
- 女優、モデル、アーティスト、芸人など…
各分野で活躍する女性の “スタート地点”とは?
活躍に至るまでの道のりやエピソードを
スタート地点となる場所でインタビュー。
第10回目は、23歳の若さで
5つのホテルのプロデューサーとして活躍する龍崎翔子。
ホテル業界に興味を持ったきっかけや設立までの経緯、
経営するホテルへのこだわりなどを伺いました。

ーー大学在学中の19歳で会社を設立し、ホテル経営をはじめるという、若き才能を発揮する龍崎さんですが、今回この駒場東大前をスタート地点として選んだ理由を教えてください。
通っていた<東京大学>が駒場東大前にあったので。大学1年生から2年生になる19歳の頃、ホテル経営をする目標に対して、たくさんの葛藤があるなか、最終的に起業する道を見出すことができた場所です。いろいろあったけれど、そのおかげでいまの自分が形成されたと思いますし、夢への第一歩、はじまりの地だと思ったので選びました。
ーーホテル経営に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?
小学校2年生のとき、家族で半年ほどアメリカに住んでいました。そして、日本へ帰国する前の最後の1か月間でアメリカ横断の旅をすることになったのですが、ほぼ毎日の車移動で子どもにとってはすごく退屈な時間で(笑)。なので、目的地に着いたあとの唯一の楽しみは、ホテルに泊まることでした。でも、違う土地に来たはずなのに、ホテルの雰囲気やレイアウトがどこも似たような雰囲気ということに気づき、疑問を抱くようになってしまい…。それから日本国内を旅行していても、その疑問は変わらず、ホテル選びの決め手は値段や朝食のバリエーションくらいで、ほかはどれも同じで。そんなモヤモヤを抱えながら、小学校5年生のある日、一冊の小説を読んでいたら、ホテルを経営するおじいちゃんの話が出てきて、読み進めるうちに、“わたしもやってみたい!”と思うようになったんです。
ーーなんと、小学生の頃からの夢だったんですね! それを実現するために現役大学生だったにも関わらず、19歳で会社を設立した決め手は?
プランとしては、大学に入って大学院まで行き、それまでに人脈をつくっていけたらと思っていたのですが、高校2年生のときに東京でオリンピックが開催されることが決まり、2020年のオリンピックに向けてきっとホテル業界はハイスピードで発展するなと思い、高校を卒業したらすぐにビジネスをはじめようと決めました。なので、たまたま事業をはじめるのにいつがベストかを考えたのが、19歳のときだったというだけなんです。
ーーなるほど。わたしが大学生だった頃には、起業するなんて想像できないことです! 小学生の頃から起業するまで、ホテルプロデュース業以外に気になる職業はなかったんですか?
はい、ホテル経営という夢を抱いた小学5年生から高校3年生まで揺るぎませんでしたね(笑)。それには3つの理由があって。ひとつめに、この時期って徐々にアイデンティティが形成されるときですよね。そんなときに親や友達に「ホテル経営をするという夢があるんだ」と話していくうちに、どんどんアイデンティティと一体化してきて、それが自分の心の支えになっていた気がします。2つめに、発展途上国の経済発展や交通機関の発達によって今後の旅行人口が増えるだろうと思っていたので、ホテル経営には経済的な合理性がありました。3つめに、多くの職業が他人に認められたり、選ばれたりすることや人気を集めることが前提になっている中で、ホテル経営は自分の意志と実力で切り開いていける職業だったからだと思っています。

ーー東大に入り、その後も夢に向かって一直線の龍崎さん。一度やると決めたらとことん突き進むタイプなんですね!
意外とそうでもないんです、けっこうぐうたらな方だと思いますよ(笑)。でも、“より優秀な人たちと切磋琢磨することで成長したい”と思い、あまり東大合格者を輩出する学校ではなかったのですができる限り努力してみたくて。中学校3年生の後半くらいからはすべてを捨てて、東大を目指して一生懸命勉強しました。どうすれば合格できるか分からなかったので、とにかくやれることはすべてやり、誰よりも勉強したと思います。
ーー本当に感心することばかりです! 起業やホテルプロデュースという仕事に対しての不安や大変だったことはありますか?
そうですね、なにもかもが初めてだったので不安な部分はもちろんありました。ただ、経営に関しては、母に代表を務めてもらうことで銀行からの融資を受けることができましたし、ホテルもそのエリアによってそれぞれの大変さがありましたが、まわりの方々の協力のおかげで実現することができました。
ーーところで龍崎さんは“ホテルプロデューサー”という肩書きなのですが、ホテル経営とはまた少し違う仕事内容なのでしょうか?
そうですね、わたしの仕事のメインは、土地を見つけるところから、ホテルのイメージを膨らませ、自走させる。どんなホテルを企画するかが1番大事なところだと思っています。自分のやりたい世界観を広げることが第一段階で、第二段階はそれをどれだけ実現できるか、というところなのでホテルプロデューサーという肩書きにしています。

ーー初めてプロデュースしたホテルが北海道・富良野にある「petit-hotel #MELON」とのことですが、そのときの心境などは覚えていますか?
ホテルでバイトをした経験があったので、多少仕組みが分かっていた部分もありましたが、初めてだったこともあり、いきなり京都や大阪といった期待値が高い場所は無理だろうと考えたんです。そしてふと、北海道だったらブランド力に対しての地価のコスパがいいのではないかと思い、物件を探しはじめました。それまでは全く富良野のことを知らなかったのですが、調べて実際に行ってみたらすごくいいところで、すぐに気に入りました。ここは、プランニングというほどでもなく、経営がどうこうでもなく、野性的に取り組むことができたホテルでした。
ーー野生的…かっこいいですね! では、龍崎さんが考える理想のホテル像とは?
まず、全体に関して共通していることは、“ホテル=メディア”として捉えているということ。まずひとつめは“人と街をつなぐ場所”。ホテルは人を呼び込む力も吐き出す力も持っていると思うので、ホテルを通じて街のPRをし、人の流れの動線をつくることによって街全体の活性化が図れると思っています。2つめに“ゲストと人をつなぐ場所”であると思っています。いろんな客層がひとつの場所に集まるのはなかなかないことですよね。そんな奇跡的なポテンシャルをもっともっと生かしたいと思っています。3つめに、“ゲストと文化をつなぐ場所”。旅に来たなと実感するのは街のスタイルや街の空気感があってこそだと思うので、衣食住すべてを包括しているホテルで“こういう生活をしたかった”という理想を実現できるような提案をしたいと考えています。雑誌やWEBだと文字や写真だけでしか伝わらないけれど、ホテルは実際に体験の訴求ができるというのが強みなので、そういう意味で“ひとつの媒体”だと思っています。
ーー龍崎さんのお話を伺っていると、ホテルには無限の可能性があるように感じます。<L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.>のメンバーにはどんな方が多いですか?
わたしの会社はザ ・ホテル業界を経験してきた人がほとんどいなくて、異業種からの転職や新卒の若いスタッフばかりなんです。なぜなら、業界の外にいる人だからこそ持つことができる視点を大切にしてほしいと常に思っているので、“ベンチャーマインドがあってバイブスが合う人”、“やったことがないことに手探りで取り組むことを楽しめる人”と一緒に仕事がしたいです。


ーープロデュース業をするにあたってのインスピレーション源やアイデアが思い浮かぶシーンを教えてください。
Instagramとpinterestはよく見ていますが、逆にいうとそれくらいです。自分の興味のあるものを深掘りしていくと自ずと世界が広がり、それらがインスピレーションの源になっています。アイデアがひらめくという感覚はなくて、自分の引き出しの中にあるものを、新しくつくるホテルの条件や土地の空気感に合わせて一個一個当てはめていき、カチッとはまるものを探すようなイメージです。
ーーでは、今の仕事をしていてよかったこと、嬉しかったことはありますか?
自分が実際に旅行するときに“泊まりたい!”と思えるホテルが以前より増えたことです。
ーーお気に入りのホテルや旅館はありますか?
美意識の優れた方がひっそりと営んでいるような宿が好きです。国内でも、沖縄の「芭蕉の家」や富山の「HOUSEHOLD」など、素敵な宿がたくさんありますよね。


ーーちなみに、プライベートはどのように過ごしていますか?
自分の生活を潤すための工夫をすることが好きです。DIYや料理をしたり、植物の世話をしたり、刺繍をしたり…。
ーー仕事と学業とプライベートの両立はできていますか?
ワークライフバランスというよりは、ワースアズライフ派のライフスタイルなので、明確な区別があったり、“両立しよう!”という感覚は特にないです。プライベートと仕事が限りなく融合しているし、そんな生活を楽しんでいます。
ーーでは最後になりますが、現在の目標や今後成し遂げたいことを教えてください。
今の会社はいわゆるホテル経営だけを考えているわけではありません。今後は、産後ケア施設をつくれたらいいなと最近考えています。そして、今までのホテルは、価格や駅からの距離、部屋の広さなど定性的な違いでしか選ぶことができなかったのですが、お客様それぞれの趣味とホテルの哲学をマッチングさせるような、“ホテル選びの新しいあり方”を提案したいと思っています。
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Photo_Chihiro Tagata
Hair & Make-up_kika
Interview & Text_Kozue Takenaka
