Interview
真面目にふざけて“世界共通のプラットフォーム”を作り出す。
ミタスニーカーズ 国井栄之の“不真面目の美学”真面目にふざけて“世界共通のプラットフォーム”を作り出す。ミタスニーカーズ 国井栄之の“不真面目の美学”
「自分たちが思う“イケてるもの”を提案して、半径数メートルの身近な人たちに喜んでもらう。その輪がじわじわと広がっていけば、それが一番良いじゃないですか」。
何につけても“イケてる”や“カッコいい”とは、難しい言葉である。それは突き抜けて属人的な考えであるし、主観でしかないものであって、一言「人それぞれ」と表現してしまえば、正味それまでだ。
スニーカーショップ『mita sneakers』のクリエイティブディレクター・国井栄之氏はこう言った。「仕事としてはすごく好きだし、知識も経験もそれなりに重ねてきたつもりではあるけれど、それでも僕は「スニーカーが好きです」とは言えない。だって、足繁く通ってくれている方々の中にはもっと熱狂的に追い続けている人がいるんですよ。それに自分みたいな40歳を過ぎた初老のおじさんがスニーカーについて本気で語ってるのなんて、正直イカれてるじゃないですか。ふざけてるよ。ただ、仕事は趣味じゃないから。本気だから」と、朗らかな自嘲の直後に、突き刺すような目線を投げかける。
同氏はこう続ける。「たまに聞かれるんです。「〇〇シリーズの中で一番好きなモデルは何ですか?」って。僕は、別に宣伝目的とかではなく、いつも「最新作です」と答えます。だってそりゃ、イノベーションに触れたいから」。
真面目と不真面目、カッコいいとダサい、本音と建前。国井氏の言葉には、まるっきり逆を向いた概念が同居する。そんな彼のスニーカーへの想いに触れてみていただきたい。そして読後にはまたこの冒頭に戻ってきてほしい。本稿が単なる「スニーカー愛」についての話ではなかったのだ、と感じざるを得ないはずだ。
Photo_Daiki Endo
Interview&Text_Nozomu Miura
Edit_Nobuyuki Shigetakeスニーカーのこと、乗り物だと思ってるんですよ。
「mita sneakersの国井です。どうぞよろしくお願いします」と、さっぱり自らを表現する。まず彼は、自身が思う“運動靴とスニーカーの違い”について、またそれに伴う彼自身の嗜好について、話を始めてくれた。
「そもそも、いわゆる“運動靴”って、その役割を終えたら処分されてしまうものなんですよね。ある競技のために最適化されたもの、というか。運動そのものの方向だけを向いている。一方で“スニーカー”は、そうじゃないんですよ。もちろん履き心地や機能性を求める方もいますが、好きなラッパーが履いていることが理由で欲しくなることもあったり、文化背景もそこに作用すると思うんです。
加えて仮に加水分解(経年によるウレタンパーツ等の劣化)が起きて履けなくなってしまったとしても、ものすごく思い入れがある一足ならば、履けないけれど箱にしまって保存しておくこともある。“アート”は言い過ぎかもしれませんが、そういう“違うもの”に昇華することができるんです。
僕が特段スニーカーに惹かれたのは、大量生産品でありながら、そうでない部分も大いにある、という点です。もっとシンプルに言い換えれば、たとえば僕が影響を受けたカルチャーの住人やアーティスト、映画のなかの人物たちって、みんなスニーカーを履いてるんですよね。ジェネレーションもジェンダーも肌の色もそれぞれ違うけれど、誰もが皆、統一された“スニーカー”という名称の履き物を履いている。世界共通のプラットフォーム、というか。それが、スニーカーの一番好きな点です。
ちょっと話が脱線してしまうかもしれないし、強い言い方になってしまうかもしれないけれど、ほとんどすべての人が、スニーカーを履くことができるんですよね。そういった点で、僕の中でスニーカーは“みんなにとっての乗り物”なんです。
僕はもともと、mita sneakersで働き始める前、車のレーサーを志していたんです。いろいろあってやめてしまったんですが、そのときに「スニーカーの構造って車と一緒じゃん」と思ったんですよね。アウトソールがタイヤ、ミッドソールがサスペンション、アッパーがボディ。基本的な構造が乗り物と同じなんですよ。そういう個人的な想いもあって、合点がいったんですよね。
それに加えて、僕は幼少期にヒップホップカルチャーやスケートカルチャー、音楽や映画のカルチャーから大いに影響を受けていて。正直なことを言えば、本当はスニーカーよりもガジェット類が好きなんです。『バックトゥザ・フューチャー』を見て「未来ってすげえ!」と思っていた。日本で言えば『ドラえもん』みたいな、ポジティブに進化した未来を想像していたんです。それはスニーカーにも同じことが言えました。
しかし21世紀になった瞬間、世の中では80年代のスタイルが流行ってしまって、それがめちゃくちゃ残念で。「車、空飛んでないじゃん……」ってずっと思ってた(笑)。それでも、最新のガジェットとスニーカーだけは、“今”であったり“未来”であったりを常に体感させてくれたんです」。
本気でふざける。等身大で、カッコつけない。
いつも国井氏に“今”と“未来”を見せてくれた、スニーカーの存在。それはきっと、“ものすごく色濃いもの”ではないような、そんな気がしてくる。どこか、距離感があるというか。
最先端のものはカッコいい、といった彼の想いは、仕事として始まり、今日に至るまでにどんな変遷を辿ってきたのか。mita sneakersについて語られる際によく耳にする「コラボレーション」のキーワードをもとに、ゆっくりじっくりと語ってくれた。
「基本的に、ふざけてるんですよ。僕。今こうして話しているのだって、靴に興味無い人からすればどうでもいいことじゃないですか。それも、僕にとっては“全力のふざけ”だから。プライベートで友達と酒を飲んでる時に「スニーカーがさぁ……」なんて、絶対に話さないし。
スニーカーについてものすごく考えて話してる初老のおじさんなんてそもそも、その存在自体がふざけてるじゃないですか(笑)。でも、仕事の時は、プロの人と一緒にやっていくワケです。今だってそう。プロのカメラマンさんがいて、プロのライターさんがいて、取材してもらってる。僕がmita sneakersに入ってから、ショップとして初めて“コラボレーション”をおこなったのですが、そのときって、関わっているみんながプロで、全員が本気なんですよ。みんなが全力を出して、それぞれにとっての正義を出し合う。それを“コラボレーションモデル”としてのスニーカーに、昇華する。
コラボレーションを初めておこなった時に、よく「世界を見据えて、ですか?」なんて言われていたんです。その頃のインタビュアーの方を馬鹿にする意味合いではなく事実として、世界のことなんて、全然考えてなかったんですよね。 自分たちの中でイケてると思うものを作って、それを見ている人たちが「あいつらバカみたいなことやってんな、おもしれえな」と思ってくれて、結果的にイジってくれただけ。スニーカー業界に一石投じたくて、ではないんですよ。 たまたま自分たちがやったことで、半径何メートルかの場所にいる人の心を震わせることができた。それで全部オッケーなんですよね。そもそも僕がこの仕事を続けられたのは、外の人たちと一緒に仕事をしているからだと思うんです。 お店で商品を売るだけだったら、とっくに辞めてるはず。ここにアルバイトスタッフとして入って2年目ぐらいに、ショップ初となるコラボレーションをスポーツブランドに直談判してから、思ったよりも早くできちゃって。 結局その後、自分から他のブランドにアタックしたのは、二度ほどだけで。 幸いなことにその後はブランドからオファーを頂けるようになりました。
そんな中でも、特に身近な人が「めちゃくちゃ良いな」と言ってくれるのなら、それが一番です。みんなでふざけて、それも、思いっきり真面目にふざけて、その結果、身の回りの人たちが喜んでくれる。その輪が、徐々に広がっていく。そういうふうにして、僕らの“コラボレーション”は着々と身を結んでいったのだと思っています。
ただ、そもそも僕らの仕事ってコラボレーションじゃなくて。各メーカーさんが作ってくれた大切な商品を仕入れて売ることこそが、僕らの使命です。そのうえで僕が思う、うれしい光景がひとつあって。
とあるお客さんが、何かひとつの目的を持って僕らの店に来てくれた際。ある一足のスニーカーを頭に浮かべている彼にmita sneakersが、彼の想像とは違う、けれど彼にぴったりな一足を勧めるとするじゃないですか。半信半疑で彼は僕らが勧めたスニーカーを購入して、その靴を履いて地元に帰ったら、地元の友達が「何それ! めちゃくちゃカッコいいじゃん!」と。そんな時に「ミタで買ったんだよね」と返事をして。すごく嬉しいですよね。で、その後に「この間勧めてくれたスニーカーを友達に褒められて、すごく嬉しかったのでまた来ました!」なんて言ってくれたら、それはもう、最高じゃないですか。
僕らの仕事は、“選択肢を広げること”なんです。自分がスニーカーをセレクトしているとは言えども、全てのスニーカーを実際に履いているかと言えば、そうではない。でも、自信を持ってお勧めする。そこには、人が接客するからこその、良い意味でのヒューマンエラーがあると思っています。それが、ふざけることにも関係しているんじゃないかな」。
「スニーカーが好きです」なんて、言えません。
“スニーカーブーム”という言葉を、よく耳にする。その事象や状態を、彼自身はどんな風に捉えているのだろうか。話を聞いてみればそこには、彼なりの“スニーカーとの距離感”があった。
「一足のスニーカーを買うために徹夜して並んでくれるとか、本気で抽選販売に挑戦するとか、いわゆる“本気な人”って、いるじゃないですか。僕、その熱量は正直持っていないんです。休日なんかにお店前で発売時間を待ってくれるような、本当にスニーカーが好きな人たちと対峙しているなかで、「スニーカーが好きです」なんてふざけても言えないな、って思うんですよ。
大昔なら若い言葉として言えたかもしれないけど、何十年も見てきたからこそ、言えない。自分の生活の中でスニーカーが占める割合って、仕事でやっているからこそ少々大きくはあれど、他の仕事があるのにスニーカーに対して熱量高く関わっているような人には敵わないから。
“ドレスコード”というシステムを考えたんです。今でいう“抽選販売”は、そもそもmita sneakersが業界で初めて取り入れた販売方法なのですが、その際にこちらが指定する特定のスニーカーを着用していなければ目当てのスニーカーを購入できない、というもの。
この手段を使って、心からスニーカーが好きで購入したいと思っている人々の中にそうではない人たちが混ざり込んでいる状態を、ヘルシーにしたかったんです。正直、ドレスコードの内容は、スニーカーが好きな人であれば簡単にクリアできるものにしていて。スニーカー愛好家の方々から「ゆるい! もっと厳しくしろ!」なんて言われてしまうほど(笑)。
僕らとしては、“スニーカー好き”の幅を狭めてしまうよりも、広めていくことこそが目的です。だからこそ、スニーカーの販売方法やその捉えられ方がきっかけで初めてスニーカーを買う人のチャンスを無くしてしまったら、全然意味がないんですよ。その辺のサジ加減は、とても慎重に考えましたね。
それが結局、誠実だよな、と思ったんです。いくらブームだからと言って、本当に欲しい人が買えないのは、寂しいことですから。その都度ベストな販売方法を模索していくのが、僕たち小売り業者の永遠の課題でもありますし。
ただ「買えた/買えない」だけでも良いんですが、その靴を買うまでのストーリーの重要性って、あるじゃないですか。モノには、そのモノ自体の良さもあるけれど、自分だけのストーリーが加わることによって“自分だけのモノ”になる、という忘れられない側面もあるんですよ。
“コラボレーション”という形のリリースを始めてから、自分たちが納得感を持って作った靴が翌日には販売価格の何倍にもなってしまった、みたいなことを何度も経験してきました。たとえば「この靴は定価がこのぐらいで、今はこんな値段なんです」といったことって、靴に興味を持っていない人にでも理解しやすい評価基準ですよね。ただ、僕らの仕事は、それを説明することじゃない。それ、つまり“値段”は、ひとつの角度でしかないんです。説明しなければ伝わらないことを、一生懸命に説明することこそが、僕らの仕事だから。
「スニーカーブームについて、どう思います?」と聞かれる機会が増えてきました。僕はいつも「ブームは大歓迎です。でも、そのブームが冷めるまでに、どれだけの人に対して僕たちが思うスニーカーの楽しみ方を伝えられるか、ひたすらに考えている」と答えます。僕個人としては、“スニーカーとの距離感”があるからこそ、そう考えていられるんだろうなぁと思いますよ。
スニーカーは、ある種好きです。でも、別に、公私を忘れて愛しているわけではありません。僕は“プラットフォームとしてのスニーカー”が好きなんです。そこには、確かな距離感がある。たとえば仮に、特定のスニーカーが大好きでたまらなかったら、僕は“スニーカー屋さん”になんか、なっていないと思いますよ。だって、自分がずっと持っていたいものは、絶対に手放したくないはずだし(笑)」。
おわりに
国井氏は、終始落ち着いた様子で、彼なりの“好き”を語ってくれた。「最先端が一番カッコいいですよね」と話してくれた彼の言葉には、嘘はひとつも無かったはずだ。「いっつもふざけてるだけですけどね」と、うそぶいてはいたものの。
“好き”を語るときにもっとも大切なのは、距離の取り方だ。「スニーカーが好きで好きでたまらないんです!」と高らかに声を上げるのも、ひとつの距離。きっと国井氏は、そうではない、別の“距離”を取っているのだろう。それはもちろん、ネガティブなものではない。至極ポジティブなマインドで、ある一定の距離から、平熱をもって、スニーカーとそのシーンを見つめているのだろうと思う。それも確かなるひとつの“好き”なのだろう、と。そう感じた取材であった。
Sneakers Care
プロの洗濯集団「洗濯ブラザーズ」によるスニーカーの洗濯方法について
ここでは、国井氏へのインタビューに続けて、『毎日の洗濯が、「嫌いな家事」から「好きな家事」になるように、洗濯の楽しさを伝える活動をしている』という集団・洗濯ブラザーズによるスニーカーのお手入れ方法をご紹介。
"定期的にするべきスニーカーのお手入れ"とは?洗濯ブラザーズ・次男の茂木康之です。普段は、世田谷区三宿でLIVRERというクリーニング屋を運営しながら、週末はポップアップという形で全国各地のアパレルショップへ行き、洗濯のノウハウを伝えています。
「モノカタル」の第6回は、スニーカーのお手入れ方法について。
衣類のように着るたびに毎回、とまではいきませんが、何度か履いたタイミングで、もしくは汚れが気になってきたら、お手入れをしておきたいところです。
というわけで、今回は、お気に入りのスニーカーを長く履くための定期的なお手入れ方法を、みなさんにお教えします。
「洗濯ブラザーズ」が考えるデイリーなスニーカーのお手入れ
使用アイテム
「洗濯ブラザーズ」が答えるスニーカーお手入れFAQ
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Q1. 洗剤はどういったものを使えばいいの?
洗浄力の高い、粉洗剤を使用しましょう。外側の汚れだけでなく、内側の皮脂汚れなどにも効果抜群です。
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Q2. どれくらいの頻度でお手入れをすればいいの?
基本的に履いたあとはブラッシングをして砂埃や泥汚れを除去するようにしましょう。あとは、毎日同じスニーカーを履かないこと。一度履いたら、3日くらいはおいたほうがいいです。
Q3. 洗うと縮んだり、型崩れしますが、防ぎ方ってありますか?
素材にもよりますが、シューツリーを入れることで型崩れを軽減させることができます。
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