僕と仕事と服と

THEIR DAILY LIFE, DAILY CLOTHES

僕と仕事と服と

仕事や暮らしのあり方がどんどん多様化していく今の時代。ならば日常に欠かすことができない「服」にも、1人1人がもっと “自分らしさ”を求めたっていいはずだ。

そこで、フローリスト、スタイリスト、ミュージシャン、彫刻家と、業種もパーソナリティも様々な4人のクリエイターたちに「もし自分がジャーナル スタンダード レリュームで服を選ぶなら」というテーマのもと仮想のデイリーウェアをセレクトしてもらった。

撮影は彼らの“ある1日”にそれぞれ密着しながら。4者4様の仕事=もの作りに向き合うスタンスを掘りさげていくうちに、ごく自然と、「その服を選んだ理由」が見えてきた。

chapeter.one YASUTAKA OCHI florist

JOURNAL STANDARD relume 2022 Spring/Summer Special Issue

「色彩と、手触り」

表参道ヒルズの「ディリジェンスパーラー」、東京ミッドタウンの「アイエスディーエフ」という2つのフラワーショップを営みながら、広告ビジュアルや雑誌のファッションページにおける美術制作、様々な店舗の装飾も手がける。それでいて写真家、文筆家としての顔も持つ。フローリスト越智さんの仕事は、実に多岐にわたっている。

「平日は朝から花を買い付けに行ったり、装飾を行ったり、またお店でのサービス内容や会社のことをスタッフと一緒に考えたり。土日は写真やデザインの仕事をこなしながら、アトリエを兼ねた自宅では作品の納品作業や装飾のラフ描き、執筆などをしていますね。だから自分の中で完全な休日はなく、週末も基本的には『連絡を返すペースが少し遅くなる日』という感じで、仕事にまつわることを何もしない日というのはもうずっとないですよね」

偶然だったという「花」との出会いが、越智さんを今のライフスタイルへと導いた。
「学生の頃に花屋でアルバイトをし始めた当初はバラとカーネーションの違いもわからなかったくらい。でも不思議と、花を一本持っただけでも『人が持つより綺麗に見える』というような感覚がすぐに自分の中に生まれたんです。花の重心や瑞々しさが自分の手にすっと馴染む感覚がありました。以来ずっと花を触っていますが、僕には人と少し違った色彩感覚や物事の捉え方があるのかもしれないなあとここ数年はとくに実感していますね。それが優れているかどうかはさておき」

最近では伝統的な様式美を学ぶために生け花にも取り組むなど、花への探究心は尽きない。彼が花を通して表現したいこと、その根底にある思いを聞いた。「生産者がいて、市場があって、僕たちお店が購入して、それを届ける人がいる。そうやってひとつの花がどんぶらこ、どんぶらこと流れていく様が僕はとても面白いと思っていて。うちのお店は花が外からそのまま見える透明なパッケージで提供しているのですが、買ってくださった方がそれを持って街を歩いている情景がその流通の面白さをまさに表しているようで好きなんです。もちろん、お客様1人1人の気持ちにフィットした花を届け、驚きや喜びを感じてもらうことがいちばんのテーマですけれど」

理想を体現するために、越智さんが何より大切にしているのが“手作業”による温もりだ。「今どきの人は器用だから何事もデバイス上で完結してしまうことが多いですよね。それによって確かにいろんなデザインがすんなり綺麗に出来あがるかもしれませんけれど、個人的な感覚としてはその綺麗さが面白みに欠けるというか。だからうちのスタッフには、「鉛筆で簡単にでもいいから、何でも必ず絵を描いてみてからアイデアを提案しよう」と言っています。自分にしか引けない線、自分にしか出せない味。そこをどんどん突き詰めていくことでいつしか自分に何ができるのかが明白になり、その積み重ねが誠実な仕事につながるのかなと。それは花だけではなく、写真にも文章にも同じことが言えると思っています」

仕事で着る服を選ぶ視点にも、どことなくそんな越智さんの美意識が垣間見える。
「着心地や触り心地の悪いものを着て暮らす、というのがそもそも自分にとってはありえないこと。例えばチクチクするTシャツを一日中着ていたら気持ちまでチクチクしない?って思ってしまいますから(笑)。服はいちばん皮膚と密接なものなので、体と同じくらい大切なものだと思っています」

着ていてストレスがなく、体に馴染む。だからいい日常が送れて、必然と良質な仕事にも繋がる。そのベーシックウェアの定義に、越智さんの場合は「色」が加わる。「もともと派手好きなので色や柄ものは好きですし、気に入った服は汚れも気にせず仕事にがんがん着て行きます。また『花が引き立つように』とユニフォームに黒い服を選ぶ花屋さんも多いと思いますが、うちのお店、とくに表参道のディリジェンスパーラーではオープン当初から髪が水色でボロボロのジーンズをはいたスタッフが立っていたり、最近でも虹色の髪にしてきちゃう子もいます。僕はそれで良いと思っています。だって、こんなに豊かな色に囲まれているんだから、むしろそのほうが自然なんじゃないかなって」

越智 康貴

1989年埼玉県生まれ。文化服装学院を卒業後、アパレル店舗でのフラワーアレンジメントの経験などを経て、2016年に一輪から購入できる花屋「ディリジェンスパーラー」を表参道ヒルズにオープン。2020年からは東京ミッドタウンの「アイエスディーエフ」も手がけ、近年は写真や文章での表現活動も注目を集めている。

Photo:Takemi Yabuki(W)
Edit&Text:Kai Tokuhara