福本 敦子|美容コラムニスト

美しさとは、
気づき、育み、心を動かすこと。

それぞれの “美しさ” について考えるコラム連載「Way of thinking beauty」。
ファッションやヘアメイク、心身との向き合い方など、毎回ゲストを迎えて紐解いていきます。

独自の美容論とポジティブなライフスタイルを発信する、美容コラムニストの福本敦子さんによるコラム連載。
敦子さんを構成するエッセンスと最近の美容事情について、前・後編に渡ってお届けします。

憧れ

Q. 「こうなりたい」という憧れの気持ちを持ってコスメを選んだりすることも多いと思いますが、敦子さんにとって「憧れ」とは?

- 憧れる人やものは、既に自分の中にその種を持っているサイン。あとはそれを大事に育てるだけかも知れません。

私は、昔から「その人にしかできないこと」をしている人に憧れます。
どんな人にでも、その人にしかない魅力って必ずあると思うし、生活の中で「その人らしさ」を感じたとき、その人がよりいっそう、魅力的に見えてきます。
自分らしく生きている人を見ると「そういう乗り越え方もあったんだ」と気付かされたり、
「あの人ならしょうがないよね」と周りを納得させる力強さに不思議な魅力を感じさせられたり。
そういう瞬間に触れるたびに、パワーをもらえたような気がして、嬉しくなります。

もしかしたら何でもない時よりも、断り方や謝り方、ピンチの乗り越え方など、一見ネガティブに見えるシーンこそ「その人らしさ」が輝く場面かもしれません。
その人の「すごいところ」だけでなく、お茶目でかわいげのある「弱いところ」も愛おしく思える。そんな気持ちで人と向き合っていたいと思います。

「憧れ」って、もともと同じように共感できる要素を自分自身が持っていて、
それをさらに極めた人を見たときに「ああなりたいな」と感じる感情なのかなと思っています。
憧れの人や場所は「あなたもそうなれるよ」と教えてくれる、道しるべのようなもの。
それが自分にとっての「憧れ」なのかなと思います。
やりたいことがわからない人は、「憧れ」をひとつの指標にすると、自ずと自分が見えてくるかもしれません。

そのときに大切なのは「まだそうなってない自分」を否定しないこと。

花を咲かせる前の植物も
「まだ花が咲いてないから私はだめ」
なんて思ってないよなぁって思うんです。
ただ成長に向かい、花を咲かせるという純粋な気持ちだけを持っている。
成長の途中では進歩が見えにくくても、花が咲く日は確実に一歩ずつ近づいている。
そう信じられる力を持つことが大事なのかも知れません。

同じように、自分の人生を楽しんでいる人にも、憧れます。
人生ってつまり「時間を与えられている状態」だと思うんです。
限りのある時間を好きなもので満たして、自分の持ち時間を楽しむ。
そうすると、憧れの気持ちを基に、自分を満たしてあげられるように思います。

自然

Q. オーガニックコスメにも深く関係する自然。自然とはどんな風に関わっていますか?

- 心地良さと、生命力。

20 歳ごろからずっとオーガニックコスメにまつわる仕事をしてきて、 自分にはやっぱり自然の気持ち良さが合っていると思うし、 自然に助けられたなと思った出来事がたくさんありました。

私にとってナチュラルなコスメの最大の魅力は、使った時の心地よさはもちろん、 肌や自分自身が元気になるような生命力を感じられること。
海に浮かんだ時のクリアになる感覚や泥に触れた時のリラックス感、
自然そのものに触れているような感覚の破片が、
オーガニックコスメ達には散りばめられているように感じ、
自分自身が内側から元気になるのをサポートしてくれているように思います。
オーガニックコスメの魅力を聞かれたときによく、
「パソコン100台に囲まれているのと、100本の木に囲まれているのは どちらが気持ちいいかイメージしてみてください」
とたとえ話をするのですが、そうイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。

自分が行き詰まっているなと感じた時も、自然に触れることでとても助けられています。
エネルギーが下がっている時に自然に触れて、気持ちいい風に吹かれたりすると、
気持ちがクリアになって視界がぱっと開けたような感覚になります。
ぎゅっと縮こまっていた自分の身体と心がすーっと開いて、大きくリラックスする感覚になる。
人間に備わった自然の感覚がそうさせているのかな?と不思議に思います。

最近で印象に残っているのはこんな経験です。
夏に沖縄の海に入ったとき、あまりに水がきれいで、 水中の砂をつかんでみました。
水面がキラキラと美しくて、
水の中でそのまま少しずつ手を開くと、
波に押されて砂がどこかへ流れていき、
サーっと無くなって、
手のひらにはあたたかい太陽の光が当たりました。

このときに「あっ、手放すってこういうことなんだな」って直感的に思いました。
全然関係ないのに、インスピレーションはいつも急に来るから面白いですね。
こんなふうに、自然の中にいるだけでもらえるヒントは本当にたくさんあります。
身体を通してフィジカルに経験できるからこそ、
ハッとさせられることも多いのかなと思います。

スリランカのアーユルヴェーダの医師との自然についてのやりとりも、とても印象的でした。
会話の中で
「東京にはあんまり自然がないんだよね」
と言う私に、ドクターは落ち着いた瞳で
「世界中どこにでも自然はあるんだよ」
と言いました。
この時は本当にハッとしました。
夜が来て朝が来るのも自然の秩序だし、都会は狭い、
と思っていたけど狭くなっていたのは自分の心と視野の方で、
何を感じるかはそのときに自分が何を視ようとしているかなんだなと感じました。

感情

Q. 日頃、感情とはどんな風に向き合っていますか?

- 自分を育ててくれる、心のインナーマッスル。

大人になっていろいろな経験をする中で、嬉しい、楽しいなどのポジティブな感情だけでなく、
悲しみや喪失感などの、ネガティブな感情も悪くないな、と感じるようになりました。

自分にとって大切なものを失ったり、
やりたいと思っていたことが思うように出来なかったときに感じるあのヒリヒリする気持ち。
そのときは嫌だなと思うけれど、しっかり向き合ってみると、そのときにしか生まれないこと、
その経験をしたことで見えてくることもあるんだな、と感じています。

経験したことのない状況や感情に向き合っているとき、 心の中で使ったことのない筋肉が鍛えられているような、 じわじわ何かが育まれていくのを感じて、時間が経つと人の気持ちを理解したり、
物事を深く見るための“こころのインナーマッスル”になっているような気がします。

目に見えないものだけど、もしかしたら辛い気持ちって、 植物が根を張るように自分の内側を育ててくれているのかもしれないな、
と感じるようになりました。
楽しい気持ちを求め、嫌な感情を避けるのではなく、両方を同じように受け止められたら、
もっと自分自身がやわらかく、日々という海を泳げるようになる気がする。
中々難しいけど、少し辛い時に一歩引いてみる余白を持つとそんな風に思うこともあります。

ネガティブな感情のいいところをもうひとつ。音楽の良さが改めてわかりました。
自分が元気なときよりも、 辛いことに向き合っているときのほうが音楽の素晴らしさを感じます。
この秋は家族の体調が悪く、何も出来なくて悲しい気持ちになることが多かったのですが、
そんなときも音楽は、自分の凝り固まった心にきれいな水をかけるように、ほぐしてくれました。

辛いときは、乾いた根に水をやる感覚で音楽からパワーをもらって、
忍耐強く状況が動いていくのを待つ。
音楽からはそんな強さをもらえる気がします。
なぜ世界にこれだけ愛に関する曲や美しい歌があるのか、 ちょっとだけわかったような気がしました。

言葉

Q. 敦子さんの言葉が好き!という方も多いと思います。敦子さん流の言葉との付き合い方は?

- 心に残り、人生に気づきを与える。

過ぎてから気がつくのですが、自分の人生の転機には、いつも周りの人からの言葉がありました。
言葉には、パッと空気を変える力があるように思います。

「この感情にしっくりくる言葉ってなんだろう」とか
「この状況を単語で表すと一番フィットする単語ってなんだろう」といつも考えています。

私はついつい言葉を選ばずに本当のことをそのまま口にしてしまうことが多くて、
それが良い方向に働くこともあれば、そうでないときもあります。
性格だから仕方ないけど、ちょっとストレートに言いすぎたなぁと思うことも日々あります。
先日、友達のお母さんと雑談しているときに話の流れで言葉の話になって
「言葉がね、いちばん安くてお金がかからなくて、相手の気持ちに残るの。 だから、人のいいところを見つけたらたくさん褒めてあげてね」
とその方が言いました。

すごく面白い意見だなぁと思いました。
「安くてお金がかからなくて相手の気持ちに残る……本当にその通りだ!」
とびっくり(笑)。
あたたかく、地に足のついたユニークなその言葉が、ずっと心に残っています。

美しさ

Q. 敦子さんにとって、美しさとは?

- わたしにとって美しさとは、「心が動くこと」。

美しいものを見て、心が動くことがただただ嬉しい。
できるだけたくさんの美しいものを見て生きていたいなぁ、と日頃から思っています。
そういう気持ちから旅も好きで、いろんな風景を見ては、心を動かされています。

美しさには定義がなくて、人それぞれが心で感じるものだから
「これがこういう風に美しいんですよ」
と説明できないところも好きです。
その時に美しいと感じるものは、自分の状態によっても違ってきますよね。

そう考えると、定義がないものだからこそ、自分にとっての美しさとは、
誰かが考えた「美しさ」の箱に入るかどうかの判断ではなく、 自分自身が心から「きれいだな」と思えるものを探していくことが、
人生の楽しみになるのではないでしょうか。

美しさは、美しいものが好きな人の気持ちに宿るように感じています。
その人が綺麗と感じるものを大切にしているときに、その人も綺麗に見える。
自分にとって美しいものを愛すると、美しさからも愛されるのでは……!

自分にとって「いいな」「きれいだな」と思うものをたくさん探していきたいです。

美容コラムニスト福本 敦子

「コスメキッチン」に14年間勤務後、独立。
オーガニックに精通した知識と、ライフスタイルに寄り添った独自のオーガニック美容論が、
著名人やエディターをはじめ各方面から大人気。
「#敦子スメ」は「読んだ瞬間試したくなる」と
数多くの反響を呼ぶ。
著書に「今より全部良くなりたい 運まで良くする
オーガニック美容本 by敦子スメ(光文社)」
「今から、これから。好きを感じる美容と生活(幻冬舎)」
「気持ちが上がればそれでいい 12星座と星占い
by敦子スメ(cccメディアハウス)」。
その他雑誌、イベント、podcast、YouTube、コラボ商品デザインなど多方面で活躍。
Instagram : @uoza_26
YouTube : ATSUKO FUKUMOTO

次回更新
12月19日(月)
※更新日は予告なく変更する場合があります。

Text : Atsuko Fukumoto
Illustration : maegamimami
Edit : Nobuyuki Shigetake
Plannnig : Mika Morishima

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