「こんなにきれいなんやで!」って伝えたい。

フォトグラファー・花盛友里さんインタビュー 前編

それぞれの “美しさ” について考えるコラム連載「Way of thinking beauty」。
ファッションやヘアメイク、心身との向き合い方など、毎回ゲストを迎えて紐解いていきます。

『寝起き女子』やヌード写真集『脱いでみた。』など、女性のありのままの姿やワンシーンを切り取った写真で知られる、フォトグラファーの花盛友里さん。「誰だってかわいくて美しい」を伝える写真やSNSのメッセージを通じて、多くの人を励まし続けています。

そんな花盛さんにインタビュー前編では、幼少期からこれまでのこと、ご自身のコンプレックスとの向き合い方や挫折しそうになったという仕事の話についてうかがいました。

「コンプレックスだった“普通すぎる私”が、今では強みになった」

写真が好きだからずっと続けてきた

──フォトグラファーとして独立されてから15年だとお聞きしました。花盛さんがカメラに興味を持った、最初のきっかけは何でしたか?

14歳のときに、親戚のおばちゃんがフィルムを入れて撮るプラスチックでできたおもちゃのカメラをくれたんです。撮り始めたらおもしろくて、以来、ずっとカメラをアップデートしながら撮り続けています。

専門学校を選ぶときは、写真のほかに洋服も好きだったから、服飾の学校にも体験に行きました。結果、写真の方がすごく楽しくて入学。卒業後はスタジオに就職して、数年後に独立して今に至る、という感じです。

仕事にするぞ!というよりは、中学生の頃からずっと写真が好きでやってきて、気付けば26年経っていたという感覚ですね。

──14歳の頃からずっと撮り続けているのですね。子どもの頃から何ごとも“好き”を貫いて、続けるタイプだったのでしょうか。

全然そんなことありません(笑)。こんなに続いてるのは写真だけです。習い事はすぐ辞めるし、趣味も全然続かない。

普通すぎる自分のことがずっとコンプレックスだったくらい、何の取り柄もない子だと思っていました。小説だったら主人公にはならないタイプ。

でも、写真だけは好きだったんですよね。記憶には一部しか残らないけど、写真はずっと残るじゃないですか。撮ったものを見返して、「あのとき、こういうことがあったな」って記憶が蘇る瞬間が好きなんです。今もフィルムを現像して見るときが一番楽しいですね。

「もう辞めよう」と何度も思ったフォトグラファーの仕事

──それでも、フォトグラファーとしてデビューしてからの道のりは平坦ではなかったそうですね。

スムーズにキャリアを重ねてきたわけではなかったです。何回も挫折しそうになったし、もう辞める!って泣いたことも何度もあります。

25歳でデビューして、29歳くらいまでこの仕事一本では食べられなかった。そんな時期が4年近くあったので、続ける意味はあるんだろうかと悩んでいました。

もう辞めようと思ってハローワークに行って違う仕事を探したり、もういいやと半ば諦めの気持ちからニューヨークに半年間行ったりしていましたね。写真を撮ることを辞めた時期もあります。

日本に帰ってきて、また撮り始めてちょっと仕事をもらえても、自分の色がないから雑誌のページのなかで撮った写真がどれかわからなかったり、編集の人にも「最近よくないよ」と言われたりしていました。

何が正解かわからないし仕事は増えないし、いっぱい躓いて、もがいていましたね。

──もがきながらも続けてきたのですね。

「こんなにいい写真を撮ってるのに何を言ってんねん」みたいに言ってくれる人たちがいたんです。飲み屋とかでね(笑)。

だから、もう一回作品撮りをしよう、それで個展を開こうって決めました。それまでにいただいた仕事では自分の作品のように撮れなくて、言われたことをこなせばいいと商業的に撮っていたんです。だから楽しくなかったし、仕事相手にもその点を指摘されていました。

やりたくて好きな仕事なのに、いざやってみたら、この仕事に私らしさはあるだろうかと壁にぶつかっていましたね。だから30歳前後で仕事やキャリアに悩む方の気持ちは、とてもわかります。

妊娠・出産が人生のターニングポイントに

──その後、2014年に初の写真集『寝起き女子』を、2017年にはヌード写真集『脱いでみた。』を発売。2014年には出産も経験されていますね。

2012年頃にもがきながら撮り始めたのが『寝起き女子』でした。この頃にやっと写真で食べていけるようになりましたね。

でも、これからというときに妊娠がわかって、もう終わりだと思いました。せっかく写真で食べられるようになったのに仕事は全部なくなるだろうし、お母さんになったらキャリアが終わるんだって思ったらすごく悲しかったんです。

当時の私にとって、「母親=昭和のお母さん像」だったんですよ。アニメやドラマでよく見た良妻賢母。私が “あの” お母さんになるの? なりたくない!って強く思いましたね。

同時に、自分がやってきたことを残したいと思って、のちに『脱いでみた。』プロジェクトにつながるヌード写真を妊娠中に撮り始めました。保守的にならずに激しいことをやろうと思ったんです。30歳のときでしたね。

だから私のターニングポイントは、間違いなく妊娠と出産。妊娠したことで、絶対に写真集を出版しないと忘れ去られるって焦りが生まれて、大きなお腹で撮影も営業もこなしました。

出産したあとは本当に仕事が全部なくなって、またイチから営業。妊娠前に写真で食べていけるようになっていたとはいえ、当時は“代わり”のいる仕事しかできていなかったんだと思います。

だから妊娠していなかったら、いただく仕事をこなすことを続けていたかもしれないし、そうすると今はない。お尻を叩いてくれたのは子どもだなと思いますね。

『脱いでみた。』の撮影はカウンセリングのよう

──妊娠・出産を経ての一大プロジェクトだったのですね。今も続く『脱いでみた。』のモデルは、みなさん一般の方です。

最初はプロのモデルさんを撮っていました。その撮影をとおして、きれいな彼女たちでも体や見た目のことで悩んでいることを知って、私たちと一緒なんだと思ったんです。

「きれいに撮ってくれてうれしい。こんなふうに見えるんだ」ってプロの彼女たちが言うなら、一般の方もそう思ってくれるんじゃないかと思って、SNSで撮影モデルの募集を始めました。

モデルはこれまでずっと先着順でやってきて、選考はいっさいしません。撮影当日に、はじめましてと顔を合わせるスタイルです。選考をしないのは誰だってきれいなのだということをきちんと体現したいから。自分が思う自分と、人が見ている自分は違うことも多い。 だから「ほら、こんなにきれいなんやで!」って伝えたくて、このスタイルを続けています。

──モデルに応募される方からは、どんな声が多いですか?

「自分のことをもっと好きになりたい」「『脱いでみた。』のインスタグラムアカウントに写る人たちのように、私も自信を持ってポジティブになりたい」という声がすごく多いです。

撮影当日まで顔を合わせないから、「こんな体型なのに大丈夫かな」って、みんな緊張しながら来てくれます。でも、見た目は関係ない、みんなかわいくてきれいなんだよってことは普段発信している内容からわかってくれているから、コンプレックスを自分で認められるようになりたくて参加してくれているんだと思います。

「すごくきれいだよ、もっと自信を持って大丈夫だよ」っていつも思うけど、私がどんなふうに言ってもきっと彼女たちの心の奥底には響かない。だから、撮影したものをその場で見せて、自分で納得して帰ってほしいと思ってやっています。

撮影はお互いのカウンセリングみたいな時間です。モデルの子は表情がどんどん変わって輝いていくし、私もその様子を見ながらポジティブな声をかけることで自分も救われているところがありますね。

コンプレックスを強みに変えて

──花盛さんの写真は、自然体でリラックスしたモデルの姿が印象的です。撮影中に心がけていることはありますか?

その人らしさを撮りたいっていう気持ちがすごくあるから、私の写真からモデルの自然体な様子を感じてもらえたとしたら、すごくうれしいですね。

フォトグラファーになって15年ですが、私の強みって何だろうとずっと悩んできました。普通すぎる自分に何があるんだろうって。

でも、『脱いでみた。』の撮影を通じて、相手の心をほぐすのがすごく得意なことに気付きました。会話を探して、質問して、話を聞いていくうちに、今こう感じたなとか、これは嫌なのかもとか、こういう会話が好きなんだとかを感じるのが得意なんです。

それは私がもともと人見知りで、写真を撮られることが今でもめっちゃ嫌いだから。みんなが撮影のどこで緊張するのかがよくわかるし、過去に自分がやってもらいたかったことをしています。昔の私も人見知りで話せなかっただけで、もっと話したかったなって思うから。

“普通な私”であることが今は強みになって、相手の気持ちに寄り添えるから自然体な姿を撮れているのかもしれません。写真がうまいとかおしゃれとかじゃなくて、心を開くのがうまいんだと思っています。

──ご自身がコンプレックスだと思っていたポイントが強みに変わっていったんですね。

『脱いでみた。』に来てくれる子たちとたくさん話すなかで、いいこともよくなかったことも、今まで体験してきたことがここに来て全部大事だったなと思いました。

過去の経験があるから「わかる!」って相手に共感するし、逆に「それはどういう感情か教えてほしい」って新たに気付くこともある。相手を撮ることが不思議と自分と向き合う時間にもなり、モデルと私が呼応していくんですよね。ヒーリング効果あり、学びもありと、私にとって欠かせない時間になっています。

フォトグラファー花盛友里

大阪府出身。2009年にフォトグラファーとして活動を開始。雑誌や広告を中心に活躍中。2014年に『寝起き女子』、2017年『脱いでみた。』を発表。 女の子の「ありのままの姿」を切り取った作品で注目を集める。 2020年に『脱いでみた。』シリーズ第2弾となる『NUIDEMITA-脱いでみた。2』を発表するなど作品づくりを続けている。 2021年にアンダーウェアブランド「STOCK」を立ち上げるなど、幅広く活躍。 Instagram:@yurihanamori

次回更新
7月14日(金)
※更新日は予告なく変更する場合があります。

Text : Kaori Terada
Illustration : maegamimami
Plannnig : Mika Morishima

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