松田未来 | ヘアメイクアップアーティスト

「他人に向ける視線が、自分に返ってくる」
自分軸で生きる、心の処方箋

【松田未来さんインタビュー前編】

それぞれの “美しさ” について考えるコラム連載「Way of thinking beauty」。
ファッションやヘアメイク、心身との向き合い方など、毎回ゲストを迎えて紐解いていきます。

「私は私」だし「そのままの私でいい」ことは、きっとみんな知っているし、その方が生きやすくなることも分かっている。はずなのに、周りの視線や誰かの価値観にまどわされ、自分の気持ちが分からなくなる“自分迷子”。

2018年ころから「自己肯定感」という言葉がじわじわ浸透しはじめ、コロナパンデミックを機に、生き方や働き方など、これまでの古い価値観が一掃されました。また「セルフラブ」や「ウェルビーイング」という言葉とともに「自分に愛を注ぎ、満たそう」というムーブメントが巻き起こり、自分を見つめ直す時間を過ごした人も多いはず。

そこで「自分を認め、自分らしく生き、明日が楽しみになるような人生のお手伝いがしたい」と、現代を生きるすべての人にメッセージを発信し続けるヘアメイクアップアーティスト、「rihka」ディレクター松田未来さんに、「自分軸で生きるために」というテーマを投げかけてみました。インタビュー前編・後編と、未来さん自身によるコラムを全3回にわたってお届けします。

『読んだあと、今夜はいい気分で眠りにつけそう

『読んだあと、

今夜はいい気分で眠りにつけそう

そう思ってもらえたら』

感情にフタをせず、口に出すことで自分が見えてくる

ネットやSNSを開けば不要な情報までどっと流れ込んでくる情報過多な時代。その影響もあるのか、自分の気持ちがよく分からなくて、モヤモヤした毎日を過ごしている人が増えているという。そんな“自分迷子”になってしまう原因を未来さんに聞いてみたところ「もしかしたら自分の感情よりも他人を優先し過ぎているのかもしれませんね」と返ってきた。

「恋人や友だち、仕事相手、誰に対してもそうですが、『ありがとう』『◯◯してくれて、すごくうれしかった!』とか、どんな些細なことでもいい、いいえむしろ些細なことこそ、自分の感情を伝えることって大事なことだと思うんです。その時の感情って一瞬だったりするので、意識的に伝えるようにしていると、ふわっとした自分の気持ちがくっきりしてくるし、相手からもどういう人なのか分かってもらいやすくなる」

心にふっと湧いては消える感情を見て見ぬふりせず、丁寧に拾い集め、相手に伝える。自分の感情にフタをせず、正直に生きることで、おのずと自分が見えてくる。

「ちなみに『イヤだな、行きたくないな』と思う食事の誘いや仕事の依頼があったとき、相手を気遣って感情を抑え込むよりも、すぱっと断るほうが相手のため。むしろイヤイヤ行くほうが、食事を楽しみにしている相手や、愛を持って仕事に取り組んでいる相手に失礼だと思っていて。もちろん断るときの言葉選びは慎重にします」

とはいえ「たとえば料理をつくってもらった人に『おいしくない』と言ったり、なんでもかんでも口に出せばいいわけではない」と続ける。

「仮にその料理があまり口に合わなかったとしても、『おいしくない』とハッキリ言ってしまうと、作ってくれた人を傷つけてしまいますよね。でも、だからといって感情を抑え込み、必要以上に『すっごくおいしい!私の好きな味!』とは言わなくてもいい、ということ。本音をぶつけることで、相手との距離がぐっと縮まる関係性もあるので、一概には言えなかったりもするのですが。この微妙なさじ加減がむずかしいと感じる人もいるかもしれませんが、意識するようにしていると、だんだん感覚が身についてくると思います」

感情の答え合わせを習慣化することで、自分軸がブレにくくなり整ってくる。とはいえ、生きているとさまざまな壁が立ちはだかるもの。落ち込んだり、道に迷ったり......自分の考えや選択に自信が持てないときも、「気持ちを相手に伝えること」が心の処方箋に繋がるという。

「人のいいところを見つけて、それを伝えることを続けていると、だんだん自分に自信が持てるようになってきます。たとえばつらい事があっても、『もしこれが友だちだったら、私ならどんな言葉をかける?』と考えたら、いつも友だちにかけている『あなたなら大丈夫!』という言葉を、自分にもかけてあげられると思うんです。いきなりすぐはできないかもしれないけれど、普段から人のいいことを見つけて伝えることを習慣にしていると、だんだん他人と自分の境界線が曖昧になってきて、友だちに接するように自分にもやさしくできるような気がします」

今の仕事につく前は、美容師をしていた未来さん。クセ毛に悩む人には、くるんとカールした産毛の可愛さを伝えたり、肌色に悩む人には、その人だからこそ似合うカラーを提案するなど、サロン帰りのお客さまに「今の私、いい感じかも!」と思ってもらえるように、素敵なところをたくさん見つけて伝えるようにしていたそう。

「きっとそのときの経験が自分に返ってきているんだと思います。ちなみに私は一重まぶたなのですが、とくに悩んだことがないけれど、もし悩んでいたら私は自分に『いいじゃん、その目!』って言うでしょうね(笑)」

他人に放った言葉が自分に返ってくる。それはネガティブな言葉ばかり口にしていると、もし何かあったとき、自分で自分を助けてあげられなくなってしまうということだ。また“自分迷子”になっている人の話を聞いていると、無意識に周りと比較しているうちに、誰かの価値観に引っ張られてしまっているようにも感じられる。実際に「いつも幸せそうな知人をSNSでみていると、羨ましさとともになんだかモヤモヤすることがある」という声もちらほら........。他人と比べることについて、未来さんはどう考えているのだろうか。

「周りと比べてしまうという人は、その人のどこを見て比べているのでしょう。SNSで見る美しくて仕事もできるその人も、いつも楽しそうにしている友だちも、笑顔の裏では泣いているかもしれない。多かれ少なかれ誰もが何かしらの悩みを抱えています。もちろん私も抱えていますし、そうやってみんな一生懸命生きているんだと思うと、人と比べるという概念なんてなく、ただ人に優しくありたいなって思います。他人と自分は、置かれている環境も、抱えている悩みも、うれしいと感じることも何もかも違うので、そもそも比較する対象なんて存在しないはずなんです」

人の数だけ幸せのカタチはある

生き方のみならず、ファッションにおいても「私は私!」と、自由に楽しんでいる人はどれくらいいるだろうか。「年齢的にこの色はちょっと......」と、世間が作り出した“なぞの常識”にしばられたり、「体型に自信がないから着れない」と、コンプレックスを気にして、したいおしゃれができないことについて、「ここでもやっぱり他人に向ける視線が自分に返ってきている気がします」と語る。

「年齢関係なくおしゃれを楽しんでいる人を見て、うらやましいと感じながら心のどこかで『でも年齢的にどうなのかな』と思っていたり。体型に関しても同じこと。『どんな体型でも素敵だよね』と心から思えたら、自分のコンプレックスを少し好きになれるかもしれません。着たい服をきて気分がアガるのなら、年齢や世間の目など気にする必要はまったくないと思います。最近はみなさんいい意味で年齢不詳なので、聞かなければ実際の年齢なんて分からない。大人びた20代もいれば、30代に見える50代もいますしね。逆になぜおしゃれするのに年齢が関係があるのか聞きたいくらいです(笑)。体型に関しては、着たときに『なんか違うかも』となったら、今の自分に似合う服を探せばいいんです。『◯◯◯だから着れない』のではなく『◯◯◯だから似合う』を見つけにいく!」

“なぞの常識”に囚われてしまうのは、結婚観においても同じようなことがいえる。結婚がゴールじゃないことは分かってはいるけれど、結婚していないことに劣等感を抱いたり、一人でいることに漠然とした不安を感じてしまったり。以前未来さんのネットラジオで悩みを募集したところ、このような声がいくつか届いたのだそう。

「いただいたお悩みを拝読していると、固定概念に縛られているというより、周りの視線が気になって追いつめられている人が多いのでは、という印象があります。今はいろんな選択肢がありますよね。長い間付き合っているけれど、籍を入れていない幸せそうなカップルもいますし、二人が心を通い合わせることができれば、結婚という形式にこだわらなくてもいいし、幸せのカタチに結婚や子どもの有無は関係ないと思っています。また今パートナーがいなくて欲しいなら、行動を起こせばいい。最近はマッチングアプリなどのツールもありますしね。もし恋愛したい気分じゃなければムリにする必要はないし、友だちや家族との時間を楽しめばいい。固定概念や周りの価値観など、“自分以外のなにか”ではなく、自分で選んでいい! そう思います。もちろん結婚して、信頼しあえるパートナーと人生をともに歩むことは、とても素敵なことです。もし結婚に対して不安を抱えているのなら、『なぜ結婚したいのか』を、じっくりと見つめ、答えを探ることで、自分が求める“幸せのカタチ”がはっきりと見えてくるのではないでしょうか」

感情は自分を知る大切なサインだということを教えてくれたインタビュー前編。
後編では、「ありたい自分になるために大切なこと」をお届けします。9月の公開をお楽しみに!

ヘア&メイクアップアーティスト
rihkaディレクター
松田未来

著書「私が私らしく生きる美学」双葉社
好きなことは、猫、早寝早起き、ワイン、
旅先でとことんゆっくりすること。
Instagram:@mira0911
YouTube:Mirai'svlog

次回更新
9月16日(金)
※更新日は予告なく変更する場合があります。

Text : Nana Omori
Illustration : maegamimami

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