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  • Remaster???🤔

    あのTシャツたちを現代の技術で“再録”したなら。

    第3回 ダークナイト/ザ・マペッツ編

    <ジャーナルスタンダード>、一着入魂のTシャツ・シリーズがこの6月より順次リリースされる。その名も<Remaster Tee(リマスター・ティー)>。なんでも、あのヴィンテージTシャツたちを"リマスター=再録"したんだとか。それも、より現代らしい解釈のもと、正しく、新しく。

    いやいや、再録ってなに? あのヴィンテージTシャツって、どれ?? ヴィンテージTシャツの、リマスター??? なんとなく落ち着かない気持ちと、ハイスピードで流れていく時代のあり方にさえも逆行する情報小出しスタイル、全4回の短期集中連載でお送りします。


    第1回はこちらから

    第2回はこちらから

    Photo:Daiki Endo

    Interview/Text:Nozomu Miura

    Edit:Nobuyuki Shigetake

    Special Thanks:PILE Inc.

    “当たり前” を、当たり前に、叶える。真摯かつ、忠実に。

    まだまだ冷めそうにない、古着ブームの熱波。だがしかし、蓋を開けてみれば著しい価格高騰と人気アイテムの希少化。さらには、サイズや状態の折り合いがつかない、なんてこともしばしば……。あれ? 古着っていま、こんな感じ? もっと気軽に手に取れるものじゃなかった? <リマスター・ティー>は、そんな問題提起から誕生した、いわばヴィンテージTシャツの再録版。

    本稿では、そんな<リマスター・ティー>の第3弾アイテムをご紹介。さらには、当プロジェクトを縁の下で支えた仙台のTシャツデザインファクトリー・AZOTH(アゾット)の関係各位、同じく仙台のクリエイティブプロダクション・PILE(パイル)の佐野氏への聞き取りに基づき、このTシャツの多面的な魅力を紐解いていく。

    連載第3弾となる今回お話を訊かせてくれたのは、PILEの佐野氏。本コラボレーションのデザイン監修を担当し、AZOTHと共にがっぷり四つの姿勢でTシャツ制作に関わっている。これまでにも幾度となく仕事をともにしてきたという佐野氏に、まずは、第三者的目線から見たAZOTHの魅力をうかがった。

    佐野弘之 / Hiroyuki Sano 宮城県仙台市出身。PILE Inc.創業メンバーのひとり。2010年に仙台市内にセレクトショップ・Deliciousを立上げ、近年では大手セレクトショップからプロスポーツチームなどの企画やグラフィックデザインなどを多数手がける。

    「一緒に取り組んできたプロジェクトが多いから、なんとなく “手前味噌” のような語り方になってしまうんだけど(笑)、やっぱりAZOTHの魅力は “受け皿” の広さにあると思うんですよね。 伝野くんも話してくれたように、自分たち(AZOTH)が手一杯だったり、あるいは受注したお仕事に関して自分たちよりも高い技術を持つ工場がある場合は、無理に自分たちが取り組むのではなく、そこにお願いしてくれるんですよ。AZOTHだけで完結せず、他の工場とのリレーションを駆使して、しっかりクオリティの高いものを生み出してくれるんです。そこは、ものすごくありがたいし、素晴らしいポイントだなぁ、って。『もう工場が手一杯なので無理です』と断ってしまうことだって、きっとできるはず。 でも、そうしないんですよね。それも、口だけで『オッケーです、はいはい』じゃないんですよ。ちゃんと責任を持って、納期を守った上で、質の高いアウトプットを叶えてくれる。パートナーとして、とても信頼できますね」

    13,000円+税

    「『ザ・マペッツ』のヴィンテージでもあまり見ない、ブンゼン&ビーカーの大判プリントをリマスター。プリント手法には、生地に染料を直接染み込ませるインクジェットプリントを採用。細かい陰影のあるマペット人形のフォトプリントにはインクジェットプリントは最適で、シルクスクリーンでは出づらい人形の素材の質感やその表情も柔らかく表現できました。また、この手法ならプリント面に通気性があるので、これほど大きなプリントでも快適に着用できます。こちらも『ダークナイト』と同様、販売時期を考慮してロングスリーブにしています(伝野)。」

     

    隣で話を聞いていたAZOTH・伝野氏が、すかさず笑う。「いやいや、正直今回はちょっと調整してください、って言いましたけどね(笑)。でもやっぱり、想いには応えたいですよ。すべてを確実に遂行できる、とまではいかないけれど」と。 目を見合わせながら微笑み合う、佐野氏と伝野氏。そこには、目には見えぬものの、固く確かな信頼関係があるのだろう。PILE・佐野氏が続ける。

    「基本的なことを、真摯に、忠実に、守り続けているんです。AZOTHは。それは、たとえば『納期を守る』であったり、『質の高いものをアウトプットする』であったり。いわば “当たり前” のことを、当たり前にやってくれる。はたまた、当たり前以上の質を、提示してくれる。だからこそきっと、AZOTHのことを強く信頼できるんだと思うんですよね。今回のコラボレーションアイテムだって、もちろんそうです」

    これこそが “コラボレーション” だ、と感じてしまうほどの結束感を目の当たりにし、たまらずハッとしてしまう。話はポジティブな格好で流れ流れて、今回のコラボレーションアイテムに関するトピックに。

    各13,000円+税

    中央: 「近年、10版以上の版を使用した多色の特色分解プリントのTシャツが、アパレル界隈でちょっとした話題となっている。Tシャツ好きの中でも“シルクスクリーンプリントファン”というのが確かにいて、ニッチではあるが、そんな彼ら彼女らには特にウケが良い。販売されれば即完売ということもよくあり、シルクスクリーンプリントがどんな手法かを認知していれば、それはすごいプリントだと理解できるし、何よりカッコ良いものが多い。今回のRemaster Teeの企画のなかでは、『ダークナイト』のジョーカーの全身デザインに、最多の12版の特色分解による多色刷りを採用。版数は増えたが、デザインと特色分解の相性が良く、個別の色を再現しつつ、アミ点での色の重なりでの特色以外の色の表現、ブラックマジックなど多くの技術が組み合わさっている至極のプリントに仕上がった。黒ボディへの多色のフォトプリントは非常に難易度が高く、国内でこのレベルで再現できる工場はそう多くはないので、そういった意味でも非常に価値を感じていただける一枚です(伝野)。」

    左右: 「『ダークナイト』のバットマン、ジョーカーのフェイスをフロントに大きく配置したデザインにはアンダーホワイト(白いラバーインクを下地に引く方法)のインクジェットプリントを採用。インクを吹き付けるインクジェット特有の若干ボヤッとした表情と、海外ロックバンドのツアーTシャツなどでよく使われているブラックマジックと呼ばれる黒色のインクを使用せずに黒ボディの生地色を活かすプリント手法にすることで、まるで浮き出たような立体感のある仕上がりになる。ヴィンテージTシャツに近いデザインではあるが、ここはあえての販売時期を意識したロングスリーブに。そんなところもRemaster Teeならではの醍醐味です(伝野)。」

     

    「ダークナイトのTシャツなんか、すごいですよ。12版もの特色分解で刷っているんです。それも、手刷りで。こと “手刷り” に関して言えば、特に古着の世界だと『量産型ではない』ということがひとつの価値になっていると思っていて。それはいわゆる “少数であるがゆえのレア度” だったり “イレギュラー品の希少度” のような物差しのことですよね。ただ、ひとつの商品としてリリースするには、やっぱり “量産型” ぐらいのクオリティが欲しいわけです。そこに、ものすごい矛盾があると思っていて。イレギュラーは尊ばれるけれども、作るのは、決してイレギュラーの無い、ハイクオリティなアイテムたちなんですよね」

    静かな炎が燃えていた。PILE・佐野氏の隣から「それ(イレギュラーを生まないこと)が使命ですから」と、ひそやかな声が聞こえる。AZOTH・伝野氏である。佐野氏の言葉を半ば遮るように、彼が続けた。

    「正直、僕はきっと着ないだろうな、と感じるものもあるんです。今回のコラボレーションアイテムの中には。それはクオリティ云々の話じゃなく。好みの話として。でも、だからといって、もちろん手を抜くことはない。当たり前ですけどね。『いいなぁ』と思ってくれるお客さんたちがいて、その彼や彼女が買ってくれたら、それが一番良いと思う。僕たちは、ただ単純に『カッコいい』と思えるようなものを作りたい。質の良いものをアウトプットしたい。それだけなんです。そうして生み出したものは、ゆくゆく時が経っても、廃れないと思うから。20年経っても『カッコいいよね』と言ってもらえるような、そんなものを作りたいし、今回のコラボレーションアイテムもそうなっていくんだろうなぁと感じています」

    あまりに熱すぎる(ように見える)真っ赤な炎は、きっと、人を遠ざける。その熱と印象に耐えられず、人は遠くへ逃げ出してしまうだろう。AZOTHとPILEを結束するファクター、その炎の色は、おそらく青だ。あまりに淡々と、それでいて、確かに高い熱量を持った炎だ。伝野氏に続いて、佐野氏が残した。

    「ファッション的観点から見れば、今回のコラボレーションアイテムが目指しているのは “リマスター” ですね。そもそも、物自体の着想は、古着です。確かにそう。ビンテージアイテムたちからヒントを得て作りました。ただ、それを単純にリプリントするだけでなく、現代の技術でもって、現代のファッション的に解釈した上で着られるよう、“リマスター” したんですよね。ただの “焼き直し” じゃなく、今っぽく楽しめるように、整えた。そういう感じです。本コラボレーションに際して、AZOTHには『カッコいいと思うものを作ってほしい』と伝えたんですよ。互いにフィードバックや相談をしながら、時には『こうした方がカッコよくないですか?』とか言いながら。やっぱりそこでも、信頼関係ですよね。本当にそればっかりです」 (第4回に続く)

    【編集後記】

    ひとつの創作物に対してクリエイターが名を連ねるスタッフクレジットは「はいはーい、僕がやりました!」ではなく「ダサい、面白くない、と感じたなら、それは私の責任です」の証明であると個人的には考えているのですが(そもそも「ダサい」「面白くない」は発言者の感性・教養に強く依存する言葉なので、安易に多用する時点でご察しですが。さらに言うと両者ともに、時として褒め言葉にもなります)、そういった意味で、洋服においては(さまざまな事情はあれど)生産背景が見えづらい部分がたくさんあって、どういう人たちが、どのように作っているのか、消費者である僕らにその多くが語られないのが常です。だからこそ、こうやって矢面に立ち、話を聞かせていただけることに、ただただ感謝しています。

    というわけで、<リマスター・ティー>をぐんぐん掘り下げる当企画、次で最終回です。次回もお楽しみに。(編集・重竹)