

case:
012
Sakiko Hirano
フードエッセイスト
Photo_Kaori Akita
Hair & Make-up_kika
Edit & Text_Sota Nagashima
今年も春がやってきた。出会いと別れ、期待や不安。
色んな予感と気持ちが胸の中を巡りつつも
なぜだがジッとしてはいられない。
それは、輝いて見えるあの人たちだって変わらない。
新しい景色を見るために人知れず葛藤して、
今も挑戦を繰り返しているはず。
歳も性別も、畑も違う13人の人々が教えてくれた、
彼らの心を動かすもの。
時代の閉塞感がどれだけ強まっても、
好奇心と情熱は奪えない。
お気に入りの1着に袖を通したのなら、
さぁ、新たな自分に会いに行こう。
家族と色々なレストランへ行く度に、
その料理と空間に夢を見て日記を綴っていた少女は、
いつしかフードエッセイストという名前になっていた。
その頃の気持ちと何一つ変わらぬまま今も食と向き合い、
その喜びをあらゆる方法で世間へ伝える。
そして今、ただお皿の上の物を楽しむだけで終わらず
様々な活動に領域を広げる彼女が、
常に挑戦し続ける理由とは。
本日は今回の洋服を着て出掛けたいお店として、ここ「SCARLET」を選んでいただきました。まずはその理由を教えていただけますか?
私は食体験にすごく夢を持っていて。食を通してファンタジーを感じる感覚が子供の頃から相当強いんです。レストランって給食とは違うし、家の食事の雰囲気とも全然違って、見たこともない特別な料理が出てきて、しかもすごくおいしくて、サービスの方にお姫様扱いしてもらって。子供の頃の私は、ディズニーランドに行くよりも家族で出かけるたまの外食が楽しみで、あのとき夢見た気持ちを未だに引きずっています(笑)。今でも物語に迷い込んだような食体験に出会うと、とても気持ちが上がる。映画を観てアドレナリンがバーッと溢れ出す人と一緒で。私はそれを外食で感じてるんです。高級レストランや海外のお店でもその高揚はありますが、古めかしい居酒屋でもチェーンレストランでも、あらゆるジャンルで遭遇します。「SCARLET」さんもその一つ。個性的でセンス溢れる店主が自分の価値観で集めた食器や家具に彩られた空間は、かわいいだけでなくナチュラルに狂っていて、どこかにダークファンタジー的なおかしみがある。店主の大切な宝箱の中に飛び込んだようで、すごくわくわくしてしまうんです。
今日のコーディネートから、このお店を連想した理由は?
今日みたいなお散歩しやすい普段着で出掛ける普通の日常でも、突然ファンタジーに足を突っ込んでしまう感覚が好きなんです。目を凝らすとどこにでもそういう夢の扉って待ち構えているんですよね。ここもまさか商店街の中にある美容室の二階にこんな素敵な空間があるとは思わないから。高まりますよね。
改めて平野さんの現在の活動について教えていただけますか?
一応フードエッセイストという肩書きで、雑誌で連載したり本を出したりと、食にまつわる言葉を綴るお仕事をしています。また、書き物の仕事と並行して企画の仕事をしていて、「(NO) RAISIN SANDWICH」というお菓子のブランドや、ポップアップイベントの企画、企業の食文化施策のお手伝いなどもさせて頂いてます。最近だとMame Kurogouchi というお洋服のブランドのお菓子作りの協力をさせて頂いたり。だから、書くだけじゃなく企てることにも注力しています。食文化全般に対して、自分ができることは何でもやっていくスタンスです(笑)。
幅広いですよね。当初からそこまで多岐に渡って活動することは想像していましたか?
いや、最初はそんな想像はしていなくて(笑)。本当にただ単純に食べることが好きで、大人になったら食に関わる仕事がしたいなーと漠然と思っている子供でした。中学生の頃に書いていた食日記には、素材にこだわるイタリアンレストランのオーナーになりたいと書いてましたね(笑)。でも高校生の頃、食べたものに対して言葉を書くプロフェッショナルがいることに驚いて、食の評論家にも憧れを持ちました。今は自然とこのような形に行き着きましたね。
自分にもできることがあるならやってみようか、みたいな考えから発展していったんですかね。
うん、そうですね。もう四六時中食べ物のことを考えているから、自然とやりたいアイディアが湧いてくる。こんなお店があったらいいなとか、こんなお菓子売ってみたいなとか。たぶん他のジャンルの人でも、例えばお洋服が好きだったら、自分がブランドをやるならこういうものにしたいな、とか妄想すると思うんですけど。その妄想をできるだけ妄想で終わらなせないようにしてるのかもしれません。つまり、やりたいなと思ったことを「まあいいや」ってほったらかすのが苦手なんですよ。結局そのやりたかったことって、数年後には「何であの時やらなかったんだろう?」と後悔する種になったりして。でも、そう思った時にはもうできないことかもしれないんですよね。その不可逆的な後悔が嫌なので、やりたいなって思ったら初めてのことでもやってみる。それこそ「(NO) RAISIN SANDWICH」というお菓子ブランドも、お菓子屋さんなんてやったことないし、私はお菓子すら作れないけれど、パティシエさんとデザイナーさんと手を組めば出来ちゃうな、よし、やろう!という感じで。そういう行動の積み重ねで仕事の幅が広がっていく気がします。
やったことのない何かに新しく挑戦することへ恐怖心はないですか?
父親に「悩んだら緊張する方を選べ」と言われて育ったのが大きいかもしれません(笑)。あと、今の時代ってお店やろうとか飲食のブランドをやろうという時に、じゃあ初期費用一千万とかそういう時代じゃないじゃないですか。オンラインで屋号があって、作れる場所と人がいればすぐ始められる。だから「とりあえずやってみよう」の精神は、今の時流が後押ししてくれるものでもあると思います。
確かに今の若い世代には、とりあえずやってみようという精神で始めて活躍されている方々が色々な業界にいる様に感じます。
そうですね。特に食では、バンドやろうぜみたいなノリで食とクリエイティブを掛け合わせて、面白いことをやられてる方がすごく増えたと思います。まさに、ともみさん(SCARLETの店主)も元々アーティストで、物作りができる人だから家具やジュエリーも作れるんだけど、食べる物を作るのも好きだからこういう場所をやってたりとか。
今回の企画のテーマでもあるんですけど、そんな平野さんが今新しくチャレンジしたいことは何ですか?
今まで私がやってきたことって、食の楽しくて明るい部分ばかりを切り取って伝えることだったと思うんです。もちろん食の喜びが根底にあることは変わらないし、変わらず続けていきたいのですが、やはり食の世界を探求していくと明るい世界だけではないことも浮き彫りになってきて。これからの社会や環境の行方と、今日食べる食事は間違いなく地続きなんです。その背景をお皿の上から分離して、お皿の上だけ楽しむのは、ある意味とても無責任なことじゃないですか。私はそれを見過ごして生きていくこは出来ないし、社会にとって、私たちにとって、よりよい食って何だろう?ということを考え続けていきたい。この感覚は近い世代でも共有しているし、みんなもっと学びたい、企てたいと思っている。だから「APPE-TIDE(http://appe-tide.com/)」という食と社会を考える場を、今立ち上げているところです。
「APPE-TIDE」とは?
食欲のAPPETITEと、波のTIDEを掛け合わせて、食欲の潮流という意味です。APPE-TIDEに関わることで、食にまつわる感受性がアップデートされるような体験を作っていきたいんですよね。食の最先端を作る人々の思考を覗ける記事も配信するし、リアルなイベントもやるし、例えば味覚の授業も企画中です。APPE-TIDEは食の喜怒哀楽を描く場にしていきたくて、楽しいニュースだけでなく、社会的な問題などもボーダーレスに取り上げていきたいです。
平野さんはそういった様々な活動をしていく中で、自分の中で変わらないルールってありますか?
それこそ、やりたいことをやるっていうのは大事にしてます。じゃあ、やりたいことって何だろうっていうと、今しかできないことだと思うんです。それって別に若い内しかできないという意味じゃなくて、いくつであってもその時にしかできないことがその時々に必ずあると思っていて。だから、その時にやっとかなきゃいけないことは、その時にやらないと。時間だけは絶対に戻らないから。
PROFILE
平野紗季子 / ひらのさきこ
フードエッセイストとして雑誌で連載や本の出版などをする傍ら、菓子ブランド「ノーレーズンサンドイッチ((NO)RAISIN SANDWICH)」を始めとする食のインディーズレーベル「HIRANO FOOD SERVICE」のプロデュースや、イベントの企画など、食文化に関わる様々な活動を行う。
Instagram : @sakikohirano
SCARLET(スカーレット)
03-6407-8472
東京都渋谷区上原2-42-17
HP : http://www.scarletbean.com/
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