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  • 『余命10年』は、映画ではなく一つの世界を作っているのかもしれない。
    監督・藤井道人インタビュー。

    藤井道人監督には、撮れない映画ジャンルはない。『余命10年』は形式的には、余命もの、恋愛ものに入る映画だが、そういった枠を超える魅力と凄みにあふれている。藤井監督と言えば、2020年の日本アカデミー賞を制覇した『新聞記者』や、テレビ業界の不文律を覆した骨太な作風が話題のドラマ『アバランチ』など、手掛ける作品はハードボイルドが多かった。そんなフィルモグラフィーから逸脱するような作品をなぜ撮るのか。そして、なぜこの映画がありふれた作品にならないのか。その演出の裏側に迫る。

    Photo_Yuki Aizawa
    Text_Shinri Kobayashi

    数万人に一人という不治の病で余命が10年であることを知った二十歳の茉莉。彼女は生きることに執着しないよう、恋だけはしないと心に決めて生きていた。そんなとき、同窓会で再会したのは、かつて同級生だった和人。別々の人生を歩んでいた二人は、この出会いをきっかけに急接近することに。もう会ってはいけないと思いながら、自らが病に侵されていることを隠して、どこにでもいる男女のように和人と楽しい時を重ねてしまう茉莉。「これ以上カズくんといたら、死ぬのが怖くなる」。思い出の数が増えるたびに失われていく残された時間。二人が最後に選んだ道とは......?

  • この作品で絶対にやらないと決めていたこと。

    ーこういう余命ものは、藤井監督のフィルモグラフィーの中では珍しいですよね。

    内調(内閣情報調査室)も出てこないし、ヤクザも出てこないですよね(笑)。極論すると、海外の恋愛映画は好きなものもあるんですが、ぼくは人の恋愛にそんなに興味がないなと。余命ものというだけで、どうせ人が死ぬんでしょ? とか、泣いてください系でしょう? のようなうがった見方を自分もしていたんです。

    ーでも、実際に観るとこの作品に引き込まれる人も多いはずだと感じました。そもそもご自身がやるべきだという価値はどこに見出していましたか?

    ぼくのデビュー作は『オー!ファーザー』というワーナー配給の作品なんですが、興行的にうまくいかなくて、デビューした新人の洗礼も受けたというわけです。でも、そのワーナーさんから、もう1回オファーが来たっていうのはやっぱり嬉しかった。でも、最初はそれだけで、いわゆるザ・余命ものになっていたんです。メジャー恋愛映画としてどう成功させるかという議論にあまりついていけませんでした。

    ーそこからどうやって脱却したんでしょうか?

    今回の原作の作者・小坂流加先生のご遺族に三島でお会いしてお話を聞いたときに、これはちゃんとやらないと駄目だなと自分の中で思ったんです。原作本の中に黒字で、生前の小坂先生が書かれた叫びみたいなものがあって、ここをご遺族の力もお借りして映像化できたら、それこそ見たこともないような、テンプレートものじゃない、彼女が生きた証という、ヒューマンドラマができるかもしれないと。それを宣伝のために恋愛映画として売るのは、ビジネスだし、構わないけど、ぼく自身が泣かせてやろうとか、こうやってどや! みたいなことをすると失敗すると思いました。味気ないからもっとナレーションを入れてわかりやすくしてと言われたとしても、そういうことは絶対にやらないと決めて、今回は挑みました。

    美術か衣装にこだわる先にあるもの。

    ーこういう余命ものって、嘘っぽさがちょっとでも入ると、途端に冷めていくような気がします。でも、この作品はリアリティがあって、例えば、映画の開始早々出てくる、主人公の茉莉のあの部屋を見たときに人が住んでいる感覚があったんです。リアリティを出すための、美術や衣装に関しての作り込みについて教えてください。

    スタッフは、これまでのヤクザものも政治ものも一緒にやってきたメンバーで、恋愛映画だからかわいくしようとか一切考えていませんでした。衣装に関しては、Tシャツ1枚でもいいんですけど、リアリティという意味ではいかにナチュラルであるかというところは、スタイリストの伊賀大介さんと話を詰めました。この病気で、ここ(肩あたり)にカテーテルが入っている方々は、傷跡を絶対に見えないようにするだろうし、それこそ肌を露出したがらないとか。生前小坂さんが、好きだった色が緑だったと聞きました。あとは自分の周りに自然のものをよく置かれていたそうです。であれば、ここに花を置こうとか、そこにも意味を持たせていて、花言葉を持ついろいろな花が全部茉莉ちゃんのデスクに出てきます。机の花は毎シーン変えていて、彼女の心情や色とか、そういうものすべてが花言葉に詰まってるということにしたいなと。

    ーなるほど。

    あとはその一枚の引きの画の中に、彼女の歴史が見えた方がいいと思ったんです。いわゆる上手側、右側には、10年前から彼女が好きな小説が並んでいて、真ん中の方には趣味として、小坂さんがファンだった清水エスパルスのグッズがあって、画面左には、思い出の写真があります。一方、手前には、生きていくための病気にまつわる機材、という風に引き画一枚でポンっとわかるようにしたいと、美術の宮守と一緒に作っていきました。衣装がこれだからここにはこの色を入れようとか、なじませる色とかを、この1年間でしつこいくらいに詰めていったんです。あとはカーテンの色も微妙に変えていて、最初はちょっと青が暗いんですけども、彼女が次第に前向きになっていくのに合わせて、どんどん光が入るように透過性が上がり、水色に変わっていくとか。今回はそういった気づいてくれなくてもいいですよ、というこだわりがいっぱい入っています。

    ー一度では気付かずとも観るたびに発見がありそうです。そういった画面全体で何かを伝えるような、ビジュアルの力みたいなものを信じてらっしゃいますよね?

    それがもたらす一番の作用は、演技なんです。美術や衣装が際立つすぎるとダメで、気づかれないくらいが一番いい。その場をどう作るかということが、俳優の演技を最大限に引き出す一個の要因なんです。俳優も現場に入った瞬間に、ここはいつもの色と変わっている、薬の箱が変わっている、ああ、(劇中で)年月が経ったんだなとか。病にまつわる機材が増えて、ああ、自分の人生はもう限りなく終わりに近づいているんだな、ということを実感した状態で演技をしてもらうのか、何もないスタジオで「はい、セリフを喋ってください」というのでは、やっぱり全然違う。小松さん、坂口さんのお芝居を助ける上での美術、衣装、メイクだと思って、その辺りはかなりやりましたね。

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  • ーテレビの密着ドキュメンタリー番組で、俳優の方に頭ごなしに演技を指示するのではなく、このシーンではこういう感情だから、こうなるよね? というような俳優とのコミュニケーションが印象的でした。出演者には、どんな言葉をかけるようにしていますか?

    否定しないということ。それは演者だけじゃなくて全スタッフにもそう。たまにエキストラの動かし方について、(トラン)シーバーで全然違う! みたいなことはやりますけど(笑)、基本的には提案してくれたものや作品を良くしようとしてやってくれていることに対しては、一回やってみようと。実際、自分の思っていることと違うこともあるんです。ただそれを、頭ごなしに否定するんじゃなくて一回やってみたことで、俳優自身が言ってはみたものの違うなと気づくこともあるし、ぼくからしてもここだけは変えて残そうかとか、いろんな気づきがあります。

    藤井監督にもあった、悶々とした20代。

    ー坂口健太郎さん演じる和人の設定、例えば命、人生に対して投げやりになっている部分などは設定含めてとても巧みだなと唸りました。映画の中で起きること全てが自然なことだと感じられたというか......。

    自分にわからないことはわからないままにしない、ということは心掛けてます。和人は、10年前の自分でもあって、東京という街にいると、自分の収入とか立ち位置とか自分の存在意義が揺らいで、自分はすごくはみ出してる人間なんだなとか、拠り所がなくて焦るとか、そういった気持ちを20代の自分も持っていました。だから和人に自分を投影できるし、でも一方で仕事がちゃんとあって落ち着いてきたときには、自分は(山田裕貴さん演じる)タケルのように、人の恋愛におせっかいを焼くとかそういう時期もあったと思うんです。多分自分が出会ってきたみんなが、ぼくの脚本の先生だと思っていて、自分自身をいつも客観視して、今日のおれは性格が悪かったなとか、現場で落ち込んだりすることも今でもあるんですよね。そういうものを冷静に捉えて、脚本や人物を書くときに使います。だから、脚本や映画の中には、全く描かれてないですけど、全キャスト分のキャラクターシートというのを作るんです。何月生まれの何型とか、仕事や年収、その場所に住んでいる理由や経緯、なぜこういう性格になったかなど詳細に作ります。

    ー藤井監督の悶々とした20代とはどんなものだったんですか?

    周りからすると、32、33歳とかで日本アカデミー賞を獲って急に現れたみたいになってますけど、いや、結構地続きですよと。階段を飛び越したことはないので。もし飛び越したとしたら、『オー!ファーザー』というデビュー作を撮ったことです。最初、ぼくは脚本家として参加していたんですが、予定の監督が途中で降りちゃって、自主映画しか撮ったことのないぼくが急遽監督になって、ポンって祭りの神輿として担がれた感じです。でも、実力がないから、結局自主映画を撮ることに戻って......。振り返っても20代は、かなりきつかったと思います。自分自身は今考えても楽しかったなと思いますけど、周りの人たちからすると、よくやってたねと。でも、やっていることは変わらないですけどね。とはいえ、お金はやっぱりなくて、口座に3600円しかない時があって、電気代も払えないなと。しかも、その日後輩と飲み会があって、本人たちの前ではかっこつけたいから(笑)、「店で飲むでも別にいいけど、宅飲みする?」みたいに、3000円で緑茶ハイとか安い焼酎を買って。その後残金が600円になってしまい、返すからということで母にお金を借りましたね(笑)。恥ずかしい話ですけど。

    ーいいお話ですね(笑)。当初は、MVを撮りたいと考えていたと何かのインタビューでおっしゃっていた覚えがあります。

    大学1年の時は脚本コースにいて、文字を生業にしようと思っていたんですが、ちょうどそのときに、ミシェル・ゴンドリーとかスパイク・ジョーンズとかのDIRECTORSLABELのDVDが出て、全シリーズ買ったんです。その時におれはMV監督になるんだという時期もあったんですけど、ちょっと失礼な話、MVはどこまでいってもアーティストのものだなと。最近は、年に1回程度で映画に紐づいたMV監督をオファーされる以外は全部断っています。そんなにアイデアも出てこないし。あと、うちの会社には、MVの上手い人たちがいっぱいいるから、自分がやる必要はないなと。だからMVは、昔は大好きでした。いまでもYouTubeとかでMVはたくさん観ますけど、映画とは表現のアプローチが違うと考えています。

    ーCMなどもキャリア初期から撮られていますよね?

    CMをその時にやっていたのは、生活費や映画資金を稼ぐためですね。よく言われますけど、新人映画監督の一本のギャラがCM一日のギャラくらいなんです。自分の場合は、生活のためにCMをやって、そのお金で映画を撮るという言い訳を自分から外したくて、最近ではよっぽどでなければ、CMはやっていないんです。しかも得意じゃない(笑)。CMにはCMを生業にしているプロがいるから、映画監督が何でもかんでもいっちょかみするのではなくて、映画の方がギャラが高いという立場に自分が変わっていかないと、映画業界自体が変わらないなと思ってます。

    ー監督の映像のディテールに対するこだわりは、ひょっとしたらCMの経験が生きているのかなと思いました。

    素敵な質問ですね。それは多分にあって、以前CMでご一緒した方で、クリエイティブディレクターの本山さんという、ぼくも大好きなamazarashiの全クリエイティブをやっている方がいるんですけど、頭がおかしいですよ(笑)。そんなこだわる? みたいな。その時のCMも、最初のぼくの提案は0点だと言われて、いろいろなパターンを作るようにやり直しさせられて、結果提示していたぼくの案とほぼ一緒だったんです。でも、確実にちょっと良くなった。とにかく細部にめちゃくちゃこだわる人で、CM業界で一番尊敬してる人なんですけど、すごい影響を受けています。それを20代で学べたからこそ、そのこだわりは人に届くんだということを知りました。言い方とか伝え方とか、20代でそういう技をたくさん教えてもらったのも大きいです。

    CGではない、四季が必要だった。

    作品のお話に戻すと、今回の映画は、一年を通して四季を撮るという、いまの日本映画ではなかなか許されない挑戦をされています。監督自身が話を通されたんですか?

    一年かけて撮れなかったらやらないというのはこの映画に対する覚悟でもありました。でも、その交渉のときは本当はドキドキですけどね(笑)。ただ、予算は一緒なんです。一ヶ月だろうが、一年だろうが、予算は一緒なのでその家計簿をどうやりくりするかだけ。例えば、長い期間をかけて撮るなら、撮影日数は減らしてもいい。それで一日に撮る分量が増えたとしても、ぼくは季節を撮ることを優先します。

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  • ー四季にこだわったのは、どうしてですか?

    映画なので、何か見たことないものをやっぱり見せたいなと。雪や桜が降るシーンで、雪も桜もCGとかよくあるじゃないですか。でも、面倒くさいこと、回り道をしてでもいいからそっちをやってみるという、ぼくたちの姿勢がちゃんとスクリーンに映るはずだと信じたんです。雪が降っている体(てい)でお芝居してくださいではなく、本当に寒くて口から白い息が漏れて、鼻水を垂らしながら芝居する......、その瞬間しか撮れない。そういうものに対して、自分が妥協しないように。そんな戒めのように四季を選びました。あとはこの作品に合っていたと思うんです。年輪を重ねていくことや巡る季節を、ちゃんと撮りたかったんです。話はすごくストレートですけど、ある種捻りはないんですけど......、でも何事もひねればいいというものでもないと思うんです。だから、今回はこういう作品を自信を持ってお届けします、ということは言えます。

    大ヒット上映中!

    出演:小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理、黒木華、田中哲司、原日出子、リリー・フランキー、松重豊
    原作:小坂流加「余命10年」(文芸社文庫NEO)
    監督:藤井道人
    脚本:岡田惠和渡邉真子
    音楽・主題歌:RADWIMPS「うるうびと」(Muzinto Records / EMI)
    製作:映画「余命10年」製作委員会
    制作プロダクション:ROBOT
    配給:ワーナー・ブラザース映画
    ©2022映画「余命10年」製作委員会