Honeymoon,Musician & Stylist.Case04.SIRUP & TEPPEI

時代のムードを解釈し、そこに“自分”を織り交ぜる。
嘘なく、誠実に自らのアティチュードを表明するために。

衣服を身に纏い、矢面に立ち、愛と自由を唄う。
自身と他者、そして社会を知り、それぞれを慈しむために。

SIRUPとTEPPEI、
ミュージシャンとスタイリストの蜜月から探る、
揺るがない芯を胸に美学を貫く、R&Bシンガーの装いのあり方。

Starring_SIRUP
Styling&Direction_TEPPEI
Hair&Make-up_TAKAI
Photo_Kodai Ikemitsu(bNm)
Text&Edit_Nobuyuki Shigetake

STYLING

INTERVIEW

「フィーリング」を言語化し、「身に纏う意味」を熟考する。

いつからか、SIRUPさんのビジュアルにスタイリストとしてTEPPEIさんがクレジットされるようになったのを拝見して、腑に落ちたのを覚えています。お2人の最初のお仕事は?

TEPPEI:すごく色濃く覚えているエピソードがあって。最初にご一緒したのが、YAR(ヤール)という、YOSHIROTTENさん率いるクリエイティブスタジオがアートディレクションを手がける撮影だったのですが、SIRUPさんご本人とはまだお会いしていないタイミングでYARさん側から「ぜひともTEPPEIさんにジョインしてほしい撮影がある」とお声がけいただいていたんです。

SIRUP:そうでしたね。『POOL(2019年リリースの1stアルバム『FEEL GOOD』に収録)』のときです。

TEPPEI:とてもありがたいお話だったのですが、僕自身のスケジュールをうまく合わせることができず……一度はお断りになってしまったんです。その返事を申し上げた手前の申し訳なさもありましたが、どなたがスタイリングをすることになったのか、どうしても気になってYARの方にお聞きしたら「SIRUPさんご本人でやると言っています」と回答を頂き、すごく驚いて。

複数のスタイリストの候補があって、ではなかったと。

TEPPEI:普通、そうじゃないですか。でも違くて、矢印をめちゃくちゃこっちに向けてくれていたんですよね。それで、自分の予定をどうにか調整して「やります」と返事を覆させてもらったんです。そういった経緯があったので自分としてはいつ、どの撮影が最初だったのかをはっきりと覚えています。

SIRUPさんがまだお会いしたことのないTEPPEIさんをスタイリストとして指名したのは、TEPPEIさんの作る世界観に共感していたから、ということですよね。

SIRUP:はい、もちろん。TEPPEIさんのお仕事やご本人のスタイルはいろんな媒体で見ていましたし、スタイリストとしてお仕事を始める前から一方的に知っていました。「こんなにファッションが好きな人がおんねや」って。自分のビジュアル作りでスタイリストさんに入っていただく機会があるなら、絶対にTEPPEIさんにお願いしたかったんです。

そうして迎えた最初の撮影以降、ヘアスタイリストのTAKAIさん含め、チームで動いてらっしゃる印象があるのですが、SIRUPさんのスタイリングを作るうえでのTEPPEIさんの信条やセオリーはどういったものなのでしょうか?

TEPPEI:僕は職業柄、いろんな形で矢面に立つ人たちとお会いするのですが、SIRUPさんは特にフィーリングを大切にしてらっしゃいますし、そのことをご自身でも標榜されています。一方で僕は、自身でも自覚しているところですが、ロジックを大切にするタイプです。それって、噛み合いにくい性質の2人でもあるのかなって。

一聴すると、そうですね。

TEPPEI:だから、SIRUPさんと関わり始めてからは、SIRUPさんが掲げる“フィーリング”とはどんなものか、どれだけ大事なものか、なぜ“フィーリング”をファッションの中心に置くことに執心するのか、ということを熟考し、言語化するよう努めてきました。今では、お互いのなかに共通言語が増えてきているなと感じています。

SIRUP:うん、そうですね。

TEPPEI:SIRUPさんはまさにご自身が表に出られていくし、ご自身が気持ちを乗せるフィルターのひとつにファッションがあると思うんです。単純な「これいいじゃん」という、表層のフィーリングの話ではなく。SIRUPさんの根底にあるアティチュードをファッションで具現するのが重要なんじゃないかってことが、感覚として掴めてきたタイミングがあったんですよね。それが作品として強度が増した瞬間だったと思います。

SIRUP:僕がフィーリングを大事にしているのは“自分が今ここに居ること”が一番リアルで嘘がない、というシンプルな考え方なんです。そもそも僕は我慢できないことが多いタイプで、なにをするにしてもできるだけ思い描いた通りにしたい。「こういうふうにしよう」とあらかじめ決めたくもないし、余白を残しておいて、その日の気分でアレンジもしたい。だから、もっともっと自然体な、根本のところで物事を考えるようにしています。

なるほど。

SIRUP:とはいえ、音楽のことに関しては向き合わないと進めないから日々向き合ってきたんですけど、ファッションとはなかなか向き合ってこれてなかった。だから、TEPPEIさんとお仕事をするようになって、どんどん2人で言語化をするうちに、自分が服に何を求めているか、最近になってようやく理解ができてきました。

TEPPEI:具体的なお話で、ビジュアルを作る際は「どんな洋服を着たいですか?」『なんとなくこんなん着たいです』という会話からスタイリングを始めます。その際に僕がすることといったら「いやいや、僕はこう思うんです」と意見を交わすことではなく、ごく自然に「そういうのを着るべきなんですね」と同意し、スタイリングが楽曲の世界観やMVのムードとちゃんと折り合うように調整していくこと。その着地点がいかにご自身のフィールにフィットしているかが、もっとも重要なんです。「なんとなくこんなん」だった理由が徐々に分かってくることもあれば、最初から如実なときもありますよね。

SIRUP:そうですね。TAKAIさんとTEPPEIさんと一緒にビジュアルを作るなかで、やっぱりまるっきりお任せではないし、「自分のやりたいことを絶対に貫くぞ」とかでもなくて。柔軟に考えてはいますが、自分の中にある確固たるものは何をやっても消えることはないので、お2人にはいつもめちゃめちゃにしてもらっています。TEPPEIさんもTAKAIさんもすごく個性的なので「これが混ざるって最強やん」っていつも思っています。

TEPPEI:リスペクトしていただいてるのは感じますし、僕らとしても、誰にでも任せていただけるものでもなければ、誰でもめちゃめちゃにしていいよって話ではないことは理解しています。

SIRUP:おっしゃるとおりですね。

TEPPEI:信条やセオリーの部分に話を戻しますと、SIRUPさんとのシューティングでは“自身のフィーリングを丁寧にシェアをする”という意味でのSIRUPさんのターンがあって、そのうちポンとこちらにボールが渡ってくる瞬間があります。そこからは僕たちのターンで、自分たちの観念や価値観を提供するという、時間割のようなものがあります。

なるほど。

TEPPEI:今回だと、フィッティングのときのことを思い出していただきたいのですが、僕とSIRUPさんと2人で御社まで行き、2人で洋服を選んだじゃないですか。「それ良いですね」「僕これ好きです」というSIRUPさんのターンから、ふと、こちらのターンが来る。SIRUPさんが選んだものに対して僕がエディトリアルをして、最終的にスタイリングとして見せる。この時間割が大事だと思っています。もしずっと僕が「SIRUPさんこれどうですか? これは? これどう思います?」と聞いていたら、SIRUPさんだって「いや自分でやるわ」ってなると思うんです。

たしかに、おっしゃるとおりです。そんな中で予定していなかった4体目のスタイリングを、突発的にTEPPEIさん主導でまるっと組んでらっしゃいましたよね。

TEPPEI:当初予定の3体分のスタイリングが完成したタイミングで、僕が「このパンツ穿いてみてください」「このシャツを合わせてみてください」と言い出し、フリースタイルがバチッとハマった感じでしたね。

SIRUP:うんうん。

TEPPEI:あれが1体目で、僕が「このスタイリングどうですか?」ではなく、4体目としてあのスタイリングが突如として誕生したことに意味があって。順序が大事なんですよね。1体目に作ったのは「これいいよね」『まさにこれがいい』というのが僕らの中で合致したスタジャンのスタイルで。

SIRUP:僕がTEPPEIさんを信頼して全面的にスタイリングをお願いしているのって「こういう自分を作ってほしい」をお願いしてるのではなく、「俺の知らないものを見せてほしい」という、純粋な期待があるからなんです。僕は何をするにしてもとにかく作品性を求めていて、だから最初に意見が合致したスタジャンは「このジャケットで俺が知らないやつを見てみたいな」って気持ちで選びました。

なるほど。

TEPPEI:というところで、ここまで種明かし的な形でお話ししましたが、この作り方は、映像作品やジャケ写、アー写とで共通したプロセスですね。逆にどう見えてますか? 今日の撮影の進行や、すでにご覧いただいている僕らの作品について。

SIRUPさんご自身が、今の自分のムードやスタンスをビジュアライズすることにすごく意欲的というか、力を注いでらっしゃるんだろうな、という印象がありました。投げっぱなしでないというか、ちゃんと「全部やるぜ」って気概を、SIRUPさんの日頃のSNSでの言葉や、ビジュアルとしてのアウトプットからも勝手ながら感じ取っていました。

TEPPEI:なるほど。今日の撮影はどうでした?

今日の撮影は……ずいぶん楽しそうにやってらっしゃるんだなと(笑)。

TEPPEI:あれはまさに我々の特徴というか(笑)。時間が押していて急いでいたとしても、面白い瞬間があれば脱線したいし、みんなで笑いたいんです。面白いことがあったら面白がりたいし、僕も現場ではそういう人間のままでいたい。それこそが自然というか。くだらないことで笑ってる時間も本気だし、そのあと「時間ないのでちゃんとやりましょう」ってなるのも、全部本気なんです。

SIRUP:その瞬間に生まれたものをその瞬間に楽しむ、というのは、大事……というと軽いのですが、無くしたくないですね。

楽しそうなのに、肩の力が抜けてるわけじゃないというか……弛緩せずに楽しんでるという、あまり見たことがないタイプの現場でした。

TEPPEI:それがちゃんと伝わっていたようで安心しました(笑)。

クリエイティブするために必要な時間なんだろうなと。あともうひとつ思ったのが、やっぱりSIRUPさんの決定がちゃんと多いんだな、というところで。ある意味新鮮ではありました。

TEPPEI:SIRUPさんには最後にボールを投げて、見てもらうって感じですね。僕らは“オンセット”と呼んでいるのですが、セッティングを固めるまでにああだこうだとバチバチする時間を、僕らにくださるんです。撮れてるかどうかというところは僕らは自信があるから、最後にSIRUPさんに見ていただいて「めっちゃかっこいいです」と言ってもらうことを、自分たちにとっての答え合わせにしています。

SIRUP:ここ1年、なんなら今年は特にいろいろなビジュアルを撮りたいということもあって、実際にいろいろな撮影をしていますが、TEPPEIさんとTAKAIさんの様子を見ていたら、モニターを見なくても撮れてるってわかるようになりましたね。

TEPPEI:信じていただいているようで、ありがたいです。

SIRUP:めちゃくちゃ信じてますよ。TEPPEIさんたちがかっこいいと思うことをやってほしいです。

TEPPEI:遊びながらやりたいクリエイティブにカチっとはめていく感じ、というか。そもそものところで、創造性が豊かに爆発しているのをスタイリングで表すという行為自体、SIRUPさんだからできるんですよね。SIRUPというキャラクター像に可能性がないとできないことじゃないですか。トゥーマッチになりかねない。

SIRUP:うん。わかります。

TEPPEI:情報量を多くする、もしくは抽象的にする、というのはパッと見のインパクトはありますが、誰にやっても面白くなるワケではなくて、SIRUPというアーティストの可能性をいろんな人が感じていないと成立しないことかなと思います。楽曲にさまざまなイメージが散りばめられているからこそ僕らもビジュアルに可能性を込められる。それができるようになってきたのって、わりと最近じゃないですか。

SIRUP:そうですね。

TEPPEI:『CIY』の撮影は、僕の中でクリエイティブが分岐した瞬間でした。1ルックでいろんなことやったんです。土岐さんという写真家の方と今のファッションのムードを切り取っていて、その中でひらめいて、いろんなことにトライしてみて。フィーリングが交わり合って現場でライブが生まれるのを初めて体感した撮影でした。今は適材適所で意図的にそうできる状態まで持ってこれてるんですけど、それはもう回を追うごとに、撮影の純度が上がっている証拠かなって思います。

目には映らない“アティチュード”をファッションで具現する。

では、ちょっと見ていきましょうか。LOOK1はダッフルコートのスタイリングにさまざまなアレンジを加えていた印象で、たとえばブルーのニットを巻いたり、コートをスカートにしたりと。どういったSIRUPさん像をご自身に憑依させてこのルックを組んだのか、まずはTEPPEIさんからお聞かせいただけますか?

TEPPEI:マッキントッシュのダッフルコートの多面性に着目した、というところです。僕の中でのSIRUPさんらしさはインのカーディガンと総柄のパンツで。そこに合わせたこの上質なダッフルコートは、ベイクルーズさんらしさはありつつも、普段のSIRUPさんのスタイルとは少し乖離があるのかなと。

確かにSIRUPさんが着ているから、何かちょっとした違和感なのか、ズラしなのかっていう。

TEPPEI:そこをあえてマッチングさせるこの合わせ方を、僕自身が面白がったというところです。見方によってはコートがメインなんですが、SIRUPさんを知っていると、このコートが意外なアイテムでハズしに見えてくる。

なるほど。知るとなお面白いです。SIRUPさん、着ていただいた感じどうでしたか?

SIRUP:TEPPEIさんがおっしゃっていたように、ダッフルコートを普段着ない自分があえて着ることで、そのまま“ダッフルコートを着たSIRUP”になるわけではなく、“SIRUPがベイクルーズらしいアイテムを着たらこういう感じ”になる、というところを意識しました。

TEPPEI:ミクスチャーしてますよね。

SIRUP:そうそう、カルチャーがミックスしてる感じが面白いかなって。フィッティングの際にはダッフルではなくステンカラーのタイプも着てみたんですけど似合ってしまっていて、なんか着てそう、着ることもありそう、みたいな感じでした(笑)。だったら手に取らないダッフルをあえて着て、アクセサリーとかでヒップな感じを出してみたいなと。ダッフルコートの一般的なイメージを塗り替えるスタイリングを僕自身が見てみたいなって。

この手のコートで、こういうヒップなあわせは新鮮ですよね。

TEPPEI:マッキントッシュのダッフルなんて、言うまでもなく正統派トラディショナルなアイテムじゃないですか。さらにこれは、EDIFICEが別注することでダッフルの野暮ったさがクリーンに変換されている。それをインナーやテキスタイル、アクセサリーでヒップな合わせにして、足元には SIRUPさんらしい、エアフォースワンを持ってくることで、よりSIRUPさんらしいストリートの解釈を取り込みました。

お次はLOOK2について。これは先述した、最後に生まれたコーディネートですね。

TEPPEI:まず、このスキッパーのプルオーバーはものすごくSIRUPさんが着ていそうだなと。リブの感じや首の開き方、襟のポイントの付き方。それらがものすごくSIRUPさん像にハマっている。

SIRUP:たしかにこのスキッパーは今日着た服の中で1番自分っぽいと思いましたね。

TEPPEI:でも、この手のストライプシャツは普通、インには合わせないんですよね。それに、ここまでワイドなカーゴパンツも穿かないと思います。そうやって少しずつ、ずらしています。アイテム単位で見るとこれも結構ベイクルーズ感が強くて、トーマスメイソンのストライプシャツに軍パンを合わせた王道なフレンチトラッド。それでもSIRUPさんにフィットするようにここまでずらしていけば、ベイクルーズらしさとSIRUPさんらしさをシンクロさせられる、という点が面白いかなと思いました。

SIRUP:これはリアルかつ新鮮でした。やっぱりこの太いパンツとの組み合わせ。ここまで太いのって普段ほとんど穿かないので。トップスも、柔らかさがあるのに自分っぽさもある。着てそうやのに新鮮なのが面白いなと思いました。だから、新鮮かつ一番リアル。

なるほど。このルックに対して思ったのが、これだったら真似ができるかもしれないというか。自分が着てる感じも想像ができるなと。でも確かに、シャツは挟まないかもしれない、というのは同じように感じましたね。

TEPPEI:そうなんですよね。シャツもですが、ここのネックの部分を広めに開けて、ジャラジャラとネックレスを入れているのも大事なポイントで。

ジュエリーで言うと、今回はシルバーのエッセンスが各スタイリングで効いていた印象が。

TEPPEI:ジュエリーにはアティチュードを込めやすいんです。上品ではありたいけど、気持ち、思慮、考えの強さを表象させるというか。

お次はLOOK3です。ダウンベストとニットをメインにしたスペーシーな印象のスタイリングでした。これも柔らかな、ちょっと大人っぽい雰囲気のルックだったのかなと。

SIRUP:このルックは、自分が出したい世界観に近かったです。スタイリングも、一番プライベートに近い感じでした。表向きの自分というか。

TEPPEI:ニットの素材感とラベンダーの綺麗な色合いを柔らかくさせすぎないよう、合わせのアイテムで調整しています。

ちなみにシューズってSIRUPさんの私物ですよね。これがかなりキーになっていたような印象です。靴だけ見るとパンキッシュな感じがするというか。

TEPPEI:まさしく。シューズとジュエリーでエッジィなエッセンスを込めつつ、上質で綺麗な色合いのニットにスポーティーなダウンベストを合わせて、ストリートなムードも出す。これも、いろんな要素が混ざり合っていますね。

SIRUP:数値としては一口で言えないですけど、絶対的なバランスみたいなのがありますよね。

TEPPEI:ありますね。

SIRUP:「これだと柔らかすぎるよね。じゃあこれを足して、あれも足して、あ、それは引こう」みたいな。このブーツとかもそうだと思うんですけど、フィッティングでスニーカーを合わせたときに、だいぶ足りない感じがあって。多分、このブーツが黒でもちょっと足りないですよね?

TEPPEI:足りないですね。ややパンキッシュなムードのあるブーツだからこそのスタイリングです。

確かに相当しっくりきてる感じが。そしてこれも、ジュエリーが際立っていますね。

TEPPEI:LOOK3では特にジュエリーを印象的に見せたいなと。このスタイリングで、ジュエリーの造作を際立たせることで今のSIRUPさんらしさをより強調できたかと思います。

お次がLOOK4、ラストです。これは、フィッティングの際に一番最初に組んだコーディネートですね。

SIRUP:これ、めちゃくちゃかっこいいです。他の3ルックとはちょっとテンションが違くて。決まったルールが用意されてる中で「面白くて、一番強いやつはどれやろう」って2人で探して、共通認識で「これでしょ」とスタジャンを手に取って。

TEPPEI:そうそう。

SIRUP:単純にお互いがかっこいいと思ったもので組んだから、やっぱり良いですね。あとは、ジャンプの具合もいいです(笑)。

TEPPEI:本当に、いろいろと良いルックですね(笑)。洋服の合わせとしても系譜通りのスクーカムのスタジャン、トーマスメイソンのシャツ、ジーエイチバスのツートンローファー。ブランド合わせも王道的で。インディゴのデニムにローファー合わせでアメトラに寄せつつも、デニムのロールアップにはちょっとした違和感があったり。アメトラの再解釈ですね。

SIRUP:僕の中でもこのスタジャンを手に取ったときに、こういった王道アメトラなスタイリングのイメージが頭に浮かんでいました。普段は見えてるものを避けて逆張りしようとするので、こういった黄金比のスタイルは避けていたかもしれませんよね。

TEPPEI:なので最初はこれデニムじゃなくて、軍パンを合わせようとしていたんですよね。この生デニムだと王道だから外そうか、というところで。後染めのストレンジな軍パンをフィッティングしてみて「でもやっぱりなんだかんだこっちでしょ」ってデニムを選びました。

SIRUP:4ルックの中での兼ね合いがあって、ということですよね。

TEPPEI:まさしくそのとおりですね。

SIRUP:これが多分2ルックしか撮らないとしたら、このスタイリングに着地はしてなかったんでしょうね。

TEPPEI:絶対に変えていました。

SIRUP:4ルックあったから、全力でやりたいことをやれましたね。先ほども言ったとおり、この王道な合わせは普段は避けちゃうけど、でも今回は撮りたかったんですよね(笑)。だから、このルックは俺的には気持ちよかった。

アメトラのセオリーをなぞりつつも全然古典になってないのが、お2人の化学反応なのかなと。そして今回は、背景のケミカルファーもかなり効いてましたね。

TEPPEI:スタイリングとしてはトラディショナルなものが出てくることは予測していたので、それを正統派に見せるのは、我々らしくない。ものすごく抽象的にクレイジーな空間で撮った方がいいだろうなと。

SIRUP:はいはいはい。なるほど。

TEPPEI:これがカラーペーパーのバックで、3色使っていたとしても少し物足りないというか「派手にしたかったんだろうな〜」ぐらいになっちゃうかなと。もっと既視感のない、非現実的な空間にしたかった。なので、この蛍光色はすごいこだわりました。

そして、底面のミラーも謎の世界観を強調していますね。

TEPPEI:そうですね。これもライブで配置しましたが、効果的でしたね。

スタイリングとしてはこの4ルックで。全体を通してこの企画に対していかがでしたかっていうところを最後にお聞きできたらなと。ちなみにTEPPEIさんは今回で2度目の出演になります。

TEPPEI:2度参加させていただいたからこそ感じられたことかと思うのですが、ベイクルーズという屋号は前回のハマさんのときと同じで、シチュエーションも共通して白ホリのスタジオ。この白一色の中でハマさんとSIRUPさんとで、そもそもお2人がまったく異なるキャラクターだからこそ異なるパーソナリティを浮き彫りにできたかなと。同じスタイリストではありますが、まったく異なる世界観で作れたと思っています。

SIRUPさんらしさとベイクルーズらしさが共存していて、不思議な面白さがありました。

TEPPEI:アティチュードという言葉を、僕自身も服を着るうえでものすごく大事にしています。言葉では説明できないし、目には見えないことですが、思慮や思想次第で、同じ服を着てても見え方が変わってくるんですよね。それがファッションの形容しがたい面白さだし、豊かさなのかなと思います。

SIRUP:僕は元々こういう企画があったら良いのに、と思っていました。TEPPEIさんたちとのシューティングは、作曲やセッションにかなり近いんです。作品を生み出す意識でビジュアルを作っているということを、どこかでちゃんと伝えたいと思っていました。僕はフィーリングを大事にするから、上手いこと人に伝わりにくい部分がたくさんあって、けどそれをTEPPEIさんは面白がってくれてる。こうやって、自分たちのやり方が確立されてきている今回のようなタイミングで、まとまった形でのシューティングと対談をできたのは嬉しかったですね。

TEPPEI:ありがたかったですよね。

SIRUP:本当にありがたかった。

TEPPEI:ちなみにこの企画で、これまでにプレスルームに演者とスタイリストが一緒に来るパターンってありましたか?

いえ、お二人が初めてでした。

TEPPEI:多分、滅多にないケースかと思うんです。あったとしてもスタイリストがあらかじめ組んでいるものをフィッティングしてもらうくらいかなと。これは僕らが大事にしているフローで、制作はどんなものでも一緒に街を歩いて作ってます。一緒に街を歩いてお店を周り、話しながら「今回どうします?」というように。

ショッピングのようですね。

TEPPEI:まさにショッピングのように街を駆け巡りながら、一緒に決めていくんです。「これいいね、着てみる?」『でもちょっと1件目だからやめておこうか』とか、「やっぱさっきのあれじゃない?」と戻ってそれを買って、次の店に行ってそれを着て「他社のなんですけどいいですか?」とか言いつつ、フィッティングルームでスタイリングを作り上げるというのを、もう何年もずっとこだわってやり続けています。ブレストし合えるし、距離感も近いし、“フィーリング”をダイレクトに交わし合える。僕らだからできる作り方だと思っています。だからこそ、それを守りたくて、今回SIRUPさんとフィッティングに行かせてもらいました。

SIRUP:僕からするとそれだけじゃない何かがこの作り方にはあって、そもそもめっちゃ楽しいんですよ(笑)。会話してる中で日常的なものが解消されるし、得られるものがたくさんあるんです。どんなに忙しくなってもこの作り方は俺の中で重要。めっちゃ重要。死ぬまでこれでやりたいと思っています。体力的に無理になるまで。それくらい大事。

TEPPEI:僕も大事にしているから、SIRUPさんと向き合うモノづくりは、もうこのやり方以外は考えられませんね。

SIRUP(R)ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、自身のルーツであるネオソウルやR&BにゴスペルとHIPHOPを融合した、ジャンルにとらわれず洗練されたサウンドで誰もがFEELGOODとなれる音楽を発信している。イギリス出身の世界的ポップスター「Years & Years」のRemix参加や、世界各国で愛されるアイリッシュ・ウイスキーJAMESONとのコラボレーション、また、2022年11月11日には日本武道館で自身としては初となる日本武道館公演『Roll & Bounce』を成功に収めるなど、日本を代表するR&Bシンガーとして音楽のみならず様々な分野でその活躍を広げている。
@sirup_insta / 公式HP

TEPPEI(L)1983年生まれ。都内の専門学校スタイリスト学科に入学。卒業後2年間の古着屋勤務を経て、スタイリストとしてのキャリアをスタートした。現在は、スタイリストとして数々のアーティストイメージやブランドビジュアルのディレクションを手掛けており、ドバイ万博2020における日本館公式ユニフォームのビジュアルスタイリングをはじめ、特に国内のメンズファッションシーンにおいて代表的な作品発表を続けている。
@stylist_teppei

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