Remaster???🤔
あのTシャツたちを現代の技術で“再録”したなら。
第2回 トイストーリー/白雪姫/パワーパフガールズ/かいじゅうたちのいるところ 編
<ジャーナルスタンダード>、一着入魂のTシャツ・シリーズがこの6月より順次リリースされる。その名も<Remaster Tee(リマスター・ティー)>。なんでも、あのヴィンテージTシャツたちを"リマスター=再録"したんだとか。それも、より現代らしい解釈のもと、正しく、新しく。
いやいや、再録ってなに? あのヴィンテージTシャツって、どれ?? ヴィンテージTシャツの、リマスター??? なんとなく落ち着かない気持ちと、ハイスピードで流れていく時代のあり方にさえも逆行する情報小出しスタイル、全4回の短期集中連載でお送りします。
Photo:Daiki Endo
Interview/Text:Nozomu Miura
Text/Edit:Nobuyuki Shigetake
Special Thanks:PILE Inc.
“設計図”から、作る。Tシャツもビジネスも。まだまだ冷めそうにない、古着ブームの熱波。だがしかし、蓋を開けてみれば著しい価格高騰と人気アイテムの希少化。さらには、サイズや状態の折り合いがつかない、なんてこともしばしば……。あれ? 古着っていま、こんな感じ? もっと気軽に手に取れるものじゃなかった? <リマスター・ティー>は、そんな問題提起から誕生した、いわばヴィンテージTシャツの再録版。
本稿では、そんな<リマスター・ティー>の第2弾アイテムを紹介するとともに、当プロジェクトを縁の下で支えた仙台のTシャツデザインファクトリー・AZOTH(アゾット)の関係各位、同じく仙台のクリエイティブプロダクション・PILE(パイル)の佐野氏への聞き取りに基づき、このTシャツの多面的な魅力を紐解いていく。
第2回に登場するのは、AZOTH デザイン部門の部長・平野氏。長きにわたって同社デザインセクションの一線で活躍してきた彼に訊く、会社の変遷と彼自身が抱く想いについて。
「2006年入社なので、もう17年になります。入ったばかりの頃は、現在のAZOTHと同じく若林区卸町に事務所を構えていたのですが、ほとんど倉庫のようなところでした(笑)。従業員も5,6名のみの、まさしく黎明期でしたね。それから徐々に人数が増えていったタイミングで、2011年の大震災に見舞われ、事務所が全壊してしまったと。もう、ドリフのように。宮城県の他の地域と同様、水も出ない、電気も使えない状況で『これは仕事にならないな』と途方に暮れていたのですが、これまでに協業していた同業の会社が『うちを使っていいよ』と声をかけてくれたんです。そのまま数名のスタッフが京都に移り住んで、その会社の一角を間借りして、生産を続けることができました。2011年の年末には宮城野区で新たに事務所を構えることになり、リスタートしました。そして、2020年に規模を拡大して、若林区卸町に戻ってきた、という感じです。あのときは結構、大変でしたね」
AZOTHに入社する以前からTシャツ生産会社に所属していた平野氏。2006年の入社時は黎明期でありながらも、当時の、Tシャツ生産の流れを掴み始めていたAZOTHを「会社としての大きな可能性を感じたし、きっと自分がやりたいことをやれる環境だと思った」と振り返る。それから17年経ち、今では何倍にも増えた人員は、どのように棲み分けされているのか。
「僕たちAZOTHには、いくつかの部門があって。実際に手を動かしてTシャツを製版、印刷、製造する製造部門。企画段階から参入し、MDを組んだり、グラフィック作成するデザイン部門。そして、さまざまな現代アーティストによる作品を展示・販売する、ギャラリー部門。この3部門ですね。また、同じ建物内には、この建物の設計をおこなった工務店・T-Planの事務所もありますね。築50年という、なかなか歴史の深い建物ですが、とても現代的で品のある内装になっていると思います。置いてある物の数はとても多いけれど、どことなくスッキリしているんですよね」
平野友也 / Tomoya HiranoAZOTH デザイン部 部長 秋田県出身。仙台のデザイン学校を卒業後、仙台の別のTシャツ会社を経て、2006年にAZOTHに入社。近年は漫画やアニメ、映画のマーチャンダイジング、グラフィックを多数手がける。
話は流れて、彼が部長を務める“デザイン部門”に関するトピックに。筆者は当初、AZOTHに関して、こと“B to B”のような形の“対会社”の仕事が多いのだと想像していた。が、それはどうも間違いであったようだ。
「今回手がけた<ジャーナルスタンダード>との共作のように、“to B”のお仕事も多くあります。仙台の牛タン屋さんであったり、ラーメン屋さんであったり、地元の会社がスタッフTシャツを作りたいと要望をくださることも。ただ、一方で、“to C”の形態もあるんですよね。企業ではなく、一般の方々がTシャツを作りたい、と。全ての仕事が、いわゆる“有名どころ”との協業ではないんです。企業、一般の方々、さまざまなお客さまが持つ『Tシャツを作りたい』という想いに応えています。それで言うと、僕たちAZOTHは、ジャンルにこだわっていないんですよ。『ウチはこれしかやらないよ!』といったようなことって、ないんです」
(1枚目)トイストーリー 各11,000円 (2枚目)白雪姫 11,000円
トイストーリー:「ここ最近、10版以上の版を使用した多色の特色分解プリントのTシャツが、アパレル界隈でも話題となっています。 Tシャツ好きにもシルクスクリーンプリントのファンが確かにいて、そのニッチな層には特にウケが良い。 販売されれば即完売ということもよくあり、シルクスクリーンプリントがどんな手法かを認知していれば技術力を理解できるし、何よりカッコ良いものが多い。 そんななか、こちらのTシャツは、シルクスクリーンプリントの労力の部分で言うと、そんな特色分解とは真逆に労力のかからない、1版で完結する1色プリントで仕上げました。 シルクスクリーンの面白いところで、1色プリントで多色の1/10以下の労力しかかからなくても、なんともカッコ良いTシャツができてしまう。 プリント時の労力がかからないだけで、このデザインに至るまでのアイデアや、TOY STORYの繊細なグラフィックを1色で綺麗に再現するためのインクの落ち方にこだわったデータの調整や製版は何度もやり直したし、何度もサンプルを作成して試行錯誤を繰り返して現在の仕上がりに辿り着いているので、手を抜いているわけでは決してありません。 むしろシルクスクリーンの特性を活かした上で量産性に優れ、グラフィックもTシャツに対してめちゃくちゃカッコ良い落とし込みができているのに、古着には見当たらない1色プリントの表現。 多色の特色プリントがちょっとした話題になる中で、1色プリントの潔さと新鮮さもあるという、満足度の高いTシャツが出来ました。 黒ボディはピグメントダイを施して染めムラが味のある風合いに、白ボディはウォッシュ加工で柔らかな風合いに仕上げています(伝野)」。
白雪姫:「プリント手法はここ最近、プリント業界で急激に拡大しているDTF転写プリント。これまで転写プリントと言うと、細かい箇所に抜きを作れなかったり、文字に枠をつける必要があったり、何より転写プリント面のシートが厚く、シートを貼ったようなお粗末な印象で、転写プリントのTシャツはあまりおしゃれに仕上がりづらく、アパレルの分野ではなかなか使われることがなかった。しかし、DTF転写は、細かい抜きができて、プリント面の周りに枠もつかない、プリント面のシートも生地目がしっかり出るほどに薄く、一見するとシルクスクリーンのような見た目の新しい転写プリント。デザインによっては充分にアパレルでもオシャレに仕上がる。意識的にヴィンテージを作ろうとしているわけではないですが、このTシャツが数十年後にヴィンテージとして扱われることになるかもしれないと考えたとき、古着のデザインを踏襲しているこの『白雪姫』のデザインに、あえて今新しいとされている手法を使っておきたいと考えました。それがリマスターかなと(伝野)」。(1枚目)パワーパフガールズ 各11,000円 (2枚目)かいじゅうたちのいるところ 11,000円
パワーパフガールズ: 「通常、ホワイトのTシャツにはアンダーホワイトは必要なく、普通にインクジェットプリントをするだけで充分に発色の良いプリントができますが、インクが生地に染み込むので、プリント面は生地の質感そのままに仕上がります。 今回は、ホワイトTシャツでもあえてアンダーホワイトを引くことで、プリント面を触った際に樹脂感のある、シルクスクリーンプリントのような触り心地となるように仕上げています。また、アンダーホワイトなしのインクジェットに比べて、インクジェットプリント特有のボヤッとした印象が軽減されて、ハッキリとしたプリントに仕上がりました。 ヴィンテージでアニメ系のTシャツが高騰しているなか、1990年代の海外アニメで、日本では2001年に放映され一世を風靡したパワーパフガールズのリマスターTシャツは、誰も彼も手にしてほしい1枚です(伝野)」。
かいじゅうたちのいるところ: 「(左)ピグメントダイのオフベージュボディにシルクスクリーンプリントの特色分解6版で、ヴィンテージでも非常に人気の高い、絵本『かいじゅうたちのいるところ』のTシャツをリマスター。インクには生地の質感をそのまま感じることのできる染み込みインクを使用し、今流行りのバキッとした質感ではなく、しっとりとしたプリントに仕上げました。プリントの雰囲気と、ボディの古着のような風合いのクタッとした表情は『かいじゅうたちのいるところ』の独特なタッチの絵や世界観と非常にマッチしているようにも感じる。本来ならあと2〜3版、版数を増やすことも考えられるデザインながら、6版に抑えつつも完成度の高いプリントを表現できたことは、ちょっとした自慢である。
(右)ピグメントダイの黒染めボディにアンダーホワイト(白いラバーインクを下地に引く方法)のインクジェットプリントでリマスター。デザインの背景を含めた繊細な色使いの再現にはインクジェットプリントを採用。アンダーホワイトをすることで、プリント面を触った時に樹脂感のあるシルクスクリーンプリントのような触り心地となるように仕上げています(伝野)」。「僕自身、仕事に関する“こだわり”みたいなものって、ほとんど無いんですよ。大それたこと、いわゆる“野望”のようなものは、持っていない。ただ、一点、やっぱりTシャツが好きなんです。個人的な趣味として、Tシャツ収集が大好きなんです。それも、コレクションとして保管しておくのではなく、とことん着るんですよね。買っては着て、買っては着て。その過程の中で、たとえば『これは参考になるな』と感じたり、『次のデザインはこういうアプローチをしてみようかな』と、自身の仕事に反映する部分も多くあります。引き出しのひとつとして、いわば、ひとつの“資料”として、Tシャツを買うこともあるぐらい。新品・古着を問わず、たくさんのTシャツをチェックし、購入して、プリントの手法であったりボディの特徴であったり、そういった部分に対していつも目を凝らしています。それは、きっと自分の仕事に活きているんだろうなぁ、って」
Tシャツにシルクスクリーンプリントを施すための円台。こちらは、4枚のプリントをおこなうことができる。ちなみにアメリカにはこれの超巨大バージョンで、10版以上を同時に印刷できる自動機を何台も持つTシャツ工場がある。
平野氏の言葉は、いつも素直だ。つまらないことについて「それってすごくつまんねえな、と思う」とバッサリ断ち切ることも、取材中、しばしばあった。磨きがかけられていない原石のような、ゴツゴツとした言葉の数々。もちろん乱暴である、ということではなく。愚直なのだ。まっすぐなのだ。
「僕たちAZOTHは、いわゆる“受け”の姿勢だけで仕事をする会社じゃないんです。お客さまから『こうしてください』と言われた通りにTシャツを作ることもあるけれど、デザイン部門が、お客さまにデザイン提案をすることだってたくさんある。お客さまの用途、目的、予算、納期に応じて、そこにもっともフィットする答え、最適な形を提供する。それは、伝野さんが話していたように、シルクスクリーンこそが至上だなんて全然考えていない、というところにも繋がってくることで。いわば“設計図”から作れるからこそ、他とは違うアプローチで、お客さまに貢献できるのだと考えています」(第3回に続く)
【編集後記】
普段何気なく袖を通しているTシャツにも当然作り手がいます。その存在を感じながら着ることで愛着が湧いたり、大切にしようと思う気持ちが芽生えたりするのかもしれません。第2回では、技術や知識などの直接的な話ではなく、AZOTHが使命とすること、哲学の部分を知っていただきたかったのです。
ちなみに、<リマスター・ティー>、ありがたいことにすでに多くの人に手に取っていただいているようです。僕もハリー・ポッターのやつを買いました。それでは次回もお楽しみに。(重竹)
- JOURNAL STANDARD【Remaster Tee / リマスター・ティー】POWER PUFF GIRLS Tシャツ¥11,000(税込)
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