僕と仕事と服と

THEIR DAILY LIFE, DAILY CLOTHES

僕と仕事と服と

仕事や暮らしのあり方がどんどん多様化していく今の時代。ならば日常に欠かすことができない「服」にも、1人1人がもっと “自分らしさ”を求めたっていいはずだ。

そこで、フローリスト、スタイリスト、ミュージシャン、彫刻家と、業種もパーソナリティも様々な4人のクリエイターたちに「もし自分がジャーナル スタンダード レリュームで服を選ぶなら」というテーマのもと仮想のデイリーウェアをセレクトしてもらった。

撮影は彼らの“ある1日”にそれぞれ密着しながら。4者4様の仕事=もの作りに向き合うスタンスを掘りさげていくうちに、ごく自然と、「その服を選んだ理由」が見えてきた。

chapter.two NAOKI IKEDA stylist

JOURNAL STANDARD relume 2022 Spring/Summer Special Issue

「良い呼吸をするように、
服と向き合いたい」

ファッションデザイナーにパタンナーにショップオーナー、さらにはアパレル企業のMDや販売スタッフなど、世の中に「服」にまつわる仕事は数多く存在する。そんな中にあって、様々な媒体を通して私たちに鮮度あふれる着こなしやファッションが持つ奥行きを視覚的な美しさとともに届けてくれる、言わば時代やトレンドを作り出すプロフェッショナルが「スタイリスト」だ。池田尚輝さんは20年以上にわたってメンズファッションの最前線で活躍し続けるトップスタイリストの1人。その豊富な経験から自らの日常着そのものにも仕事やクリエーションの“スタイル”が色濃く映し出されており、ゆえに日常着=仕事着選びに対して自然体でありながらも妥協がない。

「きちんとスーツを着る職種の人と比べたら毎日休みのような格好をしているように見えるかもしれませんが(笑)、その分、日々服選びに考えを巡らせることが多いですね。例えば『今日のアポイントは銀座が多い』という日なんかは渋谷で古着屋を回りたい時とはやはり気分が異なりますし、ロケ、スタジオ撮影、リースや打ち合わせなど、その日のシチュエーションによって自分なりのスタイルの落としどころを常に模索しています」

今回ジャーナル スタンダード レリュームからピックアップしてくれた服の数々も、そんな池田さんの審美眼によって“仕事着”としての価値が付加されたものばかりだ。

「まずディッキーズのワークパンツはタフに穿けるけれど見た目がスラックス風でもあるのでクリーンさを損なわない。またアーミーツイルのベージュシャツはゆるい雰囲気がありつつも打ち合わせに着て行ける程度の上品さがある。ともにカジュアルだけれどスタイリストの仕事着として申し分ない品性を備えています。レインスプーナーのハワイアンシャツに関しては、これを着ることで夏場の気候に対してよりポジティブに順応できる感じがしますし、かつ古くからオリジナルの生地で作り続けられているという確かなバックボーンもセレクトする上での安心感、信頼性に繋がりますね」

スタイリングでも日々の装いでも、常に時代の空気を敏感に読み取りつつ、オリジナリティを大切にしながら服をセレクトし続ける。

「職業柄、服を見ること、選ぶことが日常の大部分を占めていますので、その行為そのものが自分にとって常に“良い呼吸”になるように取り組みたいなと思っています。しかしこんなに来る日も来る日も服を触りながら我ながらよく飽きないなと。結局のところ、自分の中で服は純粋に観察の対象として面白い存在であり続けているからなんですよね」

実は池田さん、近年はスタイリストとしてこれまでにない表現のアウトプットに挑戦している。2021年に『メンズウェアデザイナー・アダム キメルとニューヨークの美学展』、そして今年3月には『stylist’s stylist Ray Petriと’80年代ロンドンのファッションエディトリアル展』を開催。キュレーターとして、前者は2000年代に世界的な注目を集めたアダム・キメルのアーカイブ作品を、後者は後のファッションシーンに絶大な影響を与えたレイ・ペトリの仕事にフォーカスしながら『THE FACE』や『ARENA』などのUKファッション・カルチャー誌のアーカイブを、それぞれ膨大な時間と労力を駆使して自ら収集して展示した。

「例えばフォトグラファーであれば写真集を出したり写真展を開くなど、媒体がなくても自主的に作品を発信するツールや場を作り出しやすいですよね。でもスタイリストにとってのそれは何だろうと。それを自分の中で長く探してきてようやくひとつの方法を見つけられた感じですね。アダム・キメルの服にしても’80年代のファッション誌にしても今オンタイムで生きている情報ではないですが、そのアーカイブの数々は存在として価値があり続けているということをたくさんの方々と共有できたことが意義深いなと思いました」

ファッション、そして服に対する探究心は尽きない。「それが仕事だから」という理由は言わずもがな、服飾文化そのものへの深いリスペクトがそうさせるのだという。

「昔、スタイリストの大先輩である北村道子さんがあるインタビューで『服には人間の知恵が詰まっている。だから私は尊敬しているの』とおっしゃっていて、その言葉がすごく刺さったんですよね。デザイン、ディテール、風合い、素材感……人類が培ってきた叡智を結集したものがファッションであり服であるということを、もっと自分の仕事を通して発信していきたいなと思っています」

池田 尚輝

1977年長野県生まれ。フリーのスタイリストとして2000年から雑誌、広告、ブランドルックなど様々なクリエイティブシーンで活動。2005年には1年間NYに留学。正統さに加え、どこか外しの効いた世界観を好み、本文でも触れている展示イベントはNYのMOMAで「ザ ホールアース カタログ」への道のりを辿る展示を観たことが契機になったそう。

Photo:Teppei Hoshida
Edit&Text:Kai Tokuhara