午後の遠景、色の調和
インタビュー:坂内拓
WEARABLE ART #03
WEARABLE ART #03午後の遠景、色の調和
インタビュー:坂内拓
BOICE FROM BAYCREW'Sと
クリエイティブチーム・LAYOUTとの
共同プロジェクト第3弾は、
イラストレーターの坂内拓をフィーチャー。Photo:Leo Arimoto
Interview&Text:Megumi Hirai
Edit:Nobuyuki Shigetake
Special Thanks:LAY OUTクローゼットの中から服を選び取るとき。今日はこのベージュのチノパンを穿きたいから、無地の白いTシャツを合わせようか。最近買ったブルーのチェックシャツも、いいかもしれない。鏡の前に立って、素材や形、そして色の組み合わせについて考える。
『WEARABLE ART』の第3回としてコラボレーションする坂内拓さんも同様に、制作過程でさまざまな色を何度も組み合わせてみながら、色のレイヤリングを決めていくと話す。
作品には夢の中で見る景色のような、知っているけれど知らない午後の遠景が多い。ぽつりと人がいて、何かが起こっている。見る場所、自分のそのときの心情によって、さみしそうに見えるときもあれば、穏やかな様子に見えることもある。そんな、見る者に思考の余白を与える今の作風が生まれるまでの話、制作中に考えていることについて訊かせてもらった。
PROFILE
坂内拓/Taku Bannaiイラストレーター
東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。MJイラストレーションズ受講。ゆうちょ銀行、SUNTORY、MINIなどの広告媒体のイラストレーションを手がける。その他、書籍装画、雑誌挿絵、舞台広告物など多数。
www.bannaitaku.jp
Instagram:@takubannai独立して、再び会社員へ。自分の色を見つけるまで
今回コラボレーションする作品は、それぞれどんなテーマで作られたのでしょうか。
坂内:ダイナーの絵は海外のクライアントワークで制作したものですが、それ以外はその都度の展示のテーマに合わせて作ったものですね。
この中で『Morning Haze 朝靄』だけ少し作風が違いますよね。
坂内:ある日、霧がかったところをドライブしていたときに、その風景が印象に残っていて、この感じを作品で表現できないかなと思い、制作したものです。ほんとうはこれからこの作風でいこうと思ってたんだけど、個展に来てくれた昔の仲間に「まだ早いんじゃない?」と言われたんです。彼はレゲエ好きの愛ある人なんですが、「お前はもっとラブソングを書かなきゃいけない」って(笑)。ひとまず、これまでのものと並行してやっていこうかなと考えてますね。
坂内さんは、いつから絵の仕事をしたいと考えるようになったんでしょうか。
坂内:うーん、絵や漫画を描くのはもともと好きだったけど、ものすごく熱量があったわけじゃないんですよね。美大を受けたのも、勉強がそんなに好きじゃなくて、どうせなら絵を描く大学へ行けたらいいなってくらいで。一浪して大学へ進学したんですが、予備校でもストイックにやっていたわけじゃないから、大学に合格したと講師の人へ伝えたときは悔しがられました(笑)。なんで坂内くんが、って。
(笑)。
坂内:そんな感じだったから、入学してからも学校へはあんまり行ってなかったです。同級生は広告系の会社へ就職する人が多かったけれど、自分は興味を持てなかった。イギリスのカルチャーが好きだったから、卒業してからイギリスで3ヶ月くらい過ごして。で、日本へ帰ってきて「やっぱり絵にかかわる仕事がしたいな」と思っていたら、たまたま絵コンテライターの求人を見つけたんです。それで、会社の人にイギリスで描いた絵を見せたら採用になり、8年ほど働いていました。いろんなバックグラウンドを持つメンバーが集まっていて、技術的なことはそこでかなり吸収しましたね。
では、その会社を辞めて独立を?
坂内:はい。やっぱり自分の絵を描きたいなと思い、一度フリーのイラストレーターになりました。でも、絵コンテライター時代に求められたタッチを描く癖がついてしまい、当時は自分の作風というのがなかったんですよね。そこからもう一度デザイン事務所へ就職して、働きながらイラストレーターの塾へ通ううち、だんだん今の作風になって。その時期に応募したコンペで賞をひとつもらい、仕事が少しずつ増えていったので、またフリーになりました。
いくつぐらいのときですか?
坂内:40歳くらいだったかな。だから割と最近なんです。
意図しない色の組み合わせに気づく
初期の作品では画用紙に色を塗って組み合わせていたそうですが、色画用紙を使うようになってから、どのように色を選んでいますか?
坂内:百均に、色画用紙が売ってるじゃないですか。始めたばかりの頃は、その10色だけで作ってました。それも、遊びの延長みたいな感覚で。百均の色画用紙って、ちょっとガサガサしていて表情があるんですよ。今でもときどき、ポイントになるところに使ってますね。最近は画材屋さんへ行って、とにかく好きな色を探しています。決めうちで「これだ」と思う色を探しに行っても、隣り合わせる色によって雰囲気がガラッと変わってしまうから。好きな色を買ってストックしておいて、組み合わせを考えています。
組み合わせてみながら、意図しなかった組み合わせに気づいたり。
坂内:うん。その辺の重なっている画用紙の配色が海と砂浜に見えたりね。部屋の中でも、色が分かれてるところがあるじゃないですか。それを見て「あ、なんかあれっぽいな」と思ったり。
作品は、何時くらいをイメージしているものが多いんでしょうか。
坂内:ベースは昼間で、感情を乗っけたいときは空模様でコントロールしてますね。夕方だとちょっとしんみりした雰囲気になったり、悲しげになるな、とか、真っ青な空だと気分が晴れやかになるから、ちょっとくすませてみよう、とか。空の色で作品の雰囲気が決まるので、色の組み合わせを考えている時間がいちばん長いかも。バシッと決まることもあれば、全然決まらないこともあるので。
『Morning Haze 朝靄』
『The New Yorker“Lone Star” by David Wright Faladé』
今回のコラボレーションのTシャツを手にとってくださる方も、きっと制作中の坂内さんのように、「このTシャツにはこの色のボトムが合うかな」と色の組み合わせを考えながら、コーディネートを組んでいくと思います。着る人自身も、坂内さんの制作過程を追体験しているようで、まさに『WEARABLE ART』だなと。
坂内:個人的には、自分の作品ってアパレルでは扱いづらいかなと思ってたんです。アイコン的なものであればポイントとして取り入れられたりしますが、四角い絵そのままがバン、と乗るので。でも、自分の絵をこうやって使ってもらえると、純粋にうれしいですね。
今後やってみたいことはありますか?
坂内:今はもう昔より器用になっちゃってるんですよね、ある意味。たとえば昔は岩の形とかを、勢いでザクッて切ってたんだけど、今だったらもっと整えちゃう。納得いかなければ、やり直すこともあるし。そうすると形としては綺麗になっても、僕の中では絵の魅力がなくなるんですよね。だから、器用にやりすぎないように意識しつつ、仕事ではないオリジナルの作品では、もう少し実験的なことをやっていきたいなと思っています。