会期:2024年5月3日(木)〜2024年6月16日(日)
場所:art cruise gallery by Baycrew’s
東京都港区虎ノ門2-6-3
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー3F SELECT by BAYCREW’S内
観覧料:無料
〈art cruise gallery by Baycrew’s/アートクルーズギャラリーバイベイクルーズ〉の企画展をレポート形式でお届けする『虎ノ門アート通信』。第2回に潜入するのは、現在開催中のマーティン・パーによる写真展『FAASHION Faux PARR』。「アート」は常に取り留めがなく、姿、形に依存しなければ、ほとんどの場合、重さも匂いも感知できない。それでも、ファッションやライフスタイルと交わることで、その輪郭くらいは掴めるようになるのかもしれない。
Photo_Daiki Endo
Text&Edit_Nobuyuki Shigetake
6月16日(日)まで〈art cruise gallery by Baycrew’s(以下、art cruise galery)〉で開催中のマーティン・パー(以下、パー)の写真展『FASHION Faux PARR』。まずはパーという人物について。
1952年イギリス生まれ、マンチェスター工科大学で写真を学び、1994年には世界を代表する国際的な写真家のグループであるマグナム・フォトに所属。鮮烈な色彩とユニークな構図、卓越した洞察力で社会・経済・文化の“今”をカラーフィルムに焼き付けるスタイルで知られており、2024年現在、手がけた写真集は120冊以上。MoMAをはじめとする世界中の美術館に作品が収蔵されている、現存するなかでもっとも著名なドキュメンタリー・フォトグラファーのひとり。
デビュー以来、精力的に活動し、アートの分野でも高い評価を獲得したパーのスタイルに、ファッション雑誌やオートクチュール、メゾンが目を付けたのは1980年代のこと。それ以降、2024年に至るまでラブコールは耐えることがない。代表的なのが〈GUCCI/グッチ〉や〈BALENCIAGA/バレンシアガ〉などの世界的なファッションブランドのキャンペーンフォトや、各国版『Vogue』のエディトリアル。つまるところ、ドキュメンタリーを主戦場にしている、ゴリゴリのファッション・フォトグラファーなのだ。
そんなパーの膨大なフォト・アーカイブを“ファッション”という共通項のもとで編集した写真集『FASHION Faux PARR』がこの2024年5月に世界同時リリースされた。本書は、パーのファッションに対する極めて独創的な視点を紐解こうと試みた唯一の写真集であり、プライベートワークとコミッションワーク──『Vogue』をはじめとする世界的なファッション誌に掲載されたエディトリアルの一部を収録したものとなっている。そのほか、ファッションイベントの舞台裏で捉えたドキュメンタリー・フォトから業界のアイコンのポートレートまで、収録された250点以上のカラー写真の多くは未発表作品である。
写真集と展覧会名とが同名なのは、この写真展が、『FASHION Faux PARR』のリリースと紐付いて開催されているためである。本書のリリースを記念した写真展はニューヨーク、パリのギャラリーでも同時開催中。なんと、日本、アジア圏ではここ〈art cruise gallery〉が初のお披露目だそうだ。
電話帳、もしくは辞書かってほど分厚い写真集の中から本展でお披露目するのは、パー自身とギャラリーによってセレクトされた、全16点の写真。パーの写真を本や画面で見る機会は多いが、この大判サイズで対峙する機会は意外と貴重だったりする。近寄って、隅々まで見ていくと、本では見つけられなかったパーの遊び心や、パーが引き寄せた偶然の産物なんかも発見できるかもしれない。
パーは、2005年に発行された自身の著書に、以下の序文を記している。
“Some of the shoots feature models, some are people who were cast in the street, sometimes you cannot tell the difference. Some shoots resemble documentary, some look more like fashion, they can even look like art. What is exciting is that it is difficult to tell the difference.The traditional boundaries of these worlds are slipping away and I am enjoying exploring these new fusions."
(モデルを起用した撮影もあれば、街で見かけた人を起用した撮影もあります。ドキュメンタリーのような撮影もあれば、いかにもファッション的な撮影もあり、それらはアートのように見えることさえあります。エキサイティングなのは、その違いを見分けるのが難しいことです。これまでファッション、アート、ドキュメンタリーを隔てていた慣習的な境界線はなくなりつつあり、私はこれらの融合を探求することを楽しんでいます。)
ここからは推論になるが、おそらくパーは、これらが“アート”であるとも“ファッション”であるとも認識していない。そもそもアートもファッションも「これがアート/ファッションである!」という定義がなく、捉え方は千差万別だ。
とはいえ、BAYCREW'Sはファッションを生業としているし、〈art cruise gallery〉はアートを取り扱っているので、これはファッションであり、これはアート……と便宜上、定義付けをしなければならない。では、この展示はいったい、何を主題にした展示なのでしょう? そう考える行為自体が、パーのアイロニカルな表現の片棒を担いでいるようであり、ファッション/アートの不透明さ、曖昧さを助長していて、どこかユーモラスだと思いませんか? 思いますよね。会場でお待ちしています。
『FASHION Faux PARR』
会期:2024年5月3日(木)〜2024年6月16日(日)
場所:art cruise gallery by Baycrew’s
東京都港区虎ノ門2-6-3
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー3F SELECT by BAYCREW’S内
観覧料:無料
〈art cruise gallery〉を擁する〈SELECT by BAYCREW’S〉にはさまざまなコンセプトのショップがあり、ここでしか買えないモノなんかも多数あります。そのなかから「これはアートだ!」と思ったモノをご紹介。ギャラリーに足を運び、“アート脳”のままお買い物なんて、財布の紐が緩んじゃいそうだ! いずれも販売は〈SELECT by BAYCREW’S〉の店頭のみ。売り切れ御免。 気になったなら、いますぐ虎ノ門へGO。
サボテン 88,000円、マグカップ 24,200円(どちらも税込価格)
ロサンゼルス拠点のアーティスト、ピーター・シャイヤーによるアートピース。どこかヨーロッパ式ポストモダンの匂いがするなと思ったら、もともとピーターはイタリアのデザインチーム『Memphis』に所属していた唯一のアメリカ人作家だったらしい(ちなみに『Memphis』には倉俣史朗ら日本人作家も数名所属していたそう!)。いかにもハンドメイドなフォルムと表面のテクスチャーは、連れて帰ったその日から部屋によく馴染んでくれそう。それぞれキャンドルホルダーとマグカップだけれど、明確な用途は与えず、退屈なオブジェとして愛でていたい。
パイロン 14,300円、プール 12,100円(どちらも税込価格)
石川県の伝統工芸品である九谷焼に“九九(くく)”のように他のカルチャーを掛け算した陶器を展開する〈九九谷/くくたに〉のグッズも〈THE STAND fool so good(s)〉らしさたっぷり。美しいトルコブルーの釉薬で仕上げられたパイロン(三角コーン)型の花瓶とプール型のボウルは、スケートカルチャー&アート好きならきっと反応してしまうはず。江戸から続く、歴史深い九谷焼だってこうやって現代の感性のもとでアップデートされればアートとして楽しむことができるのだ。それって、すごくロマンがあることだと思う。
何も入っていないんです。これもアートなのかもしれません。