田さんが帰国するたびに撮っていたという東京のランドスケープ写真の一部。外から見た東京、日本を、“光と色”でアブストラクトに表現した

そんな山田さんは今年、25年過ごしたNYを離れて日本に帰国。学生時代以来となる東京ライフ、そしてフォトグラファーとしてのセカンドキャリアをスタートさせている。

「帰ってきて思ったのは、日本は多くの人が思っているほど窮屈じゃないし、東京だってNYに引けを取らないくらい素晴らしい街だということ。歴史があり、独自のファッションやストリートのカルチャーもあって、それでいて住みやすくてご飯も美味しい(笑)。そんな日本の魅力をもっともっと自分たちから世界に向けて発信していけばいいんじゃないかなってあらためて実感しています。外国に目を向けるだけではなくて、日本の魅力にもっともっとフォーカスしてみればよりクオリティが高い表現ができる気がしています。実はアメリカ、とくにNYの人たちって、大人になっても新しいことに挑戦する人が本当に多いし、みんなよく勉強しているんですよ。そんな環境で得た感覚は、これから東京をベースに活動していく中でも忘れずにいたいですね」

AKIRA YAMADA

1976年、広島県生まれ。文化服装学院を卒業後、1998年に22歳で渡米。フローラルデザイナーを経て2004年からNYをベースにフォトグラファーとしての活動をスタート。以来、数々の雑誌やブランドカタログ、広告などで活躍中。ライフワークはトレイルランニング。2023年より拠点をNYから東京に移している。

Photo,Edit&Text:Kai Tokuhara