新ラインIÉNA LA BOUCLE BLACK デビューの背景
この春スタートするIÉNA LA BOUCLE BLACK。
中心となって服作りを進める企画担当の谷口りささんが、始まった経緯や、進めるうちに見えてきたキーワード、頭の中で温めているイメージなど、新ラインへの思いを語ります。
黒はさまざまな解釈ができる色。多方向に広げていきたい。
IÉNA LA BOUCLE BLACKは、名前の通り“黒”という一つの色にフォーカスする、ドレススタイルの新ラインです。IÉNA LA BOUCLEとともにLA BOUCLE BLACKの企画を行う谷口さん。このラインが始まるきっかけはちょっとした思いつきでした。
「以前、ウェディングドレスを作るのが学生時代の夢だった、という話を上司にしたことがありました。ごく普通の雑談だったのですが、それがあるとき『新しいラインを作らないか』という話になり、急に現実味を帯びてきて。でも具体的に考え始めると、スタートまでの時間の制約もあって、結構ハードルが高いことがわかってきたんです」
そこから、ホテルでの会食や観劇など、少し背筋を伸ばして出かけたいときに、自分たちが着たい“黒い服”が意外とないよね、という、日々のリアルなシーンから浮かんだ発想を出発点にして、照準を合わせていきました。
「さまざまに広がっていた方向性からギュッと絞っていき、最終的に“ブラック”という色をクローズアップすることになりました。たくさんの色があふれるIÉNA LA BOUCLEとは対照的だから、黒い服に絞り込んで作るのは、むしろ新鮮に感じています」
とはいえ、黒一色というのはかなり幅が狭い。制約のあるなかでの服作りは、他にはない困難が隠れているはず。それには、以前にメンズのデザインを手がけていたときの経験が生きています。
「スーツやタキシードなどドレス系メンズウェアのデザインでは、やってはいけないことがとても多く、当時はその狭い範囲のなかで模索していました。今回は黒だけのラインですが、あまり窮屈さは感じていません。どちらかといえば、幅の狭いところから考えるのが好きなタイプなのかも。黒という色はさまざまな解釈ができるので、多方向に広げていけます」
基本になるのは「Ébène et charbon(光沢とマット)」という言葉。
黒にもいろいろな捉え方やアプローチがあります。このラインのベースにあるのは、「Ébène et charbon(光沢とマット)」というキーワードに象徴される、2つの異なるイメージや要素です。
「LA BOUCLEの服作りは、たくさんの生地を並べて、シャッフルしながら色の組み合わせを考えます。同様にLA BOUCLE BLACKでも、黒い生地を並べていったら、かなりの確率で光沢のあるものとマットなものの組み合わせになっていました。いろいろやってみたのですが、不思議と最後にはそうなるんです。そこから浮かんだのが『Ébène et charbon』という言葉。バリエーションを、色ではなく生地の質感で出すことに面白みがあります」
モデルの市川実和子さんがイメージヴィジュアルで見せる、レディなリボンつきの透けるブラウスに、側章の入ったメンズライクなワイドパンツの組み合わせは、まさにその代表的なスタイリング。
「レースやリボンのワンピースに、ミリタリーなどハードなものを合わせる。そういう対極にあるもの同士の組み合わせは、LA BOUCLEでも浸透している基本的なスタイリングです。LA BOUCLE BLACKでもフェミニンとマスキュリンなどの、相反するイメージや要素の組み合わせを楽しんでいただければ嬉しいです」
その考えはネームタグにも表現されています。黒いジャカードの生地に記されたロゴも黒。一見しただけでは黒いタグとしか認識できませんが、違う角度ではそこにロゴが浮かび上がります。
「光の当たり方によって見えてくる文字なんです。『Ébène et charbon』に集約される、異なるものの組み合わせを表したつもりです。黒い生地に黒い文字のタグはIÉNAのレーベルではあまりなかったのですが、このラインには合っている気がします」
テクニックを持つ国内工場を探して、生地の別注を依頼していく。
服作りのスタートは生地の展示会から。谷口さんは展示会で見つけた新しい生地をたくさん並べ、シーズン全体の服のイメージを考えます。オリジナルの生地を作ることも好きで、別注生産してくれる工場を日本のあちこちで探して依頼しています。
「『こんな生地がほしい』と思ったときに、国内でその技術を持つ工場を調べて見に行っています。合繊の産地として有名な群馬県桐生市はずっと行ってみたかったところ。今回使っている合繊のジャカード生地は、桐生の工場で見つけました。この地域は以前から知ってはいたのですが、なかなか繋がりが持てなくて。でも今回ようやく関係が結べて、見つけた生地をもとに色や柄を替えて別注しています」
LA BOUCLE BLACKでは、コレクションを年2回発表する予定。次の秋冬シーズンでは、もっと生地のバリエーションが豊富になっていきます。
「光沢とマットをはじめ、表面感のある黒の生地は秋冬のほうがたくさん登場します。光沢だとスパンコールやラメもありますし、マットだとウール素材とか、さらに広げたコレクションをお見せできると思います」
黒は好きな色、という谷口さん。どの黒も印象的だけれど、強いていえばイヴ・サン=ローラン自身がデザインしていた頃のイヴ・サンローランのマスキュリンな黒。
「ジャケットやパンツスーツが個人的には好きです。もちろん、レディな黒も素敵。フェミニンとマスキュリン両方の黒の要素があって、よりシックな服に仕上がるので、LA BOUCLE BLACKではそこを足したり引いたりして、クロスオーバーさせていきたいです」
TEXT; Akane Watanuki
PHOTOGRAPH; Daehyun Im
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