【JOURNAL】マンガ作家・山本美希さんに聞く、女性を描き続ける原点と、これからの私たち
NEWoMan横浜店3周年記念!コラボレーションから3年。マンガ作家・山本美希さんに聞く、女性を描き続ける原点と、これからの私たち #emilyweek_journal
2023年6月、EMILY WEEK ニュウマン横浜店は3周年を迎えます。そこで今回、2020年の店舗オープン時に、コラボレーションマンガ「feel bright blue(フィール ブライト ブルー)」を描き下ろしてくださった、マンガ作家、筑波大学芸術系准教授の山本美希さんにインタビュー。
コラボレーション作品を振り返ると共に、山本さんが描き続けてきた“女性”というテーマについて、いま気になっている問題、またコロナ禍を経て考える、これからのことをお伺いしました。
▶︎ 家族との関係、痛み、苛立ち...。“女性”を描くことの原点
―― 山本さんの作品の多くは“女性”がテーマになっていますが、その原点は何だった のでしょうか?
「マンガ家としてこのテーマを描いていこう」と決めたというよりは、何か人生のテーマのような感じで、ずっと“女性”というものを考えてきたように思います。まさにデビュー作、『爆弾にリボン』で描いた女の子のように、私は中学生くらいから自分が女として扱われることに苛立ちや抵抗感をすごく感じていて。その大きな原因の一つに家族との関係がありました。
よく「勉強しろ」と言う親だったのですが、進学の話が出るたびに、東京の私立大学に行った兄とは異なり、私は地元の国公立大学へ行くように言われました。結局のところ、ちゃんと勉強していても「女の子だから」と、格差をつけられていたんですね。進学のことだけでなく、女性の身体を持っていることで傷つく体験もありました。この頃は毎日「好きで女に生まれたわけじゃないのに」という思いを抱えていましたし、こうした家庭内の出来事は外からは全く見えず、誰も気づかないんだということも、その時期によくわかりました。
でも大人になって思うのは、あのとき「私は悪くない」と言いたかった。だから今、あの頃の自分に向けて作品を描いているんだと思うんです。
:山本美希さんのデビュー作『爆弾にリボン』。少女が女性へと成⻑していくことの葛藤が、力強い筆致で描かれる無声マンガ。
―― 作品の中の女の子や女性たちは、つらい思いや経験をしても、必ず前向きな答えや行動に向かって進んでいくように感じます。それには何か理由があるのでしょうか?
作品の多くは、自分の経験や、感じたこと、気になったこと、考えたことがベースになっています。もし救いようのない最悪な終わりにしてしまったら、私自身行き着く先がなくなってしまうような気がして...。
たとえば、生まれてくる我が子に、期待を膨らませる若い夫婦を描いた『かしこくて勇気ある子ども』は、自分のまわりに妊娠、出産をする同年代の友人が増えてきたことをきっかけに描きました。
このストーリーを出産への希望や肯定と受け取ってくれた読者もいて、それはそれでとても嬉しいのですが、私自身は妊娠や出産に対して恐怖やためらう気持ちが大きくて。自分自身がこの世界に生きることに不安なままなので、そこに子どもが来て大丈夫かなとか、産む決意をするにはどんな過程があったんだろうとか、そういう複雑な気持ちの中で描いた作品でもあります。
私は作品を通してこういう状況にどう対応すればいいのか、糸口を探っている感じなんですよね。マンガの中の女性はこう解決した、こう前向きになった、という一案として読んでもらえたらいいなと思っています。
―― そうした答えのない思いや、過去の痛みやつらさも、作品にすることで救われるようなこともあるのでしょうか?
1冊1冊出していくごとに、自分の中のモヤモヤしたものが、ちょっとずつすっきりする みたいなことは、確かにあるかもしれません。自分の部屋にこもって何も言えなかった頃からすると、自分の声が誰かに届くかもしれないということに、すごく希望を感じます。
大人になって楽になった部分も大きいですね。知識や経験が身について、嫌な状況も指摘したり対処したりできるようになったと感じますし、「自分が幸せであること」を第一に考えられるようになったことで、ずいぶん心が落ち着きました。
▶ 生理との向き合い方が変わるきっかけになったコラボレーション
―― 3年前に描き下ろしていただいたコラボレーション作品「feel bright blue」は、どのような想いで取り組んでいただいたのでしょうか?
自分自身、過去に、生理痛の重い女の子が出てくる大島弓子先生の作品を読んで「自分だけじゃないんだ」と安心した記憶があり、いつか生理や初潮をテーマにマンガを描いてみたいなと思っていました。だから、お話をいただいたときは、すごく嬉しかったです。以前よりもオープンな雰囲気になってきたとはいえ、生理のことって、やっぱり友人同士でも話題にしづらいという人はまだ多いと思うんですよね。でも、マンガなら触れやすいし、今一人で生理について何か悩んでいる方が、少しホッとできるようなものを描けたらいいなと考えていました。
―― 自分が女性であることに抵抗感を抱いていた時期もあったという山本さんですが、生理についてはどのように受け止めていたのでしょうか?
ただただ、嫌でしたね。私は生理痛が重く、毎回必ず痛み止めを飲まないとやり過ごせなくて。特に中高生のときは、そのせいで保健室で休ませてもらうこともあって、「なんで こんな目に合うの」というような気持ちで過ごしていたのを覚えています。生理には悪いイメージしかありませんでした。でも一方では、「何も感じない」「全然痛くない」という友人たちもいて、その個人差に驚きました。本当に一人ひとり、抱えているものが違うのでしょうね。
―― 「feel bright blue」では、まさにそんなブルーな女の子が登場しますね。
私もそうなのですが、実際ブルーなつらい日って、生理期間中の2日間くらいで、過ぎてしまえば、つらい時期のことは忘れてケロッと過ごしている。なんだか、生理って、押し寄せては過ぎていく波のようだなと思い、海というイメージが浮かんできました。
このコラボレーションは「Organic Cotton アンダーウェア for RESET」の新色、「ブルー」 の発売を記念していたこともあり、実際下着を使わせていただく機会もありました。とても肌触りが良くて、着心地がいいし、カラーも素敵。ブルーな時期をこれなら楽しい気持ちで過ごせるかもしれないと思いました。そういう自分の気持ちを上げてくれるものを取り入れることで、ちょっと救われたりしますよね。
:「feel bright blue」というタイトルは「ブルー(feel blue)な時にも光(bright) が差し込みますように」という願いが込められた造語。
――「feel bright blue」をきっかけに、生理との向き合い方は何か変化しましたか?
実は私、このコラボレーションのお仕事をきっかけに、生理に関するグッズやフェムケアにも興味を持つようになりました。いろいろと調べるなかで、最近の生理用品はナプキン一択だけじゃないと知り、驚きました。私は子どもの頃に教わった通りのものを使い続けてきて、何をどう変えれば、どうよくなるということを考えたことがなかったんです。それが、いろいろ試してみて自分にはナプキンよりタンポンのほうが合っているとか、吸水ショーツが便利だとか、自分に合った生理用品を知ることができました。そうしたグッズによって量やにおいの悩みも減り、QOLもぐんとアップしたんです(笑)。あんなに嫌だった生理も、こうやって自分で心地よくしていくことができるんですね。
▶ マンガは今を生きる人たちに読んでもらうもの。一緒に考えていけたら
―― 多くの人が影響を受けたコロナ禍、貧困やDVなどさまざまな女性にまつわる問題も数多く取り上げられました。山本さんはどのように受け止めていらっしゃいましたか?
実のところ、担当している大学の授業をオンライン化しなくちゃいけなかったり、目の前の仕事にバタバタしてしまって、この時期、あまり世の中の問題をフォローしきれていなかった部分があります。そんななかでも、渋谷区・幡ヶ谷のバス停でホームレスの女性が命を奪われた事件*1 はショックで、とても印象に残っています。
コロナ禍、突然職を失うことになった女性は多かったと聞きます。現状も、非正規雇用は 女性が多く、何かあったときに放り出されるのは女性なんだな、という思いが拭えません。 私は今、たまたま大学の仕事があるからなんとかなっていますが、マンガの仕事だけだったらとても暮らしてはいけないはず。それもあって、この事件は他人事ではなかったですし、改めて女性の人生を取り巻く問題について考えましたね。
―― いま、山本さんが気になっている女性にまつわる問題や、描いてみたいと思っているテーマがあれば教えてください。
いま気になっているのは、中絶の問題について。これもコロナ禍のことでしたが、アメリカで中絶の権利をめぐってバックラッシュが起きた*2のを目の当たりにしたときは、やっぱり衝撃を受けましたし、危機感を覚えました。日本でも経口中絶薬の議論*3が続いていますが、進歩のなさは気になっています。
毎回こうした、「何かおかしい」とか「ここが気になる」という出来事が、創作につながっています。マンガって、大衆芸術というか、今を生きている人に読んでもらうみたいなところがあると思っていて。それでコロナ禍のことも描こうと思いました。10年、20年先の人のために残すというよりは、今生きて同じ課題を共有している人に向けて発信したい。だから、社会の動きはできるだけ素早くキャッチして、気になったことは作品に取り入れていきたいと、常に考えています。
▶ 周りの人を気にしすぎず、自由に、縛られずに生きて
―― 普段、若い世代の女性と触れ合う機会も多いと思いますが、何か考えさせられることもありますか?
大学で学生の悩みを聞くことはよくあります。とても優秀な学生でも将来について不安を抱えてしまっていたり、ほかにも体型や容姿について他人から指摘されるなど、不快な経験をして悩んでいたり。きっとそれが今もその子のなかに傷として残ってしまっているんですよね。何かできるわけでもないんですけど、自分が彼女たちと同じ年頃にも、同じように悩んでいたな、気持ちわかるよ、と思いながら聞いています。
ただ、その傷とか痛みとか悲しみの中に、ずっといないでほしいと思うんですよね。その気持ちを汲み取った作品があると思うし、ないなら作っていきたいなと思います。
―― これからを生きる女性たちへ向けて、山本さんが伝えていきたいことはどんなことでしょうか。
私から、何か言えるとしたら、「マンガのキャラクターを超えるような、面白い生き方をしてほしい」ということでしょうか。もう、あまり周りの人のいうことに耳を貸さなくてもいいと思うんです。自由に、縛られずに、好きに生きてほしい。
私が若い頃は、大人の言葉がとても重く、「言われたらそうしなくちゃいけない」と思い込んで小さくなっていました。だからこそ、今、若い人を前にすると、どうか小さくなんかならずに、あなたの好きに生きてねと、心から思うんです。
全ての女性たちが、自由な心で生きられたら、それはすごく素敵ですね。
※1... 2020年11月のコロナ禍の最中、渋谷区幡ヶ谷のバス停で、ベンチに座っていた路上生活者の女性が男性に頭を殴られて亡くなった事件。亡くなった女性は数ヶ月前までは派遣会社に登録していたが、コロナの影響で職を失ったとみられている。
※2... 2022年6月米連邦最高裁はアメリカで⻑年、女性の人工妊娠中絶権は合憲としてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を示し、この判決を受けて、アメリカでの女性の中絶権が合衆国憲法で保障されなくなった。
※3...人工妊娠中絶のための飲み薬の製造販売が2023年4月に日本国内で初めて承認された。安全な中絶の選択肢が広がり前進したが、費用が10万円程度と高額なことや配偶者の同意が必要なこと、医院・診療所での使用に限られること、など当事者がアクセスしにくい状況が懸念されており、「女性の権利」について現在も議論が続いている。
山本 美希(やまもと みき)
マンガ作家、筑波大学芸術系准教授。子を持つことの不安を抱えた夫婦を描いた『かしこくて勇気ある子ども』(2020)で、第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞。その他の作品に、車上生活する女性を描いた『Sunny Sunny Ann!』(2012)、『ハウアーユ ー?』(2014)、『爆弾にリボン』(2011)など。文字なし絵本の表現を中心に、絵本・マンガ・イラストレーションについて制作・研究・指導に取り組む。
Organic Cotton アンダーウェア for RESET
《NEWoMan横浜店 3周年記念キャンペーン》
キャンペーン期間:2023年6月14日(水)〜6月20日(木)
対象店舗:EMILY WEEK ニュウマン横浜店
1.NEWoMan横浜店3周年限定セットの発売
スキンケアブランド『SINNPURETE』のEMILY WEEKポーチ付き限定セットを発売いたします。
セット内容:SINNPURETE スキンケアトライアルセット(クレンジングミニボトル・AGローションミニボトル・AGセラムミニボトル)、マインドフルネスフレグランス オードパルファム(3種のうちお好きな香り1種類)、マインドフルネスフレグランス ノンアルコール10mL パッショネートアウェイク(非売品)、EMILYWEEKオリジナルポーチ 価格¥5,721(税込み)
2.無料ガチャキャンペーン
EMILY WEEKニュウマン横浜店にてお買い上げ頂いたお客さまに『SINNPURETE』の商品現品が当たる無料ガチャをご用意しています。(お一人様につき1回までとなります)
staff credit
編集・文 / 秦レンナ
撮影・デザイン / 中森陽子
企画・ディレクション / 柿沼あき子
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#EMILYWEEK_JOURNAL では、さまざまなゲストをお迎えし「女性が心地よく生きるには?」について考えます。
日々を頑張るすべての女性の日常を、心地よいリズムに。
EMILY WEEK(エミリーウィーク)
Harmony in Rhythm for Women's daily life.
"日常を、心地よいリズムに。"
EMILY WEEKは、女性の体の変化とそれぞれの選択を、心地よいアイテムでサポートします。