Talk to standard.
vol.3
JQ(Nulbarich)
気になるあの人はどんなことを大切にして日々を過ごしているのだろう。“その人の軸=スタンダード”にぜひ迫ってみたい。仕事や生き方、好きなものや定番品から垣間見える、その人だけのマイスタンダード。第3回目のゲストは、変幻自在の音楽性に、ファッショニスタ顔負けの洒落っ気でますます輝きを増すNulbarichのキーマン、JQさん。その根幹にあるものとは。
Photo_Yuko Yasukawa
Hair&Make-up_Hitomi Fujimatsu
Text_Rui Konno
Edit_Ryotaro MiyazakiJQ(Nulbarich)
シンガーソングライター
幼少期から音楽に触れて育ち、スケートボードに明け暮れた10代を経て、プロデューサーや作家など、裏方として音楽活動を開始。その後、2016年に自身が発起人となり、ブラックミュージックという共通言語を持つ不特定メンバーで構成されるバンド、Nulbarichを結成する。各地のフェスに参加し、精力的なライブを行いながらこれまでに4枚のスタジオアルバムを発表している。コロナ禍移行はライブ自粛を余儀なくされていたが、昨年6月には1年半ぶりのワンマンライブを東京ガーデンシアターで開催。今年3月にはライブ映像集と新曲4曲が入ったEPから成る新作『HANGOUT』をリリースした。現在はLA在住。
Instagram:@mrjeremyquartus、@nulbarich_official変わった時代と、ファッション観
JQさんは以前からファッション好きを公言されていますが、いまのご自身にとって一番スタンダードな服やスタイルはどんなものですか?
最近スウェットが多いですね。アクセントを入れれば外に出られるような状態で家にいる、みたいなことが多くなってきました。やっぱりLos Angeles Apparelの本数が多いです。そこに時計だけつけて...とか、アクセサリーでパールをつけていく、とか。 めちゃめちゃ楽な格好をどう締めるか、どうしたらパジャマに見えないかっていうのが割と基準になってきてますね。
こういう世相になる前の方が日毎の服装の変化は大きかったんでしょうか?
そうですね。生活にもメリハリがあったんで。今日は誰々と会う日だとかっていう風に。やっぱり“人と会う”っていうのがデカかったのかな。友達に会いに行くのも前の1/10ぐらいになっちゃった感じなんで、その分、服のバリエーションが要らなくなっちゃったというか。ただ、制約がなくなった分、逆に着こなすのは難しくなったイメージがありますけど。
TPO にあえて背いて個性を主張したい、みたいな感覚はもともとなかったんですか?
そうですね。結局ただの場違いになっちゃうよなと思っちゃって。音楽が出来上がるタイミングもそうですけど、自分でその瞬間に「めっちゃイイじゃん!」と思ってるかどうかが結構大事なんです。後は、オモロいかオモロくないか。そのふたつが生きてく上でも判断基準になってるというか。それこそみんながスーツで行ってるところに、ひとりだけ革ジャンで行くことが格好いいと本気で自分が思っていれば多分そうするんでしょうけどね。ファッションもそうですけど、その時々で世の中が向いてるムードとかっていうのは必ずあるじゃないですか。少なからずそこに影響されてずっとこれまで来てるので。
じゃあ、食わず嫌いは少ない方ですか?
食ってから判断っていう感じです(笑)。 特にストリート系に関しては。どこまでがストリートかっていうのは難しいけど、なんとなく長年東京カルチャーというか、ストリートカルチャーに触れてきた人たちが抱いているストリート感みたいなものについては意識的にそうしてます。
路上で自然発生したようなファッションやスタイルはそれ自体も雑食性が強いですもんね。
そうですね。それって日本のシティポップと通ずるものがある気がしてます。作った側や聴いてる側が決めたものじゃなくて、レコード会社なんかが街のポップ、おしゃれポップみたいに発信したらそれがなんとなく根付いたものだと思うんです。ヒップホップとかロックはもっと宗教というか、文化なので。そういうジャンルとは違って自然に派生してなんとなく出来上がっていったのがファッションのストリートに近い気がします。
なるほど。JQさんの音楽やファッションにもそうした雑食性は感じます。DJ的視点と言うか。
そうかもしれないですね。どうしても混ぜたくなるんですよ。“好きな人たちが作る洋服を自分らしく着る”っていうフィルターがあるんで。音楽もメンバーの意見だったり、いま流行ってる音楽だったりを、自分のフィルターを通してやるならどうやるか、みたいに考えて作ってる気がします。
ライブが自身にもたらすもの
ミュージシャンの中には私服でそのままステージに上がる美学みたいなものもあると思いますが、JQさんは私服とライブ衣装のバランスはどんなふうにお考えですか?
どうだろうな。ツアーとかで(スタイリストの高橋)ラムダさんのところに洋服を合わせに行くと、自分の波長の再確認ができるんですよ。「いまってこういうモードだよね」って。洋服を持ってきてもらって「あ、これこれ!」とかってなるんです。それで自分の中で整って、派生したものが私服になっていくような。
一番最初の実験場所なんですね。
そうですね。それが衣装になってるかも知れません。これはぼくの持論なんですけど、ステージでは、ある程度いい意味で洋服に着られてないとダメなんです。それこそランウェイを歩くモデルさんって洋服を見せるじゃないですか? だから、着こなし過ぎちゃうとダメなんですよ。あれは着せられてる感じがあるのに、それでも格好いいから良いと思っていて。ちゃんと洋服に目がいくような着こなしで、かつ本人がダサくないっていうことだと思うので。
その結果で公私が繋がるんですね。
ラムダさんも毎回「いまのJQにこのモードを入れたらおもしろそうだけどどう?」みたいに提案してくれるんです。「その発想はなかったけど、トライしてみましょうか」、って鏡の前で合わせてみたら、「あ、アリだな」って。そうやった新しいJQを探しに行くみたいなところがあります。
JQさんがコロナ禍でもワンマンをやられたのは、やっぱりご自身にとって必要なことだっていう感覚があったんでしょうか?
はい。ライブは圧倒的に答え合わせみたいな感覚があるんです。音源を出して、例えばそれがすごく売れていたとしても、直接みんなの前で歌った時にどういう反応があるのか、どういう曲が待たれてるのか、いまの俺らはイケてるのかとか、そういうのはやっぱり直接会って話すことはできないから。ハート・トゥ・ハートでそれが訊けるのはライブしかないから。
いまもまだ不自由は多いと思いますが、 ライブが一切できないと公私に狂いが出てきそうですね。
多分、出てたんだと思うんですよ。一時期は曲を作る気もなくなっちゃってたし。「作って、それからどうすんの?」みたいな。俺たちは死ぬほどフェスに出て、ライブを演ってっていうのをデビューしてからずっと続けて来たから。それがポカンとなくなった時、何のために曲を作っていいかがわからなくなっちゃったんです。
ご自身の音楽に対する熱とか興味が変わったわけではなかったんですか?
もちろん、その時々で自分がハマってる音楽とかっていうのは常にあるんですけど、自分が作る曲に関しては仕事だと思ったこともないし、興味があるからやってるっていう感覚もないんですよね。4歳からピアノを始めて、吹奏楽部に入ってバンドやって。曲作ってプロデュースして、って途切れることなくプレイしてるんで。思ったことを現場に当てるとか、思ったことを声にするとかっていうことを日記を書くみたいにやってきたんで。
先日リリースされたEP、『HANGOUT』は楽曲も MVの世界観もポジティブな印象が強かったです。フラストレーションが多かったであろう時間を長く経て、ああいうものができたのはなぜだったんですか?
まず、単純にツアーができるっていう喜びがあったので。『It's All For Us』はツアーができるって決まった時、“みんなに会える”と思って、その喜びを形にしようと思ってできた曲なんです。ぼく自身一年半ぐらいライブをできない状態にいたんで、単純にテンションが上がってできた曲。でも、ずっとポジティブだったわけじゃなくて。「やっと会えたね」っていう自分なりの答えです。
気づかされた“当たり前”の価値
コロナ禍以降、ご自身の音楽や活動に対するリアクションで印象的だったものはありますか?
コロナ禍が始まって初の有観客ワンマンで、ステージに立った時の拍手ですね。「うわぁ、人間がいる……!」みたいなあの感じは、本当にどう表現していいのかわからない。何に近いんだろう。……久々に母ちゃんの手を握った時みたいな。「あれ? こんな感じだったんだな」って。
当たり前を再認識する機会としては……。
本当に大きかったです。元々ぼくらはライブアーティストで、それこそ配信とかでバズを目指して演ってきた人間じゃないから、どうしてもライブを演らずに終われないんです。楽曲を作ってみんなの前で表現して、ツアーをやってっていうサイクルをどうしても作りたかったし、それが昔から一個の夢だったんで。
最後に今後の事……ここではあえて“ご自身の新たなスタンダード”としますけど、その辺りについても教えていただけますか。
活動の幅は広めていきたいとずっと思ってます。内容の濃さもそうですね。去年よりも今年、今年よりも来年みたいにアップデートし続けて、同じことを繰り返さないようにしようと思って生きてるので。最近はプロデュースもフレキシブルにやり始めて、今回のEPのリミックスで、仲間内で新たにプロデュースユニットみたいなものを作ったので、これからやろうとしてるそういうことが早く自分のルーティンになってくれたらな、って。コロナの収束はまだ先かも知れないけど、いまのモードでいられれば、この先もポジティブに行けるかなって思ってます。
JQの定番品
愛用しているアイウェア
そもそも目は良いんですけど、ファッションが好きで本当に小僧の時から違和感なくメガネをかけてました。お洒落をしたい時にはサングラス、みたいな。それがあって、いまでは単純に人前に出る時には目元に何かあった方が安心するようになりました。「JQのイラスト、描いて」って言われたら、多分メガネとヒゲを描く人が多いと思います。と、いうことは多分、ぼくの本体はメガネとヒゲなんでしょうね(笑)。これは2本ともモスコットのものです。
USBプロテクションキー
iLok(アイロック)という、パソコンの中に入ってる音楽ソフトを立ち上げるのに必要なオーソライズキーです。これ自体に音楽データが入ってるわけではないんですが、これがないとぼくはそもそもミュージシャンになれない。すごく大切なものなので肌身離さず持ち歩いています。これを失くすと一大事です。家の鍵がなくなるより嫌ですね(笑)。JQというアーティストを作ってるのはメガネで、JQの音楽を作るにはiLokが必要なんで、この二つが無いとぼくはJQになれません。