パーフェクトはつまらない、恥をかくことは宝物!自分で“決める”ことで人生が動き出す
結城アンナさんインタビュー 後編
それぞれの “美しさ” について考えるコラム連載「Way of thinking beauty」。
ファッションやヘアメイク、心身との向き合い方など、毎回ゲストを迎えて紐解いていきます。
誰にでもある、人生に右往左往してしまうとき。落ち込み、悩みながらもよりよい方に向かおうとする力はどこから湧いてくるのでしょうか。
67歳の現役モデル・結城アンナさんも例外なく、大小さまざまな波がやってきた人生だったと話します。
10代からモデルとして活躍し、20代で俳優の岩城滉一さんと結婚・出産。30代で芸能界を一度引退したのち、60代で本格的にモデル業に復帰した結城さんに、前編に続きインタビュー。
後編では結城さんの考え方や物事への取り組み方など内面についてお聞きしました。
「もし、パーフェクトな人がいたとして、そんなつまらないことってない」
正反対夫婦が円満でいるコツ
──結城さんとご家族の関係性に憧れている方も多いのではないかと思います。結婚47周年?を迎えられていますが、家庭を円満に保つ秘訣はあるのでしょうか?
いろんな家族や夫婦の形があると思いますけど、これが正しい!という決まった答えはないですよね。だから、自分たちに合う形やあり方を見つけるとラクになるんじゃないかな。夫婦とは家族とはこうじゃないといけない、と思ってしまうと、そこから外れたときに不幸な気持ちになるじゃないですか。
私と夫は、考え方も趣味も生活スタイルも違うところだらけなんです。例えば、私は6時に起きて朝ごはんを食べるけど、夫は10時頃に起きて朝ごはんは食べずにコーヒーを飲むんですね。もし、「朝ごはんは6時よ!」と言ったら相手の負担になりますし、彼が10時過ぎに起きてきて「味噌汁が飲みたいな」と言われても困るわけです(笑)。
私は私、あなたはあなた。もしかしたらみんなとは違うかもしれないけど、私たちはこれが心地いいからオッケーだよね、という考えと潔さがストレスのない生活の秘訣だと思います。小さなことを大きな問題にせず、工夫していくことでしょうか。
──お互いを尊重していらっしゃる様子が伝わってきます。娘さんとの関係も同様でしたか?
娘の場合は、私が21歳と若いときに産んで不安だったこともあり、しっかり育てなきゃいけないと厳しく接していましたね。自立した子になるようにと、夏休みには海外のキャンプに行かせることもありました。
でも、すごくいい子なので大学生くらいからしつけを緩めて、そこからは友達のような関係です。いつも私が娘に相談することが多いですね。娘は今アメリカに住んでいますが、毎日のようにメッセージのやりとりをしています。世の中の新しいことを教えてもらったり、作ったケーキがおいしかったらレシピを送ってみたり。日本にいたときは朝から晩まで話して、一緒に料理や旅行をする関係でしたね。
子育てを通じて思うことは、本当にあっという間に終わるということ。時間は戻ってこないので、大事なときを思う存分に楽しむのがいいなと思います。
母を看取った経験から
──結城さんはご自宅でお母様の介護も経験されています。
6年、在宅介護をしていました。母は生き生きとして社交的でファッションが大好きな、きれいな人だったんですね。母がおばあちゃんになる姿を想像できなかったのですが、60代後半で認知症になったことで、前触れもなく急におばあちゃんになって。
当時、母は京都に住んでいました。おかしいなと感じたのは、意味不明な内容のFAXが私のところに大量に届くようになったことから。病院に連れていって診断が出たのち、母を東京に引き取りました。24時間付きっきりの介護は大変なときもありましたが、毎日がドタバタコメディのようで楽しい思い出もたくさんあります。
「もう今日は疲れたから、ごはんはみんなで勝手に食べてくれる?」と言った日もあります。家族には感謝していますね。
あのときの母の年に近づいて、自分だっていつどうなるかはわからない。だから今を楽しまなきゃと強く思います。
──介護をされた経験が今を楽しむ姿勢につながっていらっしゃるんですね。家族のこと、家事、仕事と日々忙しいと思いますが、どんなことが気分転換になっていますか?
実は気分転換はあまり必要じゃないタイプで、あえて取り入れることは少ないです。でも、友人と話すのはリフレッシュになりますね。あとは、動画配信サービスでドラマの一気見。楽しくて止められなくなっちゃって(笑)。
ほかには、コロナで中断していた1時間のパワーウォーキングを復活させました。週に3回、取り組んでいます。あとは新たなチャレンジで、動画の編集を自分でできるようになりたくて覚えようとしているのですが、根っからのアナログ人間なのでなかなか難しくて……最近の目標です。
こうやって話してみると、結構ありましたね(笑)。
──逆に、やらなくなったことはありますか?
いろんなことに興味があって好奇心旺盛。ハマると朝から晩までずっとやるタイプなんですね。
いつも友人が「一緒にやらない?」と誘ってくれて、そのときはあまり興味が持てなくてもやってみなくちゃわからないし、断る理由がなければせっかくのお誘いなので一緒に行きます。そうすると、だいたいひとりでハマってしまうんです(笑)。
逆に、やりきって興味を失ったものもありますよ。極真空手、着物の着付けとか。
「パーフェクト」ってつまらない
──朗らかでアクティブな結城さんですが、ネガティブな感情を持つことはありますか?
ありますよ。「あ、来たな」って思いますね。私はネガティブな感情のなかに入り込んでしまうと、本当にどこまでも落ち込んで這い上がるのが大変なので、自分でストップをかけて切り替えるようにしています。
私の場合は体を動かすのが効果的だとわかっているので、散歩に行ったり掃除をしたりしていますね。窓を拭いて、床を磨いて、棚のなかのものを全部出して整理して……家がきれいなときはネガティブな気持ちが芽生えているときなんです(笑)。
時間を無駄にしたくないし損もしたくないから、掃除は最高の方法。家はきれいになるし、片付いた部屋をみると「やったー!」ってポジティブな気持ちに切り替えられる。「ネガティブが来そうだな」っていうセンサーは自然と働くようになりましたが、結果、今はあまり落ち込まなくなりました。
──ご自身に合った方法を取り入れていらっしゃるのですね。今はSNSがあるからか、他人と比べてネガティブになってしまう、自分の欠点ばかりが気になるという声も聞こえてきます。
何事にもパーフェクトはないと思うんです。もしも、完璧な人がいたとして、そんなつまらないことってないじゃないですか。見た目だってどこかちょっと曲がっていたり、左右対称じゃなかったり、そういうところがチャーミングで人としての魅力につながるんだと思います。
そういう個性を持ち合わせながら、一番いい自分を目指すのが大事なことかなって。
だって他人にはなれないですよね。もし、なれたとしてそれが本当に自分にとっての幸せなのかといったら、そうじゃないと思うんですよ。
自分を受け入れることは難しいこともあります。年齢を重ねればなおさらそうかもしれないけど、早く受け入れられれば、その分長く自信を持って幸せでいられるんじゃないかな。
いいとか悪いで自分をジャッジすることをやめて、これが私の人生だから受け入れようって決めることも大切な気がしています。
人生の舵を取るには
──自分を受け入れると“決める”ですか。
そうそう。人生っていろんなストーリーの組み合わせで、いいストーリーのときもあれば、よくないストーリーのときもあるじゃないですか。 その「よくないとき」に、どうやって乗り越えられるかがすごく大事な部分ですよね。いいか悪いかに揺れ動かされるんじゃなくて、起きている現実を受け入れた上で自分は何を選べるのか。それによって人生をどう動かしていくか、だと思うんです。
私は、今自分がどんなストーリーのなかにいるのかを知ったり、自分の考えをまとめたりするために、日記を書いていました。紙に書くことでクリアになるし、人生がどの方向に向いているのか、はっきりしてくるんです。思っていたのと少し違う方に向かっていたら行きたい方向に進めるよう工夫してみようとか、もっとこういうことを自分の中に取り入れたいだとか。次のステップが見えてくるんです。
たとえ今すぐには叶いそうもないことでも、頭のなかをクリアにして自分の考えをまとめておけば、この先に出会う人がそのヒントやチャンスをくれるかもしれない。チャンスがあっても掴めないところにいると逃しちゃうから、新しいことを受け入れられる心と体をいつだって用意しておきたいと思うんですよね。
──自分の現在地を確認していらっしゃるんですね。新しいことへの挑戦に対して、不安や心配になる気持ちはありませんでしたか?
考えをまとめることで新しいことへの準備ができているからか、不思議と不安や心配な気持ちは起きませんでしたね。あとはね、たまには頭で考えすぎずに飛び込むのがいいかもしれない。不安なのはまだわからないからなだけで、いざ始めたら楽しいかもしれないじゃない?
失敗するのが怖い、恥をかくのが嫌、という声もあるかもしれないけど、自分で世界を制限しないでほしいなと思います。誰だっていつかどこかで恥はかきますから、恐れないでって。恥をかくことは宝物ですよ。
──最後に、結城さんのこれからの目標はありますか?
転ばないようにやっていきたいと思います……というのは冗談で(笑)。
絵を描くことや家の改造、料理に動画編集と、今やっていることをもっと深掘りしてやっていきたいなと思っています。
そうしてやっていくうちに、今度は油絵に挑戦してみたいとか、ピザを作ってみたいとか、新たにやってみたいことも出てくるかもしれません。
でも、今の生活にまったく関係ないことが頭に浮かばないのは、今、好きなことをして自分らしく暮らせている証拠なのかもしれませんね。
やらなきゃいけないこともやってみたいこともがたくさんあるので、丁寧に向き合っていきたいです。
モデル結城アンナ
1955年スウェーデン生まれ。夫は俳優・岩城滉一氏。著書やSNSで自らの心地よいライフスタイルやファッションを発信。そのシンプルで自然体な暮らし方は世代を超えて支持されている。自身の描くイラストにも注目され2022年12月、初の個展を開催。雑誌やトークショーなど多方面で活躍中のポジティブエイジング。
著書に「自分をいたわる暮らしごと」「Anna's Cookbook/季節の食卓」(主婦と生活社)「北欧が教えてくれたシンプルな幸せの見つけ方」「アンナ流 大人の心地よい装い」(宝島社)
新書「Then & Now /結城アンナ」(扶桑社ムック)3月14日発売。
Instagram:@ayukihouse
次回更新
6月9日(金)
※更新日は予告なく変更する場合があります。
Text : Kaori Hasegawa
Illustration : maegamimami
Plannnig : Mika Morishima