Talk to standard.
vol.6
とんだ林 蘭
気になるあの人はどんなことを大切にして日々を過ごしているのだろう。“その人の軸=スタンダード”にぜひ迫ってみたい。仕事や生き方、好きなものや定番品から垣間見える、その人だけのマイスタンダード。第6回目のゲストは、アーティストのとんだ林蘭さん。アパレルブランドや企業とのコラボレーションから、木村カエラや東京スカパラダイスオーケストラのビジュアル制作、最近ではあいみょんのジャケットやムービーのディレクションを担う、人気アーティストです。そうそう、ジャーナル スタンダードの25周年のティザームービーも手掛けてくれました。バックグラウンドやミステリアスな私生活をちょっと覗かせてもらいつつ、創作活動に向かう姿勢について伺いました。毒っ気のある世界観が人気ではありますが、彼女を彼女たらしめているのは、何よりピュアな創作意欲と高度な職人気質でした。
Photo_Shiori Ikeno
Styling_Ayumi Hamamoto
Hair&Make-up_Hitomi Matsuno
Text_Shinri Kobayashi
Edit_Rytaro Miyazakiとんだ林 蘭
アーティスト
自身の作品のほか、あいみょん、木村カエラなど著名なミュージシャンのアートディレクション、企業案件なども多数抱える。25歳のときにイラストレーターを目指し、アートの世界へ。ミュージシャンの池田貴史(レキシ)が名付け親。ちなみに、渡辺直美は中学時代の同級生。
Instagram:@tondabayashiranとんだ林蘭の
プライベートを教えて!読者も気になるであろう、とんだ林さんのミステリアスなプライベートについて教えてください(笑)。好きなファッションは?
近頃は派手な服が好きで、人に二度見されるような服を着ることも多い(笑)。浮いちゃうなとか、人にどう見られるかを最近はあまり気にしていないですね。そういう意味では、以前より自由にファッションを考えられるようになってきています。
- TWEEDYカーディガン【JOURNAL STANDARD】¥22,000(税込)
- ソフトストライプフリルブラウス【JOURNAL STANDARD】¥14,300(税込)
- ウールライクストレッチワイドパンツ【JOURNAL STANDARD】¥12,100(税込)
- ARDIAN スナッフルローファー【DR.MARTENS】¥24,200(税込)
- EARRINGS ADENA ピアス【PHILIPPE AUDIBERT】¥13,200(税込)
表現としてのファッションの楽しさですよね。
思ったんですけど、忙しい時ほど、可愛い服を着てないと保てないんだなと。ファッション自体が感情と直結しているものだから、好きな服を着れば、テンションも自ずと上がりますよね。
いわゆる趣味はなんですか?
なんでしょうね......、クラブとかライブハウスはよく行く方かな。Contact、VISION、Circusとかの箱に行くことが多いけど、どっちかというとイベントで選んでいますね、誰々が出るからとか。お酒を飲んで、音楽聴いたり、カラオケしたりというのが好きですね。
街に出るのは何をしに行くことが多いですか?
友達とご飯を食べたり飲みに行くことが圧倒的に多いですね。
では、自宅ではどのように過ごしていますか?
(うさぎとハムスターに似つつも、実際はネズミの仲間である)チンチラを飼っていて、そのお世話と散歩を。起きて、ご飯食べて、チンチラの散歩をして、時間があればリングフィットをやったり(笑)。
アクティブなんですね?
いや、チンチラは部屋の中を散歩するんです。家にいるときはその子の様子ばかり見てます。
元黒ギャル、
元OLのアーティスト。では、簡単にこれまでのご経歴を伺いたいんですが、意外な経歴ということでいえば、昔はなんでも黒ギャルだったとか?
はい。高校時代は部活に入っていなくて、ギャルサーに入っていたんです。
当時から真剣に絵を描いていたんですか?
全然そんなことはなくて、授業中に漫画とか落書きを書いたりするくらいで人よりは好き、くらいでしたね。
じゃあ、親からサブカルの英才教育を受けたり?
それもないんです。父は音楽がすごい好きで詳しいは詳しいけど、子どもには教えない人でした。どうやら親の先入観を入れないように気をつけていたみたいで、これがいいとかは言われなかったですね。
小さい頃に、いわゆるポップカルチャーの中でハマったものはあるんですか?
漫画は好きでした。『りぼん』は毎月楽しみで、『ご近所物語 』『ちびまる子ちゃん』『こどものおもちゃ』とか、わたしが小学生の頃に連載していた漫画に熱中していました。
『ちゃお』ではなく『りぼん』派だったと(笑)。
はい、『なかよし』派でもなく(笑)。何か特別変わったものが好きってわけでもなかったですね。でも、怖い話が好きで、当時放映していたアニメの『トイレの花子さん』や怖い本はよく見ていました。
では、絵やイラストを描くきっかけはなんですか?
OL時代の“アフター5”ですね。当時浅草に住んでいて、移転前のショップ「THE THREE ROBBERS」によく入り浸っていて、店内でミュージシャンのライブを観ることがあったんです。ライブのリハーサル中は、音が大きくて会話できないから、ずっと絵を描いていました。もともと落書きは好きで、授業中によく描いていたので。店長さんがいいじゃんと言ってくれて、店内に貼ってくれたり。とにかく久しぶりに絵を描いたらめっちゃ楽しくて、仕事にしたいとかそういうことは何も考えずに描いてました。
では、仕事として意識するようになったのは?
「THE THREE ROBBERS」ですでに出会っていた音楽関係者に、イラストレーターになったら? と言われて、そこからですね。
とはいえ、すぐに仕事になるわけでもないですよね。
そうです、どうやったら仕事をもらえるのかもわからず。「THE THREE ROBBERS」には小説家や音楽家などアーティスト活動をしている人も多かったけど、そういう人たちの話を聞いても次元が違うから、自分にどう活かしていいのかもわからない。でも、描いていればどうにかなりそうという楽観的な気持ちもあったし、自分の作風も確立してなかったから、とりあえず量はたくさん描こうと。
どれくらいのペースで?
当時はほぼ毎日。でも、わたしは一枚に時間をかける作風じゃないから、当時始めたコラージュも含めてすぐ作れる作品をいっぱい作って、その頃に始めたInstagramに載せてました。
SNSでの反応はどうでした?
それが全然なくて……。「THE THREE ROBBERS」で個展を開いたんですけど、お店のお客さんか友達くらいしか見てくれる人がいなかったから広がらず。でも木村カエラさんのプロデュースをされていた方がライブのフライヤーの依頼をくれたり、会社の年賀状をオーダーしてくれたりして、それを見たミュージシャン関係の人が連絡をくれるようになりました。SNSというより、その人の仕事を通じて見てくれる人が増えた感じですね。
厳しい言い方をすると、個展は成功したとは言えないわけですよね。その挫折で絵はもういいや、にはならなかったのはどうしてですか?
イラストレーターになりたい、イラストで食べていければいいなという思いは漠然とはあったけど、とにかく描きたくて、描くことが一番の目的だったから。色々なものを作りたい、作れるようになりたいという思いでやってましたが、それはいまと変わっていないところですね。
なま肉が美しい!
とんだ林さんの作風の一つ、コラージュを始めたのは?
知り合いの美容院が移転するタイミングで、廃棄する雑誌を大量にもらったことがきっかけで始めました。絵を描き始めて、一年経ってないくらいの頃でした。
- ダブルフロントジャケット【JOURNAL STANDARD】¥19,800(税込)
- オリジナルシルクスカーフ【JOURNAL STANDARD】¥9,900(税込)
- クラシックプリントPT【JOURNAL STANDARD】¥17,600(税込)
- ヒールブーティー【FABIO RUSCONI】¥39,600(税込)
- TERRAZZO SMALL PIERCE ピアス【Soierie】¥15,400(税込)
- NECKLACE KRISTEN MIX ネックレス【PHILIPPE AUDIBERT】¥17,600(税込)
誰か影響を受けた人はいるんですか?
(チェコのアーティスト、アニメーション作家)ヤン・シュヴァンクマイエルの短編動画を観て、こういうのいいなって。自分が描く絵は、タッチ的に限界がある気がしていて、そこに制約されない世界を作ってみたいという想いが、コラージュを作るきっかけでした。
とんだ林さんの作品でなま肉がモチーフとしてよく出てきます。以前、どこかで発言されていますが、なま肉を美しいと思ったから使ったと。その感覚ってすごいですよね。食材として見慣れているものだからこそ、先入観なしで見るのって難しいことじゃないですか。
先ほど言ったヤン・シュヴァンクマイエルの動画にもなま肉が出てくるし、全然変わったことだとは思ってなかったですね。初期は、クライアントワークで肉を使ったら、肉はNGなので変えてくださいと言われて、そこで初めてお肉を使うのはあまり普通じゃないってことに気づきました。
独学でやられてきて、業界の色に染まってないからこその発想なのかもしれませんね。広告含めたクライアントワークから、作品づくりなどのプライベートワークまで幅広いですが、それぞれの差は意識されますか?
けっこうありますね。まずは、できることが圧倒的に違います。クライアントワークだと予算もあるので、美術を作ったりとできることが増える。逆に、もちろん制限もあるんですけど。あとはチームでやると、一人で作るよりも作りたいものを作れます。
チームでやることは苦ではないタイプですか? 例えばコミュニケーションとか。
緊張する場面もありますが、基本的にはコミュニケーションを取ることは、苦ではないし、むしろ楽しい。いまではチームのスタッフ選びも担当することが多いんですが、最初は知り合いも全然いないなかで、ビデオグラファーさんやスタイリストさんなどスタッフを自分で選ぶことの意味をよくわかっていなかったですね(苦笑)。知り合いがやっているから頼んでみようというレベルで、それぞれの作風をちゃんと理解して頼めていませんでした。
チームとして仕事にあたる時の魅力はなんですか?
ラフをどう実現していくかをみんなで考えていくのが楽しい。わたしのラフはファンタジーが多いので、まずどう撮るのかを考えたり。自分の作品といえばそうだけど、みんなの作品という意識でアイデアや意見をくれるスタッフが多いので、その想像を超えたものができたりするのがいいですね。
映像を始めるきっかけは?
コラージュを作っているときに、人に動かし方を教えてもらって、コラージュの延長戦として始めました。動画ディレクションを始めたのは、あいみょんのティザー映像がきっかけです。ジャケットのアートディレクションの延長で映像も一緒に頼まれたんですよね。
ジャーナル スタンダード
25周年の
ティーザー映像のこと。とんだ林さんには、ジャーナル スタンダード25周年のティーザー映像もディレクションしてもらいました。
チームのスタッフ選びも担当しました。この時は、なんでレストランにしたんだったかな(笑)?
(横にいたティザー映像担当スタッフが答える)怪しい、プラス祝す感じを演出したいという、とんだ林さんからのご提案でした。実際の撮影地も、とんだ林さんの知り合いのお店でした。
どんなディレクションをされてんでしょうか?
カメラを自分で扱える監督じゃないから、カメラワークの知識が足りていないので、勉強中なんです。このときもビデオグラファーさんに教えてもらいつつ、相談しつつ、アイデアをもらって助けられながら、撮ったものですね。やはり、スタッフィングが重要だなと思いました。
ティーザー映像の担当スタッフから、とんだ林さんは、やり取りの中ですごく作品自体をどうよくするか、できるかということに注力される方だと伺ってます。どう宣伝するか、広げるかではなく、作品そのものと向き合うことはどう意識していますか?
毎回ベストを尽くす、と言ってしまうとありふれていますけど、アートディレクションの仕事を通じて知り合う、広告業界のフォトグラファーさんやレタッチャーさんはここまで詰めるんだ! と驚くことが多い。わたし一人で作る作品は、粗さや計算されていないからこそいいと言われていたんですが、そういう緻密な世界に触れてみると、かっこいいなと。雑か緻密か、どちらでいくかはテーマによりますけど、とりあえず選択肢がたくさんあると、テーマに合わせて提案できます。
作品によって作り分ける、職人タイプというのはやや意外でした。
たとえば、自分の色が出ている作品じゃなくてもいいんです。クレジット見て、あ、やってたんだねっていうくらいでも嫌じゃない、というかむしろやってみたいですね。
動画制作はしばらく続きそうですね。
動画はやっていて、楽しいし、コントロールできないところがあるから面白い。写真はレタッチャーさんの力でどんな絵でも極論作れてしまうけど、動画はそうはいかない。将来的には、セットから作るところから動画をやってみたいです。
とんだ林 蘭の定番品
Miller Harrisの香水「Rose Silence」
ここ2年くらい、何度も買い直して使っているお気に入りの香水です。重いのがあまり好きじゃなくて、これはあっさりとした軽めの香り。チンチラは鼻が効くので、外に行くときに付けます。
サングラス各種
CELINE、CHANELから、1000円くらいのものまで、服によって使い分けています。カラーレンズではなく、サングラスは目が隠れる黒がいいですね。かけると変身する感覚があります。自分は変身願望が強くて、とんだ林蘭という名前をもらったときも、自分じゃない人になった気がしました。名前を変えるのは一番の変身方法ですね。
MAYBELLINEのリップ
「SUPER STAY MATTE INK」色々と試したんですが、このシリーズのリップは本当に落ちないんです。落ちなすぎて、最近はこのリップしか使ってないくらい。使うなかで、自分は落ちないことの優先順位が高いことに気づいたんですよね。色々な色を買って、TPOで使い分けています。