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    スタイリスト・TEPPEIが着る、
    “らしくない”エディフィス

    きっと誰もが、自分らしくありたいと思っている。だけど、時としてそんな思いが自分の個性を制限してしまうこともある。トラディショナルやエレガンス、エディフィスが大切にしていることはたくさんあるけれど、それを壊して新たに作り上げる気概もまた、エディフィスらしいんじゃないだろうか。今回、そんな問いを投げかけたのがスタイリストのTEPPEIさん。ルールやルーツを知りながら、そこにとらわれずに新たなスタイルを日々模索している業界切っての洒落者だ。彼に託したのは、バブアーとマッキントッシュにオーダーした、エディフィスの4着のコート。TEPPEIさんのセルフスタイリングの先で、自分たちすら気付かなかったエディフィスらしさを垣間見る。

    「ヒネくれてください」と言われると
    逆にヒネくれられなかったりするんです(笑)

    ―今回、“一見エディフィスっぽくなくて、なおかつセンスの良いスタイリスト”としてTEPPEIさんを指名させていただきました。そんなオファーを受けて、率直にどう思われましたか?

    嬉しかったですよ。自分の普段の装いでは色んな流儀を知りつつも“自分としてはこう着たい”っていうものを大事にしてきたんですけど、かたやスタイリストでもあるので、そういうルールとかも心得ないと色んなスタイルを理解できない、追求していけないなという想いが若い時からあって。エレガンスだったりクリーンさだったり、ポップさだったりとかっていうエディフィスらしさも個人的には理解していたつもりですし、エディフィスの粋なところにはマインドとしてはすごく刺激を受けてきたので。直接的な表現はしてこなかったかもしれないけど、こういう結びつきができてすごく嬉しかったです。この撮影をさせていただく直近で、次の春夏シーズンの内覧会にもお邪魔したんですよ。

    ―実際目にされた次シーズンのラインナップはいかがでしたか?

    ずっと感じてきたエディフィスらしさよりも結構攻めた……自由なマインドを感じました。エディフィスの皆さんがどんなことを考えてらっしゃるのかを肌で感じることができて、それで自分に可能性を感じてくれたのかなと思いました。最初の打ち合わせで「ヒネくれてください」と言っていただいたんですが、そう言われると逆にヒネくれられなかったりするんですけど(笑)、最終的にはやっぱそういう性分が出ましたね。

    ―お題のあるセルフスタイリングというのは珍しかったんじゃないですか?

    そうですね。自分が普段着るとなると、今はもう何にも考えてないのに近いんですよ。年齢も重ねてきて、より感覚的になってきたのかも知れません。今回については着るのは紛れもなく自分なんですが、TEPPEIっていう人がいて、それでこういうコートを着てもらうっていう感覚でスタイリングしました。TEPPEIっていうのはこういう人間だ、っていうのを客観的に見て。新しいやり方でしたけど、そういう視点で見ると割とTEPPEIって何でも似合うっぽいなって感じがして。すみません(笑)。アウターの個性を見ながら絵変わりさせつつ、散らしていったイメージですかね。

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    “The·バブアー”が似合う方たちに、
    やっぱり僕は勝てない

    ―早速ですが、4つのスタイリングとそのキーになっているそれぞれのコートについて、解説をお願いできますか。

    じゃあ、バブアーのビデイルから。これは僕の感覚の話になるんですけど、バブアーのインラインを着てらっしゃる方とか、古着で触れたことがある方にとっては生地がオイルドコットンじゃなくなって、着丈が少し短くなって……とかってすごく大きなことだと思うんです。そういう、“The・バブアー”みたいなものが好きで似合っちゃう方ってとてつもなく格好いいんですけど、そうなれる人は限られてて、やっぱり僕はその人たちに勝てないんです。だけど、このビデイルは土臭さとかオイルのニオイとか、そういうとっつきにくさが払拭されててパッと着られるし、僕にはまったく別物に見えました。間口が広いというか。

    ―着こなしもオーセンティックなバブアー像にとらわれている感じは全然しませんでしたね。

    その間口の広さを逆手に取って自分らしくブレンドしていきました。やっぱりオイルドじゃないので、春先に軽やかに着られるなと思ってワイドスラックスを合わせてみて。着丈がショート、身幅はワイドみたいなシルエットで。中は浅いVネックのスウェットなんですけど、レイカーズカラーで文字は“PARIS”っていう。

    ―ややこしいですね(笑)。

    ですよね(笑)。でも、すごいポップだなと思って。そのパープルと、このビデイルの色の印象が合うと思ったんで最初はそこから組んだんです。色のコンビネーションをとにかくクレイジーにして。帽子もカンゴールを合わせたんですけど、ちょっとオールドスクールだけど見たことないようなスタイリングで。それに昔のエルメスの靴を履いて崩しすぎずに……みたいなバランスです。

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    綺麗すぎると汚したくなったり、
    崩したくなるんです

    ―次も同じくバブアーですね。モデル名は“オーバーサイズバーレー”です。

    これはレザーのショーツですね。この下半身は割とフザケました(笑)。コートのオリーブに対して、明快なオレンジのニットベストと白シャツ……って、ここまでは結構いいエディフィス感だと思うんですよ。

    ―上品なトラッドという感じが強いですよね。バストアップなら王道のエレガンスです(笑)。

    そうそう。ちょっと開襟風に開けて。僕は黒で締めてますけど、人によっては肌を見せて着てもいいかなって。だけど、これでスラックスだとちょっと自分としては着てこなかった感じになるし、どうかなっていう。

    ―きれいめ過ぎるな、という感じですか?

    ですね。綺麗すぎるとやっぱりちょっと汚したくなったり、崩したくなるんです。そんな破壊衝動の末の、ビキビキの光沢のレザーショーツです(笑)。ディッキーズぐらいの丈ですけど、それを肌を見せずにロングホーズを履いて気品と、ちょっとの硬さを持たせました。革靴を履いて、下半身は感覚勝負。上半身は割と何かをなぞってる感じで。

    ―上下で別人みたいですね。

    ね。別人感、すごいですよね(笑)。結構これは気に入ってます。

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    デニム地で白ステッチ、このボタン。
    見れば見るほどくすぐってくる(笑)

    ―続いてはマッキントッシュですね。どちらも同じ型で、素材とカラーが違います。

    これはハンビーというモデルなんですが、あんまり聞き慣れないですよね。元々ウィメンズのコレクションだそうで、僕もちょっと意外だったんですけど着たらもう、秒で誰でも似合う形です。間口の広い、誰もが取り入れたくなるようなキラーチューンコート。デニム地で白ステッチ、で、このボタン。見れば見るほどくすぐってくるワケですよ(笑)。これは合わせ方もエディフィスの展示会を見て、次のシーズンのテンションにかなり影響を受けました。

    ―首元のレイヤードや、タイの使い方もすごく面白かったです。

    本来ネクタイを外に出すなんてことは無いから、そこがまずフザケたいと思った1個目で。ブルックスブラザーズのネイビーとか、このデニム地の色味とストライプシャツを組み合わせてトリコロールな感じにしたりとか、僕が好きで見てきたエディフィスのエレガンスに、ちょっとなぞらえてみるというか、乗っかりたくなったんです(笑)。撮影場所が海辺でしたし、マリンな感じで。

    ―シルエットやゆとりも独特ですよね。

    パンツは白いタック入りのスラックスなんですけど、ちょっとクォーターにカッティングされていて、比較的新鮮なシルエットです。それにバッシュ……ジョーダン1ですね。スニーカーを取り入れるのなんて、今はもう外すとも言わない当たり前のバランスの取り方ですけど、おそらく自分がこういう着方をしてるっていうのを、自分を見てきた人ほど面白がってくれる気がします。さすがに4スタイルやって、全部フザケるのもなぁ……と思ったので、このスタイリングは特にエディフィスへのリスペクトを込めて作ったんですけど、結果フザケて見えてるんじゃないかな、大丈夫かな……とは思ってます(笑)。

    ―ポジティブに遊んでる感じで、撮影スタッフもみんな楽しんでましたね。

    撮影してるその瞬間、皆さんも「いいね」となってくださってた気がしたので良かったです。自分としても、「こういうことをやろう」って打ち合わせから色々話し合ってたんだよな、と思いましたね。

    ―攻めた着こなしではあると思いますけど、服好きな人から見るとすごく正統な部分もあるんじゃないでしょうか?

    そうですね。正統な部分を知っているのって、あるフェーズ以上になったり、僕たちの世代は特に必要だと感じていて、大前提だと思ってたんです。でも、今の時代感を見ると、それすらもうちょっとフレキシブルで良いのかなって。……それはそれ、これはこれになってきてるし、攻めた部分と共存させていくことが時代的だと思うんで。そのどちら側の人が見てもフレッシュさがあるルックになったのかなと、今思いました。

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    アウターって外に出てるものだけど、
    それが一番の繋ぎになってる

    ―では最後に、同じくハンビーのチノクロスのものについても教えてください。

    これのベーシックな着方っていうのは他の誰かがやるだろうし、お客さんも店頭で一番着やすそうだと感じる色でしょうし、便利すぎて逆にどうしようかなと(笑)。だから、さっきのビデイルとはまた別軸の崩し方を考えて、トラックスーツのセットアップを一番インに仕込みました。あとはラブークルのシャツなんですけど、これは生地感が抜群でしたね。インポートの生地だって仰ってましたけど、シャネルライクな感じだし、ボタンもコンチョボタンだしで、それ自体がミックステイストで。

    ―国籍も跨いだミックスですね(笑)。

    だいぶ跨いでる(笑)。その感じがすごいトラックスーツに合うなと思ったんです。それで、さらに一番普遍的なものを上から羽織ったら、その普遍性がまた違う面白さになるなって。アウターって一番外側に出てるものなんだけど、それが一番の繋ぎになってるというか。普通、繋ぎっていうのはインとかミドルに挟まってくるんですけど、一番外の主役が実は縁の下の力持ちになっちゃってるっていう。

    ―中の服たちが縁の上に出てきちゃてますね。

    はい(笑)。「それが面白いんですよ、皆さん」っていうつもりで。ちょっと難しいですね、この話は。メイン商材に失礼なことになってたらすいません(笑)。

    ―いえいえ! どうしてもアウターメインに服装を考えがちですけど、それを疑うというのが面白いですね。コートの着こなし方のひとつの解が出たんじゃないですか?

    この解でいいのかな(笑)。いや、お気に入りのスラックスに白のニットでも着て、その上に羽織ってもらうだけでも本当は十分なんですよ? でも、それはもう誰しもやってくださるかなと思っていたから。僕がやる場合はこういう風になるけど、これは決してマネをしてはいけないです、っていう感じです。

    自分が着ることでその人の
    服の可能性が広がったら嬉しいです

    ―真似るとしたら精神性なんでしょうね。今日の4スタイルだけでもたくさん発見と驚きがありましたけど、TEPPEIさんはいつも見る度に違う格好をされている気がしています。まったく同じ服装を何度もされることもあるんですか?

    媒体に出るだとか、今だったら自分のインスタグラムに出したりする時の服装ではカブらないようにしてます。単純に「前も出てましたもんね」っていうのはちょっとなと。でも、それ以外ではそういうことも全然ありますよ。1シーズンごとに数ヶ月を半分ぐらいに何となく切って、着るラックっていうのを家に作ってるんです。それに飽きてきたらストックルームから別の服を引き出して入れ替える感じです。

    ―リザーブとスタメンとってことですよね。相当な洋服をお持ちだと思いますし、すべて把握してフラットに見るのは大変ですもんね。

    そうなんですよ。だからある程度抽出したラインナップっていうのが常にあって、仕事上のTPOも多少あるので、その中で同じ服を着るってのも全然あります。期待を裏切るようなことになってたら申し訳ないんすけど、結構セオリーがあるんです。「この靴バンバン履いてて、ほとんどこればっかりじゃん」とか、「下半身、もうこのバランスばっかりでちょっと変えてるだけじゃん」とかっていう風に。そんな種明かしが実はあるんですけど、それでも退屈に見えず、新鮮に見てもらえてるなら嬉しいなと思いました。

    ―貴重な証言ですね。今回の趣旨の“TEPPEIさんの視点でエディフィスらしさをポジティブに裏切る”というのは大成功だと思いますが、単純にご自身のファッションについての褒め言葉では、何と言われるのが一番嬉しいですか?

    ……これ、事前に“こんなことを聞きたいです”って質問リストをいただいて見てから、一番悩んで結局決めてこなかったんです。率直に今はもう、自分があまり褒められてないです。もはや。特にこの業界だと「お前、服好きでしょうがねぇだろ」っていうのがある程度知れ渡っちゃってるから、例えば改めて「あなたお洒落ですね!」って言ってくる人っていうのももういないですし。とは言え、服を通してのコミュニケーションというのは僕はすごい嬉しいから、「それ、どこのですか?」とか、「いいですね!」ってその服を褒めてもらえることとか、もうそれが買いたくなっちゃってしょうがない人が出たりとか、自分が着てることでその人の服の可能性が広がったなって感じられる時は嬉しいですね。その人が服が好きなんだな、って思えて。

    ―愛おしい、みたいな気持ちですか?

    ですね。すごく可愛いというか。こういうお仕事を通して色んな服を着てもらうきっかけになれたら……そう、きっかけが大事だよなって思ってます。コロナになって尚更それが問われてる気がします。今まで、自然に生きてて自発的に自分のスタイルを追求するきっかけってずっとあったと思うんですね。どこかに行く、誰かと会う、ここに行ったら自分の格好を見られるかも……っていう風に。あまり大きく叫ばれてはいないですけど、今はそこがつまらなくなってる気がしていて。自主的に発信してる人はそういうきっかけ作りをご自身でやられるでしょうけど、大多数の人はそういうわけではないと思うんで。自分自身もそうでしたよ。だから、今日みたいに“エディフィスでこれを着てくれ”っていうようなきっかけがものすごい可能性を生むんです。「あ! 春、こういうのいいじゃん!」って素直に思えたので。その感覚が大事だなって、思いますね。

    TEPPEI

    1983年生まれ、滋賀県出身。バンタンデザイン研究所スタイリスト専攻卒業。ヴィンテージショップのプレスを務める傍らで数々の雑誌の目に留まり、ストリートスナップの常連となる。その後スタイリストとしての活動を始めて以降は、ファッションビジュアルやショーのディレクションにミュージシャン、俳優のスタイリングなど、精力的に活動し続け、ファッション業界内外からの圧倒的な人気を博している。@stylist_teppei

    Styling & Model_TEPPEI
    Photo_Keita Goto(W)
    Edit&Text_Rui Konno