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  • WHAT IS KONARE?「こなれ」ってなんだ?

    #2. 不真面目なシャツ

    WHAT IS KONARE?「こなれ」ってなんだ?

    #2. 不真面目なシャツ。

    右見ても「こなれ」、左見ても「こなれ」。
    でも、嫌いなファッション用語ランキングがあれば、
    きっと1位。なぜなのか。
    それは「こなれ」がなんなのか、よく分からないから。

    右見ても「こなれ」、左見ても「こなれ」。
    でも、嫌いなファッション用語ランキングがあれば、きっと1位。なぜなのか。
    それは「こなれ」がなんなのか、
    よく分からないから。

    Styling:Haruki Uchiyama
    Photo:Daiki Endo
    Grooming:Nanako Yajima
    Model:Ukyo
    Text&Edit:Nobuyuki Shigetake

    こなれ【▽熟れ】

    読み方:こなれ

    1 食べた物がこなれること。消化。「―の悪い食べ物」
    2 物事を理解し習得した程度。「―の悪い文章」
    (デジタル大辞泉より)

    こなれ感

    読み方:こなれかん
    別表記:こなれ

    服飾業界で使われることの多い、無理せず着こなしているまたは着慣れている雰囲気を意味する語。
    「こなれ感」のある服はシンプルであることが多く、環境や体格に合った快適さも基準になることがある。 (実用日本語表現辞典より)

    反対側のアイテムを合わせる。

    シャツはパリッとアイロンされていて、ビシッと着るべきものである。シワのひとつも許すべからず。裾を出すなんてもってのほか。僕らは、そんな強迫観念にも似た刷り込みを学生の10代の頃から受けている。制服やスーツは、まあそれでいい。では、シャツを“ファッション”として着るにおいては、どのような工夫が必要で、どうすれば「こなれ」るのだろう?

    真面目の象徴的なアイテムであるシャツは、少しだけ、不真面目に着ると「こなれ」そうだ。<トーマスメイソン>の上質なファブリックを用いたシャツなんかは「真面目なシャツ」の好例だから、そんな正統派な1着は、トラックパンツなどの相反する性格を持つボトムスとの、不真面目極まりない組み合わせを楽しみたい。

    トラックパンツは<ジャーナルスタンダード>のもの。今でこそファッションカテゴリにおける市民権を得た印象であるが、サイズやデザイン次第では「ダル着」に見えなくもないのがトラックパンツの難しいところ。こちらは、オリーブドラブのシックなカラーリングとネイティブ柄のラインがあるおかげで、深夜のコンビニの駐車場でたむろしている無法者が穿いているそれとは異なる印象に。

    「礼節」や「権威」を主張するためのものでなく、単なる「長袖の羽織り」としてのシャツならば、可能な限りルーズに着るといい。前を開けて、肩を抜き、カーディガンのように着る。インナーのTシャツは<エイトン>と<エディフィス>のエクスクルーシブ。タックインをしておけば、だらしなくならない。

    シャツを“柄”として扱う。

    シャツを構成する要素としての襟やボタン、裾などの要素は活かすことなく、この端正なシャツの視覚的機能である“ストライプ”のみを抽出する。シャツのシャツらしさとは向き合わずに単なる色・柄として扱うことはかなり不真面目であると言えるだろう。

    <ラブークル>のスキッパーシャツは、大きく開いた胸元をカウレザーでパイピングした、メンズカテゴリのファッションアイテムとしてはやや変化球的な1着。綿、麻、ポリエステルを混紡したマットな質感が、高級感を醸し出す。着慣れないアイテムかもしれないが、ドリズラージャケットやシャツジャケットの延長線上として捉えれば、普段のスタイリングにも取り入れやすい。

    インナーにはいつもの白Tシャツを合わせても良いが、スキッパーならではの隙間は安易に埋めずに活かしてみたいところ。タンクトップは白や黒だと下着感が出てしまうけれど、<ジャーナルスタンダード>が<ミラー>と作ったレモンイエローの1着なら、スタイリングに馴染みつつも良い塩梅で存在感を示してくれる。首元には<バイスミス>のシルバーネックレスを添えて。

    そもそもストライプ柄は、中世では「軽蔑」「悪魔の象徴」という意味を持っていた(らしい)。当時は「異質な存在」や「部外者」らにストライプ柄の服を無理やり着せて、善良な市民たちと区別していたそう。早い話が囚人服だ。そんな豆知識も踏まえると、このシャツがより一層、不真面目なものに見えてくる。

    バンドカラーシャツは足し算で着る。

    バンドカラー、スタンドカラーなどと呼ばれる襟なしのシャツは、1300年頃のフランスに起源があるとされている。平時は作業着として、正装時には必要に応じて付け襟を用いて着るものだったそうだ。1枚2役、2WAYと称すると機能的な印象を受けるが、2WAYのアイテムとは往々にして怠惰心が生んだもの。そんな、存在自体が不真面目なシャツは、あえて品行方正にタックインして着ると「こなれ」そうだ。

    約150年の歴史がある英国の老舗百貨店から生まれた<リバティ>のプリント生地を用いた<エディフィス>のシャツにはどことなく和の雰囲気があるし、坊主頭の右京くんにもよく似合う。似合いすぎてしまってストレートに着ると「若い衆」に見えなくもないから、色物のTシャツやサイドアジャスター付きの綺麗なスラックスをベルトレスで穿いて洒落っ気をプラスする。

    テキスタイルの主張の強さは、フロントボタンを開いて隙間からインナーを「チラ見せ」することで中和できる。ボタンはひとつふたつ開けるだけでなく、思い切って鳩尾(みぞおち)の下あたりまで開けてみよう。「チラ見せ」させた<ラブークル>のクルーネックTシャツは、この絶妙なトーン自体が白眉だが、上質なスーピマコットンによる着心地の良さも折り紙つき。

    グルカサンダルに合わせるなら、俄然カラーソックス。プレーントゥの革靴のような重さもなく、オープントゥのサンダルのような軽さもないグルカサンダルは、暑いのかそうでないのかよく分からないこの時期に、その真価を発揮する。ビーチサンダルの「コンビニ帰りですか?」感や、アウトドアサンダルの「山、あるいは川でも行くんですか?」感を苦手視している人こそ積極的に取り入れていただきたい。