
ファッション好きが信頼を寄せる店。そう聞いて真っ先に思い浮かぶのが、L'ECHOPPEだ。
同店がオープンして5年と数ヶ月。昨年にはオリジナルレーベルLEも始動し、今夏には待望の2号店が渋谷に誕生した。
彼らが人々を惹きつける理由は、時代の風に乗っているからだけではないだろう。
5年以上の月日で強固な幹を育み、枝葉を広げてきたからに他ならない。
その仕掛け人でもあり、コンセプターでもある金子恵治にL'ECHOPPEのこれまでの歩み、そしてLEに掛ける思いについて話を伺った。

ファッション好きが信頼を寄せる店。そう聞いて真っ先に思い浮かぶのが、L'ECHOPPEだ。
同店がオープンして5年と数ヶ月。昨年にはオリジナルレーベルLEも始動し、今夏には待望の2号店が渋谷に誕生した。
彼らが人々を惹きつける理由は、時代の風に乗っているからだけではないだろう。
5年以上の月日で強固な幹を育み、枝葉を広げてきたからに他ならない。
その仕掛け人でもあり、コンセプターでもある金子恵治にL'ECHOPPEのこれまでの歩み、そしてLEに掛ける思いについて話を伺った。

金子恵治
セレクトショップ「エディフィス」にてバイヤーを務めた後に独立。
自身の活動を経て、2015 年に「レショップ」を立ち上げる。
最近では「WEEKEND」や「THE COOP」「 INVENTORY」を立ち上げ活躍は多岐にわたる。
―L'ECHOPPEがオープンして5年半。当初からコンセプトは変わらずに続けて来られたのでしょうか?
志は変わってないですね。オープン当初からファッション感度の高い人をターゲットに設定していて、そういう人たちが納得するものを用意したい。その思いは今も変わらず、ずっと持ち続けています。だけど、L'ECHOPPEにはアメカジやフレンチシックといった具体的なイメージは一切設定していないので、時代の流れによって商品の構成が変わってきています。
―最初からテーマは設定していなかったんですか?
そうですね。僕自身、L'ECHOPPEでは商品を用意することに徹したいと思っていて、いわゆる流行は追いかけずに、時代の空気にふわふわと漂っていたいんです。狙って頑張る、みたいなことはやらず、マイペースに得意なことをやって。だから商品の構成も変わっていくんですよね。この5年半を振り返ってみると何にも逆らわずに動いてきたのが良かったのかなって思います。ただ、最近はお客様のファッションのレベルが全体的に上がってきている印象です。そこまでファッションに興味がない人たちもどんどんオシャレになってきている。僕たちも成長しないといけないなと感じる日々です。

―その全体的なレベルの向上は、どういった時に感じられますか?
単純にいうと、来店されるお客様がすごくオシャレなんですよね。昔はちらほらいるくらいの感覚だったんですが、今はそういう方が毎日のように来られるんですよね。それはありがたいことにL'ECHOPPEの認知度が高まってきたこともあるのかなと思っていて。これまで僕らのことを知らなかったお客様にもお越しいただけるようになったのかもしれないですね。
―それはL'ECHOPPEが、純度の高いファッションを発信してきたからだと思います。そして、L'ECHOPPEにおいて金子さんは“コンセプター”という肩書きですが、これはどういったポジションなんでしょうか?
実は自分でも“コンセプター”ってよくわかってないんですよね(笑)。余所で言う“ディレクター”のポジションだと僕は思っていて。主に担当しているのは商品に関すること全般です。バイイングやLEの企画もそうですね。あとは店全体の空気感などを俯瞰して見ています。良いことなんですけど、L'ECHOPPEのスタッフってみんな仲がいいんです。だけど、距離が近すぎると見えないものもあるので、僕は少し離れたところから見るようにしています。
―そもそもの話になりますが、L'ECHOPPEを立ち上げた経緯を教えてください。
会社の上司が、「世の中に買うものがない」とおっしゃっていて、当時のシーンとしてはかっこいいお店は売れないっていうジンクスめいたものがあったんです。要はマスに向けたお店の方が成功している時代。だけど、その人は「かっこ良ければ絶対に売れる」ということを言い続けていて。それを起点に僕が参画してL'ECHOPPEというお店がスタートしたという流れです。
―L'ECHOPPEの根底にあるコンセプトは、その人がベースになっているんですね。
はい。なので、最初はその人を見て考えることから始めたんです。どんな服でも持っている人が次に買うものは何なんだろうと。そうやって考えていくうちに、欲しいのはご飯じゃなくて、お惣菜だよなってことに行き着いたんです。ご飯のような何にでも合う服は世の中にいっぱいにあるけど、それに合わせるお惣菜はいくらあっても足りない。そういう洋服って何なんだろうって追求していった結果が、L'ECHOPPEというショップ像でした。


―なるほど。その考え方でいうと昨年ローンチしたL'ECHOPPEのオリジナルレーベルLEは、ご飯……ですよね?
おっしゃる通りです。LEを始めるまで、お惣菜的なものばかり探していたんです。だけど、ある時に意外と世の中にはご飯はないってことに気付いて。発起人の上司を見ているとご飯的な服は日々アップデートされていて。自分もそうで、ジーンズやシャツも常にさらにいいものを探しているし、これぞ定番と言えるものがないことに気付いたんです。そのなかで僕らが考えうる最高の定番品を作ろうとしたのがLEです。


―このLEは、COMOLIのデザイナーである小森啓二郎さんが監修を務められています。数々のデザイナーがいる中で、なぜ小森さんにお声掛けされたんでしょうか?
あくまでも僕はバイヤーなので、アイデアを出せても形にすることはできません。僕が提案したアイデアを具現化し、正解へと導いてくれる存在としてベストだったのが小森だったんです。僕と小森はファッションの幼馴染みたいな間柄なんですよね。僕がエディフィスに入って彼と出会って、もの作りをしている人の中でおそらく一番付き合いが長いんですよ。向こうも僕のことを知り尽くしているだろうし、僕も彼のことを知っている。同じ目線でもの作りをするなら、彼しかいないだろうなと思いました。LEでも別注でも同じ考え方をしてるんですが、自分が欲しいと思えるものを作りたいと考えています。小森が監修したベーシックな服であれば、僕も欲しいですからね。
―そんなLEの構想はいつ頃からお持ちだったんでしょうか?
実はL'ECHOPPEがオープンする前からありました。実際にL'ECHOPPE立ち上げ時の資料にも9サイズ展開のシャツ、バスクシャツ、ジーンズ、トートバッグ、リュックというのがちゃんと残っているんです。
―そうだったんですね! L'ECHOPPEのオープンと同時に展開しなかったのは?
もの作りの体制が整っていなかったし、僕のノウハウもなかったんですよね。それがオープンして4年間の中で、別注としてLeeのアジャストパンツやOUTDOOR PRODUCTSのビッグサイズバックパックを作ったり、LEのコンセプトに近いものを作ることができて、その反応も良かったんです。だから、LEをスタートする段階では自信を持つことができていました。小森もOKしてくれた。生産体制も整った。LEのアイデアもお客様に評価してもらえてる。それはピースが揃った感覚でしたね。
―着実に土台が固まっていったわけですね。LEを代表する9サイズ展開のシャツもおもしろいです。


見た目はオーセンティックだけど、これまでのベーシックにはないギミックを取り入れるのが大事だと思っていて。最初にリリースしたシャツはおっしゃる通り9サイズ展開で、これだけ幅広く揃えておけば、これまでになかったサイズ感が体験できたり、今までどんなシャツを着てもフィットしなかった人がフィットしたり、しっかりと作り込まれていて、各個人の悩みも解決できる。LEを象徴するシリーズだと思っています。
―そんなシャツについてお聞きできたらと思います。一番こだわったポイントは?


参考にするならオリジナルを超えなければならないと思っていて、ベースとなったシャツよりいい縫製で仕上げています。生地もブロードとタイプライターのちょうど中間のような風合いです。アイロンをかければドレッシーに着られるし、洗い込めばカジュアルな雰囲気にもなるような、いろんなTPOにハマるように仕上げています。だからこそ、縫製はドレスに近い細やかなステッチワークを採用しています。だけど、あえてプラスチックボタンにしています。
―貝ボタンではないんですね。
これはオリジナルのディテールをそのまま採用してるんですが、プラスチックボタンは丈夫なんですよね。それにこの量産品ならではの感じがアメリカぽくて逆にいいかなと。シャレを効かせました。
―襟も少しアレンジを加えていますか?
はい。B.D.シャツが元ネタなんですが、B.D.をベースにしつつ、レギュラーカラーがあったらどういう襟だろうと思って作ってます。とはいえ、主張させるわけではなく、なんの変哲もない襟に仕上げていますね。


―主張はなくても襟の立ち方がスマートですね。
綺麗ですよね。たまにこのシャツにネクタイを合わせている方もいらっしゃるんですが、そういう使い方も全然ありだと思っています。
―肩の傾斜も綺麗ですね。女性が着ても突っ張らず、違和感がないです。
これもアメリカのシャツのいいところでTの字に近いパターンにしているので、ストンと綺麗に落ちるんですよね。ドレスシャツのパターンは立っていると綺麗なんですが、ジャストサイズ以外だと難しいんです。
―なるほど。勉強になりますね。この辺のディテールワークや生地選びは小森さんから?
そうですね。「どんなTPOでも着られるシャツ」というアイデアを投げかけた時に、それならこの生地がいいと選んでくれました。僕には生地を探し出す力はないので、上手い連動が取れていると思います。
―続いてはバルカラーコートについて。こちらも元ネタがありますか?
僕が私物で持っているフランスのオーセンティックなコートがベースです。襟元はすっきりとしながら、たっぷりとした身幅が特徴です。


―ディテールについてもお教えいただきたいです。
このコートに関しては割と元ネタを忠実に再現しています。貫通ポケットだったり、襟のボタンだったり。身幅も変えてないんですが、袖や着丈の長さは日本人体型に合わせて調節しています。
―身幅と同じように、アームホールもゆったりしていますね。
相当ゆったりしていますね。これも調理していないです。今はわざとビッグサイズにしたりしますが、このコートはあえて今の時代に合わせたサイジングにしていないというのが自信を持って届けられるところだと思っています。ある種、素のままの美しさがあるのかと。
―確かにそうすると、流行り廃り関係なく着られますよね。バルカラーでウエストベルトが付いているのも珍しいですね。
言われてみるとそうかもしれないですね。僕の私物に付いていたんです。
―バックルを付けず、シンプルなリボンというのも潔くて素敵です。
ベルト通して縛ると結構めんどくさくて結局やらないじゃないですか、なら腰でギュッと縛るくらいの方がラフでかっこいいなと思いました。やっぱり着てみると僕の持ってるものより全然いいですね(笑)。
―女性が着ても綺麗なシルエットですね。
そうですね、一枚袖だから肩にポイントがなくて、体型も選ばずに着ていただけると思います。
―最後は新作のダウンジャケット。こちらも元ネタがありますか?



これは僕の私物ではないんですが、フランスのとあるブランドのヴィンテージがベースになっています。僕と小森がダウンジャケットといえばこれでしょ、と一致したアイテムですね。
―オールドアウトドアのムードが残っていながら上品ですね。エスプリを感じます。
洗練されていますよね。700フィルパワーの本格的なスペックなんですが、スタイリッシュなデザインなんですよね。
―こちらはオリジナルを踏襲していますか?
いえ、かなり手を加えています。僕と小森の中でオリジナルはすごくかっこいいイメージだったんですが、実際に現物を着てみるとめちゃくちゃかっこ悪かったんですよね。ドルマンスリーブみたいになっていたりして。なので、パターンは大手術しています。細かいディテールはすごく好きなので、そこは踏襲しています。


―フロントのポケットのベルクロも細くて面白いですね。
そうなんですよ、なんかこういうところがいいんですよね。
―生地は何を使っていますか?
高撥水のナイロンです。オリジナルは水が染みてしまうようなナイロンだったので、そこもブラッシュアップしています。このダウンジャケットは小森もいい出来だと太鼓判を押しています。
―個人的にはタグがないのが、いいなと思いました。
そうなんですよね。ダウンってほとんどがロゴが入っているので、そこも無くしたいと思っていました。実際着てみるとやっぱりいいですね。フードも着脱式で外してもいいし、気分によって変えてもらえたらと思います。
―LEがローンチして1年が経過が経ちましたが、予想以上の反響でしたか?
想像以上でしたね。バルカラーコートにしても、オーセンティックなデザインなのでどこにでも売っているわけじゃないですか。それが毎回即完売なのは、嬉しい誤算ですね。
―そもそも即完売を狙っているわけではなく、いつでも買える定番品として作っていたわけですもんね。
そうですね。ファッションを覚えたての若い子たちや、言わばビギナーの人たちが買ってくださるのが意外でした。自分が欲しいと思うものを作っているので、決してエントリー向けではないと思うんです。だけど、それを超えて、反応してもらえたのは嬉しい限りです。僕らはターゲットを年齢で区切っていなくて、熱量だと思っているんです。ファッションの経験があろうが、なかろうが熱のある人たちに響いてもらえたのが嬉しいですね。

―そして、7月末には待望の2号店である渋谷店がMIYASHITA PARKにオープンしました。L'ECHOPPEらしさを感じつつも青山店とはまた違ったラインナップで、新たな魅力を感じます。きっちりとコンセプトを分けているんでしょうか?
青山店の規模だと僕のやりたいことの半分くらいしかできてなかったんですよね。スペースの問題で、これ以上バリエーションが増やせられないというのが悩みでもありました。それが2店舗あれば、イメージしていたL'ECHOPPEの世界観がしっかり表現できると思っています。だから、同じ内容の姉妹店ではないんです。青山と渋谷、両方見てもらってL'ECHOPPEという店がわかってもらえたらと思います。
―まさに両A面的なショップですよね。コロナ禍でのオープンは、逆風のように感じませんでしたか?
最初は悪いタイミングと重なって不安もありました。だけど、お店の価値を見直すいいきっかけになったのかなと思います。渋谷店もありがたいことに好調で、僕らが信じてやってきたことは間違いじゃなかったんだという自信にもつながりました。
―若者のファッション離れという言葉を頻繁に耳にするようになって久しいですが、金子さんは数年前から今の若い子たちの勢いがすごいとお話しされていますよね。それはどういう場面で思うんでしょうか?
L'ECHOPPEの客層がどんどん広がっていて、最近は高校生の子なんかも来てくれるんですよね。それに気付いたのは、2年ほど前に大阪、名古屋、仙台、福岡とポップアップで地方を回ってた時です。どの地域に行っても若い子たちが来てくださるんです。お客さんの7、8割は10代や20代の若い方で。年配の方とかは腰が重かったりするのもかもしれないですが、若い子はとにかくフットワークが軽いなと。SNSでL'ECHOPPEをチェックしてくれてて、「金子って人が近くに来るなら話だけでもしてみたい」くらいの気持ちで来てくれるんですよね。

―まさに熱量を持った子たちが会いにきてくれたわけですね。
会いに来ようと思ったきっかけもL'ECHOPPEに若いお客さんが増えて、同世代のSNSを見て興味を持ってくれたんだと思うんですよね。その巡業でとんでもないことが起きてると目の当たりにしてから、COOPも生まれましたし、LEもそういう子たちにとって手に取りやすいアイテムなのかなと思っています。それに僕らも気づいていなかったLEの重要性を知ったのはその体験が最初でした。
―LEの重要性と言うと?
僕らは意図していなかったもののLEはそういうファッションに最近興味を持ち始めたという子たちの入り口としてちょうどいいんじゃないかと思うんです。こういうベーシックなシャツを一枚買うと、すごく勉強になります。基本を知れば、応用が効かせられるというか。同じような白シャツでもディテールの違いがわかるようになったり、自然ともの選びの目が養われていく気がします。基本を知ってから、ファッションの本質的な楽しさが始まるんじゃないかな。それこそ、そうやって基礎を積み上げていけば、ハイブランドの価値や本当の魅力がわかってくると思うんです。

―確かにそうかもしれないですね。
僕らが雑誌で学んでいたようなファッションの知識は、今の子たちはなかなか得られない時代だと思います。インスタなどの便利なツールがある分、どうしても表面的なことで良し悪しを判断してしまうというか。
―そういう子たちにとってのファッションの教科書として、LEは最適ですね。
そうだと嬉しいですね。それに僕らは闇雲に服を買いまくってファッションを覚えてきた世代だと思うんです。僕らは遠回りして知識やスキルを身につけてきましたが、もっとは若くから近道して手に入れていいと思っています。僕はその近道をさっさと作ってあげて、レショップみたいなショップやブランドを理解できるようになってもらいたいんです。最近はそんなことばかり考えていますね。
―若い子たちの目線が加わっていけば、ファッション業界全体も活性化されますしね。
そう思います。こないだ会った若い子は、コロナで暇になってからファッションに興味を持ち始めて、まずCOMOLIのシャツを買ってみたそうなんです。その子はまだ半年くらいのファッションビギナーなんですが、オシャレなんですよ。聞くと、シャツを買ってからファッションにハマってSNSでめちゃくちゃ勉強したみたいで。だけど、その子は真似はできるけど、正直なところファッションの正解がわかっていないって言っていて、それってまさに今の時代を象徴していますよね。オシャレな服装になるのは簡単だけど、本当のファッションの楽しさを知るのは難しい。それが現代だと思っています。だからお惣菜の良さをより深く知るために、ご飯というベーシックなものの魅力を伝えていけたらいいですね。