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  • Remaster???🤔

    あのTシャツたちを現代の技術で“再録”したなら。

    第1回 ハリー・ポッター 編

    <ジャーナルスタンダード>、一着入魂のTシャツ・シリーズがこの6月より順次リリースされる。その名も<Remaster Tee(リマスター・ティー)>。なんでも、あのヴィンテージTシャツたちを"リマスター=再録"したんだとか。それも、より現代らしい解釈のもと、正しく、新しく。

    いやいや、再録ってなに? あのヴィンテージTシャツって、どれ?? ヴィンテージTシャツの、リマスター??? なんとなく落ち着かない気持ちと、ハイスピードで流れていく時代のあり方にさえも逆行する情報小出しスタイル、全4回の短期集中連載でお送りします。

    Photo:Daiki Endo

    Interview/Text:Nozomu Miura

    Text/Edit:Nobuyuki Shigetake

    Special Thanks:PILE Inc.

    突き詰めてきたからこそ、
    人の手を借りることに躊躇がなくなった。

    まだまだ冷めそうにない、古着ブームの熱波。だがしかし、蓋を開けてみれば著しい価格高騰と人気アイテムの希少化。さらには、サイズや状態の折り合いがつかない、なんてこともしばしば……。あれ? 古着っていま、こんな感じ? もっと気軽に手に取れるものじゃなかった? <リマスター・ティー>は、そんな問題提起から誕生した、いわばヴィンテージTシャツの再録版。

    本稿では、そんな<リマスター・ティー>の第1弾アイテムを紹介するとともに、当プロジェクトを縁の下で支えた仙台のTシャツデザインファクトリー・AZOTH(アゾット)の関係各位、同じく仙台のクリエイティブプロダクション・PILE(パイル)の佐野氏への聞き取りに基づき、このTシャツの多面的な魅力を紐解いていく。

    AZOTH2004年創業。衣類へのシルクスクリーンプリントをベースに、自社工場にて手刷りでTシャツに新しい価値を吹き込み、主にイベント物販商品・アパレル製品などを提供する。仙台駅から東に4km、卸町に位置する社屋は建築事務所 / 工務店のT-Planとのシェアビルディングとなっており、社屋内にはアートギャラリーも構える。

    お話を伺ったのは、AZOTH 生産部の広報主任を務める伝野氏。まずはじめに、“Tシャツデザインファクトリー”という、なんとも実態の掴みにくいお仕事(もちろん悪口ではない、断じて)について彼なりの見解を問うた。

    「お客さんからすると、僕らの仕事って自動販売機に近いと思うんです。お金を払って『こういうのを作ってください』と依頼し、しばらく待つと、出来上がったものが納品される。1から10までの工程は、知ろうと思わなければ、決して知り得ないようなこと。僕らがやってることがどれだけ難儀で、どれだけ緻密だとしても、それは依頼主(=ブランドや企業)にとってはあまり関係のないことですし、売れる、売れないには直接的に影響してこないんですよね」

    どれだけ手間のかかる内容・質にこだわった仕事をおこなっていようが、Tシャツの「売れる、売れない」に直接的な影響はない、と伝野氏。一見すると、ネガティブなあきらめのムードを勘ぐってしまいそうな言葉だが、彼は目の奥に輝きを保ちながら、こう続けた。

    「Tシャツ作りって、全ての工程がオートメーション(自動化)されていると思われがちですが、うち(AZOTH)は全部、アナログの手作業で1枚ずつ、シルクスクリーンを用いてTシャツを刷っています。ただ、僕らとしてはそれを過剰に重んじているわけではないし、そこに何かが宿ると盲信しているわけでもないんです。にもかかわらず、手間のかかるアナログの作業に執着するのは、結局のところ、このプロセスがもっとも効率が良く、クオリティを担保できるから。この一点に尽きます。工場の坪数や立地環境、与えられた時間、予算などの兼ね合いがあるなかで、数ある選択肢から『これが一番ベストなんじゃない?』と試行錯誤した結果が、今のアナログの作業ってだけなんです」

    伝野亘毅 / Hirotaka DennoAZOTH 生産部 広報主任 宮城県仙台市出身。宮城県に本社を置くアパレルブランド旗艦店の販売員やEC販売管理スタッフを経て、2015年にAZOTHに入社。シルクスクリーン工場での工場作業スタッフから営業職を経て、現在は生産部の広報主任の傍ら、アパレルブランドのOEMや音楽・アニメなどのイベント関連グッズの企画やデザインも行っている。

    「そのうえで、最良のアウトプットをするためにあえて“自社でプリントしない”ことを選択する場合もあります。たとえば、インクジェットプリント。そもそもAZOTHはインクジェットプリンターを備えていない、という社内事情もあるのですが、だからといっていかなるプリントも自分たちのできる範囲(シルクスクリーン)で対応しよう、とは考えていません。グラフィックごとに最良のプリント方法を都度模索し、その結果『うちの得意とするシルクスクリーンではこのグラフィックを最大限に活かすことはできない』と判断することもあります。そういったときは、信頼の置ける外注先にプリントを依頼をすることも。逆説的な言い方になってしまいますが、僕らはシルクスクリーンを突き詰めてきたからこそ、シルクスクリーンが不得意とすることを熟知していますし、技術者に対するリスペクトがあるからこそ“自分たちでやらない”という選択肢を手札に持っている、と考えています」

    AZOTHは、いわば“シルクスクリーン至上主義”ではない。数多の選択肢やアプローチ、同業他社とのコネクションを携えているからこそ、それぞれの成果物(Tシャツ)にとって最もふさわしい手段を選び出すことができるのであろう。話は健やかに流れて、本稿の核である<リマスター・ティー>へ。

    「<ジャーナルスタンダード>さんとの協業では、デザイン周りを担当してくれたPILEの佐野さんから上がってきたいくつかのグラフィックデザインを見ながら『このグラフィックならインクジェット』『これはシルクスクリーン』と仕分けていきました。使用する色の数、トーン、グラフィックの描き込まれ具合、そのあたりが仕分けの基準になります。そもそも一般的に、Tシャツの仕上がりだけに注目すると、現代においてはインクジェットとシルクスクリーン、この両者にはもはや優劣がありません。もしかすると、2つを並べてプロが見比べても分からないかもしれませんね。こればかりは技術向上の賜物です」

    インクジェットとシルクスクリーンは、今やほとんど見分けがつかないほどだと話す伝野氏。それぞれの技術向上によって生まれたポジティブな“誤算”こそあれど、彼はにこやかな表情で、こう続けた。

    「ただ、先ほどもお伝えしたとおり、グラフィックごとに適切なプリント方法がある、というのが僕たちの基本的な考え方です。たとえば、インクジェットのほうが、細かな部分までくっきりと表現できる。また一方、シルクスクリーンでないと出せない色がある、といったように。適材適所のアプローチが、確かに存在しているんです。さらにはボディとインクの相性もあったりするので、僕らとしては『これはインクジェットでいこう』と決めて提携の工場にお願いしても、工場側から『いや、これはインクジェット向きじゃない。きっとシルク(スクリーン)のほうが綺麗にプリントできる』と助言をいただくこともあるんです」

     

    各11,000円。予約受付中。
    いずれも『ハリー・ポッターと賢者の石』のビジュアルを使用。向かって左から2枚目のイラストビジュアルはオフィシャルでTシャツがリリースされており、ヴィンテージ市場でも高値で取引されているので見たことある人もいるかもしれない。

     

    「この『ハリー・ポッター』の一連のシリーズには、“ブラックマジック”という技法を用いました。通常、ブラックボディにインクジェットでプリントを施す場合にはまず、アンダーベースと呼ばれる白の下引きをプリントします。白の下地を塗り、その上から色のレイヤーを重ねる手法ですね。今回制作した<ジャーナルスタンダード>さんとのコラボレーションアイテム、特に『ハリー・ポッター』のシリーズでは、白の下引きを施した部分もありますが、生地のブラックを部分的に活かす手法(ブラックマジック)も採用しているんです。プリントがぼんやりと浮き出るような、より立体的なデザインに仕上がるんですよ。やはりここでも、グラフィックに適しているであろうアプローチを選ぶ、ということを意識していますね」

    進みたい方向をまっすぐ見据え、叶えたい形をしっかり見つめ、それを実現するために適切な手段を用いる。この思考の手順・方法はきっと、すべての表現行為に共通するのであろうが、淡々ともじっくりと話す伝野氏の言葉から、改めてそれはとても正しいことだ、と感じた。彼は最後に、今回のコラボレーションアイテムたちを見つめながら、こう話す。

    「結局のところ、阿吽の呼吸でやれたのは、僕らAZOTHと佐野さんとの関係性や、佐野さんと<ジャーナルスタンダード>の栗原さん、商品企画の高山さんとの深いつながりがあったから。それに尽きると考えています。こういったファッションの仕事はやっぱりアガりますし(笑)、シンプルに、とても楽しい取り組みでしたね。クライアントである<ジャーナルスタンダード>さんに関して、きっと目の肥えたお客さんたちが手に取るのだろうということは容易に想像できたので、情けないことはできないなぁと思いつつ、気を引き締めて作りました。そんなTシャツシリーズです」。(第2回に続く)

    【編集後記】

    <リマスター・ティー>、だいたいどんな企画か分かりましたか? 連載第2回は7月半ばに更新予定です。つまり、その頃に第2弾アイテムがリリースされる、ということです。ここまで読んでくれたお礼に、気になる一部をちょっとだけ先見せします。

    ヤバくないですか? 大人たちの本気を垣間見ました。それでは次回もお楽しみに。(重竹)