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TITLEアートディレクター・前田晃伸が考える、“BAYCREW'Sらしい”クリスマス。

コスプレをしてスクランブル交差点を大闊歩。有線から流れるマライア・キャリーに合わせて大熱唱。そんなヴィヴィッドなクリスマスは、ひと昔前の出来事のように感じられる。時代が変わって、年齢を重ねて、それに応じてクリスマスの過ごし方も少しずつ変化していったけれど、それでもやっぱり、この高揚感はいつまでも特別だ。

クリスマスが目前に迫り、BAYCREW'S STOREの特設サイト『Happy Holidays』がオープン。本サイトのキーヴィジュアルを手がけた、アートディレクターの前田晃伸さんにインタビュー。

Photo_Atsushi Fujimoto
Interview&Text_Nobuyuki Shigetake

PROFILE

前田晃伸/まえだ・あきのぶ

前田晃伸/まえだ・あきのぶ

アートディレクター/デザイナー。愛知県生まれ。デザイン事務所を経てデザインチーム・ILLDOZERに参加。解散後、アートディレクターとして雑誌『POPEYE』のリニューアルや横浜DeNAベイスターズのヴィジュアルディレクションなどを手掛けたほか、広告、カタログ、パッケージ、エディトリアル、アパレルなど、グラフィック・デザインを中心に幅広く活動。2024年11月に東京・神楽坂にギャラリー『PAAMA』をオープン。

見たことがない、けれど親近感がある。

Photo:Local Artist

ー今回、前田さんにBAYCREW'S STOREのクリスマスヴィジュアルをアートディレクションしていただいて、感覚的で申し訳ないのですが、すごく素敵だなと思っていて。

前田:ありがとうございます。

ー制作に際して、どういったことを織り込んでいったのでしょうか?

前田:クリスマスということで、いわゆるステレオタイプなものも最初は考えていたんですけど。

ー赤と緑で、クリスマスツリーがあって、プレゼントの箱があって。

前田:そうですそうです。そういう、いかにもクリスマス的なアプローチも最初の段階では候補にあがっていたんですけど、いろいろと考えていくうちに、なんだかなぁ、と思い始めて(笑)。というのも、そういう類のヴィジュアルが“BAYCREW'Sらしさ”を表現する手段として正解なのだろうか、というところで。

ーと言いますと。

前田:BAYCREW'Sにはさまざまなブランドがあって、それぞれに背景や歴史、個性があって、それに紐付いて思い浮かべる国や、イメージがある。BAYCREW'Sをそういった多様なカルチャーの集合体として考えると、「いかにもクリスマス!」なヴィジュアルだと同業他社と横並びになった際に「うんうん、これは“BAYCREW'Sっぽい”よね」と見てくれた人が感じづらいのではないかなと。

ー確かに、どこも何かしらクリスマスのキャンペーンはやりますもんね。“BAYCREW'Sっぽい”という言葉が出てきましたが、前田さんが考える“BAYCREW'Sっぽさ”ってどういうものでしょう? おっしゃるとおり、アメリカをルーツとするブランドもあれば、フランスをルーツとするブランドもあって、さらにはそういった特定の国のカルチャーをルーツとしないブランドもあるので、少々漠然としているかもな、とも思ったのですが。

前田:正直、そこを定義するのが一番難しいところで(笑)、“BAYCREW'Sっぽさ”とは何かを考えるところがスタートでした。具体的な手がかりとしては〈IÉNA〉や〈ÉDIFICE〉といったBAYCREW'Sのルーツとも言えるブランドからはフランス、パリの空気を感じ取れますが、それをあえて具体化せずに、もっと手前にあるヨーロッパ、欧州の部分に照準を合わせました。特定のどこかの国の文化を再現したようなヴィジュアルよりは、日本人の頭の中にある、日本人が思い描く“ヨーロッパ感”を具現化できたら、面白いヴィジュアルになりそうだな、というところが取っかかりでしたね。

Photo:Local Artist

ー具体化ではなく、抽象化させたんですね。

前田:国や地域を絞ってしまうと伝えたいこととは別のニュアンスが出てしまいそうで。 ヨーロッパを想像したときに漠然と頭に思い浮かぶ“想像の中のヨーロッパ像”を汲み取るようにミックスしながら、クリスマスの雰囲気、ムードを伝えられるヴィジュアルにしたら、これまでに見たことがない、けれども誰しもが想像したことがある、どこか親しみのある世界が作れるんじゃないかな、と思ったんですよね。

ヴィジュアル制作の様子。

ーなるほど。そのほか、意識された部分で言うと?

前田:今年は特に強く感じているのですが、クリスマスのあり方って変化してきていますよね。ひと昔前はみんなでどこかに繰り出して「バカ騒ぎしようぜ!」みたいなアッパーな雰囲気もありましたけど、もう、そういうイベントではないのかなと。特別な日ではあるけれど、あくまで日常の延長線上というか。自分が年齢を重ねたことも理由のひとつですけど、自分の身の周りの人たちの様子を見ていても、親しい友人や家族、パートナーと静かで穏やかな時間を過ごす日に変わりつつあるように感じています。きっと、BAYCREW'Sのお客さんも大人の方が多いだろうから、そういう過ごし方をする人も多いでしょうね。

ー美しくてリッチな表現ではあるものの、言い換えると、オープンな表現ではないですよね。

前田:確かに、どちらかというと狭くて、閉じた表現ではありますね。だけど、その方が良いんじゃないかなって思ったんです。裾野を広げるようなアウトプットもそれはそれで必要だとは思いますけど、より大衆的に、より分かりやすく、みたいなことはもう他社さんがやっていますから。今いらっしゃるBAYCREW'Sの顧客さんの多くがそうであるように、ここに行くことで自分自身の価値が上がるのでは、という期待感を演出することが、今回のデザインにおいては大切であると考えながら制作をしました。

日常と地続きな表現。

ー普段、前田さんがどんなことを考えながらデザインやアートディレクションをしているのかもお聞きしたくて。以前に携わっていた『POPEYE』にしても、そのほかのアウトプットを拝見しても、どれも親しみやすさがあると感じていました。

前田:いずれにしても「どのような人がそれを受け取るか」を第一に考えて制作していますが、なるべくポップにしたい、と考えながら作っているフシはあります。『POPEYE』に関しては、時代的にそういうものが求められていたところもあって、結果としてこうなった、という部分も大いにありますけどね。そういう意味では、今回のクリスマスのヴィジュアルも、これはこれでポップだな、と個人的には思っていて。

ーいわゆるポップとは違うベクトルの、静謐で、美しいヴィジュアルではありますが。

前田:はい。ポップは時代ごとに変わっていくものですから。

ー2024年の今は、明るくて、ヴィヴィッドであればポップというわけではないと。

前田:“日常と地続きな表現”こそがポップであると言えるんじゃないですかね。明るくてヴィヴィッドな表現がポップだった時代もあるにはあると思いますが、今はもうそれはポピュラーなものではなく、そういうスタイルというか、基本的なデザインのひとつになっているように思います。そうなると、それはもはやポップではないのかもしれません。それよりは、もっと共通言語的というか「今はこれがポップだよね」とされる表現が、その時代ごとにあるように思います。すみません、抽象的な話で(笑)。

ーいえ。そういう話をお聞きしたかったです。ちなみに、前田さんにとっての“基本的なデザイン”とはどういったものなんでしょう? スタイル、媒体を問わず、ベースになっているものというか。

前田:なんでしょうね。難しいですけど、世代的にも出自的にも、紙媒体はベーシックなものとしてあるかもしれません。もともと雑誌を見て影響を受けて、デザインをやってみたいと思って今があるので。やっぱり特別なものではあります。

ーWeb上で完結するアウトプットにも、その考え方やデザインアプローチは反映されているんですか?

前田:そうですね。結局のところ僕ら世代は紙で育っているので、表現する媒体がデジタルに変わっても、紙のアナログ感みたいなものはずっと好きだし、PCのモニターにしろ、スマホの液晶にしろ、デジタルなものではありつつも紙の代替品と考えてしまっているところはあります。受け取っている側も多かれ少なかれそうだと思いますけどね。雑誌は厳しい状況が続いているけれどあり続けているし、そもそも学生の頃から教科書、ノートで育っているわけだし。

ー確かに、ここまでデジタル化したのって、わりと近年の話ですもんね。

前田:そうですよ。ただ、いま10代前半の子とかは、僕らや僕らの少し下の世代とは根本的に違う感覚を持っていそうですよね。そういう世代がメインプレイヤーになったら、今よりもデザイン業界が面白くなりそうだなって気はしています。

ー明確にどこら辺で分かれているんでしょうね。

前田:本質的にデジタルネイティブと言えるのは、今の小学生くらいからかもしれないですね。iPadで授業をやるらしいですからね。当たり前にスマホもPCも使えるし、AIとかも日常的に使うんでしょうし。

ーでは彼ら彼女らが10年後、15年後にデザイナーを志したとしたら……

前田:すっごく面白いことになるだろうなと思っています。それが最近の一番の楽しみです(笑)。