松田未来 | ヘアメイクアップアーティスト

「着地点を決めなくては、道に迷ってしまう」
“ありたい自分”になるために大切なこと

【松田未来さんインタビュー後編】

それぞれの “美しさ” について考えるコラム連載「Way of thinking beauty」。
ファッションやヘアメイク、心身との向き合い方など、毎回ゲストを迎えて紐解いていきます。

心の声=感情に正直であること。
そして他人へ向ける視線が自分に返ってくるように、周りの人たちを大切にしていると、自分にも優しく寄り添ってあげられるーー。

「rihka」ディレクター、ヘアメイクアップアーティスト松田未来さんに、自分軸で生きるための心の持ち方について語ってもらったインタビュー前編

後編でお届けするのは、「ありたい自分」になるために大切なこと。生きていればいろいろなことがあるし、気分にムラがあって当然! そんな毎日を軽やかに乗り越えていくために、未来さんが普段からしていることも教えていただきました。

『明日が来るのが待ち遠しい!

そんな気持ちになれたら』

「こうありたい」着地点を決めれば、おのずと道が開けてくる

友だちや職場の人など、日々さまざまな価値観に触れながら生きていると、「この人のこういう考え方、好きだな」「こんな風に物事を捉えられたら、楽しいだろうな」など、誰もがみんな”こうありたい”というものが大なり小なりあるはず。

自分らしい人生を生きるには、仕事においても、恋愛や結婚においても、「結局のところ最終的にどんな気持ちになっていたいか、着地点を決めることが大切」と、未来さんは語る。

「『こうありたい』という着地点を決め、そこから今できることを考えると、どんな環境に身を置けばいいのか、何を学べばいいのかなど、そのためにすべきルートが見えてくると思うんですね。そのルートは計画通りには進まないことの方が多いけれど、たまに想像以上のうれしいサプライズが起こることも! どちらにせよ着地点を決めておかないと、どこに向かったらいいか分からず、それこそ世間の常識や価値観にまどわされ、路頭に迷ってしまうのでは」

未来さんは15歳のときの体験をきっかけに、「こうありたい」という着地点を決めた。そしてその着地点は今も変わっていないという。

「中学生くらいのわたしは、自分の見た目があまり好きではありませんでした。そのコンプレックスが心にも影響してか、自分の考えや選択にも自信が持てなかったんですね。そんなある日、地元でいちばんおしゃれなヘアサロンではじめてパーマをかけてもらったら、『あれ? もしかしてちょっとだけ可愛くなったかも!?』と、見た目に少し自信がついたんです。そしたら不思議と自分の考えや選択にも自信が持てるようになり、気づけば友人や家族に対しても、素直に愛情を注げるようになったんです。

そんな経験から、『見た目に対するコンプレックスのせいで自信がもてなくなっていても、少しでも自身のルックスを「素敵かも」と思えることで、以前よりも自分を好きになれる。そして自分の気持ちにも正直になれて、今よりももっと生きやすくなる人って多いのかもしれない』と感じ、『そのために何かお手伝いがしたい』という、着地点が見えてきたんです。もう20年以上も前の話なので、今と世間の捉え方が違うところもありますけどね」

感性や性格、才能など自身に与えられた天性を、あたたかく美しい社会のために還元できないだろうか。そう考えた末に辿り着いたのが、「自分のことを認め、好きになり、そして信じることができる人が一人でも増えるお手伝いをすること」という着地点だった。そしてその手段として、美容師やヘアメイクアップアーティストの仕事が自分にとって最適だとピンときた未来さんは、美容の道を選んだ。「15歳の価値観から見えた着地点だった」と振り返る。

「着地点はその頃から変わっていないのですが、今はそのための手段(職業)にこだわりはありません。わたしにできることならなんでも! 『rihka』ディレクター、ヘアメイクアップアーティストとしてはもちろん、コラボしたお洋服を通じてだったり、このように言葉で伝えるなど、手段はなんであれ、着地点さえ決めておけばそこに辿りつけるので」

着地点を決めることの大切さは理解できても、そもそも「ありたい自分」が曖昧で分からないという人については、こう語る。

「曖昧でいいとおもいます。ルートを辿っていくうちに少しずつハッキリしてくることもあるし、別の着地点が見つかることもありますしね。ありたい姿がまったく見えないという人は、過去の経験を振り返るとヒントが見つかるかもしれません。『こうありたい』という思いは、15歳のわたしがヘアサロンで経験したように、実体験から見えてくることも多い。たとえば、何かしらのコンプレックスを抱えていたり、マイノリティであることで辛い思いをした経験、またうれしかったり、感動した経験から職業を決める人もいますよね。

恋愛や結婚においても同じことが言えると思います。相手に求める条件を、たとえば『ありのままの自分でいられる人』や『一緒いて心地いいと思える人』、『一緒にいることで自分のことをますます好きになれるような人』のように、自分の幸せに焦点をあてていると、自身の心の持ち方やパートナーとの関係性など着地点が明確になって、人生を豊かにしてくれる素敵なパートナーとマッチングしやすいように思います」

さらにありたい自分に近づくため、11年続けた美容師の仕事をやめ、31歳で上京。当時は、勤め先も決めていないどころか、ヘアメイクアップアーティストとしてのキャリアも人脈もなかったという。

「不思議なことに不安はなかったんですよね。もちろんゼロではなかったものの、冷静に『今日自分にできることはなんだろう』と考え、それを着々とこなす毎日でした。たとえば散らかった部屋みたいに何から手をつけていいのか分からない状態でも、とりあえず隅から少しずつ片付けていけばいい。それが一見、着地点につながってなさそうに思えても、半歩でも進めばいい、そんな思いで続けているうちに、偶然や色んな縁が重なり、いつの間にか『こんなことができたらいいな』と思っていた以上のことができるようになっていた、という感じなんです」

つらいときこそ、大切な気づきが得られる

「今、自分にできること」を、日々コツコツと積み上げた結果、今がある。これまで「うまくいかないこともめちゃくちゃあった」という未来さんが、普段からいい気分を保つためにしていることを聞いてみた。

「やってみたいこと、行ってみたいところを思いつくままにリストアップしています。たとえば楽しみにしていた作家の新刊を読むとか、気になっていたカフェに行くとか、好きな料理家のレシピを作るとか。落ち込んでいるときとか、心が疲れているときにリストを見返すと、ワクワクするんですよね。そして『そうだ、リストに書いてたあの店のスコーンを食べに行こう!』と思い立って出かけたりしていると、気づけば元気になっていたり。気分転換にもなるし、満たされた時間を過ごせるし、リストをクリアしていくのって、なんだかゲームみたいで楽しくって。ただ書くのは、やりたいこと、行きたいところのWANTだけ。やらないといけないことが入ってくるとしんどくなってしまうので、TODOは別でリストを作ってあります」

WANTだけが綴られた、自分だけのお楽しみリスト。このリストを一個ずつクリアしていくことが、いいリフレッシュになっているという。

「気分転換はもちろん、不意にできた時間の有効活用や、貴重なお休みを充実させるためのリストをたくさんストックしておくイメージです。行ってみたかったお店で食事をしたり、空間に身を置いている時に、機嫌が悪くなることなんてよほどじゃない限りないですもんね(笑)。ちなみにリストは月ごとに分けているのですが、どんどん溜まっていくので、いつもフレッシュな気持ちになれるよう、月の終わりに翌月のリストをアップデートするようにしています。

もしWANTがスラスラと出てないという人は、どんな小さなことでもいいと思うんです。たとえばいただいたキャンドルを使う、ポニーテールにしてみる、新色のネイルを塗ってみるとか、ハードルの低そうなものをどんどんリストアップしていくのがおすすめ。それらをクリアした後、改めて振り返ってみると、『お〜今月もけっこう遊んだなぁ、充実充実(ニヤリ)と思えます(笑)」

どんな時も自分を見つめ、寄り添い、自分を大切に扱うことの素晴らしさを教えてくれる未来さん。最後に、これまで幾度となく訪れたであろうつらい経験を、どのようにして乗り越えてきたのか聞いてみた。

「何をやってもうまく行かなかったり、悲しいこと、つらいことが起こって、もがいたときの方が、いいアイデアが浮かぶというか、大切な気づきが得られることが多いので、とことんもがくしかない。成長の過程にはどうしても痛みは伴うもの。つらい経験は、人に優しさを与えてくれます。なのでめちゃくちゃ痛みを感じるときほど、『これは絶対にいい経験になって、今後の人生に活かせるはずだ!』そう思うようにしています。ただつらいだけじゃ悔しいですもんね。

とはいえ逃げることが必要なときもあるし、それも尊重すべき選択方法だと思っています。『大切なのは、そのとき自分がどう向き合ったのかを見つめること』そこに意味があるのではないでしょうか」

ぼんやりでもいい。「こうありたい」と心に浮かんだその小さな思いが、人生の指針になるかもしれない。インタビュー後編では“ありたい自分”になるためのアイデアをお届けしました。

次回はいよいよ連載ラスト。未来さんが書き下ろすコラムを公開予定です。お楽しみに!

ヘア&メイクアップアーティスト
rihkaディレクター
松田未来

著書「私が私らしく生きる美学」双葉社
好きなことは、猫、早寝早起き、ワイン、
旅先でとことんゆっくりすること。
Instagram:@mira0911
YouTube:Mirai'svlog

次回更新
10月17日(月)
※更新日は予告なく変更する場合があります。

Text : Nana Omori
Illustration : maegamimami

SHARE ON SNS