コンプレックスも「まあええか」。弱い自分との向き合い方
フォトグラファー・花盛友里さんインタビュー 後編
それぞれの “美しさ” について考えるコラム連載「Way of thinking beauty」。
ファッションやヘアメイク、心身との向き合い方など、毎回ゲストを迎えて紐解いていきます。
誰もがありのままですばらしいことは知っているし、もっと気楽にやっていきたい気持ちもある。でも、つい自分の短所ばかり気にして、他人と比較してダメ出しをしてしまう──。コンプレックスって解消できるの?
写真やさまざまなプロジェクトを通じて、女性の美しさを伝え続けているフォトグラファー・花盛友里さんのインタビュー後編。自分と向き合う方法をはじめ、カメラのレンズを通して見てきた、多くの女性が自信を持つ瞬間について語っていただきました。
「コンプレックスが膨れ上がったら、あなたのそばにいてくれる人を思い出して」
悩みには痛いほど共感できる
──前編でうかがった、ヌード写真集につながるプロジェクト『脱いでみた。』の撮影では、一般の方の体型や年齢の悩みにも向き合ってきたとお聞きしました。どういった言葉をかけてきましたか?
ポジティブすぎるのって怖いなと私自身が思っているので、こうしよう!とか私はこうやって改善した、というアドバイスは基本的にしません。そういう提案が好きじゃないこともありますが、悩みを聞いて最初に思うことは「めっちゃわかる!」なんです。コンプレックスがあることや隠したいと思う気持ちに、痛いほど共感できる。
『脱いでみた。』だってヌード撮影とはいえ、いきなりお尻を出すのは抵抗がありますよね(笑)。隠したい場所を撮ることもしません。でも、撮影を通してちょっとずつ「私も悪くないかも」と思えたら、例えばお尻は隠すけど派手なパンツを履いてみるとか靴下にこだわってみるとか、そういう小さな挑戦の場になったらうれしいと思っています。
大きいステップを踏まなくていいし、視点を少しずらすだけでいい。最初の一歩は緊張するかもしれないけど、実際にやってみたらなんてことなかったと感じられるかもしれない。それで、また小さな挑戦ができる──そんな循環が生まれたらいいなと。
「私はあの人たちとは違うから」と思ってしまう気持ちもわかるけど、本当はみんな同じだから線を引かないでって伝えたいですね。
──言葉ではなく体験を通じて、視点のずらし方を伝えているんですね。
フォトグラファーとしてたくさんの方と出会ってきて思うのは、人生を楽しんでいると体型や年齢に縛られる必要がなくなるのかなということ。ハッピーに生きるためにダイエットをして体型改善に励んでもいいと思うし、趣味や推し活に没頭してもいい。仕事が悩みなら違うことにチャレンジするのもアリだし、どうしてもコンプレックスに感じる部分があるなら整形を本気で考えてもいいかもしれない。
卑屈になって楽しくない毎日を過ごすくらいなら、何歳になっても何度でも挑戦万歳!って思うんですよね。
年齢に関しても、年を重ねたこと自体が嫌なわけじゃなくて、満足がいっていない今の自分の状態で◯歳ということが嫌なのかなって。年齢という数字だけにネガティブになっているわけじゃない気がします。
褒め言葉は素直に受け取って大丈夫
──花盛さんご自身にコンプレックスはありますか?
めっちゃありますよ! だって私、普通やし。みんなが考え得るコンプレックスは、ほとんど心当たりがあるんじゃないかな。
小学生のときに男子にからかわれてから、おでこが広いのがコンプレックスだったんですよ。フォトグラファーだけど写真を撮られるのは今も嫌いだし。でも、大人になったらおでこが素敵だって言ってくれる人や、撮られた私の写真を見てかわいいって言ってくれる人が現れて、年齢を重ねたこともあってどんどん気にならなくなりました。
他にも嫌なところはいっぱいあります。でも、まあええかと思って。わざわざ「ここが嫌い」と言わないようにもしています。なんでかというと、私を愛してくれたり褒めてくれたりした人に失礼だから。
だからコンプレックスが膨れ上がったら、あなたのそばにいてくれる人を思い出して欲しいなと。それで解決するわけじゃないけど、今のままのあなたで一緒にいてくれる人は0人じゃないはず。
あとは、褒められたら素直に受け取ろう!っておすすめしたいです。だって、本音と逆のことをわざわざ褒め言葉にして伝えることってあります? まっすぐ受け取ってもデメリットはないと思いますよ。
大切なのは自分の本音
──SNSやネットで他人と比べて落ち込んでしまう、という声も聞きます。情報とどのように向き合っていますか?
嫌な気持ちになる投稿ってすごく多くないですか? この人の投稿を見るとなんかざわつくって、人には言わないけどみんなあると思う。だから私は極力、目に入らないようにしています。ミュートしたり、ポジティブでいられるものだけ見えるようにしたり。
今、私は何を感じているのかってことに集中したいですよね。まわりが何をしててもトレンドが何であっても、本当の自分はどうしたいのか。人のものを見過ぎちゃうとそこがブレるじゃないですか。本音を知るために情報をオフにすることは大事だと思っています。
私は、犬の散歩をしながらよく自分のことについて考えています。昨日あんな風に言ったけど大丈夫だったかなとか、この間の撮影失敗したかもとか、今感じたことをこういう文にして人に伝えようとか。自分が傷付いているなって気付くこともあるから、なにに傷付いたんやろう、どうしたらいいかなって考えたり。
自責することだってしょっちゅうあります。失敗して反省して、もう繰り返さへんと思うのにまたやって。でも、そうやって成長していってると思ってます。
──内面のあり方で意識していることはありますか?
人を区別しないことかな。相手をこういう人って決めつけたくないんですよね。
あとは正直でいること。自分に嘘をつかず、がんばりすぎないことを大切にしています。昔は強がってたし、がんばりすぎてたんです。今はできないことはできないって言うし、人に助けを求められる強さみたいなものを得られてラクになりました。
子どもたちにだってすごく正直に言いますよ。今めっちゃ泣きたい気分とか、もう母ちゃん疲れたから何もできへんとか。
感情が乱れたときや疲れた日は、家で大声で平成のJ-POPを歌います(笑)。めっちゃストレス発散になっておすすめですよ。
おしゃれと美しさについて思うこと
──外見で意識していることについてもお聞きしたいです。ファッションや美容で大切にしていることはありますか?
ファッションもメイクも年々、派手になってきています。カラーメイクが好きだし、ファッションは柄が好きなんですよ。トップスが柄でボトムスも柄。柄と柄が掛け合わさったら、もう無地みたいなもんやと思ってて(笑)。
ファッションは、一点ものとの出会いがたまらない古着と、つくり手の想いを感じられるブランドが好きです。価格やトレンドを気にするより好きなものをちょっとずつ買うようになりました。
あるとき、服が増えすぎてイライラしてフリマを始めたんです。チャリティフリマにして、タレントさんやモデルさんにも協力してもらって、売り上げはシェルターや虐待防止、犬猫への支援、環境保全などいくつかの団体に寄付しています。
──花盛さんがおしゃれ・美しいと感じる人とは?
おしゃれだなって思うのは、その人らしさを貫いている人。何かに左右されていなくて、自分を知っているところがかっこいいなと思います。いつも同じ服をきている人も、毎回違うテイストを着こなしている人もどちらも素敵ですよね。
“美しさ”については、自分を認めたり好きになったりすることが輝きにつながることを『脱いでみた。』の撮影を通じて知りました。私がモデルでいいんだろうかって思いながら入ってきた人が、帰るときには表情が変わってすっごく美しくなるんですよ。撮影の前と後では、体型も髪型も目の大きさも変わらないけど、ありのままの自分を肯定できるようになるんだと思います。
「悩んでる私はえらい」
──自分を認めることが美しさにつながるのですね。
いきなり肯定はできなくても、自分に向き合っている人って美しいですよね。落ち込んでる気持ちやコンプレックスがある自分を認めてあげる。今日はもう泣くって決めてもいいし、日記に思いの丈を書いてもいい。書き尽くしたら最後に「悩んでる私はえらい」って書いてほしい。
あとは一回、青春時代によく聞いたJ-POPを大声で歌ってみることもおすすめしたいです(笑)。気持ちを歌詞に乗せて泣きながら歌おうって言いたい!
でも、ほんまに無理やったら誰かに助けてって言ってほしい。ひとりで解決しなくていいし、弱いところがあって当たり前やと思うから。
個展をやったときに、自分の好きなところについて書いてもらうゾーンをつくったんです。みんなが書いてて素敵だなと思ったのが、「人の話が聞けるところ」とか「手を叩きながら大声で笑うところ」「大切な人を大切にできるところ」「マイペースで自分ファースト」「すぐ忘れる」「よく気付く」「繊細」とか、内面に関してたくさん書かれていたところ。
いいところが何もない人っていないですよね。短所だと思っていることも他の人にとっては好きなところかもしれない。もし、ないと思うなら見えてないだけだから、小さいことから自分を褒めていく練習をしてみてほしいです。洗濯ができるとかリボン結びがうまいとか、本当に些細なことからでいい。
痩せてるとか目が二重とか、世の中に溢れている美しさの基準に自分を当てはめるんじゃなくて、もうすでに持っているいいところを振り返る時間を大切にできたらいいなって思います。
フォトグラファー花盛友里
大阪府出身。2009年にフォトグラファーとして活動を開始。雑誌や広告を中心に活躍中。2014年に『寝起き女子』、2017年『脱いでみた。』を発表。 女の子の「ありのままの姿」を切り取った作品で注目を集める。 2020年に『脱いでみた。』シリーズ第2弾となる『NUIDEMITA-脱いでみた。2』を発表するなど作品づくりを続けている。 2021年にアンダーウェアブランド「STOCK」を立ち上げるなど、幅広く活躍。 Instagram:@yurihanamori
Text : Kaori Terada
Illustration : maegamimami
Plannnig : Mika Morishima