時代を超えるクリエイティビティ
N.HOOLYWOOD for ÉDIFICEIVY PACK
ブランドというのは、一体誰のものでしょうか。作り手たるデザイナーやディレクター?
商標と権利を持っている会社?あるいはそれに傾倒し続けるファンかも知れません。
きっと誰も完璧な答えは持ち得ないけれど、
そのどれが欠けてもブランドは成り立たないでしょう。
尾花大輔さんは20年以上のキャリアの中で、そのことを身を以て実感してきたデザイナー。
私たちエディフィスにも、彼のクリエイションに心酔している人間は少なくありません。
そんな最大のファンたる我々が、N.ハリウッドとともに構想した初の別注コレクションが
遂に完成!個性と自我の極致たる気鋭ブランドとデザイナーは、
エディフィスのリクエストに何を感じて、これらの服を作ったのか。
そのビハインド・ザ・シーンに迫ります。一番ヤバいのは、
こういうものなら売れるんじゃないか、
みたいな発想―今回エディフィスでは初めて、N.ハリウッドに別注を受けていただきました。改めてありがとうございます。
尾花大輔(以下尾花):いえいえ。エディフィスさんにN.ハリウッドを扱っていただくようになって、実はまだ2シーズン目なんですよね。正直言えば、そのくらいの段階では本来うちは別注はお受けしないんですよ。別注ってやろうと思えば無限に色んなことができてしまうし、そこのお店のお客さんに僕らのことが浸透していないと、やっても意味が無いと思っていて。
―確かに……。それでも今回受けてくださったのは何故ですか?
尾花:エディフィスさんはお客様との深い関係ができているだろうし、都内に店舗も多いから、N.ハリウッドを知ってくれている人も多いと思ったんです。そうなると、そこのケミストリーが見たい人もいるだろうし、それなら時期尚早でも無いのかなと。でも、いつやるかよりも何をやるかの方が重要で、対・会社としての取引というよりも個人の想いがある方がモノが活きてくると思うんです。一番ヤバいのは、こういうものを置いたら売れるんじゃないか、みたいな発想の別注。それじゃ多分、うまくいかないんですよ。―正直世の中を見渡すと、そういう別注も少なくないですよね。
尾花:その点、エディフィスさんはバイヤーの大瀧くんと話していたら「N.ハリの2018年の春夏が僕は本当に好きでした。それをベースに別注させて欲しいんです」と結構ピンポイントで来たから(笑)、あぁ、これならやる意味があるなと。好きだと言ってくれたシーズンに何か違うエッセンスを加えて、リバイバルさせるっていう。それならお客様に届いたときに、すごく響くんじゃないかなということでこうなった感じです。
―1シーズンで数百型あるのに、体ひとつで半年間ではその全部は試し切れないですよね。
尾花:「全部それをやってます」と言ったら嘘になっちゃいますよね。ただ性能や機能にすごく特化してるものとか、例えばアンダーウェアみたいなより肌に近い、デイリーなものに関しては何年もテストをしたりしていて、その間1シーズン、2シーズン寝かせてから発表することもあります。ここで言う“寝かせる”は、さっきのとはちょっと意味が違いますよね。
―未完成なまま世には出さないということですよね。別注からは少し話が逸れますが、アーカイブという意味では今年、ラングラーとのコラボのランチコートなどが復刻されて驚いた人も多かったと思います。リアルタイムで知っている人なら、あの異常な人気と盛り上がりを経験しているでしょうから、余計に。尾花:ウチは今年で丸20年なんですが、あれはブランドの去年と今年でやってる20周年企画の一環です。ただ僕、実は周年とかってあんまり好きじゃないんですよ。
―え? それはまた、何故?
尾花:お祝いって、普通は自然と周りがしてくれることじゃないですか。だから、自分からしてもらおうとお願いするのって変だなって。いるじゃないですか。「私、もうすぐ誕生日なの!」みたいな人。
―いますね。めちゃくちゃいますね(笑)。
尾花:ですよね。自分で誕生会を開く意味がわかんなくて……とか言ってると色んな人を敵に回すか(笑)。でも人生生きてれば、すごく盛大に祝ってもらえることもあればタイミングが合わなくて誰もいない時だってあって良いと思うんですよ。で、N.ハリウッドも20年を迎える時にスタッフたちが「周年をやりたい」ってみんな言ってたんですよ。僕からはそれをやろうとは言えないけど、スタッフみんながそう言ってくれてるのはギリギリ祝ってもらえてるってことかなって(笑)。古着は時代とともに
ディテールが変わるじゃないですか。
同じことを新品でやれたらなって―ある意味一番身近なファンの祝福ですもんね。
尾花:僕自身は過ぎたものにあんまり関心がないですしね。あとはあのランチコートに関して言えば、自分でも買えなかったんですよ。本当に反響がすご過ぎちゃって。今だから言えますけど、買えなかった人たちからのクレームが大量に来て大問題になっちゃったんです。その状況で僕は着れないですよね。「ごめんなさい〜」って言いながらそれ着て謝るみたいな。意味わかんないなと(笑)。
―火に油ですよね(笑)。聞くところだと大瀧もやっぱり青春時代、あのサーモンピンクのランチコートの争奪戦に参加して敗れたそうです。
尾花:可哀想な青春時代を過ごしてたんだね(笑)。あれは当時のスタッフもほとんど買えてないんじゃないかな? カオスな時代でしたね。
―同じ名作でも、当時を知る人と、今回で知った人とがいたのが面白かったです。
尾花:昔熱狂した人が欲しがってくれるのはありがたいですけど、予定調和な感じがして僕らとしてはあんまり面白くないかなぁ。それよりも何もわからない人が「これ新しいな」と思って買ってくれる方がいいから。その方が時代といろんな形でシンクロしてるんだなとか、いろんな見え方ができるじゃないですか。ただ、実はあれも全部パターンとかはイジって変えてるんですけどね。
―そうだったんですね。恥ずかしながら気がつきませんでした……(笑)。
尾花:それこそ皆さん覚えてくれているかはわからないけど、リーバイスとのコラボでやっていたブラックのストレッチの517もそうです。古着を見ているとリーバイスにしろ他のブランドにしろ、同じ形なのに時代とともにディテールが変わるじゃないですか? 後に伝説になるかどうかなんて考えないで、単に良くするためにアップデートしていったことが、後にヴィンテージとして見たときに、「これはファーストだよね」、「セカンドだよね」とかっていう話になる。同じことを新品でやれたらいいなって思ってたんです。実はあの517もずっとファーストから買い続けてたら、全部ディテールが微妙に違うんですよ。後で気づく人がいるように、ロットナンバーとかタグを付ける位置とかを微妙に変えたりとかして。
―そういう意味では、アーカイブをアレンジした今回の別注のやり方はN.ハリウッドらしいのかも知れませんね。改めてこの2018年春夏のコレクションについてお聞きしても良いですか?
尾花:今はもうちょっとアトモスフィアな部分に向き合ってるんですけど、この頃は人寄りのテーマを掘り下げる最終期くらいだったのかな。ジョン・F・ケネディの生涯と言うか、彼が猛烈に駆け抜けたあの時代にフォーカスして。あの時代……’50年代から’60年代ってすごくトラッドなものも多いじゃないですか。日本だったら高度成長期で、化学繊維も出て来始めたり、様々なものが省略化されたりして、ファッション自体もかなり削ぎ落とされていった。それが過ぎるとビートから少しサイケな方向に流れたりしていくんだけど、その少し前の、よりシンプルな時代です。―だから少しオールドスクールなトラッドスタイルが多かったんですね。
尾花:そうですね。ワッペン使いとかはその象徴かも知れません。ただ、プリントで言ったら’90年代ぐらいの手法を使っていたり、リメイクの匂いも持たせていたりとか、わざと時代背景はぐちゃぐちゃにしています。その方が現代的かなって。昔はその時代の技法で、素材で、テイストでって寄せていく方がクールだと思ってたけど、今はそんな気分です。前ならスウェットも’60sらしい綿100%にしたでしょうけど、この時のスウェットは綿ポリですね。実を言うとこの別注のバーシティジャケットとカーディガンは、ボディも変えてるんです。今季のコレクションで使っているものに。すごくクリエイティブですよね。
今シーズンと昔のモノが
これだけマッチするのは―そこでもシーズンを跨いでいるんですね。
尾花:これは大瀧くんが提案してくれたんです。「今季もちょっとスクールテイストがあるから、そこに当時のワッペンとかを載せてもらうことはできないでしょうか?」って。それはアイデアとしてすごく面白かったし、「なるほどな」と思いました。すごい自然に馴染んだでしょ?
―本当に違和感が無いですね。こうやってまとめて掛かってると、どれがアーカイブでどれが別注かがわからなくなりそうです(笑)。
尾花:(笑)。でも、それってすごくクリエイティブですよね。今シーズンと昔のモノがこれだけマッチするっていうのは。それはすごく難しいところで、コレクションブランドとしては儚い方が良いものもいっぱいあるんです。その時の名品でシーズンが終わったらしばらく着られないけど、やっぱり10年後にまたそれが良いと思えることもあるので。決して持続可能なデザインだけがすごく重要なわけじゃないと、正直言えば思っています。実際に作るものはそういうものが多いんですけどね(笑)。
―でも実際にこうやってシームレスに見られることはポジティブに捉える人が多いんじゃないでしょうか。
尾花:あまりにも自然に馴染んでますからね。僕自身、このバーシティジャケットって、あの時全部メルトンのも作ったんだっけ? と思った後に、今回の別注品だったことを思い出したりして。うまいことやってるなって(笑)。日本って少し変わってて、デザイナーが全部見てるケースが多いんですよ。特に比較的長く、僕らと同じくらいやっているような人たちって、重箱の隅をつつくぐらい見ていたりする。でも、やっぱり信頼できるスタッフやバイヤーさんとしっかり話して、彼らが僕にまとめてアイデアを出してくれたりして、その絵型を見て「これならイケるんじゃない?」みたいなこともアリだなと思います。たまに「それは違くない?」みたいになることももちろんあるけど、今回のはすごく気持ちよく作れた良い例だと思います。―外の意見が入っても最終的に尾花さんが取捨選択して判断したら、やっぱりちゃんとN .ハリウッドになるんですね。
尾花:モノを作るときの自分の引き出しって、やっぱりどんどん足さないといけなくなるんです。そう考えたら、「こういうのがあったら欲しいっすね」とかっていう意見に対して、拒否するよりも耳は傾けたいんです。結構「なんで?」とかってよく聞いてます。そうすると意外な答えが返ってきたりして「それ面白いね。じゃあ、やってみようか」となったり。仮に面白くなくても、なんで僕はこんなに嫌に感じるんだろうな? って考えますしね。嫌なことほど真剣に考える。
―嫌なことの方が理由が明確そうですよね。
尾花:その嫌な理由が、“自分が持ってない部分だったから”っていうような、一種のジェラシーみたいなことだったら認めてみるとか。当然、失敗するケースもあるんだけど、事故らないとわからないですから。意外とそうそう失敗しないですし。まぁ、ランチコートを出した時は大事故でしたね。それこそ「訴えてやる!」みたいなものまで来ちゃってたから(笑)。DAISUKE OBANA
尾花大輔1974年生まれ、神奈川県出身。10代からヴィンテージのバイイングに携わっていた、生粋の古着育ち。その後独立し、2001年にN.ハリウッドを立ち上げる。かねてより親交のあるアンダーカバーのアーカイブ生地を使ったコレクションや、専用アプリ内のアバターで着せ替えを行うデジタルでのコレクション発表など、20周年を超えた現在も実験的な試みを続けている。プライベートではワークアウトが目下の関心事項。
N.HOOLYWOOD × ÉDIFICE
Photographer : Ryota Matsuki(ÉDIFICE)
Edit&Text : Rui Konno