美しさとはすべてを受け入れること。67歳の現役モデル・結城アンナさん

それぞれの “美しさ” について考えるコラム連載「Way of thinking beauty」。
ファッションやヘアメイク、心身との向き合い方など、毎回ゲストを迎えて紐解いていきます。

毎日を生き生きと過ごしたい、いくつになっても何かにワクワクしていたい。
そう思う気持ちはあれど、日々を過ごすなかで“将来への漠然とした“不安”に襲われることも。

どんなときも自然体でいることや心地よさを大切に、「自分が好きな自分でいることを心がけている」と話すのは、モデルの結城アンナさん。今回は、10代からモデルとして活躍し、30代で一度引退したのち60代で本格的にモデル業に復帰した結城さんに、これまでの人生を振り返っていただきました。

ターニングポイントや経験から得た物事への向き合い方、そして“美しさ”について思うこと──。前編・後編に分けてお届けします。

「私がグレイヘアであることで、どこかの誰かを励ませたら」

30歳で芸能界引退、60歳でモデル復帰…すべては自然な流れのなかに

──スウェーデンで生まれた結城さんが、日本でモデルデビューをされたのは15歳のときだと聞きました。どのような経緯でモデルの仕事を始めたのですか?

15歳で日本に来て、青山通りで犬の散歩をしていたら声をかけられてスカウトされたんです。スウェーデンでもモデルのような仕事を何度か経験していたので、特にびっくりするわけでもなく、やってみようかなと気軽な気持ちでスタートしました。

──早くにキャリアをスタートされて、21歳でご出産。30歳を過ぎた頃に、一度、専業主婦になっていらっしゃいます。きっかけがあったのでしょうか?

夫の仕事が忙しくなり、子どものことや家のことを考えて家庭に入ることを選びました。
現場で「かわいい!」と持ち上げてもらえるモデルの仕事はとても楽しかったのですが、今思えば、どこかアルバイト感覚なところがあったように思います。

子どもが小さかった頃、翌日に急に仕事が入ったときは頼れる人に片っ端から電話をかけて預かってもらうこともありました。仕事が終わったら娘を迎えに行って、晩ごはんの買い出し。
加えて、当時のモデルは服や靴を自分で用意して持っていかなければならなかったので、いつも大荷物でしたね。

そんな日々を送りながら30代を迎えて、そろそろ私の出番はおしまい、辞めどきかなと考えていたんです。だから辞めたときは、ふう、とひと息ついた気持ちになりましたね。仕事への未練はひとつもありませんでした。

──仕事を辞めることはとても自然な流れだったのですね。それまでのワーキングマザーとしての忙しさもひしひしと伝わってきます……。

小さいときは本を読むことや森で過ごすことが好きだったんです。
スウェーデンに住んでいたときは家のすぐ近くに森があったので、ベリーを摘んだり葉っぱを拾ったりしてのんびり遊んでいました。
そんな環境で育ったこともあり、ワーキングマザー時代は楽しくも本当に目まぐるしい日々に感じていましたね。

……と言いつつ、幼少期の話には余談があって。
当時、両親は共働きだったので同じアパートに住む方が私の面倒をみてくれていたんです。その方が私の母に、「アンナはおてんばで知らないうちにどこかに行ってしまうし、いつも言うことを聞かない」と言っていたそうです。

私はというと、自分のことを「いつも本を読んでいる、すごくいい子」だと思っていたんですけれど(笑)。でも、確かに縛られることは大嫌い。
好奇心旺盛で、やっちゃダメと言われるとやりたくなってしまうタイプの子でした。

──幼少期のライフスタイルそのものが、今の「結城さんらしさ」にも繋がっているように感じます。家のことを豊かに、家庭を優先しながらも自分らしく過ごした時間を経て、60歳でモデル業に復帰されています。心境に変化があったのでしょうか?

モデルとして復帰したのも、私にとっては自然な流れでした。
まず、若い頃に想像していた60歳より、自分がずっと元気だったこと。こんなに元気なら、例えば英語を教えるとか過去にお世話になったところでアルバイトでもしようかなと考えていました。

そんなときに、昔お世話になったモデル事務所の社長が「またやれば?」と声をかけてくれたんです。
最初は言われている意味がわからなくて、マネージャーとして働かないかと声をかけてくれているのかなと。専業主婦になってからも夫と一緒にCMに出演したことはありましたが、モデルとしてはかなりのブランクがありましたから。
でも、よくよく聞いたらモデルに復帰しないかという話で、「最近はシニアモデルが流行ってきたのよ」と言われました。
時間に余裕はあるし、またやってみようかなと思いつつも復帰するなら体型を整えなきゃと。「ダイエットするからちょっと待ってほしい」と言ったら、「違うのよ! ありのままの姿でいいの」と言われて、そのまますぐに復帰しました。

「形だけの美しさじゃつまらない」

──仕事柄、美容にもこだわっていらっしゃるのではないかと思います。日々、心がけていることはありますか?

私は、美容も健康の一環だと思っているんです。食事・睡眠・運動・歯のメンテナンス・メンタルケアなど、すべては繋がっているという“ホリスティック”な考えをとても大切にしていて、何事もバランス重視派です。
だから、特定のことだけに取り組んでも本当の美しさには近づけないと思っています。

高いクリームを塗ったからきれいになるわけでもないですし、それよりもちゃんと水分を取ったり、深呼吸してリラックスを心がけたり、血行が巡るように運動をしたりして、体の内側からもアプローチする方が効果的なのではないかと気付きました。

メディアに溢れる健康情報は日々ころころと変わるけれど、自分に合いそうなものを取り入れて、続けてやってみる。合わなくなったら違うことに挑戦する、というのを繰り返して工夫しています。

情報につい踊らされそうになることもあるかもしれませんが、何を取り入れて何を取り入れないかは、しっかり考えて決めるようにしています。きれいになりたいからと焦ってしまうとちゃんと考えられないので。
こんな私も、子どもの頃はキャンディばっかり食べていたんですけどね(笑)。

──結城さんにとって「美しい人」とは、どんな人ですか?

自分のすべてを受け入れて、人生を楽しんでいる人かな。そういう人が放つ言葉はもっと聞いてみたくなるし、人生を覗かせてもらいたいと思います。
形だけの美しさじゃつまらないですからね。中身がある人を美しいと感じているのだと思います。

自分が好きな自分になれるように

──自然体で心地よく、何事もバランスを大切にされているのですね。これらのポイントは、ファッションへのこだわりにも通じますか?

そうですね。やっぱりここでも一番のこだわりは、心地いい服や靴を身につけることです。
着ていて快適な服や歩きやすい靴が好きで、かゆくなってしまう素材やキツい服、裾を踏んで転んでしまいそうなボトムス、歩いていて足が痛くなる靴は絶対に身につけません。

あとは、素材の組み合わせや色選びにもファッションのおもしろさを感じています。
例えば素材なら、全身をレーヨンにしてしまうとちょっと安っぽく見えるかもしれないけど、カシミヤのニットウェアとならおもしろい組み合わせになりそうだなとか。
苦手な素材というものはありませんが、綿や麻、ウールやツイードなどの自然素材がやっぱり好きですね。

色選びは、気分によって変わります。思い切りカラフルなコーディネートをしたい日もあれば、今日はモノトーンでかっこよく引き締めたいというときも。
ムードに合わせて調整しています。

──これは持っておくとおすすめ、というファッションアイテムはありますか?

特定のこれ、というよりは、そのアイテムを投入すると一気にコーディネートがキマるものを持っておくのがおすすめです。

例えば私の場合なら、丈やサイズ感がちょうどいいジャケット、巻くだけでかっこよくなる大判ストール、磨けば磨くほど光る靴や、持つだけで不思議とコーディネートが完成するバッグなどでしょうか。

ブランドも値段も関係なく、自分にしっくりくるものを持っておくのがおすすめです。
そういうアイテムは何十年と着られますし、自分のなかのブームが一回去っても、また好きになるときが来るんですよね。

──そのファッションとグレイヘアがとてもお似合いです。

グレイヘアにした理由は、自分の色がわからなくなったからなんです。
30代後半で白髪が増えてきて、最初はカラーリングをしていました。そうしたら、どんな服の色も似合わなく感じてしまって。自分の肌や目の色と髪の色が合っていないから、メイクを濃くしないとバランスが取れないと思っていましたね。
40代で白髪染めをやめたら、本当にラクになりました。

白髪に限らず、50〜60代以降は肌の色や質感、目や歯の色、唇の色や形も変わってきます。だから、今まで着ていた洋服がしっくりこなくなる時期があるんですね。
そこは受け入れて、今の自分に似合うファッションを心がけています。

──結城さんの言葉からは、年齢を重ねることをポジティブに楽しんでいらっしゃる様子がうかがえます。その考えは昔からですか?

そうですね、若い頃からグレイヘアを見て、かっこいいなと思っていました。

例えば、赤ちゃんのときに似合っていたものが、大人になっても似合う人はいないですよね。そういう意味で、人ってみんな同じだなと思います。
老いは生まれた瞬間からの自然なプロセス。生きている限りやめたくてもやめられないし、嫌でも年を重ねていきますから。

私が白い髪の毛でいろんなファッションに身を包んで、笑顔でいる様子をメディアを通して伝えることで、どこかの誰かに少しでもポジティブな影響があったらいいなとも思います。
白髪染めをやめて、とても自由な気持ちに私はなったので。

若いときは人と比べることがあるかもしれませんが、自分がよければそれでいいじゃないって思いますよ。60代なら、ちょっとくらいお腹が出ていてもいいじゃない!とも(笑)。
ポジティブに物事を見るようにすると自分がすごくラクですね。

私は、今が一番冷静に自分のことをみられているんですよ。
これからも、自分が好きな自分でいられることを大切にしていきたいと思っています。

モデル結城アンナ

1955年スウェーデン生まれ。夫は俳優・岩城滉一氏。著書やSNSで自らの心地よいライフスタイルやファッションを発信。そのシンプルで自然体な暮らし方は世代を超えて支持されている。自身の描くイラストにも注目され2022年12月、初の個展を開催。雑誌やトークショーなど多方面で活躍中のポジティブエイジング。
著書に「自分をいたわる暮らしごと」「Anna's Cookbook/季節の食卓」(主婦と生活社)「北欧が教えてくれたシンプルな幸せの見つけ方」「アンナ流 大人の心地よい装い」(宝島社)
新書「Then & Now /結城アンナ」(扶桑社ムック)3月14日発売。
Instagram:@ayukihouse

次回更新
4月21日(金)
※更新日は予告なく変更する場合があります。

Text : Kaori Hasegawa
Illustration : maegamimami
Plannnig : Mika Morishima

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