Talk to standard.
vol.13
水原希子
気になるあの人はどんなことを大切にして日々を過ごしているのだろう。“その人の軸=スタンダード”にぜひ迫ってみたい。仕事や生き方、好きなものや定番品から垣間見える、その人だけのマイスタンダード。第13回目のゲストは、モデルや女優、デザイナーというさまざまな顔をお茶の間に披露してくれると同時に、Instagramのフォロワー・716万人(2022年11月時点)という大きな影響力をもつ、水原希子さん。一方的に陽気なキャラクターというイメージを持っていましたが、真摯かつ聡明にインタビューに答えてくれるその姿勢には、紆余曲折を経た芯の強さを感じずにいられません。
Photo_Monika Mogi
Styling_Masako Ogura
Hair&Make-up_Haruka Tazaki
Text_Shinri Kobayashi
Edit_Ryotaro Miyazaki水原希子
女優、モデル、デザイナー
『ノルウェイの森』でスクリーンデビュー。モデルとしても数々のブランドのモデルやアンバサダーを務める。自身のブランド〈OK〉はOffice Kikoの略で、2017年に水原希子が立ち上げたブランドでありクリエイティブスペースである。日本語、英語、韓国語を話すトライリンガルであり、ソーシャルメディアのなかでも圧倒的な人気を誇る。個人事務所である株式会社KIKOに所属。
Instagram:@i_am_kikoまずはポリティカルな姿勢について。
Amazon Prime Videoで自ら企画・出演・監修している「キコキカク」で拝見する姿からは、本当にご自身が楽しまれているんだなと感じます。
そうですね。楽しむことの他に「キコキカク」の大きなテーマは、偏見をなくすことなんです。そんなにシリアスな物事でなくても、例えばわたしの周りで虫が怖いという子がいて、でも違う観点から見ると虫は妖精みたいなもので(笑)、全然怖くないという捉え方も出来るんです。あとは、SM嬢の方にも番組にゲスト出演して頂いたのですが、縛りという文化については官能的なイメージがあって、なかなか馴染みが薄いと思っている方は多いと思います。ただ、メディテーションのような要素もあると思っている方もいるようで、ある種の精神統一をしなくてはいけないため、自分と向き合う事になるという考え方なのかなと。あの番組からわたし自身もたくさん学ぶ事があったんです。
- マンテコ ハンドトゥース コート【JOURNAL STANDARD】¥51,700(税込)
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それを自身を通してちゃんと体験しているというのも素敵な姿勢ですよね。
観てくださる方も「なんだ、そういうことだったんだ」となってくれたり、ちょっとでもその人の世界や知識が広がるきっかけになってくれたらいいなと思いました。番組としては、アニメーションや ファッション、カルチャー、学習要素など、全部が好きなので各ジャンルをミックスしつつ、飽きさせないようにということを工夫して企画を組みました。気軽に、でもちょっとでも価値観や視野が広がるといいなという想いで作った番組なんです。
楽しさを入り口にしつつ、奥には啓蒙される要素もあるということですよね。希子さんの発言には、そういうポリティカルな発言なども散見されます。たとえば映画業界の性被害の告発とかも勇気がいる行動だと思います。
わたし自身アクティビストではないので、自分が経験したことをあくまでパーソナルな事柄についてだけ発言するようにしています。告発するという行為は想像以上に苦しいことでした。発言をしたことでポジィティブな意見もネガティブな意見もダイレクトにわたしへ届きます。それをすべて受け止めるということは本当にエネルギーを消費する体験でしたね。今回の発言をした事で結果としてインティマシーコーディネーターという職業も認知されるようになり、業界内で変化を起こせた事はとても実りのある事だと思いました。今後同じ業界に入ってくる若い世代の子達がより良い環境で活動ができる事が出来たらといいなと。
環境問題に関しても積極的に発言されています。
環境問題に関しては積極的に発言はしていなく、どちらかというと自分も出来るだけ関わるようにしなくちゃと色々学んでいる最中です。自分がファッション業界にいて、どこかしらで加担してきたんだろうなと思うこともあります。ファッションという文化が本当に好きで、未来のアップデートされたファッションを個人的にも見てみたいと思っているんです。ストレスを溜めない、プレッシャーを感じない、自分にできる範囲なことからやる。 まずは知るということが大事だなと感じてます。幸いにもたくさんの方々にInstagramを見て頂いてるので、自分にできる役割はみんなに少しずつ得た知識を知って貰えるように伝えていくことなのかなと感じています。
順風満帆ではない、希子の人生。
偏見をなくすというテーマについては、希子さん自身がハーフ(=ミックスルーツ)ということも関係しているんですか?
小さい頃からハーフでいることを、コンプレックスとして悩んできました。父はブロンドのブルーアイズで、わたしの名字もカタカナだったので若い時から茶化される事もたくさんあって。周りはそんなつもりがなくても、自分だけが違う、目立つ存在というのは意識していたので、どこか 一線引かれている感覚は子どもながらに感じていました。振り返ると、ただ自分が過敏になっていただけかもしれないと思うこともありますが。
神戸から、モデルになろうと上京したんですか?
そんなことは全くなくて、買った雑誌にオーディションの告知が載っていて、母に受けてみる? と勧められるがまま、という感じで受けてみたら受かったんです。週末だけ上京してお仕事をしていましたが、まだ子どもだったのでプ ロになろうということまではまだ考えていなかったので、他のモデルのみんなと違って事務所にも入ってなく、ポーズもどうやって取っていいかわからないような感じだったので、いま考えると未熟でした。その後、少し問題を起こしてしまい、そのファッション誌のモデルは解雇になってしまったんです。 それが最初の挫折です。
そんなエピソードがあったとは驚きです。
地元の神戸に帰ったのですが、物足りなかったんですよね。東京での経験がすごく刺激的で楽しかったので、やっぱりモデルをちゃんとやりたいと思って、再度チャレンジしました。当時の事務所にはとてもよく面倒を見ていただきました。その後雑誌の『ViVi』に出して頂けるようになったんです。16、17歳の頃ですね。
意識も前と変わって?
東京に出てきて、意識もすごく変わりました。『ViVi』は人気雑誌で、モデルがみんなハーフばかりでした。ハーフのモデルが活躍しているという事実自体が、わたしにとってはすごい勇気づけられる現象だったんですよね。その雑誌に出られるということは、すごく嬉しいことで、周りのモデルにもすごく刺激を受けて、ポージングの勉強とか、ガムシャラにがんばりました。
大きく羽化したタイミングだったんですね。
それから、モデルをちゃんとはじめてみると、ファッションはパリやロンドンなどヨーロッパが 本場ということを知り、それから憧れを持つようになって、パリにモデルとして売り込みに行ってみたんです。いい出会いもたくさんあったんですが、第一条件として、パリに住まないとダメだと。でも、お金もないし、どうしようと思い、ひとまず一旦帰国しようと帰ってきた時に、映画『ノルウェイの森』のオーディションの話が舞い込んで来たんです。
『ノルウェイの森』の映画化も含めて、センセーショナルな話題でしたね。
監督は、すでに演技経験のある女優さんを100人ぐらいオーディションされていたようなのですが、雰囲気としてその役・緑に合う子がいないと。監督に会ってみたら、わたしの雰囲気が緑に似ているからということで、数回オーディションを受けたのですが、セリフも噛んじゃって、自分でもわかるくらい全然自信がなかったのですが、結果的に抜擢していただきました。わたし自身モデルをやりたいとしかまだ思っていなかったので受かったと聞いたときは、やった! と思ったんですが、1秒後には、どうしよう? みたいな感じになりました。でも、そこから一気に世界が広がりました。
そこを境に、お茶の間が“水原希子”さんの存在を知ったわけですね。
テレビやCMなど、いろいろなところからオファーをいただいて、いわゆるメジャーな存在になっていった感覚はあります。でも、わたしはずっと芸術写真やアート、クラブカルチャーがすごく好きで、自分がメジャーに行っていいのかという気持ちもありました。お芝居に対して自信もなかったので、気持ちが追いつかなくて、ちょっと苦しかった時期もありました。 日本社会における若い女性への圧力をなんとなく感じたり、SNSで自由に発信していたら、それが勝手に1人歩きしてしまったこともありました。
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急激な変化に、パブリックとプライベートな自分のギャップができちゃったんですね。どうやってそのモヤモヤは解消したんですか?
旅ですね。旅先で、そのモヤモヤがパンっと解消されたんですよね。仕事でもプライベートでも、海外に行くと自分の視野が広がって、なんだか自由になれた感じがしました。写真芸術の世界では、ずっと憧れた海外の方、たとえばニック・ナイトと仕事をする機会に恵まれたり、そういうこともすごく大きかったです。あとは、20代前半でアラーキーさん(=写真家の荒木経惟さん)とお仕事をして、その影響もとても大きかったです。
どんなことがあったんですか?
それまでにも何度もお仕事をしていて、そのときにアラーキーさんが写真展をやっているからおいでよと誘ってくださいました。その当時、テレビドラマのオファーを頂いたのですが、出演することが想像できずに、すごく悩んでいたんです。写真芸術の世界がすごく好きな自分がテレビドラマに出 てもいいのか、うまくできるのかなって。アラーキーさんに相談をしたら、「希子ちゃんは、芸能半分、芸術半分ができる子だから、どっちもやればいいんだよ」と言ってくれて。
どんな風にその言葉を受け取ったんですか?
すごくシンプルな答えなんですけど、その当時どっちもやっている人はおそらくまだいなくて。例えば女優の方は、モデルから女優へ行くときには、モデルを完全にやめていくという形だったんですが、わたしは1個のキャリアに集中したくなくて、どちらか一つに絞れないなと。いろいろやりたい好奇心があって、女優の仕事がうまくいったとしても、写真やファッション、音楽とかカルチャーも全部好きなので、すべてに関わっていたいという気持ちがあったんです。
それが「キコキカク」で爆発している気がしますね(笑)。いまは個人事務所も立ち上げて、ご自身で仕事をジャッジすることもあるかと思います。
事務所を立ち上げたばかりのときは、お仕事のオファー一つひとつが嬉しくて、全部に対して、やりますと答えていたんです。それ自体はすごくいい経験だったんですが、コロナになって、自分の限りある時間のなかで、本当にやりたいことはなんだろうと自問自答しました。結果、仕事でもプライベートでも、とにかく自分がやりたいか、やりたくないかだけで判断しようと。どれだけ有意義な時間を過ごせるか、ちゃんとすべてを選択していこうと。だから一つひとつに対して、しっかり見て吟味するようになりました。あと、ちゃんと選ぼうとすると、自分のやりたいことが明確になってきます。もちろん、結果として間違っていたかもと後悔することもあるけど、この状態は、すごく幸せなんです。
強烈に好きなファッションについて。
ファッションについてですが、〈OK〉というブランドを立ち上げたきっかけはなんですか?
わたしがモデルとして仕事のオファーを受けると、そのクライアントが求めることを表現しなきゃいけません。でも、わたしはわたしでこう表現したいというクリエイティビティみたいなものがあって、表現する場所を作りたいなというのが、きっかけです。だから、ブランドというよりは、自分を表現できる場所であり、同じような考えを持ったアーティストたちとコラボできる場所という感覚です。
ギャルからの影響が大きいと聞いています。
“ギャルマインド”ですね。いまの女の子たちにコギャルのようなことを真似してほしいわけではなくて、ギャルのマインドを蘇らせたいんです。
“ギャルマインド”というのは?
何歳になっても、自分を表現し続けるというその心ですね。ギャルってすごいピュアなんですよ。パラパラも超ピュア! ギャルはイメージが悪いというひともいるけど、パラパラの DVDを見て、一生懸命覚えて、次のパーティーまでに習得してみんなの前で踊る。 これってめちゃくちゃ真面目な行為じゃないですか。わたしが好きな雑誌『CUTiE』に出ている子たちもいったら、同じですよね。
なるほど。
だって、スナップに載りたいから、超頑張っておしゃれして、メイクしたり、いろいろと勉強するんです。そういうクリエイティビティに対して貪欲なのがすごいところで。ガングロもコギャルも『CUTiE』の子たちも含めたギャルは、“モテ”を一切気にしてない。そこがすごく大きいと思っていて、自分たちを楽しむということにも命をかけている。男性にどうこうじゃなくて、自分たちが楽しければ、それが最高という。そのギャルのパンクのメンタリティが超大 事だなと。男性にも、世の中にも媚びない、そのメンタリティ。それは何歳になっても持っていていいと思うんです。
そのメンタリティの表現方法がファッションというのが、おもしろいですね。ファッションのパワーを信じているから、というか…。
ファッションは鎧みたいなもので、違う自分を見せてくれたり、自分に自信を与えてくれるパワーがあるなと。本当は自分に自信がなくても、メイクや服を変えただけでまったくちがう人格が出てくることもあるので、違う自分を見せてくれる。自信を持ってといわれても難しい部分もあっ て、でも今日は可愛いバッグを持っているから、ちょっと自信つけよう、という外見をきっかけにして自信をつけられることもあるんですよね。
形から入ることも、たしかに大切です。
いままでスカートが恥ずかしくて穿けないと思っていたけど、いざ穿いてみたら、意外とこういう気持ちになるんだ、とか新しい自分を発見したり。そのきっかけを与えてくれるのが、 ファッションだと思います。あとはファンタジー。リアルファッションという面もあるけど、わたしが好きなジョン・ガリアーノの昔のコレクションで、アジアのカルチャーから影響を受けた 素晴らしいオートクチュールがあるんです。日本のギャル文化や、モンゴル、中国の民族衣装を取り入れていて、いまの世の中だと、もしかしたら文化の盗用と言われてしまうのかもしれないけど、デザイナーのなかではファッションを通じて、世界旅行をしているような、 ファンタジーとしての表現なんです。実際に文化の盗作もあるから、一般論として語ること はできないかもしれないけど、ポリティカルに縛られて、文化的な交流をせずに終わっちゃ うのももったいないという気持ちもあります。例えばシルクロードを通じて、さまざまな文化が交流・交配して、いろいろな文化が生まれてきたように。
たしかにそうですね。
ファッションは一種のファンタジーという顔もあるし、新しい自分を見せてくれたり、夢を見させてくれるようなものだとも思うんです。 だから、アートフォームとして、ファッションはおもしろいんですよね。
水原希子の定番品
Miu Miuのバッグ
ちょっと流行っていますが、90年代のバックをコレクションしています。なかでも、当時のMiu Miuがすごく好き。クラシックなレザーに対して、スポーティな素材を掛け合わせるというこの感じがすごく洗練されているなと。
創刊〜00年代初頭の雑誌「CUTiE」
自分がずっと惹かれてきた、日本のギャルカルチャー、ガールズパンクカルチャーが表現されている雑誌だと思います。カリスマモデルがいなくて、紙面に出ている一般の子たちがみんなイケていて、みんながスターという感じで、90年代のその感覚がすごい好き。
ノーブランドのシェルネックレス
シェル(貝)自体がすごい好きで、お気に入りのネックレスです。貝は柄も断面もおもしろいんですけど、不思議で美しいなと。これはスペインの蚤の市で買ったノーブランドのものですが、特別なものとして身につけています。