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  3. 浅野忠信とZEN-LA-ROCKはOTOMODACHI。
  • いつも聴いているあの曲のベース部分に意識を傾けると途端に違う曲に聞こえたり、いつもの定食の小鉢同士が妙にグルーヴしていることに気が付いたり、日々を生きることは常に発見の連続だったりする。俳優の浅野忠信さんは、義務教育の頃から向き合っている漢字に“性格”があることを発見し、“存在しない漢字”を生み出すようになった。ラッパーのZEN-LA-ROCKさんはそれらを面白がり、自身のブランド〈NEMES〉でコラボアイテムを作った。僕らは2人の対談から、このコラボの裏側に迫ってみることにした。

    Photo_Atsushi Fujimoto

    Interview&Text_Nobuyuki Shigetake

    Planning_
    Yusuke Takayama(JOURNAL STANDARD)

    分かる、分からないよりも
    先に“入ってくる”。

    月並みですが、まずはお2人の関係から、今回のコラボの経緯までをお聞きできたらと思います。

    ZEN-LA-ROCK(以下、ZEN-LA):実は今日でお会いするのが3度目で、まだ少し緊張しているのですが(笑)、繋いでくださったのは〈NEMES〉でお世話になっているキャップの業者さんですね。その方から「浅野忠信さんとコラボレーションはいかがですか?」と提案されて、浅野さんとコラボなんて正直恐れ多くて、僕が名乗り出て良いのだろうか? と思ったりもしましたが、2023年に〈NEMES〉がつげ義春先生の『ねじ式』とコラボをしていて、かつて浅野さんがツベ役で『ねじ式』の実写版に出演していたこともあり「先生が引き合わせてくれた何かの縁かも?」とか思い始めちゃって(笑)。僕としては「ぜひやらせてください!」って感じでした。

    浅野さんはその業者さんとはどういった繋がりで?

    浅野忠信(以下、浅野):僕は僕でその業者さんから「うちで何か作りませんか?」と営業を受けていて、てっきりどこかのブランドさんかと思ったら業者さんで(笑)。もう個人としてはグッズ作りとかはやっていないんですよね、なんて話していたら「では、コラボだったらどうですか? ZEN-LA-ROCKさんをご紹介できます」と提案をもらって、ZEN-LAさんなら知ってるぞ、それなら話を聞いてみようかなと。

    浅野忠信/俳優・音楽家

    1973年生まれ、神奈川横浜市出身。88年に俳優デビュー。以来、映画を中心に個性的な役柄を演じ、存在感を発揮。2001年には主演映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』が国内の映画コンクールで高く評価され、その後も出演作が国際的な映画祭で数多くの賞を受賞している。DJやバンドマンとしても活動するほか、絵画、ドローイングを中心に制作する美術作家として個展やグループ展、芸術祭で自身の作品を発表している。

    ZEN-LA-ROCK/ラッパー・プロデューサー

    1979年生まれ、埼玉県川口市出身。a.k.a.の『COMBINATE FUTURE』はニューヨークの伝説的アーティストRAMM:ΣLL:ZΣΣ(ラメルジー)の命名。ラッパー、DJ活動と多岐に渡りROCKしている。2010年からはブランド〈NEMES〉のディレクターも務め、漫画『サンクチュアリ』『ねじ式』とのコラボレーションなど、さまざまなアイテムをリリース。2018年には鎮座DOPENESSとG.RINAとのグループ・FNCYが始動開始。2021年9月にはセカンドアルバム『FNCY BY FNCY』をリリースし、これまで2回のワンマンを成功させた。2023年にはZEN-LA-ROCKとして活動25周年を迎えた。

    コラボレーションの進行はどのように?

    ZEN-LA:最初の打合せの際に「やっぱり浅野さんが手がけたアートをプリントしたアイテムが良いよな?」といくつか作品をピックアップして提案させてもらったんですけど、なんとなく浅野さんの反応がイマイチな感じがしたんですよね(笑)。それで、浅野さんのInstagramに載っていた漢字のアートワークをふと思い出して「この漢字を使った何かはどうですか?」と立て続けに提案したら、浅野さんの反応が良くなったのを感じて。僕自身も「これはなんだろう?」と気になっていたシリーズなんですけど。

    浅野:既存の漢字に線や点、別の漢字の要素を思いつくままに加えていった、いわば存在しない漢字なんですけど、ZEN-LAさんからこれをアパレルにしたいと提案されて、純粋に「それはおもしろそうだな」と。

    これらは浅野さんのパーソナルワークだった、ということですね。どうしてまた、存在しない漢字を?

    浅野:俳優の仕事で日常的に台本を読むので、もともと文字に触れる機会は多い方だったこともあり、言葉や文字って何なんだろうな、と常日頃から考えていたんですが、あるときにふと、言葉を構成する漢字ひとつずつにも性格のようなものがあるな、と気が付いてしまったんです。僕が普段から強く意識している“言葉の多面性”と同じようなことではあるんですが……

    すみません、“言葉の多面性”と言うと?

    浅野:たとえば「ありがとう」って言葉でも、ただ感謝の「ありがとう」ではなく「(お前のことは嫌いだけど)ありがとう」みたいな、“含み”がある「ありがとう」ってあるじゃないですか。台本に書かれたフレーズや一連の文章をストレートに解釈せず、多面的な意味合いがあるのでは? と想像し、演じることは、俳優業をするうえでもすごく大事なことなんですよね。

    なるほど。理解しました。

    浅野:それで、最初に書いたのが“感”という漢字だったんですが、“心”の右側の部分に線を2本足してみたら、ものすごく“感じる”ようになったんですよ。点と線で出来ている漢字を要素に分解していくと、それぞれのパーツにどんな意味があるのか、そもそも意味があるのかどうかも分からない。なのに、それらが組み合わさって漢字になると、瞬時に意味が分かる。そこに少しアレンジを加えるだけでグッと表情を変えるのはなぜだろう? すごくおもしろいな、と思って、いろいろと描いてみています。

    ZEN-LA:“感”だと、“一”と“口”の部分が“肌”になっているものも、初期の頃に見せていただきましたよね。

    浅野:これですね。なんだかイヤらしく見えてくるから不思議ですよね(笑)。なんとなく意味が通じる組み合わせだとこういう見せ方もできますね。人によって受け取り方が変わるのも面白くて、たとえば“娘”って漢字は“女”と“良”の組み合わせでできていますが、“女”をふたつにしてみると、見た人が途端に「ちょっとイヤらしくない?」と言い出すんですよ。僕としては“よく行く居酒屋で働いてる元気な女の子”みたいなイメージだったんですけどね。お店行って「お、今日はあの子いるんだね」みたいな。

    分かるような、分からないような。

    浅野:それくらいがちょうどいいんです。読める/読めない、分かる/分からないよりも先に意味が“入ってくる”ような感覚というか。そういう想像を掻き立てられるところが、この漢字シリーズの好きなところですね。

    音楽とナイトクラブ、
    そこで生まれるストーリー。

    これらのシリーズは、描き下ろしですか?

    ZEN-LA:もともと描いていたものもプリント用に描き下ろしていただきました。浅野さんは本当にスピードが早くて、どうしても夏までにリリースしたかった僕としては本当に助かりました。打ち合わせをして、何日かしたらLINEでどんどん漢字が送られてくるんですよ。「うわ!もう来ちゃった!」なんて慌てながらマッハで進めていきました(笑)。

    浅野:描くたびに「ヘタだな〜」とか思ってましたけど、「まあいいや。送信」ってどんどん送りましたよ(笑)。

    ZEN-LA:あと、浅野さんはやりとりがすごくスムーズで、それもすごくありがたかったです。アーティストの方とかは返信に時間がかかる人も多いし、それによって進みが遅くなっちゃうことも多々あるんですけど、浅野さんはいつ連絡しても秒で返信してくれるんですよ。おかげさまで高いテンションをキープしたまま、発売まで漕ぎ着けました。浅野さん、本当に返信早いですよね?

    浅野:以前にゲームクリエイターの飯野賢治さんからお聞きしたんですが、音楽家の坂本龍一さんも連絡するとすぐに返事をしてくれる人だったそうで。それを聞いて以来、僕も連絡を止めず、即レスするようにしています。

    こうして並べてみると「夜」「音楽」「女の子」となんとなく共通のキーワードが浮かび上がってきますが、そこはやっぱり、2人の共通項として音楽や、夜の現場があるから?

    ZEN-LA:そうですね。音楽や、音楽が流れている空間、そこで生まれるストーリーを想起させるオリジナルの漢字を浅野さんに描いていただきました。この“音”が2つ並んでるやつとか本当に最高です。これと“遊”をアレンジした漢字を見て“音で遊ぶお友達”ってフレーズが浮かんできて「なんか良いな」と思ったから、コレクション名は『OTOMODACHI』にしています。

    浅野:この“盤”も良いんですよね。

    ZEN-LA:見たときに「うわ!すげえ!」ってなりました。レコードとかCDの“盤”の一部が“飛”になってるんですよ。これには反応せずにはいられなかったです。

    この“盤”は漢字2つのミックスですが、見る限り、足し算で作られることが多いんですね? 線を増やしたり、要素を増やしたりして。引き算もおもしろそうですね。

    浅野:引き算、良いですね。ちょっと切ない、ホロリとくるやつが出来上がりそうです。

    ちなみに、今回の『OTOMODACHI』コレクションのモデルにラッパーのOMSBさんを起用していますが、これもやっぱり“音で遊ぶお友達”だからですか?

    ZEN-LA:そうですそうです。OMSBくんは友達で、コレクションのコンセプトにも合っているなと思ったので、モデルとして出てもらいました。服もすごく気に入ってくれてましたね。

    写真:YASU

    確かによく似合っていますが、撮影場所がなんかすごくないですか?

    ZEN-LA:ここ、かなりやばくて。背景に写っているレコードやら什器は、だいぶ歳上の先輩が以前にやっていた『北中45レコード』っていうレコード屋さんのもので、閉店のタイミングで、ご実家の薬局に荷物を全部移したらしいんですけど、2年前に初めて見せてもらったときはニューヨークの怪しい倉庫のような感じで(笑)。『OTOMODACHI』のLOOKを撮影するにあたって、絶対にここで撮りたい、と思って依頼したら、以前行ったときよりも片付いていたんです。「えー!? 前の方が良かったのに!」って感じでした(笑)。

    浅野さんもOMSBさんと繋がりがあるそうですね。

    浅野:以前にOMSBくんの『ALONE』というアルバムのアートワークを描かせてもらったことがあって。SUMMITをはじめ、ジャパニーズヒップホップは昔から大好きなので、すごくありがたい機会でしたね。

    自分という観客が楽しめるかどうか。

    クライアントワークも増えつつある浅野さんの創作活動についてもお聞きしたくて、絵はいつから描いてらっしゃるんですか?

    浅野:いつから、という感じではないのですが、振り返ってみると幼稚園のお絵描き教室みたいなところから始めたので、3歳くらいですかね。父親が絵描きを目指していたので、家に画集や画材がたくさんあったんですよ。それからずっと描いています。だから、俳優よりも絵描きとしてのキャリアの方が全然長くて(笑)。

    ZEN-LA:ほとんどライフワークのようなものなんですね。

    浅野:そうですね。基本的には365日描いているので、食事とか睡眠とかと同じような感覚です。何も考えずにいられる、自分にとって一番気持ちがいい時間ですね。

    俳優に軸足を置いているから、伸び伸びと続けられているところもあったり?

    浅野:絶対にそうでしょうね。人の評価を気にせずに描けますから、気楽に続けています。最近はあまりに作品が多くなっちゃったんで、絵を売ることも始めたんですよ。それまでずっと手放さずに残しておいたんですけどね。小さい作品も含めると2017年の時点で4000枚近くあって、もう管理しきれないし、手放すことで何か新しいものを描けるようになるかもな、と期待して。

    ふわっとした質問で恐縮なんですが、お2人とも、特に浅野さんはアウトプットの媒体も多様で、普段、どういうことを考えながらインプット/アウトプットしているんですか?

    浅野:とにかくアウトプットするのが好きだから、あまり考えず、作っては出しています。感じたものを吐き出す、という意味ではアートも音楽も俳優業もあまり変わらないんですよ。もちろん媒体に応じて脳みその使い方は変わってきますし、アートや音楽ならゼロから生み出すとか、俳優業なら与えられた台本、つまり“1”をどうやって見せるかとか、そういう違いはありますけどね。

    誰かのために、と同時に、自分のために、という気持ちが少なからずある?

    浅野:うん、そうですね。自分のために、という気持ちはけっこう強いかもしれません。だからこそ何かを作るときは「どういうものだったら、俺という観客が楽しめるだろう?」ということを常に意識しています。まずは、絶対に自分が楽しめるものにしたい。夢中になりたいんですよね。何事も。俳優業だったら、演じているときに自分が夢中になっていれば、それはきっと観る人も夢中にさせるから。相互作用だと思うけど、演者が夢中になっている現場って制作も夢中になっていることが多くて、僕はそういう現場が好きなんです。結果としてですが、そのほうが良いアウトプットが生まれることが多いじゃないですか。

    ZEN-LA:本当、そのとおりだと思います。服にしろ音楽にしろ、売れる売れないってのはやっぱりあって、たまに悲しくなったりもしますが、ルールやセオリーがないなかでやっているので、自分自身が「やべー!」って思えるかどうかを基準にするのが一番良いのかなって。

    〈NEMES〉はZEN-LAさんご本人も楽しんでいる感じがすごく伝わってきます。

    ZEN-LA:ありがたいことに憧れの人や大好きな作品とのコラボレーションもいろいろとやらせてもらっていますからね。でもそのためにいろいろと動いているわけではなく「なんかそういう感じになっちゃった」というのが正直なところで、自分自身、こんなに長く続けるとは考えてもいなかったんですよ。でも、やめる理由もないんですよね。細々とでも続けていると、こうやって浅野さんと素敵なご縁が生まれたりするから、自分自身が楽しい、おもしろいと思うものを作りながら、手に取ってくれる人もフィールしてくれたら最高ですよね。

    インタビューはここらで終了しますが、またお2人のセッションを楽しみにしています。ある意味、漢字がある限りは無限に作れますもんね。

    浅野:そうなんですよ。しかも人によって全然違うものが出てくるわけですから。僕はこれを、漢字を学び始めたばかりの小学生にやってもらいたいと思っていて(笑)。すごく自由でおもしろいオリジナルの漢字が出てきそうじゃないですか。ちょっと大喜利っぽいというか。

    ZEN-LA:物事の状態や、名詞を漢字にしてもらってもおもしろそうですよね。

    浅野:それ、良いですね。たとえば“ベイクルーズ”だったら、社員が多いから“人人人人人人人人人…”とか。

    なるほど。おもしろいですね。

    浅野:あと、世の中の漢字もどんどん正していきたいです。“会議”の“議”の“言”は要らない。義理人情の“義”で“会義”の方が正しく物事を決められそうで良いよね、みたいな。