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  • Margtが着る、
    ケミカル・ブラザーズ。

    イギリスのダンスミュージックを背負って立ちながら、音楽、映像、空間演出が三位一体となった臨場感溢れるライブ体験を提案するケミカル・ブラザーズ。先日行われた来日公演では、どのショーにおいても満員御礼! 多くのファンの心を熱く燃やしました。そんなケミカル・ブラザーズとJOURNAL STANDARDのコラボレーションが実現。活動初期~中期のアートワークを用いたウェアの数々を展開しています。それらを纏うのは、自らケミカルファンだと豪語するクリエイティブユニット「Margt(マーゴ)」のふたり。彼らの“ケミカル愛”を語ってもらいつつ、自身の活動にどんな影響を及ぼしているのか? 大きな野望を持つふたりの心の中を探りました。

    Photo_Taito Itateyama
    Text_Tsuji
    Web Design_Takuro Irisawa
    Edit_Ryotaro Miyazaki

    Margt

    前田勇至と高畠新によるクリエイティブユニット。映像作品やグラフィック、ライブ演出や、ファッションショーの演出に至るまで、様々な媒体におけるディレクションを手掛ける。2020年より拠点をニューヨークから東京へと移し、現在はPERIMETRONに所属。2023年は音楽フェス「Margt ISLAND 23」を主催するなど、肩書きや既存の方法論に捉われず、常に新しいアプローチを模索しながら活動している。
    @__margt
    @_isamu
    @aratawillsmithsekuh

    本当に陽気なおっちゃんたちだなって
    思ったんです。

    ー先日のケミカル・ブラザーズの公演におふたりは行かれたそうですね。

    ISAMU:めちゃくちゃヤバかったですよ。ARATAはノンアルでどれだけイケるかっていう感じになってて。

    ARATA:ノンアルでもバリバリイケたっすね。野外のフェスでもケミカルのライブを観たことあるんですけど、室内のほうが良かったですね。

    ISAMU:かなり仕上がってた。ワンマンはやっぱ違いますね。やりたいことが表現できていた感じがして。

    ARATA:みんな動画撮ってたよな? 照明もバキバキでしたよ。

    ISAMU:一体感がすごかった。

    ARATA:音と映像と照明の一体感ね。

    ISAMU:身体性がめっちゃあったよね。理性で楽しむというより、もっと原始的に楽しんでいる感じ。

    ARARA:小さい子どもも遊びに来てて、爆踊りしてたもんね(笑)。

    ISAMU:ダンスミュージックを普段聴かないひとでも楽しめるライブだった。

    ー印象に残っている演出などありますか?

    ISAMU:トータルで全部良かったですよ。最初から終わりまで統一感があったんです。LEDスクリーンに映像が映るんですけど、黒バックだからスクリーンの端がわからないようになってて。だから制限を感じさせずに映像を見せているんですよね。それによってすごくのめり込むことができたというか。

    ARATA:あんまり凝ったことしてなかったよね。映像自体もすごくシンプルだし、MVをそのまま使ってたりとかして。きっとMV自体もライブで使うことを見越して制作してると思うんですよ。透過性のあるLEDで映像を投影しているから、スクリーンの後ろから照明を光らせて、映像とリンクさせているのも良かった。

    ISAMU:ユーモアを感じさせる合わせ方だったよね。ちょっとネタっぽくて。でも、それがかっこいい。

    ARATA:めちゃくちゃシンプルなのに、なぜかソリッドでクールなんだよなぁ。不思議な感じでしたね。

    ISAMU:最初から最後までめっちゃ計算されているライブだった。ある意味、お客さんを操っているというか。映像が消えているときの照明の煽り方とか、音とバッチリ合っててめっちゃ気持ちよかったし。

    ARATA:一貫性を感じたよね。ケミカル・ブラザーズの生涯のライフワークみたいな感じで、ずっと同じことを続けているんだと思う。だからトーンも狂わないし。

    ISAMU:たぶんケミカルがいつもライブをやっているチームをみんな引き連れて来日したんだと思う。そうじゃないと難しそうな演出だった。

    ー映像を投影しながらさまざまな演出を駆使するアーティストは他にもいると思うんですが、ケミカル・ブラザーズならでは特徴はどんなところにあると思いますか?

    ARATA:言葉が合っているかどうかはわからないけど、ケミカルっていい意味でちょっとダサいんですよ。“いい意味で”ですよ(笑)? 洗練された感じではなくて、ラフというか。節々にギャグっぽい演出も盛り込んでいたりとかして、それをあえてやっている感じなんです。あれって真似できそうでできない。それをスラスラとやれるのがすごいと思います。

    ーなるほど。

    ARATA:あのレベルまでいくとお金もたくさんあるだろうし、やりたいことに制限はないんだろうけど。でも、MVも基本的にシンプルな構成だし、なんか威張ってないんすよね。それをケミカルがやってるからかっこいいってなるというか。

    ISAMU:色々やろうと思えばできるんだろうけど、それをやらずに引き算の美学を貫いているよね。とにかくダンスさせることに焦点を当てているというか、映像とか演出でかっこいいものを見せようとか、そういう下心がない感じ。とにかくみんなを楽しませようっていうシンプルさが伝わるんです。かっこつけるわけでもなく。

    ー一緒にパーティしましょうよ的な。

    ISAMU:そうそう。アーティスティックだったり、クールに見せようとしている感じがまったくなくて。とにかくみんなで楽しもうっていう精神でずっとやっている感じ。今回ライブを観て、本当に陽気なおっちゃんたちだなって思ったんですよ。ステージの前のほうに来てお客さんを煽ったりとか、終わったらふたりでハイタッチしたりとか。その陽気さが演出に出ていて。ちょっとふざけてるんですよね。

    ー今回はJOURNAL STANDARDとケミカル・ブラザーズがコラボレーションしたウェアを着てもらいましたが、いかがでしたか?

    ARATA:イッサ(ISAMU)と話してたんですけど、結局「The Cemical Brothers」って描いてあるロゴがいちばんかっこいい。

    ISAMU:そう! 結局それなんだよね(笑)。ケミカルじゃないと、ここまでかっこいいってならないと思う。

    ARATA:ライブ会場でもみんなこれを着てて。変なデザインが加わってなくて、シンプルだからめちゃくちゃいい。デザイナーって、いじりたがる人が多いと思うんですよ。だけど、これはオリジナルに忠実じゃないですか。

    ISAMU:ファンからすると「これこれ!」って感じだよね。

    ARATA:これを企画した人はめちゃくちゃ音楽好きだと思います。

    媒体が違うだけで、
    おもしろいことをやるのは変わらない。

    ー先ほど話していたケミカル・ブラザーズの精神性はMargtの活動に影響を与えていますか?

    ISAMU:もちろんあると思います。自分たちもライブ演出をするし、どこが上がるポイントなんだろうってやっぱり考えますよね。「ここでこういう演出をしているから、オーディエンスが盛り上がるんだ」って。

    ARATA:俺は影響を受けている自覚はそこまでなかったけど、たぶんあるんでしょうね。ケミカルがいなかったらちょっと違いそうですもんね、俺の性格とか(笑)。中学生の頃に高熱が出て、家のリビングで寝ているときに、兄貴がケミカルの曲を爆音でかけてたんですよ。その日がちょうど『PUSH THE BUTTON 』の発売日で、3曲目の「Believe」っていう曲がかかったときに気が狂いそうになって(笑)。子どもの頃に高熱でうなされていると、悪夢とか見るじゃないですか。そこにケミカルの曲がミックスされて、頭の中がすごいことになってましたね。

    ーちょっとトリップした感覚というか。

    ARATA:そうそう。いまでも作業するときは「Belive」を聴く頻度が高くて。だから、作品も攻撃的な色使いになったりするんです。自分でもいいなと思ってそうしているんですけど。ただ、ケミカルの影響がないわけではないと思うんですよね。

    ーそもそもMargtってどんなことをしているユニットなんですか?

    ARATA:MVをつくったり、ライブの演出をしたり、ファッションショーもディレクションするし、空間演出もやるし。あとはグッズもつくったりとかプロダクトデザインもできるし。基本的にはなんでもやってますね(笑)。

    ISAMU:いろんな媒体のディレクションをやってる感じですね。

    ーMargtらしさってどんなところにありますか?

    ARATA:カウンター的なアプローチを意識としていますね。見たことないものをつくるというか。もちろんそれはベースであって、表現方法はケースバイケースで変わるんですけど。

    ISAMU:既視感があるものはつくらないようにしてるよね。他の人と同じ土俵に立って、勝負しようと思わない。活動初期の頃にMVをつくってたときは、本当に低予算でやってたんですよ。ぼくらはカメラや照明にお金をかけて撮ることはできなかったので、そうじゃない土俵で勝負するにはどうしたらいいかっていうことを考えてましたね。

    ーそういう意味でおふたりの原点はニューヨークでの生活にあるのでしょうか?

    ARATA:もちろんあると思います。スタイリング、美術、監督、プロデュース、制作、編集、デザイン、全部自分たちでやってたので。お金もなかったし、工夫するしかなかったですね。

    ーどんな生活をしていたんですか?

    ISAMU:とにかく毎日サバイブでした(笑)。

    ARATA:4年半くらいいたよね? 金もなくて。

    ISAMU:人脈もないし。

    ARATA:俺とイッサは全然ちがう生活してたんですよ。イッサはずっと酒呑みながら編集してたよな。

    ISAMU:一緒にルームシェアしてたんですけど、フリーランスで仕事をしてたんで、忙しいときと暇なときの差が激しくて。基本的に呑みながら編集してましたね。酔っ払って倒れるまで編集するみたいな(笑)。

    ARATA:それで俺はほとんど部屋にいなくて。

    ー映像用の素材を取りに行ってたとか?

    ARATA:いや、ただただ飲みまくってました(笑)。バイトしてて、終わったら飲み歩いて。家に帰ったら入稿作業を酔っ払いながらして。

    ーすごいですね…。とはいえ、クオリティーや納期はしっかりと守っていたんですか?

    ISAMU:そうですね。ぼくらは会社員の経験もあるので、期限はしっかり守るし、ギリギリになって「なにもしてませんでした」ってことはなかったですね。

    ARATA:それにミスもない。酔っ払っているようで、実は理性はしっかり働いてたよね。

    ISAMU:だから絶対に行きたい飲み会と納期が被ってたら、とりあえず飲み会に参加して、仕事もきっちりやって寝てました。

    ー人脈とかなにもないからこそ、そうした場所にも顔を出さないわけにはいかないですよね。

    ISAMU:昔は体力があったので(笑)。

    ーニューヨークでの経験や学んだこと、吸収したものが、いまになってしっかりと身になっている。

    ARATA:そうですね。それはめちゃくちゃデカいです。なかったら、いまがないと思う。

    ー当時は映像作品の制作からはじまって、いまでは様々なことを手掛けています。どのようにして広がりが生まれたんですか?

    ARATA:ニューヨークにいるときはほとんど広がりがなかったですね。でも日本に帰ってきて、PERIMETRONに声をかけてもらったのが大きいです。そこからライブ演出の依頼とかを頂くようになって。あとはニューヨークにいた頃に仕事を依頼してくれてた人たちが、日本に帰ってきたらより一層深い付き合いになっていったんですよ。「日本に帰ってきたならもっと一緒にやろうよ」って。時差とかもないし、コミュニケーションもスムーズじゃないですか。

    ーでも、映像作品の制作からキャリアをスタートさせて、そこからライブの演出をするのって珍しいケースですよね。

    ARATA:当時から俺たちは自分たちのことを映像作家って決めつけてなかったんですよ。どっちかといえば、ディレクション。グラフィックもそうだし、映像もそうだし、演出も、全部同じように捉えているんです。

    ISAMU:そもそもライブ演出が難しいと思ったことがないし、依頼が来たら「じゃあやってみよう」ってなるのは自然な流れなんです。

    ー自分たちがやりたいこと、かっこいいと思うことを形にするだけというか。

    ARATA:そうですね。やることをその場で考えて、おもしろいことをやるのは変わらない。どれも媒体が違うだけなんです。

    ISAMU:MVをつくるにしても、毎回同じじゃなくて、常に新しいことを試したいんです。それと同じで、「まだファッションショーやったことないから、やってみない?」っていう感じで新しいことにチャレンジしている感覚なんです。

    ー昨年開催した音楽フェス「Margt ISLAND 23」は、そのひとつの集大成とも言えそうですね。

    ARATA:一発目にしてはかなり面白いイベントになりましたね。

    ISAMU:やれてよかったですね。フェスしたいよねって前から話してたし。出ている人たちもぼくらが呼びたい人たちを呼んだので、彼らと一緒に楽しい場をつくれたのがよかった。

    ARATA:フェスもそうだけど、とにかく色んなことをやりたいと思っているんですよ。いろんな構想があって。ミュージアムをつくりたいとか、テーマパークもやってみたいし。

    ISAMU:チャンスがあったらチャレンジしたいよね。

    ARATA:そうね。チャンスが巡ってきたときにちゃんと動けるように、そのための準備は常にしっかりしておきたいよね。土壌づくりをしっかりしておくというか。

    Margt.を概念化したい。

    ー話していてすごく感じたのですが、おふたりともすごく仲がいいですよね。

    ARATA:仲良いほうだと思いますよ。いい距離感なんです。

    ー影響し合っているんですね。

    ISAMU:それはあると思います。ニューヨークにいたときも、基本的にはまったく違う生活をしていたんです。だから自分たちが見つけたかっこいいものとかをお互いで見せ合って、「たしかにいいね」って認め合って。そうやって新しいものをどんどん吸収しあっていましたね。

    ー好きなものは似ているんですか?

    ARATA:いや、興味あるものが全然違うんです。音楽の好みも違うし。

    ISAMU:だけど、重なっているところはなくはないというか。

    ARATA:そうそう。だから、「分かる、分かる」って共感できるというか。その感じがちょうどよくて。

    ー喧嘩はしないんですか?

    ARATA:あんまりないよね? 仕事や方向性で意見が食い違うことはあるけど。

    ISAMU:たしかにね。

    ARATA:俺ら草食系なんで(笑)。最終的には「たしかにそうかも」って、どっちかが折れるんです(笑)。

    ISAMU:基本的には尊重し合ってるからね。信頼関係が成り立っているんですよ。アイデアとかも、自分だけだとどうしても偏っちゃうから、ARATAの視点が入ることでブラッシュアップされる感覚があります。結局ふたりで考えたほうが落ち着くんだよね(笑)。

    ーこれからの目標ってありますか?

    ISAMU:基本的には目の前にあるおもしろそうなことを粛々とやりたい。さっき話したみたいに新しいチャンスが巡ってきたとき、それをやるための力も蓄えつつ。

    ARATA:俺はMargtを概念化したいんですよ。

    ISAMU:お、いいこと言うね!

    ARATA:映像作家とか、グラフィックデザイナーとか、そういう肩書きはいらなくて、Margtっていう存在があって、それが世界に対してどう影響を及ぼすかを考えたいっていうか。「あいつらって何者?」って思われたいですね。

    ISAMU:とにかくいろんなことをやりたいよね。

    ARATA:そうそう。たとえばだけどクルマをつくってもいいし、環境デザインも手がけてみたいし。

    ISAMU:それで「これもMargtがやってるの?」って言われたいというか。

    ARATA:日常がMargtで溢れてるみたいなね。

    ISAMU:なおかつひとつ一つのクオリティを上げたいですね。単体で見てもかっこいいし、全体を見渡してもかっこいい存在でありたい。そういうところを目指したいですね。