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Downtown NYC 1995 in SHIBUYA TYO 2024.

1995年、リトル・イタリーの白昼夢。| インタビュー:ケヴィン・ハット

『Chloë Sevigny for JOURNAL STANDARD by Kevin Hatt』の発売に際し、キャットストリートの〈JOURNAL STANDARD〉で写真家のKevin Hatt(ケヴィン・ハット)の写真展が9月27日(金)よりスタートする。これをセレブレートし、ケヴィン本人へメールインタビューを敢行した。Chloë Sevigny(クロエ・セヴィニー)とのシューティングの裏話をはじめとする、貴重な証言を通じて1995年のニューヨーク、リトル・イタリーの非日常的な日常を追体験する。

関連特集『僕らが好きなクロエ・セヴィニー。』はこちらから。

Interview&Text_Nobuyuki Shigetake
Planning_Yusuke Takayama(JOURNAL STANDARD)

ケヴィンさん、よろしくお願いします。簡単な経歴から教えていただけますか?

Kevin:よろしく。写真家になるためにバンクーバーからニューヨークに移り住んだのが1983年のことで、他の多くの写真家がそうであったように、僕もアシスタントからキャリアをスタートしたんだ。幸運なことに、最初に就いたのが、かの有名な悪名高きビル・キングでね(笑)。その後はスティーブン・マイゼル、アレックス・シャトラン、エリック・ボーマン、ペリー・オグデンらと一緒に仕事をして、写真家として生きていくための大きなヒントを得ることができたよ。

ケヴィンさんは、なぜ写真家になろうと思ったんですか?

Kevin:ティーンの頃にマリリン・モンローを知ったことがきっかけかな。マリリンを初めて知ったときから、写真に──いや、それだけでなく、美しいものに魅了され続けているんだ。彼女と一緒に仕事をした偉大かつ、多様性に溢れた写真家たちは、どのようにして彼女のイメージや個性を捉えたのか……想像するだけですごく刺激的だよ。特に影響を受けたのが、リチャード・アヴェドンが撮影したマリリンの悲しげなポートレート写真。この作品を知ったことは僕にとって大きな出来事で、アヴェドンの素晴らしい作品の数々と出会うきっかけにもなったんだ。

©1995 Kevin Hatt

ケヴィンさんにとって特に印象深く、現在の自身のキャリアに繋がった仕事でいうと、どのあたりが例に挙げられますか?

Kevin:独立した1990年代のはじめに『dELiA*s』という、若者に向けたファッション・カタログの立ち上げに関わって、それから5年間『dELiA*s』の撮影に携わったことだね。その5年間はカタログの撮影をしながら、『dELiA*s』のイメージを形作るためのビジュアル・ディレクションに全力を注いだんだ。これは僕自身にとって大きな出来事だったし、90年代のファッションシーンにおいても象徴的な出来事のひとつだったと思うよ。プライベートワークでいうと『The Young Ones』と名付けた白背景のポートレート・シリーズは、この時期にスタートした作品だね。

1990年代といえば、僕たちのTシャツにプリントさせてもらったクロエ・セヴィニーの写真が撮影されたのは1995年ですよね。1995年は、Kevinさんにとってどんな時期でしたか?

Kevin:僕自身と僕の友人たち、特にリトル・イタリー(編集注:ニューヨーク市ロウアー・マンハッタンに位置するイタリア系移民の多い一角)で暮らしながら活動していた若いアーティストたちにとっては、1995年はまちがいなく特別な時間だっただろうね。さて、どこから話そうかな?

©1995 Kevin Hatt

では、その頃のリトル・イタリーの雰囲気から聞かせてください。

Kevin:OK。僕が暮らしていたリトル・イタリーの近所は、まさに才能の宝庫だった。友人たちはみんな、新しくて刺激的なことをしようと躍起になっていたしね。今はもう家賃が高くて駆け出しの子たちは住めないだろうけど、当時のマンハッタンはたくさんの若いアーティストたちが暮らしていて、みんな成功を夢見ていたんだ。ミュージックビデオの監督をしている友人もいたし、俳優やミュージシャンになった友人もいた。当時の僕から見ると、彼らはみんな成功しているように見えたんだけど、ビースティー・ボーイズのアダム(ある日、彼は急に僕に電話をしてきて、仏教雑誌の『Shambhala Sun』誌 (※現在の『Lion’s Roar』誌)のためにポートレートを撮ってほしいと頼んできたんだ)を除いて、誰も“有名”にはなっていなかったね。

なるほど。クロエとは以前から親交があった?

Kevin:そうだな、順を追って説明させてもらうと、まず、友人で映画監督のデイビット・ペリッツ・シャディとアダムと一緒に写真家のスー・クォンの家の裏庭でドミノをしていたときに、近所で暮らしていた映画監督のハーモニー・コリンと出会ったんだ。僕らはすぐに友達になった。それから少しして、ワシントン・スクエアでクロエに出会ったんだよね。彼女は『Liquid Sky』という洋服屋で働いていて、おしゃべりをしているうちに、後日ポートレートを撮らせてもらうことになった。スタジオはスプリング・ストリートで、近所だからとても便利に感じたのを覚えてる。約束の日になるとスタジオにクロエがやってきて、その場にハーモニーも立ち寄ってくれて、クロエと2人でのポートレートも撮らせてもらったんだ。撮影はとても楽しくて、スタジオにはすごくリラックスした空気が流れていたよ。写真にもそれが現れていると思う。これはクロエがのちに教えてくれたことだけど、僕が撮ったクロエの写真、彼女の母親の大のお気に入りなんだってさ。こんなところかな。なんとなく、どういう写真か分かってくれたかな?

©1995 Kevin Hatt

ええ。すごくリラックスした空気が流れている、とても素敵な写真だと思っていました。

Kevin:ありがとう! この写真は僕の名前がクレジットされた他の写真と同様に、パーソナルな興味と衝動だけで撮影したんだ。僕にとって写真は、本質的には自分の喜びと楽しみのために存在しているものなんだよ。被写体と向き合って撮影をしているときも、撮影した写真の美しいプリントを眺めているときも、常に自分を満足させることに一番力を注ぎたいと思っているんだよね。クライアントから依頼をもらって撮影するコミッションワークだとしても、この気持ちは変わらない。かつてロンドンの『The Sunday Times』のためにたくさんのポートレートを撮影したけど、そのどれも自分のために撮影していたよ。

とても貴重なお話ですね。あと2つ、質問をさせてください。あなたにとって、サブカルチャーとはどういう存在ですか? また、現在のサブカルチャーのあり方についてどう感じているか、聞かせてください。

Kevin:おもしろいことに、ちょうど数年前にもライターから同じような質問をされたよ(笑)。個人の見解だけど、サブカルチャーの存在感はもうほとんど無いように思う。インターネットがすべてを変えたんだろうね。今は上下なんてなく、すべてが横並びだよ。日々ニュースを賑わすセンシティブな話題も、誰も関心を示さない名前の付いていない事件も、インターネットを通して詳細まで知ることができる。現場に行かなくてもね。実際に、かつてはユニークだったことも、今では普通のことになってしまってるよね。すべてが表面上にあって、深く掘り下げれば掘り下げるほど、既視感のあるものを掘り起こすだけさ。旅をして、新しいものに出会えていた時代が恋しいよ。もう、金輪際起こりえないことだろうね。街もずいぶんと変わって、ニューヨークにもお気に入りの場所がたくさんあったんだけど、そのほとんどがもう存在しない。『Rapha Cycling Club』は最高だけどね。

©1995 Kevin Hatt

ありがとうございます。これが最後の質問です。ケヴィンさんは、写真にしか写らないものって何かあると思いますか?

Kevin:もちろん、あるさ! カメラのように時間を永遠にフリーズさせられるものなんて、他に思い浮かばないだろ? だからこそ僕は写真が大好きだし、僕にとって、写真に写っているものは喜びと感動以外の何物でもないんだ。

Kevin Hatt / 写真家

ニューヨークを拠点に活動するカナダ生まれのフォトグラファー。広告、 エディトリアルファッション、プライベートクライアントを多数抱え、世界中を飛び回り、鋭くパーソナルな眼差しを反映した写真を撮影、制作している。その作品は、象徴的なビジュアル、パワフルな個性、絶え間ない情熱が内包されている。

KEVIN HATT PHOTO EXHIBITION
『Downtown NYC 1995』

2024年9月27日(金)~

STANDARD 表参道
東京都渋谷区神宮前5-25-4 BARCAビル1F・2F

ニューヨークを拠点に活動をするカナダ生まれのフォトグラファー・Kevin Hatt(ケヴィン ハット)。1990年代よりさまざまなファッションブランドや広告などを撮り下ろしてきた同人物による特別なPHOTO EXHIBITIONを〈JOURNAL STANDARD〉の表参道店ギャラリースペースで開催します。

数ある作品の中から〈JOURNAL STANDARD〉がフィーチャーしたのは、アメリカのユースカルチャーに多大な影響を与えた映画『KIDS』でジェニー役を演じた、若かりし頃のChloë Sevigny(クロエ・セヴィニー)。米国での公開年である1995年に撮影された、貴重なプライベートポートレートが展示されます。また、同会場ではこのポートレートを落とし込んだ限定Tシャツの販売もおこないます。