プロトレイルランナー宮﨑喜美乃さん「女性とスポーツの心地よい関係」
プロトレイルランナー 宮﨑喜美乃さん。生理に下着…どうしてる?「女性とスポーツの心地よい関係」
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林道や山道など自然の中を走るスポーツ、トレイルランニング。アウトドアブームの中で、女性や若い世代にも人気が広がっています。
今回お話をお伺いするのは、プロトレイルランナーの宮﨑喜美乃さん。小学生から走り始め、高校・大学では駅伝部に所属。現在は低酸素トレーナーとして山の仕事に携わりつつ、国内外のレースで活躍するトップランナーです。
ところで女性アスリートは、毎月の生理や体の変化とどのように付き合っているのでしょう? 宮﨑さんはというと、実は高校生時代は生理が止まっており、大学では生理不順や生理痛に悩まされました。また、プロになってからも大切なレースに生理2日目が被り、リタイアをしたことがあるのだとか。そんな自身の苦い経験から、自分の生理や体の状態にしっかりと目を向けるようになったという宮﨑さん。気になる生理事情や、下着の問題、実践しているケアについてなど、女性が心地よくスポーツを楽しむために知っておきたいことを伺いました。
▶︎ 自分の強みや経験フル活用できるのが、トレイルランニング
―― 小学生の頃から走るのが好きで、高校時代は全国駅伝にも出場されていたという宮﨑さんですが、トレイルランニングを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
小学4年生から陸上を始めて、高校は、駅伝の名門校に入学しました。でも、徐々に自分の限界を感じるようになってしまって。大学でも陸上は続けたものの、もう以前のようなモチベーションはありませんでした。そんななか出会ったのが、登山の研究です。実際に山を登りながら登山者に役立つ体の使い方やトレーニング法を考案するうちに、山の魅力にハマっていきました。
大学院卒業後は縁あって、冒険家・登山家として知られる三浦雄一郎さんの会社「ミウラ・ドルフィンズ」に、低酸素トレーナーとして所属することに。この会社のスタッフは、みんなスポーツ界で知られるすごい人たちばかりで。私も何か強みがほしいと、ランナー経験を活かして「100kmマラソン」に挑戦することにしたんです。4位でゴールしたところ、トレイルランニングの大会にも誘われ、チャレンジしてみることにしました。
:フランス・イタリア・スイスにまたがる170kmのトレイルレースUTMB Mont-Blanc(Photo by ranyo tanaka)
:タイの最高峰ドイ・インタノンを通る172kmのトレイルレースThailand by UTMB(Photo by ranyo tanaka)
―― その後、次々に大会で好成績を収め、プロとして活躍するようになったのですね。宮﨑さんにとって“山を走る魅力”とは、どんなことでしょうか?
初めて山を走ったときは、思い通りに体が動かず、戸惑いました。舗装された道を走るランニングは、慣れれば何も考えなくともピッチや歩幅を一定に走ることができます。ところが、山道を走るトレイルランニングは、常に足元の状況が変わり続けるため、ステップのリズムはバラバラ。常に足の置き場や体の使い方を考えなくてはいけません。
どうすれば上手く走れるのか悩む私に、ある先輩が教えてくれたのは、「山は自分を中心にしたらいけない」ということ。そこで自分本位な走りをやめ、自然に身を任せてみたところ、山を走るのが一気に楽しくなりました。しかも、トレイルランニングは、これまでのランナーとしての経験と、大学で学んだ登山の知識、その両方を生かすことができる。私にとって、トレイルランニングは、自分の強みを全て生かせるスポーツだったんです。
▶︎ 「生理が止まって一人前のアスリート」だと信じていた高校生時代
―― スポーツをする女性にとって、生理はパフォーマンスを左右するものだと思うのですが、宮﨑さんはこれまでどのように向き合ってきたのでしょうか。
実は、駅伝部に所属していた高校生時代、私は生理が来ていませんでした。「トレーニングをちゃんとしていたら生理は来ない」ものだと勘違いしており、生理が止まってこそ一人前のアスリートなのだと信じていました。
当時は、チームメイトと寮生活を送っていたのですが、毎朝体重計にのるのが日課でした。そこで、昨日より0.1kgでも増えていたらトレーニングの後に痩せるための運動時間を確保して体重コントロールをしていました。食べたい盛りにもかかわらず、食堂で出されるご飯はお寿司一貫程度の量しか口にしませんでした。当然体重は落ちていきますが、体が軽くなるほど速く走れるようになる。そのうちエースと呼ばれるようにもなり、とにかく走ることが中心だった私は、そんな生活を苦にも疑問にも感じていませんでした。
―― 生理が来るようになってからは、どのように過ごしていたのでしょうか?
大学に入ってからは体重が増えたこともあって、生理は再開したものの、2、3ヶ月にあるかないかという不順な状況でした。生理痛やPMSも強く、これは、高校生時代に無理をした“ツケ”なんだと言い聞かせていました。当時は、友人や先生に生理について話すこともありませんでしたし、病院にかかるという発想もありませんでした。婦人科というと「赤ちゃんを産む女性がいくところ」というイメージが強く、生理不順や生理痛は生理が来たら当たり前のことで、病院で診てもらえるなどと、思っていなかったんです。
あるとき、大事なトレーニングが生理の2日目にあたってしまったことがあって。経血量が多いので、普段使わないような分厚いスパッツを履いたり、トイレに行く時間もないだろうからと夜用のナプキンをしたりして臨んだのですが、これが良くなかった。スパッツのせいで脚の可動域は悪く、体もつらい。それなのに無理をしたせいで、トレーニング後は股関節がまったく動かなくなってしまいました。当時はまだ、自分にとってベストな対処法がわからなかったんです。
▶ ︎強くなりたいから、自分の体とちゃんと向き合う
プロになってからも、大本命のレースと生理が被ってしまったことがありました。体は重く、腰が張って、お腹にも力が入らない。そのせいもあってか転倒してしまい、途中でリタイアをすることに。本当に悔しかったですね。このとき、強くなりたいなら、いままで放置していた自分の体や生理の問題について、ちゃんと向き合わなくちゃいけない。これは避けては通れない道だと思ったんです。
―― 苦い経験で、生理や自分の体との向き合い方が変わったのですね。
トレーニングについても考え直しました。これまで女性の体は男性の体を小さくしただけで、同じメニューでトレーニングをしても問題ないと思っていたんです。でも、実際は女性の体は筋肉のつき方も違うし、時期によってコンディションも変わる。自分の体の声に耳を傾けながらトレーニングすることが重要なのだと理解しました。
▶︎ 生理の悩みは人それぞれ。自分に合ったケアを見つけてほしい
―― 生理の問題に対しては、具体的にどんなケアに取り組まれたのですか?
婦人科にもかかり、骨盤の調整と合わせて、食事など生活面からのケアを長期的にしていく方法と、ピルを服用することの2つをすすめられました。
食事については、薬膳に興味を持ったことをきっかけに資格も取り、自分の体質や体の状態に合わせた食材を取り入れるようになりました。また、野菜はできるだけ無農薬やオーガニックのものを選ぶようにしています。以前は大好きだったお酒も飲まなくなって、睡眠の質がグンと改善しました。
:宮﨑さん愛用の指輪型活動量計Oura Ring(写真右)。睡眠分析や心拍数などのトラッキングができる。
私はプレッシャーに弱く、メンタルから消化が悪くなるタイプ。レース中に栄養が上手く摂取できずに走れなくなってしまうこともありました。さらに、生理前になるとイライラが強くなってしまうことも悩みで、できるだけ心穏やかにいられるよう意識的にメンタルケアをするようになりました。ヨガや瞑想に加え、最近のお気に入りは、CBDオイルです。私にはすごく合っているようで、リラックス効果があるだけでなく、生理による腰の重さも楽になりました。
定期的な体のメンテナンスとしては、「子宮バランスセラピー」というマッサージに通っています。骨盤の調整だけでなく、子宮の位置やバランスも整えるというもので、通ううちに経血量が減り、生理の痛みも軽減してきたように感じています。
―― スポーツをする女性だけに限らず、多くの女性が生理をはじめ、自分の体の悩みと上手に付き合っていくためには、どんなケアがおすすめですか?
個人差があるので、「これがいいよ!」とは言えないのですが、いろいろなケアを試して、自分に合うものを見つけられたらいいですよね。あとは、「人に見てもらう」ということもおすすめしたいです。
アスリートは、よくトレーナーに体をマッサージしてもらうのですが、それによって、自分では気づかないところが張っているとか、疲れているとか、知ることができます。そうすると、じゃあトレーニングの仕方を変えてみようとか、生活習慣を改善してみようとか、なぜそうなるのかを考えるようになる。自分で筋道を立てて、不調を解決できるようになるんです。これは、スポーツをする人に限らず大切なことだと思います。私は、人に相談するようになったことで、これまで“ツケ”だから仕方ないと思っていた生理の悩みに対しても、できることはたくさんあるのだと気づくことができました。まずは自分の体に興味を持つ、ということがケアへの一歩なのかもしれませんね。
―― 下着については、気をつけていることや意識していることはありますか?
スポーツをする女性の多くが、下着には悩みを抱えていると思います。これはウェアについても言えることですが、着心地が良くて動きやすく、吸水性に優れ、なおかつおしゃれなものって、やっぱりなかなかないんですよね。さらに、生理用品の問題もあります。私の場合は、タンポンは長時間走る時など衛生面が気になって、ナプキンを使用していたのですが、汗を含むと粘着力が弱まりポロッと落ちてきてしまうことが悩みでした。そこでその頃海外で広がり始めていた吸水ショーツを使うようになりました。
海外のも日本のも、いろんな製品を試しましたが、今は肌に優しいオーガニックコットンのものを使用しています。ただ、洗濯すると毛羽立ちが気になるなど、まだベストと言えるものには出会えていません。次は、以前から気になっていたエミリーウィークの吸水ショーツも試してみたいですね!
▶ 私たちはまだまだこれから。スポーツを楽しむ女性を増やしたい
―― 宮﨑さんは、自身の体験をブログなどでも発信されていますが、最近スポーツする女性が抱える問題について、光が当たり始めているように感じます。
世界的に見ても、スポーツする女性はまだまだ男性に比べて少なく、そのためスポーツ業界では、女性と男性の差があることが多くあります。ただ、最近、その流れが変わりつつあるように感じています。
例えば、これまでトレイルランニングのとある大会では、男性は10位まで、女性は5位までと、表彰される人数に違いがあったんです。これに対して「おかしい」と議論が起こり、現在は男女ともに10位までが表彰対象になっています。中には「レベルの違いがあるのだから、性差は仕方ない」という声もありましたが、私は讃えられる女性がどんどん増えたほうが良いと言う考えです。表彰される可能性が広がれば、モチベーションが高まるし、必然的に女性のレベルも上がっていくと思うんです。
また、最近はテレビ番組で女性アスリートが生理について発言したり、登山雑誌で女性特集が組まれたりと、これまで語られてこなかったことに、光が当たるようになってきました。まだまだ私の高校生時代のような女の子がたくさんいると思うんです。スポーツをする女性の問題は、これまであまり目を向けられてこなかったこともあって、データが少ない状況です。私も一人のアスリートとして、生理のことや下着のことなど、これからも積極的に自分の経験を伝えていけたらと思っています。
―― 女性が、より心地よくスポーツ付き合っていくには、どんなことが必要だと思いますか?
まずはスポーツを楽しむ女性を増やしたいという思いがすごくあります。私は逗子でアウトドアを教える活動をしている団体の中で子どもたちと一緒に定期的に山を走っていますが、参加者は圧倒的に男の子が多いんですよね。ある女の子が、「今はスポーツをやっていても、大人になったらやらないと思う」と発言していて、「女の子はどうせスポーツでは活躍できない」というあきらめがあるのかも、と感じました。私も過去には「女子が体育大に行っても就職先が無くて困る」と言われていました。でも、時代は変わっています。今、近くにいる私が、世界で頑張っている姿を子どもたちに見せてあげれば、「そんなことはない」と伝えられるのではと思うんです。
今はレベルも経験も、女性は男性の後を追う形かもしれません。でも、それは同じ土俵に立つことができなかったのだから仕方のないこと。まだまだこれからなんです。私たちは先駆者である彼らに学びつつも、自分たちの色をどんどん出していけばいいんじゃないかなと思っています。スポーツを楽しむ女性の人口が増えれば、ウェアや下着、生理の問題にももっと光が当たるようになり、選択肢も広がっていくはず。今まさに、女性とスポーツの未来が明るくなり始めた、という気がしています。
宮﨑喜美乃(みやざき きみの)
1988年生まれ。山口県出身。小学1年生からランニングをはじめ、高校・大学と駅伝部に所属し全国駅伝に出場。大学・大学院は鹿児島の鹿屋体育大学にて、登山の運動生理学を研究する。トレイルランニングを始めて1年目の2015年9月「STY」にて女子優勝を果たす。直近の戦績は、2022年4月富士山の麓を走る「Ultra-Trail Mt. Fuji」にて優勝、9月ブルガリアのピリン国立公園を走る「Pirin Ultra」にて優勝を果たす。また、現在は世界最高齢でエベレストを登頂した三浦雄一郎が代表を務める「ミウラ・ドルフィンズ」に所属。健康運動指導士、低酸素シニアトレーナーとしても活動中。(Instagram: miyazaki_kimino)
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staff credit
編集・文 / 秦レンナ
撮影・デザイン / 中森陽子
企画・ディレクション / 柿沼あき子
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#EMILYWEEK_JOURNAL では、さまざまなゲストをお迎えし「女性が心地よく生きるには?」について考えます。
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