会期:2024年6月28日(金)〜2024年8月22日(木)
場所:art cruise gallery by Baycrew’s
東京都港区虎ノ門2-6-3
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー3F SELECT by BAYCREW’S内
観覧料:無料
〈art cruise gallery by Baycrew’s/アートクルーズギャラリーバイベイクルーズ〉の企画展を紹介する『虎ノ門アート通信』。第3回は、本城直季による写真展『Small Cruise』をレポート。新鮮さや既視感のなさはアートをアートとして成立させるための大事な要素であるが、何も対象物“だけ”に依存するものではない。鑑賞者の価値観や経験、知識や教養が、日常をアートへと変貌させることだってある。
Photo_Satoshi Nagare
Text&Edit_Nobuyuki Shigetake
8月22日(金)まで〈art cruise gallery by Baycrew’s(以下、art cruise galery)〉で写真家・本城直季の個展『Small Cruise』が開催中。まずは、本城さんのプロフィールから。
1978年、東京で生まれた本城さんは、東京工芸大学大学院を修了したのち、写真家としての活動をスタート。2006年にリトルモアから出版した写真集が『small planet』が世界中で反響を呼び、第32回木村伊兵衛写真賞を受賞。「本城直季スタイル」を確たるものにした。「本城直季スタイル」は新しさと懐かしさを含んでおり、写真好きからアート好き、さらにはそういったものに関心のない人にまで届くこととなった。事実「本城直季スタイル」の写真を“どこかで見たことがある”人は、想像以上に多いのではないだろうか。なぜなら、スマートフォンやデジカメの機能で「本城直季スタイル」の写真を、撮影者として楽しむことができるからだ。「本城直季スタイル」はそのまま「ミニチュア写真」に置き換えることができる。
「ジオラマ(ミニチュア)モード」の産みの親と言っても過言ではない本城さんにフォーカスした当企画展は、先述した『small planet』をはじめ、『東京』『京都』などの写真集と、『kenya』『tohoku311』『plastic nature』などのシリーズからセレクトされた35作品で会場を構成。テーマやエリア、年代などは定めずに編集された本城さんのレトロスペクティブを一挙に楽しめる、またとない機会となっている。
現在ではカメラの機能に標準搭載されるほどに一般的となった「ミニチュア写真」だが、本城はデビュー以来一貫して、35mm判の一眼レフなんかよりも数倍デカい、大判カメラと呼ばれる機材の「アオリ」という手法で撮影をおこなっている。「アオリ」は大判カメラの機構を利用してピント位置を調節したり、遠近感や歪みの矯正をする操作であり、元来、建築や風景、商品を被写体とする商業写真で求められる手法だった。
調整、矯正の際に目指すのは、人間の視野。つまり、この手法での撮影は「肉眼での見え方」を再現することを目的としている。一部分にしかピントが合っていないのに? と聞こえてくるようだが、本当にその通りで、人の視線は無意識に絶えず動いており、意識してピントを合わせられるのは、視界のごく一部分に限られる。写真や絵画のように、風景全体にピントを合わせる機能は人間の眼には備わっていない。
そう、これらは実のところ見慣れた景色なのである。それなのに「ミニチュア/ジオラマのようだ」と感じるのはなぜだろう? 答えは簡単で、我々の脳は「一部分にだけピントが合った写真をミニチュア/ジオラマのように錯覚する」のだ。知識や経験、先入観によって「そうさせられている」。視覚における能動的行動である「見る」がだんだんと信用できなくなってくるはず。ここに、本城さんの写真の面白さがあるような気がしてならない。
さまざまつらつら書いてきたが、上記のうんぬんかんぬんを全無視して直感で楽しめることこそが、本城さんの作品の一番の魅力だろう。
1作品にだけフォーカスしてみる。都心部を「ミニチュア化」した作品『Toranomon, Tokyo, 2024』は、本城さんが本展のために撮り下ろした新作写真である。当ギャラリーを擁する〈SELECT by BAYCREW’S〉が位置する虎ノ門ヒルズ ステーションタワーを俯瞰したこの写真を見て、どのような感想を抱いただろうか。「すごく都会だな」とか「意外と東京タワーが近いな」とか「屋上はこんな感じなのか」とかだろうか。もしくは、誰かに覗かれているような、ちょっとした居心地の悪さや、人間の小ささ、取るに足らなさを感じる人なんかもいるかもしれない。
ひとつの作品でこれだけ思考できるのは、紛れもなくこれらの写真の間口の広さ、懐の深さの賜物だろう。小難しくも、簡単にも受け取ることができる本城写真は、誰もに拓かれている。ぜひ会場で、神や鳥ではなく、あなた自身の目線でこの「小さな地球」を巡航してみてください。
『Small Cruise』
会期:2024年6月28日(金)〜2024年8月22日(木)
場所:art cruise gallery by Baycrew’s
東京都港区虎ノ門2-6-3
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー3F SELECT by BAYCREW’S内
観覧料:無料
会場内では各種作品集を販売中。ちなみに各作品(一部を除く)は、ギャラリー内で販売もしている。お値段は150,000円(外税)から。
〈art cruise gallery〉を擁する〈SELECT by BAYCREW’S〉にはさまざまなコンセプトのショップがあり、ここでしか買えないモノなんかも多数あります。そのなかから「これはアートだ!」と思ったモノをご紹介。ギャラリーに足を運び、“アート脳”のままお買い物なんて、財布の紐が緩んじゃいそうだ! いずれも販売は〈SELECT by BAYCREW’S〉の店頭のみ。売り切れ御免。 気になったなら、いますぐ虎ノ門へGO。
お香立て5,500円〜、マグネット 4,400円〜(どちらも税込価格)
どこかで見たような、どこかに居そうな人々=市民たち(Citizens)をテーマに制作されたマグネットとお香立ては、目が合った瞬間に「持って帰らねば」と謎の使命感が駆り立てられる。親近感や哀愁などが理由でしょうか。「一人として同じ人は現れない。一人として同じ人が存在しないように、同じ人物は造り出せない。同じように見えても、どこか違う。お気に入りの人を見つけてもらえたらと思います」は制作者の弁。なるほど。
80,080円(税込価格)
アメリカ発のオーディオブランド〈Tivoli Audio〉による、20年以上にわたり根強いファンを持つ『SongBook』が最新の機能を搭載して復刻。このレトロなルックスでBluetooth搭載であることにも驚きだが、トグル・スイッチ、EQスライダー、チューニング・ノブなどのアナログ的なユーザー・エクスペリエンスにも購買意欲を刺激される。オーディオではあまり見られない、ペールグリーンの曖昧な色味も良い感じ。
ベルリン在住のポーランド人アーティスト、Aneta Kalzer(アネタ・カイザー)の作品。めちゃデカいです。
売り物ではないので悪しからず。