- PRE ORDER
- 10
- %OFF Campaign
多面性のある
デザインを目指して。Interview
矢尾麻琴
(Spick & Span デザイナー)
ワクワクしたり、ときめいたり。シャンとしたり、ホッとしたり。いつもの日常に、そっと寄り添ってくれるSpick & Spanの洋服たち。ときにはフェミニンで、ときにはトラッド。一貫しているのは、チャーミングである、ということ。本企画に登場していただく矢尾麻琴さんは、そんなSpick & Spanのデザイナーのひとりです。ご自身の生い立ちから今季のおすすめアイテムまで、現在開催中の『PRE ORDER 10%OFF Campaign』に寄せて、お話を伺いました。
Photo_Shunsuke Imai
Text_Nobuyuki Shigetake万物が持つ
“多面性”に向き合う現在5名で構成されるSpick & Spanのデザイナーチーム。2022年で6年目になる矢尾さんは、どのようにしてデザイナーを志すに至ったのでしょうか。
「”デザイン”を初めて認識したのは、兄の影響で読み始めた少年漫画でした。幼いながら、キャラクターの造形やコマ内の画面構成に美しさを感じていたんだと思います。幼少期は家庭的にも絵を描くことや、モノを作ることが日常的なところにありましたし、将来は画家か漫画家になりたい、と漠然と考えていました」。
そうしてデザイン系の専門学校へ進学。グラフィックデザインを専攻し、実践的な教育とアウトプットを繰り返していく中で、徐々に自らの本質的な興味に立ち返ることになったと言います。
「物事の“多面性”に興味を持つ自分に気が付いたんです。たとえば、グラスのくびれはプロダクトとしての美しさと捉えることもできますが、手にフィットするように考えられたデザインだし、ターミナル駅でたくさんの人がスムーズに歩けるのも、動線を考慮したスペースデザインによるもの。いわゆる、自身の中に渦巻くものを表現する“作品的”なアウトプットよりも、一見するとデザインされたものに見えにくいような、生活に寄り添うデザインに惹かれるようになりました」。
日頃からなにげなく触れているものにもその姿、形になった理由がある。それは、わたしたちが着ている洋服も同じ。しかしながら「ファッションについては、また別の“多面性”がある」と続けます。
「シーンや会う人のことを考えてその日に着る洋服を選ぶような、他者に発信する側面を持ちながらも、お気に入りの一着を身につけて自らの気分を高める、自身に発信する側面も持っているところが、魅力的に感じたんです」。
幼い頃から親しんでいたファッション。そこに見つけた“多面性”。デザイナーを志すきっかけにもなったこの発見は、デザイナーに就いた今もなお、自身のアウトプットにおけるひとつの指標になっているのだそう。
「ファッションって、洋服だけではなく、複合的な要素で成り立っていると思うんです。それぞれの生活があって、そこに寄り添うもの。私たちが目指すのは、たとえば、袖を通すときに細かな仕様が目についてワクワクするような、ふとしたときに鏡に映った自分を見て「あ、いいな」ってときめくような、そんな洋服です。そのために、360度、どの角度からでも可愛く見える洋服作りを心掛けています」。
少しピリッとした、
けど女性らしさも併せ持った
ツイードベストワクワクする、ときめく洋服。Spick & Spanのクリエイションの根底に脈々と流れるフィロソフィー。ここからは、2022年春夏シーズンのおすすめアイテムである1着のベストを引き合いに、より具体的に、話を伺っていきます。
「尾州(愛知県尾張西部地域から岐阜県西濃地域に位置する、国内一の毛織物産地)で織られた生地を用いたベストなのですが、この生地がもう、とにかく素敵で(笑)。いかにしてこの雰囲気を活かすか、というところが一番の課題でした」。
Spick & Spanがこのベストのために別注で製作したのは、リネンをベースにさまざまな素材が混紡された特別なツイード生地。通常、リネンがベースのツイード生地は少しハンサムにも思えてしまうような、強いハリが出るものですが、ナイロン、レーヨンなどを絶妙な配分で混ぜることで、女性らしい軽やかさ、柔らかさを同居させています。
「この繊細な軽さ、柔らかさを維持しながらもペラっとしないように、見返し(裏地)をウエストあたりまで付けています。こうすることで、重みと厚みを調整しているだけでなく、袖通しも滑らかになりますし、Tシャツやワンピース、ニットなど、いろんな洋服と合わせることができるんですよね」。
シンプルなスタイリングにプラスワンで雰囲気を変えられるアイテムを作りたい、というブランドたっての希望もあり、誕生したこのベストですが、素材だけでなく細かな仕様にもやはり、Spick & Spanらしさが光ります。
「全体的にはやっぱり、少しピリッとした雰囲気のアイテムかな、とは思うんです。もちろん、それはそれで可愛いのですが(笑)、Spick & Spanとしてはもう少し、シャープに見えすぎない工夫が必要だと考えて、襟とアームホールの処理をフリンジにしてカジュアルダウンさせました。このフリンジも生地から地続きではなく、表地と裏地の間に同生地のフリンジテープを挟み込むことで、ルーズになりすぎることを避けています」。
足し算と引き算のバランス感は、インプットとアウトプットを繰り返すことでしか得られないもの。“360度、どこからでも可愛く見える洋服”を目指して施された意匠は当然、それだけではありません。
「サイドから綺麗にインナーを覗かせたかったので、裾に入れたスリットはややフロント側にしています。また、細かなところですが、裾の折り返しはやや太めにして、重さが出るようにしました。こうすることで、歩いたときに生地がすごく綺麗に揺れてくれるんですよね」。
1986年に誕生して以来、チャーミングに生きる女性たちに愛され続けているSpick & Spanの洋服たち。では、矢尾さんが考える“チャーミングな洋服”とは?
「作り手の真心というか、気遣いを感じる洋服はチャーミングだな、と感じます。裏地やファスナーテープ、パイピングの色など、外には見えない仕様が可愛いと、やっぱりキュンとするじゃないですか(笑)」。
最後に、矢尾さんのモノづくりの姿勢について伺うと、「わたし自身、まだまだ学ぶことばかりですが……」と前置きをしつつ、以下のように語ってくれた。
「Spick & Spanのお客様はわたしが生まれた頃からファッションを楽しんでいる方もいますし、とても目が肥えていらっしゃると感じます。たくさんの洋服の中から私たちが作ったものを選んでいただけるのはとても嬉しいことですし、これからもお客様の期待に応えられるよう、モノづくりに真摯に向き合っていきたいですね」。