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  • 馬場圭介と小泉今日子、1994年のニューヨークと1995年のロンドンの記憶。

    スタイリストの馬場圭介が手がけるブランド、GB by BABAが、第1弾アイテムとして小泉今日子のフォトプリントを落とし込んだTシャツを発表した。

    フォトプリントと言っても、昨日、今日都内某所で撮られたものではなく、舞台となったのは1994年のニューヨークと1995年のロンドン。在りし日の大都市と日本を代表するアイドル。時代の空気感が見事にパッキングされたフォト・セッションは、2022年現在見てもフレッシュであり、30年近く前に撮影されたものだから当然フィルムフォトグラフィーであるとはいえ、インスタントに郷愁を誘うような押し付けがましさもない。そして、これらの写真たちは、それぞれ12枚のB2用紙に印刷され、365の数字が添えられた。つまるところ、カレンダーである。

    煽るわけではないが数量限定、本日より予約受付を開始。本稿が、突如としてボムられた、この稀代なプロダクトの成り立ちを多角的に知るための一助になれば幸いだ。

    Photo_Daiki Endo
    Text&Edit_Nobuyuki Shigetake
    Location_Council Flat 1
    Date_Dec.16th

    1994年のニューヨーク。

    1994年のニューヨークといえば、ラファイエットストリート274におけるSupreme(シュプリーム)1号店のオープンや、ラッパー・NASのデビューアルバム『Illmatic』のリリースなど、この2例だけでもエポックメイキングかつ、現在へと繋がる重要な1年であったことが推し量れる。そんななか、どのようにしてこのビジュアルが作られたのか。以下は馬場本人の脳内から抽出した、当時の記憶である。

    「先にマネージャーと仲良くなって、この撮影にスタイリストとして呼んでもらったんだよね。とにかく、楽しい撮影旅行だったよ。なにせ日本も海外も今と比較すると景気が良かったし、キョンキョンをはじめ、マネージャーも制作クルーも慣れ親しんだ面々だった。要するに、遊び仲間だよな(笑)。芝浦のGOLDとかで一緒に遊んでた連中だよ。え?  何か撮影時のエピソードはないかって?  たしか5泊くらいの旅程だったんだけど、何日目かにナイアガラの滝で撮影をしようってことになったんだよ。ナイアガラフォールズってアメリカとカナダの国境にあるんだけど、何やら俺らがいたアメリカ側よりもカナダ側のほうが華やかだって話だったから、国境を超えてカナダに行こうってなったんだよね。当然パスポートが必要になるんだけど、フォトグラファーの小暮(徹)って男が、パスポートをホテルに忘れたとか言い始めて(笑)。びっくりだよな。「おいおい! 勘弁してくれよ!」だよそんなの。まあでも忘れたもんはしょうがないからどうするかってところでさ、カナダ-アメリカ国境はパスポートのチェックが甘いって噂があったから「いけるんじゃない?」「いっちゃう?」ってなったんだけど(編集注:ダメです)、さすがにバレたらヤバいよね、てか逮捕じゃない? ってなって、あきらめてアメリカ側で撮影をしたんだよ。懐かしいな。まあ、カレンダーだから撮影は1993年中にやったんだけどさ(編集注:前年に売られるものなので)」。

    1995年のロンドン。

    そして、1995年のロンドンといえば、なんといってもOasisだ。『(What's the Story)Morning Glory?』が発売されたのもこの年である。馬場圭介はこのときで37歳。スタイリストとしてのキャリアは10年にも満たない、いわば駆け出しの頃だった。

    「2年連続で呼んでもらってありがたかった。これも撮影は1994年なんだよね。カレンダーだから。ロンドンでは東京から持っていった衣装に加えて現地のマーケットで買った古着も着てもらって、撮影した。もともとそのつもりだったかって?  そんなリスキーなことするわけないだろ(笑)。偶然良いものを見つけたから着てもらったんだよ。日本から持っていった衣装はVivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)とかだったかな。ニューヨークでもそうだったけど、撮影は基本的にはゲリラ。ロケハンもしてない。廃墟で撮ったものもあれば、当時ロンドンで高名だったアーティストのアトリエで撮らせてもらったものもあるよ。そこはさすがにアポ取ったけど。え?  ほかにエピソード?  おぼえてないよ。でも、楽しかったってことだけはおぼえてる」。

    ちなみに、カレンダーのグラフィックデザインは、表参道ヒルズのロゴデザインを手掛けたことでも知られるTycoon Graphics(タイクーン・グラフィックス)が担当した。1991年に発足し、2014年に看板を下ろした彼らの初期の作品であるだけに、なかなかに貴重かつ、資料的な側面も持ち合わせている。しかしながら、今回はカレンダーの絵柄をそのままプリントするわけでなく、写真のみを抜粋し、当プロダクト用に新たにデザインを制作した。全4型。うち、JOURNAL STANDARDでは3型の絵柄がエクスクルーシブで展開される。

    「このデザインは20代の若い子たちにやってもらったんだよね。どの写真を使うのかも特に指定してない。なんでかって?  俺らの感覚じゃない、今の感覚をフラットに入れてもらいたかったから。その子たちの名前?  おぼえてないよ。何人もいるから。でも、このデザインは気に入ってる。仕上がりが良ければなんだっていいじゃん。どんな人に着てもらいたいか?  キョンキョンのことも俺のことも、何も知らない人にこそ着てもらいたいね。そのほうが面白いから。俺ら世代が反応するのはまあ必然だとしても、当時を知らない子たちに反応してもらえたらやっぱり嬉しいね。ん?  どんなふうに合わせたらいいか?  お前、難しいことばっかり聞いてくるな(笑)。ファッションは自由なんだから、好きに合わせたらいいんだよ。ただのプリントTだし。ところでこのインタビュー、まだやるのか? ちょっと長いぞ」。

    こちらの2枚はJOURNAL STANDARD限定の絵柄。