
何を纏い、どこへ行こう? 何を選び、どう働く?
私たちの暮らしには、たくさんの選択が溢れている。
たくさんの選択が重なり、自分らしい愛すべき日常が
出来上がっていく。
輝く女性たちはIÉNAを纏い、何を想い、
どんな風に過ごしているんだろう?
日常を少しだけのぞき見させてもらいました。
#8
熊谷 美沙子
neulo Designer

Hayama
3:00 p.m.
リハビリとして始めた編み物に没頭し、
自然と“neulo”が形作られていった
織り始めたキッカケは6年前の手の怪我です。親指を骨折して、リハビリも長引きそうということに。リハビリとして手を動かさなきゃいけなかったので、まず編み物を始めました。旦那さんが持っていたヴィンテージのウィービングアートがあり、これはどうやって編むんだろう?というシンプルな好奇心が生まれ、無心に手を動かし始めました。始めはコットンや羊毛など色々な素材を織り機で試してみながら、出来上がったちょっとした小さなものを友人の誕生日に贈ったり。好奇心から始まったので、完全に独学です。個人的に羊も好きですし、手触りや出来上がった時の感覚が気持ちよかったので、自然と羊毛にたどり着きました。「neulo」というブランド名は、実は1日で決まったんです。私は何が好きだろう?と考えたときに、北欧の言葉や響きが好きだと改めて思いました。そこで、フィンランド語で材料に関係する言葉を探していたところ、すぐにこれだとピンと来て。「ニット」や「編む」という意味なんです。



手を動かしだしたら、無心に
気持ちや手のおもむくままに委ねる
どうやって織っているのか尋ねられることは多いですが、まずデッサンを描くということはしないんです。デッサンを描くと、手で作り上げたというよりも機械的なものが出来上がってしまいがちだと思っていて。それが自分では気持ちよくないので、デッサンを描くということをあえてしないようになりました。実際に手を動かすまでに色々考えていることはもちろんありますが、手を動かしだしたら、自分の気持ちや手のおもむくままに委ねるという感じ。本当に何も考えていなくて、ひたすら無心に勝手に手が動いていくという感覚なんです。そうして、正解かも分からないけれど手が止まる瞬間があり、それが完成したということ。作り上げた2,3日は「出来上がったけれど、これは何だろう…」と、出来上がったものに対してちょっと気持ちが悪いなぁと感じることが多いんです。数日眺めてみて、それでも気持ちが悪いと感じるものはお蔵入りに。でも数ヶ月または数年経ってからもう1度見返したときに、これはいいかもと思い直すものもあったりして。シャルロット・ペリアンなど建築の本を眺めるのが好きなので、そういった時間が頭の中で色合わせやデザインの素になっている気がします。


ずっと変わらないという芯の強さがIÉNAの
魅力。そんな女性でありたいなぁと思う
IÉNAでワークショップを担当させていただきましたが、IÉNAは本当にずっと変わらない。実は大昔にベイクルーズの他ブランドでアルバイトをしたことがあるのですが、その頃から変わらないです。だいぶ前なので、その頃は少しだけ大人の女性のイメージでしたが、今では自分がすっかりそんな年齢に。ずっと変わらないって本当にすごいことだと思うんです。変わらずにブレないということは、媚びず芯があるということ。自分もそんな女性でありたいなぁと思います。情報が溢れている中、一見素敵なものはたくさんあるのだけれど、その中で自分が本当にいいものを選び見極められる女性は美しいなぁと思う。それを目指していけたらいいなぁと思っています。
ありがたいことに今年いっぱいは展示やワークショップなどの予定がつまっていますが、来年はあまり予定を入れないように意識して、仕事とは少し離れた感覚で制作に取り組めたらいいなぁと思案中。今まではあまり色を使っていない作品が多いのですが、もっと色を使ってみようかなとか、海外で買ってきた綺麗な派手な色の古い糸を使ってみようかとか、今からわくわくしています。


“自分にとって何が大切なのか”、立ち止まって
見えたことで、来年は変わっていける気がする
忙しい日々の中で、自粛期間によって立ち止まったことで、結婚してこの家に引っ越してきた時の感覚を思い出しました。自分と深く向き合う時間が3年くらい続き、「neulo」が形作られていったあの頃。この家に引っ越す前は友人と過ごすことが多かった私が、そもそも大切な事ってなんだろう?と考えたり…。あの頃のように、自分にとって何が大切なのか、見つめ直す時間を持つことができました。それによって、今年で1度スケジュールを区切り、来年は色々な挑戦をしてみようかと思えたんです。ご飯を作り、犬と遊び、掃除をして、仕事をして、そうするとあっという間に1日が終わっていく。私は動きが早くない方だと思うんです。だから、編むのはもっぱら夜寝静まった時間。何かに中断されない時間帯に、アトリエでひとりひたすら編んでいます。仕事としてこなすという感覚ではなく、生み出すという感覚を大切にしながら来年はチャレンジしていけたらいいなぁと思っています。



Movie
photo and movie
Yu Inohara
edit and text
Maki Kakimoto
art direction and design
Yoshihide Uchida